鈴木淳也のPay Attention
第268回
国際間即時送金を可能にする 26年のSwift新サービスとは
2026年2月13日 08:20
先日、日本経済新聞が「国際決済網、銀行間で即時送金 JPモルガンやみずほなど32行参加」のタイトルで国際送金ネットワークである「Swift(スウィフト)」の新サービスについて報じていたが、これは2026年に向けてSwiftが導入しようとしている“新たな国際送金スキーム”である「Swift Payments Scheme 2026」のことを指す。
本連載では以前、「いま話題の『SWIFT(スウィフト)』を理解する」という記事の中で、Swiftの基本的な仕組みならびに、当時(2022年)でのトレンドである「ISO 20022」のメッセージングフォーマットの世界標準に準拠した「MX」や、これをベースに稼働を始めた「Swift GPI」について解説した。稼働開始から50年以上が経過したSwiftが、いかに従来の「高い」「遅い」「中継の過程や手数料が不明瞭」という評価を一新しようとしているかをまとめた。
今回の「Swift Payments Scheme 2026」もまた、その取り組みの延長にあり、このあたりについて少し解説したい。
Swiftが新スキームを2026年に導入する背景
この「Swift Payments Scheme 2026」については、Swiftのページで次のように説明されている。
A new standard for cross-border consumer-originated payments
We’re taking a bold step toward making cross-border payments as seamless as domestic ones. In 2026, we’ll be launching a new scheme designed to deliver fast, predictable and transparent international payments for consumers and SME's.
Developed in collaboration with more than 40 banks, the Swift Payments Scheme will establish a set of enforceable rules that give customers greater certainty and peace of mind when sending money abroad. An MVP will be delivered in H1 2026, laying the foundation for a transformed end-to-end cross-border payments experience for consumers and SME's.
MVPとは「Minimum Viable Product(必要最小限の実用製品)」のことで、40以上の銀行が議論に参加し、2026年上半期にMVPとして提供が行なわれるとある。
ターゲットとなるのは個人や中小企業による小額送金で、報道などによれば参加行の間で最大1万ドル程度の送金上限を設けてサービスを提供することを考えているようだ。後述するが、この1万ドル上限は既存サービスである「Swift Go」と同じであり、新スキームもまたSwift Goの延長線上にあることが分かる。
Swiftを含む金融機関各社が新スキームを推進する背景は主に2つある。1つはRevolutやWiseなど、国際間小額送金に特化したスタートアップの利用が増えており、これら企業のサービスでは、従来のSwiftによる国際間送金が抱えていた問題をほぼ解決し、透明性のある安価な即時送金が可能になっている。そのため、特にこれら企業がターゲットとしている個人や小規模な企業の需要をSwiftにつなぎ止めたいという意図だ。
もう1つは、G20で「金融安定理事会(FSB:Financial Stability Board)」が設定した「越境決済(Cross-Border Payments)」における達成目標にある。
金融庁のサイトでも触れられているが、FSBによれば、2027年末までに国際間送金における「Cost」「Speed」「Transparency」の特に3項目の課題について、「送金の平均コストを3%以下、どの経路を通過しても5%以内に抑える」「国際送金の75%を1時間以内、残りも24時間以内に完了」「送金にかかる手数料、為替、着金時間を事前に明示」とあり、これを達成目標としている2027年までに実現することが挙げられる。
Swift GPIからSwift Go、そして新スキームへ
以前の解説にもあるように、Swiftはメッセージ交換が非常に高価だった“テレックス”時代の問題を引きずっており、メッセージ長が限られ拡張性も乏しい「MT」というメッセージ交換フォーマットを長年利用していた。
また送金先によっては中継銀行を経由する関係で着金に数日レベルで時間がかかったり、最終的にかかる手数料が不明であったり、あるいはメッセージ制限に起因するSwiftコードの記述ミスによる送金の失敗など、高額送金の大部分を担うネットワークでありながら、その実は旧時代の技術に引っ張られる形で使いにくい面が目立つなど、前述のように新興の金融サービス企業の進出する余地を大いに残していた。
その反省から登場したのが「MX」のような新世代のメッセージングフォーマットや「Swift GPI(Global Payments Innovation)」ということになる。
GPIをシンプルに説明すれば、従来のSwiftのメッセージ交換ネットワークを置き換える新しい仕組みで、GPIに接続している金融機関同士であれば取引全体の6割が30分以内、残りも24時間以内に完了するなど劇的に取引スピードが改善している。加えて、トレーサビリティなど新たな機能も追加されており、大枠で以前まで問題とされていたデメリットの改善に至っている。参加行の増加とともにSwiftのメッセージ交換ネットワークにおけるGPIの比率は増えており、2025年時点で9割近い取引がGPIベースのものに移行しているといわれる。
そして、次に2021年にサービス開始されたのが「Swift Go」となる。GPIは従来のSwiftのネットワーク取引を置き換えることを主眼にしていたため、対象とする取引も高額送金がその中心だった。対してSwift Goは個人や中小企業の小規模な取引、具体的には1万ドルを上限とした取引をターゲットに、GPIよりも高速な「数分以内の着金」を目標に構築されている。位置付けとしては「Swift Go」は一種のサービスブランドの扱いで、実質的にはGPIのネットワーク上に構築され、“さらにルールを厳密化することで高速小額送金を可能にした仕組み”だといえる。GPIに加え、Swift Goのサービスに対応した金融機関同士であれば、このSwift Goのルールに則った高速小額送金が利用可能になるという形だ。
言うまでもなく、Swift Go自体が前述の新興フィンテック企業対抗を目指した仕組みだ。
2026年導入目標の新スキームでは単純な送金指示のみでなく、アプリ等を通じての事前のレートや手数料確認、送金状況のリアルタイム追跡、そして各国での即時決済システム(FPS:Faster Payment System)との接続による着金のさらなる高速化などを目標に、Swift Goをさらに強化したものとなっている。
結果として、いわゆる“ノンバンク”な決済サービス、より具体的には「スマホ決済」と呼ばれるような銀行ではない事業者が提供する金融サービスも送金や着金ターゲットとすることも視野に入っており、スマートフォンのモバイルウォレットを介してSwiftによる送金サービスが使えるようになるわけだ。
この点は、モバイルウォレットの方が発達している国(例えば中国など)を対象とするときにメリットが大きい。
Swiftの新スキームの今後については、現時点では日経新聞の報道にあるように、日本国内ではみずほ銀行の名前が挙がっているだけだ。ただし、GPIやGoがそうであったように今後も接続対象となる金融機関は増加するとみられ、遠からず標準的な仕組みになると考えられる。
重要なのはむしろ本稿の最後の方で触れたFPSとの接続の部分で、例えば日本国内でいえば全銀システムの“モアタイム”に対応して24時間365日稼働を可能にすることで短時間での着金を確実なものとするなど、FSBが掲げた目標数値に少しでも近付けるよう、各国での対応が求められる点にある。
その意味で、26年後半以降のSwiftの動向に注目していてほしい。



