石野純也のモバイル通信SE

第92回

日本のスマホは高すぎ? 総務省で進む割引規制見直し議論

総務省の「情報通信行政・郵政行政審議会 電気通信事業部会 市場検証委員会 利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会(第3回)」が1月30日に開催された。ここで出されたのが、現状の割引規制が諸外国からかけ離れているという資料だ

前回の連載記事で触れたように、総務省では端末割引や契約の期間拘束などに対する規制を見直す、「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」が開催されている。複雑化した割引のルールを整理する意図もあるとみられるが、キャリア各社が端末割引を盛大にスルーし、SIMのキャッシュバックのホッピングに対する規制を訴えたのは、前回の記事で詳報した。

これに対し、第3回の会合では、野村総合研究所のシニアパートナー、北俊一氏が端末割引規制の全面撤廃を示唆するような資料を提示し、現状の端末割引規制に一石を投じた。

北氏は、元々、過度なキャッシュバックを抑制する立場を取っており、現在の規制が制定されるプロセスにも貢献しているが、その主張を大きく変えてきた格好だ。

最新スマホが3万円 欧米で進む料金バンドル割引

北氏が挙げたのは、米国、英国、フランス、ドイツの事例。すべて、128GB版の「Galaxy S25」を例に、元値とキャリアで販売されるのがいくらになるのかを図示している。例えば、米国の場合、同モデルの本体価格は799.99ドル(約12万5,400円、2月9日13時時点でのレート)なのに対し、3大キャリアのうち2社のVerizon、T-Mobileは0ドル、つまり無料でこの機種を提供している。

米国では、3大キャリア中2キャリアが、Galaxy S25を実質無料で販売している。画像は委員会で公開されたもの(以下同)

スタンダードモデルではあるが、「Snapdragon 8 Elite」を搭載するようなハイエンドシリーズが無料になるというわけだ。これは米国に限った話ではなく、英国でもVodafoneでは706ポンド(約15万600円)中、最大で576ポンド(約12万2,800円)の割引を受けられる。米国のように無料まではいかないものの、3万円を下回る価格で現行のハイエンドモデルを入手できる。

さすがに0円にはならないものの、英国でも同様に大幅な割引が行なわれている
Galaxy S25(左)は、シリーズの中でもっともスタンダードな端末だが、10万円を超えるハイエンド端末だ

しかも、日本とは違い、1年後ないしは2年後に端末を下取りに出す必要なく、この価格になる。ユーザーの手元には、端末が残るというわけだ。

日本でのGalaxy S25はサムスン直販で12万9,000円(ただし、128GBがないので256GBで計算した)。ここに、キャリアが上限いっぱいまで割引を出したとしても、8万5,000円にしかならない。日本で“実質”2万円程度になるのは、下取りを前提にした端末購入プログラムを前提にした場合のみだ。

日本でも、2万円台で販売されているように見えるが、これは端末の下取りを前提にした実質価格。本体価格を割り引く欧米のそれとは、手法が大きく異なる

実際、筆者が各メーカーのグローバル向け発表会を取材した際にも、スクリーンに欧米での格安な価格が大写しになることが多い。

例えば、以下は、シャオミが「Xiaomi 15」や「Xiaomi 15 Ultra」をスペイン・バルセロナで発表したときのもの。Xiaomi 15がスペインでは無料、ドイツでは99.95ユーロ(約1万8,500円)、やや高めのフランスでも199ユーロ(約3万6,800円)にとどまっている。日本では、シャオミ自身が12万3,000円で販売しているものだ。

Xiaomi 15シリーズの発表会で撮影したスライド。キャリア経由では、0ユーロになることも

もっとも、上記の資料やシャオミのスライドからも分かるように、この価格は無条件で適用されるわけではない。キャリアで特定の料金プランに入った場合、かつそれを2年程度使い続けることで初めてこの価格になる。一部例外はあるが、いずれも無制限や無制限に近い大容量プランに入った時の金額がこれだ。より高い料金プランに入れば、ハイエンド端末が安くなる仕組みになっていると言えるだろう。

高い料金プランほど割引の原資が出しやすく、かつ高機能端末ほどデータ利用の需要が高いことを踏まえれば、キャリアとユーザーの双方にとって、一定の合理性はある。

上記の国や地域でも、これ以外の料金プランだと割引が減ったり、ミッドレンジ以下の端末でないと無料にならないこともあるが、料金プランの選択肢が排除されているわけでもない。料金プランに応じた割引は、ある意味公平とも捉えられる。

日本で起きている「高い料金プランを選ぶ人が損をする」問題

逆に日本の場合は、料金プランを問わずに割引を受けられたり、割引後に料金プランを変更できたりするため、データ容量が多く、比較的高額な料金プランに加入する人にとっては、不公平な仕組みと言える。

より高い料金プランを選ぶユーザーの支払ったお金が、低容量プランを契約するユーザーの割引に転嫁されてしまうからだ。

MNPばかりを優遇して“不公平”と言われていた割引を規制した結果、より高い料金プランを選ぶ人が損をする構造になってしまったと見ることもできる。

北氏の資料でも、現行方式のデメリットとして、この不公平感が挙げられていた。

また、もう1つの視点として、大手キャリアが低料金のプランに対しても一律で割引してしまうため、通信料金そのものが安いMVNOを普及させる足かせになっているという指摘もあった。確かに、端末価格が高いMVNOと、端末を安く入手できる大手キャリアとで、通信料金が近い水準だったら、ユーザーが選ぶのは後者になる可能性が高い。

北氏の資料でも、高額な料金プランのユーザーがそれ以外のユーザーの割引原資を負担する現行制度は不公平になることが指摘されていた

こうした資料に基づきつつ、北氏は日本の端末購入プログラムや割引規制が「ガラパゴス」になっていると指摘。事業法見直しには、参考にすべきとしていた。

ただ、この仕組みを取り入れようとすると、これまでとは仕組みを大幅に変える必要が出てくる。いわば、スマホ販売の“グレートリセット”と言えるほどの大胆な変更が求められる。

単に割引の金額を変更するだけにとどまらず、きちんと割引を回収できるようにするため、期間拘束の復活は必要になる。また、一定期間、料金プランの変更を禁止するといった立て付けも求められる。期間拘束は、流動性の低下にもつながるため、大手キャリアにとっては歓迎できる一方で、まだまだユーザー獲得が必要な楽天モバイルのようなキャリアや、MVNOからは反対意見が出ることも必至だ。

キャッシュバックは抑制されたが…… 割引規制見直しは急務

とは言え、現状の制度では、より周波数効率の高い通信方式が出てもそれに対応した端末への買い替えが進まないだけでなく、オンデバイスAIを駆使した性能の高い最新モデルが買い控えられるリスクもある。キャリアが設備投資を、無制限の料金プランで回収しようとしても、活かせる端末がないため、安い料金プランしか選択されないという事態も起こりうる。

キャッシュバックで現金が飛び交う事態は沈静化されたものの、その弊害も大きくなりつつあると言えるだろう。

北氏は、あくまで有識者の1人として提言しただけで、この主張が委員会の大きな流れになるかどうかは不透明だ。ただ、現状の割引規制は額が厳しいだけでなく、仕組みが複雑怪奇になり、運用のハードルが著しく上がっている。

93ページにも及ぶガイドラインを理解し、割引を事細かに規制するのにどこまで経済合理性があるのか。増築に増築を重ねていびつな形になっている今の規制は、一度見直した方がよさそうだ。

割引や期間拘束などの規制を詳細に定めたガイドラインは、全93ページにも及ぶ複雑なものになっている
石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya