西田宗千佳のイマトミライ

第24回

20周年「CEATEC」の大きな変化と新しい価値

10月15日から18日の4日間、千葉市・幕張メッセでは、例年通り「CEATEC」が開催された。例年とちょっと違うのは、CEATEC「JAPAN」ではなくなった、というあたりだろうか。

CEATEC 2019は「未来社会をデザインする」。15日開幕

CEATECは今年で20周年を迎えた。ということは、筆者も毎年このイベントを取材して20年ということになるわけで、ちょっと時の流れを感じざるを得ない。

その中で、CEATECも大きく変化した。特に今年は、ここ数年かけてやってきた変化が「目に見える」年だったのではないかと思う。

CEATECは結局どう変わったのか? その辺を解説してみたいと思う。

CEATECは「協業する相手を探すイベント」になった

そろそろ、CEATECが「家電見本市ではない」ということも浸透してきたのではないかと思う。実際、そうなって良かった、と筆者は思っている。家電の最終製品をこの時期に一同に展示する、という形はもう成立しない。過去とは違い、「家電メーカー」の顔ぶれも変わった。総合家電メーカーがB2Bを軸にするようになり、ブランドと事業が他国企業に買収され、コンシューマがまず求める家電がテレビやデジタルカメラから「スマホ」になった。

かといって、そこで電気自動車や、大上段に構えたホームネットワークシステムばかりを展示されてもピンと来ない。

ではCEATECはどこへ行くのか? 運営側もそれをこの4年、ずいぶん模索していたようにも思う。結果として「オーディオビジュアルに関する大規模な展示」や「新作家電の見比べ」を期待しているような人にとっては価値の薄い展示会になったと思う。

だが、筆者はそれでいいと思うし、この方向性を支持する。なぜなら、日本の産業の置かれた現状が変わると同時に、眺めて歩けばそれでいい「展示会」というスタイルにも限界が来ていたからだ。

ではCEATECはどういう展示会へと姿を変えようとしたのか?

それは「ビジネスの種が見つかる場所」としての展示会だ。

CESですら、家電見本市から「テクノロジーショー」へとメッセージングを変えた。大手メーカーのブースを主軸にした過去のスタイルから、スタートアップ企業や大学を集めた「Eureka Park」のようなサブイベントを含めた総合展になっている。

それと同じように、CEATECも、各社の技術や商品をただ見るだけでなく、それが「自らのビジネスにどう生きるのか」「彼らとコラボレーションすることでどのような新しいビジネスができるのか」を想像する場になっていったのだ。

「コラボレーション」を求めて出展する大企業

そうした方向性の変化が、ようやく出展企業側にも浸透してきたように思う。

例えばソニーは、2013年にCEATECから撤退していたものの、今年6年ぶりに復帰した。しかし、テレビなどのコンシューマ向け家電は一切置いていない。置いているのはすべてメディカル関連事業製品だ。出展を選んだ理由を、ソニー・執行役専務で、R&D・メディカル事業担当の勝本徹氏は「他社と協業するため」と語る。

ソニーブース

「メディカル事業は技術があってもできない。それぞれの専門分野に対する知見や窓口をお持ちの企業と連携したり、時には買収したりして、初めて成り立つ。どんな技術がどんなことに使えるのか、外部の方々に聞くことが重要。CEATECのテーマである『共創』と合致する」(勝本氏)

実は出展は、同社の吉田憲一郎社長の発案によるものなのだそうだが、CEATECが変わらなければ、ソニーの再展示もあり得なかった、ということだ。

ソニー6年ぶりのCEATEC出展。高画質医療モニタや細胞分析装置

会場で一番目立っていた「ANA」も、ある意味で「協業」がなければ成り立たない展示だった。ANAは「アバター」という概念を使い、ネットの向こうにある機器を自分で動かすことで「そこへの物理的移動を減らす」というサービス展開を展示した。もう少し技術的に通りのいい言葉で言えば「テレイクジステンス」のビジネス化だ。

ANAのアバターロボット「newme」

ANAアバターが目指す「意識だけ移動する未来」

ANAは「移動」から「瞬間移動」を目指す。日常生活を「アバター」に

一方で、ANAは航空会社であり、顧客対応のプロである。彼らの技術的コアコンピテンシーは、ITやテレイグジステンス、ロボット技術にあるわけではない。だから、提供するのはあくまで「アバターに入るためのウェブサービス」を軸にした部分であり、ロボットの開発は協力会社と共に行なっている。「未来のロボット」として展示されたのも、アメリカの有名なロボット系ベンチャー「Agility Robotics」のものだ。

ANAとAgility Roboticsのコラボレーション

ANAの担当者は、「我々はどのような企業とも組めるように、消費者との接点となるウェブのポータルを構築し、そこと各ロボットとの仲立ちを規定する役目を果たす」と説明している。

これもまた、CEATECが「企業同士のコラボレーション」を軸にしているためにできる展示といえる。

新しいフロア構成で狙いが明確に

とはいうものの、過去にはそれがわかりにくかった。なぜなら、展示の形としてブロック構成が、過去のCEATECの流れに引きずられていた部分があるからだ。

その昔CEATECは、幕張メッセの入り口から入って右側(1ホール側)が大手家電メーカーのブース、中央が通信系などのブース、そして左側(8ホール側)がパーツ系企業のブース、という風に分かれていた。それぞれの業種に興味がある人が別れているだろう、という発想からだ。現在も多くの展示会は、大まかにジャンルで「縦割り」のブース構成が行われているので、そういう意味では、過去のCEATECも間違いではなかった。

しかし今年は、構成が大きく違った。1ホールから8ホールまでぶち抜きでフロアが作られ、ジャンルはゆるやかに「横方向」に切られる形になっていたからだ。昨年・一昨年にも「縦割り」からの脱却が見られたが、今年はそれがより鮮明だった。

ブースマップ

こうした構造は、「どこにどの企業があるか」を理解する上ではマイナスだ。しかし、「いろいろな企業を見て、自らのジャンル外からもコラボレーションできる相手を見つける」という目的であるならば、決して悪い構成ではない。ここで企業側が、過去のCEATECのように「自社の新製品をとにかくアピールする」場としてブースを作っていたなら、うまく回らないだろう。

しかし、さすがに「共創」というテーマが浸透したからか、企業側も展示姿勢も「我々が作っているものを他業界の人々に見てもらい、ビジネスの方向性を見つける」という形が目立った。だからこそ、ブース全体で見ても人が特定の場所に固まることがなく、まんべんなく動いているように見受けられた。

課題は「アプリ」と「海外周知」か

もちろん、そこまですべてが理想的に動いているわけではあるまい。コラボレーションを基本にするということは、「考えながら回らないといけない」展示会になった、ということだ。すべての来場者がそこまで意識が高いわけではないし、フロア構成も含め、事前にそうした内容が伝わっていないと「動きづらい」と思う人もいただろう。CEATECがどういうイベントになったか、もっと周知する必要がある。

またパナソニックのように、ソリューションを得意とする企業の出展撤退を引き留められなかったのは大きい。彼らにどうCEATECの価値を理解してもらうか、再考が必要だろう。

スケジュールの関係で講演などはあまり取材できなかったが、通訳を公式アプリ経由で提供する試みは、トラブルも多かったようだ。アプリの構成にはもうひと工夫いる。そして、海外からの出展者が増える一方、海外からのプレスがまだ少ないのが気になる。日本のテクノロジーを紹介するためにも、政府側からの助力を含め、工夫が必要なのではないか。

とはいえ、CEATECはようやく混迷期を抜け、テクノロジーイベントとしての新しいアイデンティティを見つけたようにも感じる。来年以降、いかにこの方向性が強化されるのか、期待したい。

CEATEC 2019特集

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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