鈴木淳也のPay Attention

第251回

7000万ユーザーが使う「PayPay」の次 銀証連携・カード・若者・海外

2025年4月14日、PayPayはPayPay銀行の子会社化を完了した。これにより、すでに子会社または完全子会社化されていたPayPayブランドを冠する「PayPay証券」「PayPayカード」とともに、PayPayを親会社とする「PayPayグループ」を構成することとなった。

2月10日に行なわれたソフトバンクの2025年3月期第3四半期決算説明会において、同社代表取締役社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏は「資本関係をシンプルにすることで今後のグループ成長を加速させる」とその意図を説明している。

もともとソフトバンクのグループ企業でありながら、別々のブランドで運営されていた企業群だが、国内コード決済の世界では業界トップであり、日常使いのキャッシュレス決済手段として日々成長を続けるPayPayを中核に、そのブランドを活用する形でグループ企業間シナジーを高めようという戦略だ。

このPayPayグループ化にどのような効果があり、今後どのような金融グループ戦略を描いているのか? 今回、PayPay“グループ”の4社の代表ならびに戦略の中心を担うキーマンらにインタビューする機会を得たので、改めてPayPayの“いま”をまとめた。

PayPayカード:EC専用カードからオンライン/オフラインの両立へ

PayPay“グループ”の話題でトップバッターとなるのは、ある意味でPayPayブランドを冠したことでその役割が大きく変化したPayPayカードだ。同社代表取締役社長執行役員の谷田智昭氏はPayPayカードの源流となった「Yahoo! JAPANカード(愛称としてヤフーカードまたはYJカード)」の話を交え、次のように語っている。

谷田氏:Yahoo! JAPANカードは、シンプルにいうとEC用のカードでした。Yahoo! JAPANのYahoo!ショッピングやYahoo!オークションで一番便利でお得な(オンライン向けの)カードという位置付けです。そういう性質のカードなので、お財布に入ったままで、なかなか家の外で使われにくい状態だったわけですが、ご存じの通りPayPayが最も使われているのがオフライン(実店舗決済)です。ですので、PayPayアプリとの機能連携体験を統一していくことで、PayPayのブランドのみならず、オンラインとオフラインの両方でしっかりと使われるよう進化したなと思っています。

PayPayカード代表取締役社長執行役員の谷田智昭氏

結果として、PayPayのチャネルで入ってきたお客様がYahoo!ショッピングのみならず、Amazonといった他のオンラインサイトでもお買い物をするといったように、EC専用のようだったカードが、家の外に持ち出され、リアルでもご利用いただける流れができた。このような感じの良い循環がPayPayとの連携で可能になりました。

またソフトバンクとの連携を強めており、料金プランのカード割のようなものも出てきました。もともとソフトバンクの販売チャネルでもYahoo! JAPANカードを扱っていましたが、PayPayカードになったことで単に販売チャネルというだけでなく、通信のプログラムとカード決済がバンドルされることで、カード会員の獲得強化にも繋がったのかなと思います。

谷田氏によれば、PayPayカードへのブランド変更以降、会員獲得はPayPay経由での契約が最も多くなり、大きな柱になっているという。アプリ経由でカードを申し込み、それがPayPayアプリに連携され、クレジットカードがアクティベートされることで画面が「赤(残高支払いモード)」から青(クレジット支払いモード)」へと切り替わり、そのままPayPayのクレジット支払いとして利用できる(物理カードは後日郵送される)。

ブランド連携効果の最たるものだが、異なる流入経路、例えばYahoo!ショッピングやソフトバンク(ショップ)経由であっても契約後すぐに連携され、アクティベートが行なわれるため、ソフトバンクの契約が終わって店舗を出た時点ですぐにPayPayやオンライン決済での利用を開始できる。

PayPayの青画面の例

すでに大手チェーンをはじめとして、これまでPayPayが積極的に開拓してきた中小店舗や個人店など、PayPayを普段使いできる場面は多岐にわたる。それでもカードは使えるが、PayPayのコード決済が使えない場面はそれなりに存在する。これを解決するのがPayPayカードの役割となる。

谷田氏:まだオフラインにおいてもPayPay自体が使えない場所、例えば大きなところでいえばイオンさんとかドン・キホーテさんとか、交通系でいえば新幹線に乗るときであったり。そうしたPayPayがまだ使えない場所においてPayPayカードが利用できます。

また、われわれはApple PayやGoogle Payなど、モバイルに紐付いた決済にPayPayアプリを通して簡単に登録できる道筋を作ることで、自動販売機などモバイル決済が主流な場所でも利用できるようにしています(Apple Payに登録することでQUICPay+としても利用可能)

このようにApple Payのようなモバイルウォレットに登録したユーザーの利用傾向も興味深い。

谷田氏:(PayPayカードをPayPayアプリで利用する)青画面と(PayPayカードをモバイルウォレットに登録すると表示される券面が黒くなるので)黒画面と2つあった場合、両方を適時使い分けつつ、片方だけのユーザーよりも月間の利用単価は高くなる傾向があります。もちろん、(PayPayを残高払いで使う)赤画面よりも青画面の方が単価がドンと高い傾向がありますので、やはりメインカードとしてより活用されているのだと思います。

また赤画面と比較しての利用傾向ですが、残高払いは“小銭入れから払う”感覚、一方のカードはお財布から“紙幣を払う”感覚で、両者には2倍くらいの違いがあります。古くはクレジットカードの決済単価が電子マネーなどより高かったりしましたが、こうした感覚の違いもあるのか、わざわざ青画面から赤画面に切り替えて使う人もいたりします。われわれとしては青画面でまとめる特典をやっていたりするわけですが、すべてを合理的に説明できるわけではなく、これもまたお客様の選択なのだと思います。

PayPayが“グループ”となったことで、もう1つ重要なトピックが開発体制だ。今でこそスマートフォンアプリを介して各種サービスを利用することが当たり前になったが、一方で機能や目的ごとにアプリが切り分けられ、乱立し、それらは互いに上手く連携しているとも限らず、UI/UXの観点から必ずしも好ましい状況というわけではない。

前述のPayPayカードのアクティベーションと同時にPayPayの画面に変化が現れてすぐに利用可能になったり、その他の例としては「“(物理の)PayPayカードで店舗決済”してもPayPayのスクラッチを削れる」といった体験の一体化がある。ユーザーとしては手段こそ違えど「PayPayで決済」しているわけで、こうした融合が次々と進んでいる。

谷田氏によれば、PayPay各社が一丸になった体制を「One Big Team」と表現しているという。PayPay代表取締役の中山一郎氏を筆頭に、子会社やグループ会社の垣根なく、PayPayアプリを通したユーザー体験を提供する開発体制ができている。

ソフトバンクの本社は東京の竹芝にあり、各社はPayPayに“グループ”として参加する以前より同所で共同の開発体制を敷いてきた。だが竹芝への移転当時はコロナ禍もありテレワークでの作業が中心であり、実際に机を並べての一緒のものづくりが本格化したのは現在の四谷オフィスに移転してからとなる。この共同開発体制については、今年に入って本社を移転したPayPay銀行代表取締役社長の田鎖智人氏も言及している。

合併してLINEヤフーとなり、本社オフィスを東京の紀尾井町に集約するまでLINEが入居していた四谷タワー(コモレ四谷)。現在はPayPay“グループ”の4社が入居する

銀行シナジーで生まれるサービス

PayPay銀行がジャパンネット銀行から現名称への商号変更したのは2021年4月。PayPay“グループ”の中で最も早かったが、実際にPayPayの子会社となったのは実質的に3番目にあたる2025年に入ってから。同社の代表取締役社長の田鎖智人氏によれば、PayPayと直接資本がつながったことでシナジーがとても早いスピードで出ており、サービス作りのスピードや一体感の面で従来のPayPay銀行にはないものが実現できているという。

PayPay銀行代表取締役社長の田鎖智人氏

これはコーディングの早さといった話というよりも、むしろ上流工程の時点でコンセプトの擦り合わせからUX設計まで、両社が一丸となって作り込みが可能になったという点で、まさに前述の「One Big Team」が体現できているというわけだ。また、「資本が一緒になってから、われわれとPayPayとの案件の重要度というのは双方の中でかなり高まっており、開発自体の優先度も上がっているという実感はあります」(田鎖氏)という。

田鎖氏:こうした変化が実感できるようになったのは、やはり資本の移動が見えてきた2024年末くらい。実際に資本が変わったときにスタートダッシュを切れるように……みたいな形での検討をかなり進めることができました。

形として分かるものとしては『預金革命』というサービスがあります。米ドルと円、両方の普通預金に預け入れると、それぞれに最大2.0%の金利が適用されるのですが、PayPay側の画面でもUI/UXをきちんと作っていただきましたし、われわれが作ったものと合わせ、それらがほぼ一体となってお客様にアピールできています。

開発の優先順位という話がありましたが、どちらかといえばお客様にどれだけ有益な情報かという目線で進めていますので、2社が一緒になって検討した結果と考えていただければと思います。

子会社化決定後のPayPayとPayPay銀行の大きな仕事としてリリースされたのが「預金革命」となる

開発体制は大きなポイントだが、PayPay銀行の場合、商号変更後の預金口座の伸びが大きかったことに言及したい。

同社は5月に預金口座が900万を突破したことを発表しているが、商号変更前の2021年時点ではまだ500万だったため、過去最速ペースで口座数を2倍近くに増加させている。PayPay銀行の歴史を紐解けば、2000年に三井住友銀行(当時はさくら銀行)を中心とした企業群によって設立された日本初のネット銀行「ジャパンネット銀行」に行き着くが、2006年に第三者割当増資を実施する形でヤフーが経営に参画、2018年にヤフーが連結子会社化することで現在に繋がる体制が出来上がった。前述の通り、2020年に商号変更を発表して翌年に実施、そして今年4月に株式移転によるPayPayの子会社化が行なわれた。

現在のPayPay銀行に至るまで紆余曲折があったわけだが、国内で一番長い歴史を持つネット銀行だけあり、これまでも緩やかに口座数を伸ばしている。

一方で、PayPayをきっかけとした口座開設が増えたとみられる2021年以降は増加率が一気に加速した。現状で日本の金融サービスは銀行ありきで構築されている側面が強く、資金の出入金は基本的に銀行口座を介して行なわれる。PayPayも例に漏れず、残高チャージ手段やビジネス口座の出金先としてのPayPay利用のみならず、PayPayカードの引き落とし口座、PayPay証券の出入金口座と何らかの形で連携が行なわれていることが多い。少なくとも商号変更後の急激な伸びは、明確にPayPay効果の存在を示している。

ソフトバンクの決算会見で示されたPayPay銀行の資本移動の解説図。図版ではPayPayの優先株行使後の株式保有率が示されているが、過去の経緯から設立に携わった三井住友銀行は引き続き一定の株式を保持するものの、優先株行使によって保有率が減少している
PayPay銀行が今年5月1日に発表した900万口座突破のプレスリリースでの画像

このほか、両社が深く連携することで生み出されたサービスの1つが「PayPayデビット」だ。開始当初の名称が「PayPay銀行残高」だったことからも分かるように、PayPayの加盟店でコード決済を行なうと、支払い時には金額が銀行残高から直接差し引かれる、文字通り“コード決済版デビット”といった体裁だ。

PayPayカードはクレジットカードなので、年齢制限やさまざまな理由から使えない/使いたくないという人もいるはず。PayPayとPayPay銀行のシステムを直に接続することで、コード決済版デビットを技術的に可能にしている、グループ連携ならではの機能といえる。

決済時のカード画面の色から「ネイビー」の名称でも呼ばれていたりするが、ポイントは、QRコードを読み取ったり、画面にバーコードを表示させて店舗側で読み取らせるためのアプリが「PayPay」ではなく「PayPay銀行」アプリという部分だ。

田鎖氏:PayPayデビットは想定よりいいスタートを切っています。具体的数字の公表はしていませんが、この機能を提供しているのがPayPay銀行のアプリだけなので、サービスの広がりは銀行のリーチ力に依存しています。今後サービスを広げていくためには、われわれとしてサービスがきちんと動くかというところを確認しなければいけないため、そのうえでプロモーションをかけていく必要があります。

つまり、現状でまだPayPay銀行アプリに留まっているのは、ある意味でテスト期間ということであり、本格的にPayPayデビットが立ち上がるのはPayPayアプリに載ってきたタイミングということなのだろう。

田鎖氏:PayPayとしても銀行のアプリが育てばいいという風に割り切っているというか、戦略的に考えてくれている面もあり、銀行アプリだけの状態でもプロモーションを推進していこうとしています。すでに4-6月で3カ月分のデータは取れていますから、7月以降はもう少しプロモーションを強め、より多くのお客様に知っていただければと考えています。

仮説ですが、残高チャージという形で限られた金額の範囲で使っていただくよりも、銀行残高をそのまま使っていただく方が残高不足の可能性も低いですし、銀行口座をよりクレジットカードに近い使い方を意識していただけるかと思っています。まだデータは少ないですが、銀行口座経由の方が残高チャージに比べて決済単価が高くなる傾向があるとみており、期待しながらサービスを育てたいと思います。

投資初心者ではない、プロフェッショナルも喜ばせる仕組み

一方でPayPay効果だけではない、業界的背景を含んでいるのがPayPay証券の伸びだ。4月に同社が出したプレスリリースにもあるように、25年3月末時点での開設口座数が137万を突破し、このうちの42万以上がNISA口座にあたるという。

NISAは「少額投資非課税制度」と呼ばれ、株式の配当や売却益に本来かかる約20%の税負担が免除になるというもの。この非課税制度そのものは2014年にスタートしているが、対象となる保有期間が短かったり、2種類ある対象投資先の併用ができなかったりと、やや使いにくい面があった。

24年1月にスタートした新制度では非課税となる保有期間が無制限となり、さらに年間投資額の枠も大幅に増額され、特に積立投資を利用しやすくなった点が特徴となる。

そのため、証券各社は新NISA開始にあたって顧客獲得に向けた動きを強めており、日本証券業協会が発表した3月末時点でのデータによれば、全金融機関のNISA口座数は約2,647万で、このうち新NISA開始後の増加数は約522万となっている。特に2021年以降の伸びのペースが大きく、要因として株式投資ブームによる地合の良さと、前述の新制度によるNISA口座への注目が集まったことの2つが作用していると考えられる。

全金融機関におけるNISA口座数の推移(出典:日本証券業協会)

PayPay証券は成長にあたり2段階の要素を持っている。同社はもともと2013年に設立され、スマートフォンアプリを使って低額(単元未満株を1,000円から)で手軽に投資が可能な証券会社「One Tap BUY」としてサービスを開始している。後にみずほ証券とソフトバンクの投資を受け入れる形でソフトバンクのグループ企業に組み込まれ、2021年に商号を現在のPayPay証券に変更した。

同社の口座数の伸びを見れば分かるように、成長カーブが上昇したタイミングの1つめはこの商号変更のタイミングにあたる。加えて、2023年から2024年までの間にも2つめの成長の急カーブが見られる。言うまでもなく、この2つめの上昇は新NISA開始に起因するもので、同社でのNISA口座の開設数の増加具合と比較してみると分かりやすい。

PayPay証券の獲得口座数の推移

一般に、新NISAは若年層ほど制度が優位に機能すると言われている。積立投資の非課税期間が最大20年だった旧制度(つみたてNISA)に比べ、無制限となった新制度では年間投資額の上限があがっており、より長期間にわたって積立が可能な若年層ほどトータルでのリターンが大きくなると見込まれるからだ。従来の投資といえば、資産的に余裕のできやすい比較的高い年齢層が中心であり、実際に対面窓口のみならず、ネット証券などを使って自宅でのトレーディングを行なっているのもこうした層が多いとみられる。

つまり、新NISA開始を機に新規口座を獲得するのであれば、若年層が狙い目ということになる。PayPay証券が今年3月時点でのユーザー分布を発表しているが、20代から50代まで広く分布しており、証券口座の年齢層としては若い40代前半までで過半数を占めている。

PayPay証券ユーザーの年齢分布と株式経験年数

比較的若い年齢層が多い点について、PayPay証券代表取締役社長 執行役員CEOの栗尾圭一郎氏は「PayPayと同じユーザー分布」と表現している。加えて、91%の口座開設者が「PayPay証券が初の株式取引」とアンケートで回答しており、前述の新NISAで狙うべきターゲットと合致している。

PayPay証券代表取締役社長 執行役員CEOの栗尾圭一郎氏

このような話を聞くと、PayPay証券の中心ユーザーは株式投資初心者が多いような印象を受けるが、実際にはそうとも限らないようだ。

栗尾氏:若いユーザーというお話もありましたが、実際には40代、50代、60代といった方も多くいらっしゃいますし、複数の証券口座を使う方もいらっしゃいます。例えば、普段はSBI証券のようなサービスでPCを利用しつつ、布団の中ではわれわれPayPay証券のサービスをスマホから利用したりとか、こういった使い分けというのはアンケートで把握できています。やはり強みは各社で違いますので、われわれ1社を使い続けていただくというよりは、ユーザー自身が使い分けていく時代なのかもしれません。他方で、そのうえで選ばれるには何の機能が必要かというのは異なってきますので、そこが差別化要因になるのかなと思っています。

初心者の方が多いのは事実ですが、そういった方々でもだんだんリテラシーが高くなってきて、よりリッチな機能がほしいといった要望が出てきます。ただ、われわれは『スマホで100円から買える投資』というところでやっていますから、こうした部分を活かしつつも、他の証券会社がやられているような機能のニーズは高まっていると感じていますので、そういったプロフェッショナルな人たちでも最低限必要だというところは改善していきたいと考えています。

あとは逆に(既存の)証券会社でできていなくて、われわれでできることは何だろうと考えたとき、インカムゲイン(配当益)やキャピタルゲイン(売却益)といったユーザーの資産がどうやって増えているのか、どれだけ増えたのか、これらを可視化するのがUXでのこだわるべきポイントなのではないかと考えています。

具体的には、従来はトータルでの増減を一覧だけで表示されていたものが、どの銘柄からいくらをどういう利回りでもらったのか見せたりします。この部分について、こだわって作っている証券会社はあまりないと思います。初心者の方で、どこからどれだけ増えたのか、分かっていないことを詳しく知りたいというニーズは、PayPay側のウォレットでそういった情報を出したときに喜ばれることが分かっているので、フィードバックから得られた情報としてそうした部分をリッチにしていくのは1つのヒントではないのかなと。

このようなPayPay証券だが、137万口座という数字はPayPayユーザーの7,000万という数字に比べるとまだまだ小さい。NISA口座は1つの証券会社でしか作れないという縛りがあるが、前述の栗尾氏の言葉を借りれば「ユーザーが複数のサービスを使い分ける」というように、PayPay証券ならではの特徴を出せれば、PayPayユーザー7,000万人をさらにPayPay証券へと誘導することも可能だろう。

そのきっかけとなるのがPayPayユーザー2,000万人以上が利用する「ポイント運用」のサービスだ。PayPayのミニアプリから利用できる投資の疑似運用体験サービスで、次の段階として自分で投資に踏み出す自信はないけど実際にお金を運用してみたいという人を対象にした「PayPayおまかせ運用」という投資信託の積立サービスを経て、やがてはPayPay証券での本格投資へ入門する入り口としての機能が期待される。

栗尾氏:PayPayのポイント運用から資産運用へと移行してもらう導線が一番太いシナリオですが、すべての人が同じ商品を選ぶわけではなく、各々のニーズを汲む形でPayPayのデータを分析して投資診断を行ない、商品を提案していくことを考えています。現状でグループでデータ連携ができているわけではないのですが、PayPay銀行も含めて連結子会社になった以上、こういった情報をレコメンドで出していければと思います。

PayPayで“スマートアイコン”という仕組みがありますが、ユーザーの特性に合わせてアプリのホームに表示されるアイコンが変化する仕組みで、これをPayPay証券においても投資ステージに合った形で使い分けられるようにします。

PayPayはユーザーと作り上げていくサービス

4社インタビューの“トリ”を飾るのはPayPayだが、同社は7月15日に7,000万ユーザー突破の報道発表を行なっている。労働人口等を考慮して全人口の7~8割程度が一般的なサービスの普及上限だとすると、PayPayが達成したマイルストーンはほぼその領域に入りつつあるといえる。

ユーザーベースとしての広がりの上限が見えつつある一方で、ビジネスとしてはまだまだ伸びしろがあるとソフトバンク宮川社長はたびたび発言している。

今回、PayPay立ち上げのタイミングから金融戦略の中核を担ってきたPayPay執行役員の柳瀬将良氏と、金融事業統括本部 金融戦略本部 金融戰略部部長の髙原啓太氏の両名に2018年からのPayPayの歴史を振り返りつつ、ビジネスの現状について聞いた。

PayPay執行役員の柳瀬将良氏(右)と同社金融事業統括本部 金融戦略本部 金融戦略部部長の髙原啓太氏(左)
PayPayの7,000万ユーザー達成までの道のり

柳瀬氏:会社設立から7年経ち、7,000万人を獲得、国が発表しているキャッシュレス決済比率も42%まできて、ある一定のマイルストーンに達したかなと思います。いよいよここからキャッシュレス決済比率を80%にしていくためにはコンシューマだけではなく、加盟店へのサービスや金融サービスを重ねていって、初めて実現できるのかなと。決済の次の第二創業ではないですが、決済を越えて金融に踏み込んでいくとなるとまだまだ。なので、カード、銀行、証券ももっとスピード感をもってやりたいし、もっとユーザーファーストのサービスを作って事業を大きくしていきたいという感じです。

7,000万ユーザーや3,600万人の本人確認済みユーザーの件も含め、消費者サイドの話題は比較的伝わってくるPayPayだが、同社が以前から説明している事業の柱「3階建て」のうち、加盟店向けサービスの2階部分と保険などの付加的な金融サービスの3階部分の現状はあまり伝わってこない印象がある。今回の一連のインタビューではこの3階部分の一部をグループ戦略として紐解いた形となるが、2階部分はどうだろうか?

柳瀬氏:1階部分の決済については、われわれグループがやっている金融と深くかかわっていて、キャッシュレスを推進すると現金の取り扱いコストが下がりますよという話だったり、決済のタイミングで手持ちがなくても買い物ができるので、取り扱いが増えますよという形で(加盟店に)話をさせていただいています。

2階部分は、どちらかといえば「販売促進」の話で、いつも来てくれるお客さんではなく、新しいお客さんを呼びたいという話であったり、リピート促進の仕掛けをデジタルで提供するためのサービスになります。今まで紙のスタンプカードやクーポンを提示してもらっていたのが、デジタルで効率化できるようになります。

その過程で、加盟店でキャッシュレス決済が行なわれれば決済データが取れますので、これで将来の売上予測を立て、資金調達のような3階部分のサービスに結びつけられます。つまり、3階建てというのは個々が独立しているわけではなく、一連のつながったストーリーになっているわけです。

PayPayでは2024年3月に将来の売上を事前に受け取れる「PayPay資金調達」のサービスを招待制で限定スタートしているが、これは金融業界でいう「ファクタリング」と呼ばれる仕組みだ。この話と合わせ、2階部分のビジネス概況についてもう少し詳しく聞いてみよう。

柳瀬氏:『PayPay資金調達』は開始から1年経ちましたが、思いのほか需要があり、かなり成功しています。実数は公表していませんが、想定の10倍とかの引き合いがあります。

もともと、かなり限定的にスモールスタートを考えていたのですが、予想に反した反響がありました。ポイントは、即日・即時と社内では呼んでいますが、PayPay銀行であれば最短数秒で振り込みが行なわれるので、競合に比べて圧倒的な速さです。PayPayの売上金をベースに査定していますから、PayPayを使っていただいている店舗であればあるほどその効果が高くなります。精算自体もPayPayの売上金をベースに自動的に行なわれますから、加盟店側の作業負担もありません。

一方の有料サービス(月額1,980円の「PayPayマイストア ライトプラン」)ですが、月額料金を払っていただくと決済手数料1.98%が1.60%になる。加えて、クーポンとか他のサービスを利用できるようになるので、決済手数料が下がるという話より、そちらの送客用サービスをどんどん使ってほしいなという考えです。

個人店舗のような加盟店に限らず、大手まで幅広いお客様に使っていただいているわけですが、『ソリューションを用意したからこれを使ってくださいね』という感じの提案というよりは、『自分たちのアプリがあるけど、その上で使えるクーポンが作れないか』『特定の自治体のみで使える商品券とかをできないか』といったいろいろな要望があり、そういった声を聞きながら一緒にサービスを作り上げていっています。

自分たちだけで考えたお仕着せの商品ではなく、より広いお客様に利用いただけるプラットフォームを用意して加盟店さんと一緒に作り続けていく……だからこそ使っていただけるのかなと思います。

メーカーは予算があるので販促ができないかと考えるし、自治体とかと話をしていると他所が気になるのか、利用が広がっていきます。結果として連続でPayPayのキャンペーンに乗ってくれているわけですが、その背景には事務コストや経費が圧倒的に下がるというメリットがあるわけです。

そうした意味で、いまPayPayで提供されている付加サービスのうち、最も人気のあるのが「クーポン」だという。コンシューマと加盟店の両者にとってメリットのあるサービスというわけだ。また柳瀬氏がもう1つ人気あるサービスとして挙げるのが「ポイント運用」だ。クーポンと合わせ「PayPayがお得につながっている」ことを象徴するサービスとなっている。PayPayが「お得」にこだわっていることは、原稿執筆時点のホーム画面を見ても分かる。地図表示が「近くのおトク」という名称のアイコンになっており、あくまで「お得」を探す機能というわけだ。

気になるポイントの使われ方だが、柳瀬氏によれば「そのまま使ってしまう方も多いですが、貯めたり運用して増やしたりと、ユーザーによって異なる」という。「僕らからはぜひ“運用”してみてほしいという考えで、お金が増えていく嬉しさを1ポイントから試せる運用で試してほしい」(同氏)

PayPayの地図表示アイコンの名称は「近くのおトク」

これまでの各社インタビューで聞いてきたように、各社ともにPayPayアプリを起点としたサービスを組み立て、拡充するような動きを見せている。この流れが一番効果が高く、かつ自然な形でユーザー体験を提供できるからだ。

このあたりをPayPay側の視点から見るとどうなのか。

柳瀬氏:ポイントの1つとして、PayPayのアプリ上で機能をつけるというのがあります。例えば、それらサービスは金融機関なので、銀行口座や証券口座開設となったときに、手続きの過程で本人確認が入るわけですが、そこをPayPayで1回やっておけば簡単になるという仕組みを入れています(証券口座のみ別途確認プロセスが追加で入る)。他社がやっていないサービスだったりしますが、われわれが目指しているのは満員電車に乗りながら銀行口座が開設できる世界で、PayPayの段階でユーザーに迷惑をかけたり、eKYC作業を何度もさせずに、片手操作だけで実現したいということです。

あとはポイントですが、『ポイントはお得』という意識がユーザーの皆さんに根付いています。証券で積立をやるとポイントが貯まったり、ポイント運用の延長で証券への誘導が行なわれたり、もちろんカード決済でもポイントが貯まります。今だと銀行に預金すれば金利がもらえますが、その金利もいずれポイントで受け取れるようにしようと思っています。『金利0.4%』と『ポイント0.4%』を並べられたとき、そこから抱く印象は全然違ったりするわけです。僕らは大衆に受け入れられるサービスを作っていると思っているので、ユーザーに寄り添っていくとそういうアプローチになるのかなと思います。逆に、こうしたことができるプレイヤーはそういないのが現状です。

PayPayカードのインタビューでも言及されているが、1人のユーザーが場面場面で赤画面(残高払い)と青画面(後払い)を使い分けたりと、「全部後払いでまとめた方が楽じゃないか」と考える筆者には理解しにくいユースケースがあるように、ポイントもユーザーによって異なる使い方や考え方が存在し、PayPayではその受け皿となる「ユーザーに選択肢を与える」という形でうまく処理しようとしている。

高原氏:PayPayカードも複数枚発行できますが、それぞれに引き落とし口座を分けて設定することはあるし、PayPayアプリの中でも特定の買い物は家計からチャージして払ったり、ちょっと高額な買い物はカードから払ったりと、細かな使い分けがあることは把握しています。やはりPayPayがいろいろな場面で使えるようになったことで、どこでどのように払うのかといった使い分けをする方が増え、選択肢があることが重要になっているのかもしれません。

もう1つ、PayPayで気になるのが、24年夏にスタートした「PayPay給与払い」の現状だ。いわゆる「デジタル給与払い」という、資金移動業のサービスで給与支払いを可能にするサービスだが、最近になり大手チェーンなどでの採用がたびたび発表されるなど、1年を経て筆者が考えていたよりもスムーズに広がっている印象を受ける。

柳瀬氏:大小いろいろな問い合わせがあるのですが、OBCさんとパートナーを組んでいるほか、HRの人事系サービスを提供するベンダーさん、あとは即払いのニーズが強いアルバイトやスキマバイトの事業者の方々を通してカバーさせていただいています。利用者は圧倒的に若い人が多く、給与払いで20万円というとわれわれには少ない印象を受けますが、やはりアルバイトやスキマバイトのような職種では即払いのニーズが高く、募集の時に喜ばれるという話は聞いています。

またコカ・コーラさんの例では、育休サポート制度での支援金をPayPay給与払いで渡すという事例があります。この育休サポート制度ですが、サポート対象が育休を取る人ではなく、まわりの人の業務が増えるということで、それを補助することで気持ちが嬉しいというものです。何より新しいことをアピールできるメリットが大きいようです。

昨年8月に開催されたPayPay給与払いの説明会でのスライド
PayPay給与払いの概要について説明する柳瀬氏

若者とキャッシュレス 「PayPayは海外に進出する」

4社インタビューを一通りさらったところで、今後の布石につながるトピックについて少し整理したい。気になるポイントは、いま金融業界を含む日本のコンシューマ向けサービスで問題となっている「若年層の取り込み」の話題だ。

PayPay証券の項でも触れたが、PayPayは競合サービスに比べても全体に年齢層が若い点が大きな特徴となる。コアとなる年齢層は放っておくとそのまま上昇を続けるだけなので、つねに下の年齢層を意識しなければサービスはやがて高齢化を迎えてしまう。

PayPayが強いのは、クレジットカードや銀行口座を持つことなく、現金チャージやアカウント間送金の仕組みを使って高校生以下の層が簡単にアカウントに残高を持てる点にある。理想としては、ファーストステップでPayPayでアカウントを作ってもらい、一定年齢に達した段階でPayPay銀行に口座を持ち、成人したらPayPayカードを作って、ある段階でPayPayの証券口座を開設するといった流れがある。

銀行口座の新規開設の難易度が上がった現在、人生で最初に作った口座が生涯口座の1つになる可能性が高くなっているといえる。PayPay銀行の田鎖氏も触れていたが、同行ではステップアップ円預金の29歳以下の優遇金利が設定されており、こうした利用者の取り込みを狙っている。

PayPay銀行の「ステップアップ円預金」では29歳以下では優遇金利が設定されやすくなる

前述の理想のストーリーを実現するには会社間での連携も欠かせない。例えばPayPay証券の場合、グループ連携で優遇プランを設定したり、特定の枠にはめてしまうよりは、ユーザーから見て資産の運用状況が分かりやすかったり、何らかのメリットを感じられる形で連携できないかを話し合っているとPayPay証券 栗尾社長は説明する。例えば、PayPay銀行アプリでPayPay証券の資産運用状況を確認するといった形だ。特に証券口座は銀行口座を密に結びつくため、こういった工夫が重要なのだろう。選択肢が重要というのが同氏の意見だ。

もう1つ、若年層向け施策で重要なのが、バーチャルカード「PayPay残高カード」の存在だ。

サービス自体は6月に開始されたものの、“テスト”期間を経て当初より若干時間をかけて7月中旬には全ユーザーに開放された。PayPay残高をオンライン決済で使えるバーチャルなプリペイドカードを発効する仕組みだが、PayPayカードの谷田氏によれば「PayPayのオンライン加盟店開拓と合わせて、(国内限定で)Visa加盟店でのオンライン決済を可能にする仕組み」であり、若くクレジットカードを持てない層がP2P送金でお小遣いを受け取る習慣が広がってきたことを受けてものだという。

これにより、シンプルに、AmazonのようなEC利用もより身近になる。

PayPayの残高カード(赤画面)からバーチャルカードを発行できる

次にPayPayを“他社クレカ”で利用するユーザーに気になる話題だが、25年夏以降、PayPay経由でのPayPayカード“以外”のクレジットカードによる決済は、ユーザーに手数料の費用負担などを求める方針を明らかにしている。5月に発表したソフトバンクと三井住友フィナンシャルグループとの提携において、「三井住友カード」については現状のまま特に変更なし(ユーザーに費用負担を求めない)とされている。

これについて柳瀬氏は「(“他社クレカ”登録の廃止を)いったん延期したが、ユーザーのニーズは多い一方で、われわれとしては必ず赤字になるため企業としては望ましくない。なので、赤字にならない条件が必要になる。三井住友カードさんの場合、提携の流れの中で両社ができることを考えて、結果として今回の形になった」と説明する。結局、両社の間で提携のバーター条件を考えたとき、一番現実的だったのが合意内容だったというわけだ。

ソフトバンクと三井住友フィナンシャルグループとの提携会見でPayPayでの三井住友カード優遇を説明するPayPay代表取締役 社長執行役員 CEOの中山一郎氏

さて、最後に「PayPayが海外で使えるようになるのか?」という質問を柳瀬氏にぶつけてみた。以前より噂があり、筆者も実際にPayPayが水面下で動いている話は聞いていたのだが、同氏は「間もなく。いつとは言えないけど頑張ります」とストレートに返答してきた。

柳瀬氏:いつとは言えないのですが、もちろん準備をしています。準備が整ったら出せるということなのですが、この準備というのは別にPayPayで開発があったり、例えば当局に認可があるとかそういうことだけじゃないんです。使える場所でちゃんと使えることが重要で、実際に(現地の)お店でどういう風に使ってもらうかというのを確認できない限り、PayPayからみて『使えます』とは言えないのです。使えるお店の地図とかも作れないので、すごく苦労しているのが現状です。

現在日本ではJPQRの仕組みで海外展開を考えていますが、僕らはいまAlipay+とHIVEXのネットワークに接続しており、インバウンドの受け入れもこのネットワーク経由で行なっています。ですから、アウトバウンドについてもそちらを使うのが自然かなと考えます。

実際の展開にあたっては、技術的には一気に展開することも可能ですが、実際には先ほどの理由で『この国では使えます』とか『この国ではこれを見てください』といった具合になるので、徐々に拡大していくことになるかと思いますが、詳細は検討中です。『PayPayで支払います』といっても通じないですから……

少なくとも、海外……特に東南アジアを中心とした地域でPayPayが利用できるようになるのはそれほど遠い未来ではないようで、この点は「クレジットカードが使えないが、現地のQRコードでの支払いは利用できる場所がある」という行き先での行動では大きな味方になるだろう。ぜひ近いタイミングでの朗報を期待したい。

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)