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「豪雪に閉ざされた10万都市」どう脱出? 北海道・北見で2日間“幽閉”体験

誰もいない、雪のバスタ―ミナル。終日運休

12月14日、取材先である北海道・音威子府村(おといねっぷむら)を出た筆者のスケジュールは「旭川市内のネットカフェで一泊、翌朝に石北本線乗り換え、次の取材先である遠軽町(えんがるちょう)に向かう」といったものであった。

しかし、旭川駅で目にした情報は「オホーツク管内暴風雪のため、JR石北本線は特急含めて、本日午後からすべて運休」。遠軽町に先乗りしようにもホテルは一杯で、「中核都市の北見まで行けば宿泊先やネットカフェもあり、列車が止まってもカーシェアで遠軽まで行ける!」と踏んだ筆者は、旭川駅を12時38分に出る網走行き・特別快速に、とっさの判断で乗り込んだ……いま思えば、この判断が間違いだった。

結果として、このあと鉄道・バス・空路などの移動手段がことごとく絶たれ、陸の孤島と化した「閉ざされた10万都市」に、2日間にわたって取り残される羽目になる。地元の方ですら「12月でこんな状態になることはない」という吹雪と積雪、そして「17日には大阪に戻る(夢洲交通の取材)」という制約がある中、どう北見市から脱出したのか。回顧してみよう。

12月14日、北見駅に到着した列車。このあと全列車が運休となった

市内を走るバスは「ボブスレーのような乗り心地」

気象庁の過去データによると、12月14日に雪が積もり始めたのは17時台から。そこから21時台を過ぎると雪は勢いを増し、昼に12cmだった積雪深は、深夜には42cmまで達している。

筆者が乗車した特別快速「大雪」は、15時40分に北見に到着。この時点では晴れ間ものぞき、気温も-6℃とさして寒くはなかった。ひとまず、郊外にある「日本最北のスターバックスコーヒー」(北見KITFRONT店)に向かう……この時の移動でも、北見市の自然条件の厳しさを思い知らされた。

日本最北のスターバックスコーヒー 北見KITFRONT店

路線バスに乗ってみたのだが、前日まで続いていたマイナス十数℃の低温のせいもあってか、ルートは道路も歩道もカチンコチンに凍結。裏道の市道は、道路両側の凍結が盛り上がってU字状になっており、左右に振り子のように揺れる中型バスは、まるでボブスレーのそりに乗っているかのような乗り心地だ。

北見ターミナルで発車を待つバス
バス車内は閑散としている

市民は速めに豪雪に備える! トライアルは早々にご飯もの売り切れ

市内に戻ってから3時間ほどカーシェアを借り、「くるくる寿司」で夕食のあと、ネタ拾いのために「トライアル」「すき家」や日帰り温泉に向かう、が……18時過ぎから降り始めた雪は、どんどん勢いを増すばかり。雪質軽めではあるが、10m歩いただけでもふわふわの雪塊がコートに多量に張り付くため、これはこれで体力を奪われてしまう。

この地のトライアルは土地柄もあってか、玄関先でスノーブラシとワイパーの不凍液、コートやインナーシャツを集中展示。季節展示に機動力があるトライアルの販売能力の高さが伺えた。

「スーパーセンタートライアル 北見並木店」

ただ、暴風雪が始まる前に地元の人々が駆け込みで買い込んだようで、20時の時点ではトライアル名物のカツ丼やご飯もの、刺身・寿司などに至るまで、デリカ類は早々に売り切れ! パンですら品薄状態であった……みんな、どれだけ豪雪への対応が早いんだ!

20時の時点でご飯ものは完売
駐車場に15分ほど止めただけで、この雪だ

日帰り温泉を出て市内に帰る最中でも、市内の至る所で除雪車と次々とすれ違う。激しく降る雪はすぐに積もるためずっと除雪していないと市内が寸断されてしまうそうで、のちの報道では「ひと晩で185台の除雪車が出動」(2025年12月16日 北海道新聞地方版)したそうだ。

翌朝からではリカバリー不能なほどに雪が積もるため、深夜でも雪を片付ける

この時点で鉄道の計画運休が判明していたため、筆者は翌日にカーシェアを利用して、国道39号経由で、北見から北西方面の遠軽町に向かう計画を立てていた。筆者は毎冬、北海道・東北でクルマに乗るため比較的雪道に慣れているが、今回はいつにも増して手ごわそうなので、何時に出ようか、迷っていたところだ。

ひと晩でできた雪壁 通行できる歩道幅、たった20cm!

翌朝、ホテルで聞かされたのは「北見から各方面への国道はすべて通行止め」(のちに「11路線・23区間と発表)という現実だった。もちろん遠軽町に行けるはずもなく、この時点で、先方に謝罪して取材キャンセルせざるを得ない。

「物流が入ってこないので朝食バイキングなし、相応分料金払い戻し」という措置を受けつつ、ホテルを出て驚いた。きのうの夕方時点では「足元に雪が積もって、場所によっては滑りやすい」状態であった市内商店街(二番街)の道路両脇に、腰の下まで雪が積もっているではないか!

12月14日、18時時点の北見駅前・2番街
15日午前中の2番街。除雪の関係で、道路わきに雪の壁ができた

こういった雪の壁ができた場合は、その内側を慎重に歩くしかない。しかしこの場合、幅20cmほどの雪壁の切れ目の足元がきわめて滑りやすくなっており、切れ目も雪や凍結で滑りやすい。30mほど街区を歩くたびに、おそるおそる切れ目を渡る羽目になる。

北見駅やバスターミナルは目の前に見えているのに、ホテルからの徒歩移動時間がかかること、かかること!

バスも鉄道も飛行機も……陸の孤島、確定!

ようやく到着したバスターミナルでは、「札幌行き・旭川行きの都市間バスはすべて運休」と正式に発表されていた。

北見バスの運休表示。文字数は多いが、要するに「全便運休」だ
バスターミナル内のテレビ。筆者も歩行者として出演を果たした

JRは前日から計画運休を発表しており、女満別空港、オホーツク紋別空港からの飛行機も欠航。国道も各方面が寸断しているため、この時点で人口11万人の北見市は、札幌にも旭川にも脱出できない「陸の孤島」と化すことが決定した。

万が一の飛行機の再開を信じて航空会社の予約サイトをリロードする人々も見られたが……バス会社の方が「もし飛行機が飛んでも、本日の空港連絡バスは全便運休。この道路状況では無理です!」と、先回りして確認している。後からバス会社の方に聞いたところ、道路網が貧弱なオホーツク地方では「飛行機は飛ぶのに連絡バス運休」という事態が稀にあり、トラブルを防ぐためにも確認して回っているのだとか。

それでもバスターミナルには、多くの人が押し寄せる。悪天候の場合は直ぐ止まる鉄道を回避して予約を取る人も多く、「都市間バスなら大丈夫だろう」とばかりに乗り付けて、終日運休を知る、といった方も多い様子だ。

待合室では若干パニックになる人、さっき送ってもらった家族に迎えに来てもらう人、慌ただしい様子を撮りに来たテレビ局のクルーなど……さまざまな人々であふれかえり、収拾がつかない。

なお、筆者はJRのフリーパスを所持していたため、特急の座席を確保しようとしたところ、JRの職員さんいわく「峠の除雪もあるので、予約しても(特急列車の運行再開は)難しいかもしれませんね。申し上げにくいんですが、都市間バスの方が確実なので、先にそっちを予約なされては?」とのこと。正直に仰っていただき、感謝しかない。

JR北見駅

その言葉通り、残り2席になっていた16日第2便・北見発札幌行きの都市間バス「ドリーミントオホーツク号」の予約をとり、翌朝の運行再開を信じて待つことにした。このバスが走ってくれないと、翌日の新千歳空港発・関西空港行きの飛行機に間に合わず、17日の大阪取材にお伺いできなくなってしまう。

駅エリアから先、2km向こうにも行けない!

12月15日は終日にわたって北見に滞在することが確定した。かといって、市内の路線バスは全便運休しており、郊外に出ることすらできない。

できればタクシーを呼んで、郊外のスタバでおかわりしながらデスクワークに励もうかと思ったが……スタバは「2店とも昼12時で閉店します」、モスバーガーは「みんな出勤したんですが、まわりの雪が凄いので開店できません」。さらに、地元の美味しい焼肉屋さん・寿司屋さんは、ことごとく臨時休業とあって、もう行くところがない。どうやら、しばらくバスターミナル内に滞在するしかなさそうだ。

前日に行った「くるくる寿司」。北見では、こういった店のほとんどが郊外にある

ただ、ここで食料調達が問題となる。近くにあるコンビニに、商品が入っていない。JR北見駅には「北海道四季彩館」、ほか駅近くにはローソン・セブンイレブン・セイコーマートがあるものの、弁当・デリカ類は全滅。このエリアに工場を持つセイコーマート(相内町に工場があるとのこと)でさえも配送が止まり、おかず類も昼過ぎにはすべて消滅してしまった。

セイコーマート北見駅前店
午前中に確保した、セイコーマートのパスタとグラタン。他にはカップ麺しか確保できなかった

その中で通常通りに開けていた観光案内所の方は「ふだん5人が出勤するが、今日は出勤できたのがわたし一人。雪のためクルマをガレージから出せず、徒歩30分の距離を歩いてきた。今日は道路の凍結とハマったクルマの救助もあって、出勤まで1時間はかかっている」とのことだ。

バスターミナル内からは徐々に人が消える中、筆者は4本のモバイルバッテリーでノートPCの給電を行ないつつ、2日前までいた音威子府村に関する3,000字原稿を2本執筆。凍結した道路を歩き、お湯を入れたカップ麺をコンビニから持ち帰りつつ、夕方まで飢えをしのいだ。

雪に埋もれた快活CLUB
北見駅前の市街地

結局、カーシェアを格安でレンタルできる夕方まで待った挙句、高スペックのPCがある郊外のインターネットカフェ「快活CLUB」で投宿することに。試しにクルマにミネラルウォーターを残していったところ、朝には見事に凍っていた。

ようやく北見脱出! 無事に大阪へ

翌朝には都市間バスで北見市を脱出、無事に大阪に帰ることができた。除雪車は15日も遅くまで走り回っており、街を動かすため昼夜を問わず動いてくれている方々には、本当に感謝しかない。

高速バス「ドリーミントオホーツク号」
新千歳空港を出る飛行機

今回は、滅多にない「雪で封鎖された街に滞在」という体験ができ、ちょっと先すら移動できないという経験を味わった。仕事に差し障る困った体験ではあったが、輝くようなサラサラの雪が舞い散る美しさは、いまも思い出す。

宮武和多哉

バス・鉄道・クルマ・MaaSなどモビリティ、都市計画や観光、流通・小売、グルメなどを多岐にわたって追うライター。著書『全国“オンリーワン”路線バスの旅』(既刊2巻・イカロス出版)など。最新刊『路線バスで日本縦断!乗り継ぎルート決定版』(イカロス出版)が好評発売中。