西田宗千佳のイマトミライ

第23回

スマホの未来は「フォルダブル」なのか

Galaxy Fold

フォルダブル(二つ折り)スマホである「Galaxy Fold」がKDDIから発売される。

フォルダブルスマホ「Galaxy Fold SCV44」、auの秋冬モデル

フォルダブルスマホ「Galaxy Fold」が日本初披露

先々週はニューヨークでマイクロソフトの2画面Surfaceである「Suface Duo」の発表会を取材していたが、奇遇にも日本でも二つ折りスマホが購入できるようになったわけだ。

せっかくなので、フォルダブルスマホの可能性について改めて考えてみよう。

使うと感じる魅力、だがコストパフォーマンスはアンバランス

Galaxy Foldは、取材の中などで何度かじっくり触る機会に恵まれている。率直にいって「すごい」スマホだ。ガジェットマニアであれば、触れば誰もが「欲しい」と思うのではないか。フォルダブルスマホは今年前半から話題になっているものの、ワールドワイドで発売に至ったのはサムスンだけだ。

ファーウェイは「MateX」を11月以降に発売を延期している。現在の対米輸出問題が長引くなら、さらに延期される可能性もあるだろう。今年のCESで話題になったRoyoleの「FlexPai」は出荷されているようだが、大規模ではなく、日本で発売されるという話も聞いていない。Galaxy Foldは現状唯一の「買えるフォルダブルスマホ」である。

二つ折りになったことによる画面の「折れ目」は、意外と気にならない。電話としては畳んだまま細長く、情報を見る時には開いて大きく使える、というのはやはり大きなメリットだ。特に「人になにかを見せる」時に画面を大きく使えるのは魅力的である。

アプリを複数同時に起動するのは、便利だが多少面倒に感じる。これはどちらかといえば慣れの問題かもしれない。これは属人的な部分が大きいかもしれないが、「スマホ」というニーズでは、画面分割が(Androidでは、だが)できることがよくわかっていても、意外とこれまで使ってこなかった。Galaxy Foldではアプリの同時起動・画面分割を積極的に使った方がいいのだが、短時間での利用ではどうも慣れない。じっくり長い時間持ち歩いて使うと、この辺の感覚は変わるのかもしれない。

一方、これほどドキドキするのに、自分で買うのか、多くの人に強くすすめるか、と言われると躊躇する。価格と価値のバランスがとれていないからだ。

Galaxy Fold

触ってみると、フォールダブルである内側のメインディスプレイは若干柔らかめだ。日常利用で傷むとは考えづらいが、「普通のスマホと同じではないのだな」と感じる。防水やFeliCa対応といった、今の国内向けスマホでは一般的になった要素もカバーできていない。現状、ワールドワイドでのニーズを優先にして、「フォルダブルで実用的なもの」を目指して作るしかない以上、できないことがあるのも仕方がない。

問題は、それでいて「24万円」だ、という点だ。ハイエンドPCが買える価格であり、ひときわ高い。相応にスペックも高いが、この価格に相応のものか、というとそうではない。

現時点では、フォルダブルは「素晴らしいがコストと価格のバランスがとれていない」製品である。可能性についてお金を払うことを厭わない人、人と違うスマホを使うことに価値を感じる人には良い製品だが、それ以外の人向けではない。もちろんサムスンもそれをわかっているので、現時点での生産量は多くない。欲しい方はすぐに買った方がいいだろう。

大画面化で直面する「高コスト化」にどう対処するのか

問題は、将来的にこうしたフォルダブルスマホがマスになるのか、ということだ。

結論はシンプルで「コスト次第」だと思う。もし(かなり厳しい想定だが)今のハイエンドスマホと同じ価格でフォルダブルスマホが製造できるなら自然と普及する。だが、フォルダブルスマホに使う有機ELディスプレイは、「画面が大きい」「折り曲げ対応するための表面層・タッチセンサー層が高コストである」ことに起因する以上、すぐには問題は解決しないだろう。

仮に折り曲げに関するコストが下がったとしても、有機ELディスプレイが単純に大型化するわけで、ディスプレイのコストは上がる。そうすると、スマホとしてはどうしても「高くなる」ことになる。

一枚のディスプレイを折り曲げる有機ELにしろ、2枚のディスプレイを使う液晶にしろ、画面の大型化がコストに影響するのは避けられない。高価になる製品に対して一定の価値を求められないと、なかなか買えないのではないか。すなわち、「いまのスマホの使い方のままでは、フォルダブルスマホがマスになることはない」だろう。

マイクロソフトは2020年発売の「Surface Duo」を、電話ではなく「プロダクティビティのツール」、すなわち、PC的な用途の機器と位置づけている。液晶を使うSurface Duoは、おそらく今のフォルダブルスマホはもちろん、来年同時期に発売されるフォルダブルスマホより安価だと予想される。だがそれでも、単純なスマホではない売り方が必要になる、と予想されるのだ。

Surface Duo

大画面だけが未来ではない。小型化などの可能性も

一方で「折り曲げる」という方法論に将来性がないか、というと、そうではないと思っている。

高コストな大画面スマホという方向性で数を満たすことはできないが、「今の大画面スマホをコンパクトなものにする」ことはできるのではないか、と思うのだ。

写真は、今年4月にシャープが公開した「6.1インチのフォルダブル有機EL」だ。あくまでディスプレイをスマホサイズに仕立てあげたモックアップで、この形のスマホが開発されているわけではない。だが、「6インチクラスの大型ディスプレイを持つスマホを縦に折りたためるとしたら」というイメージはわかっていただけるのではないだろうか。

シャープが4月に公開した、自社製の「フォルダブル有機ELディスプレイ」。6.1インチであるのは、AQUOS zero用のディスプレイ技術を応用したためで、サイズなどの自由度は高いという

シャープ、フォルダブルディスプレイを開発

スマホのディスプレイの考え方には、色々な方法論がある。今よりもさらに縦に長くし、横を細くして持ちやすくすることを狙う発想もあれば、Galaxy Foldのような大画面アプローチもある。

だが、特に筆者が可能性を感じるのは「今のスマホを持ち運びやすくする」アプローチだ。フォルダブルディスプレイを活かすなら、マスに刺さるのは小型化のアプローチではないか、と思う。スマホの使い方を大きく変えることはなく、保守的なアプローチではあるものの、落下時のディスプレイ破損リスクも減るし、ポケットやカバンへの収まりも良くなる。

ディスプレイ技術の進化を待つ必要がある点は、大型のフォルダブルディスプレイと同じだが、ディスプレイ面積が小さい分、コストは低くできる。ヒンジの構造も「完全に開いた時」「閉じた時」に特化して作れるのでシンプルになり、これも低コスト化につながる。

もちろん、これは筆者の想像なので、そういう製品は出てこないかもしれない。だが、フォルダブルディスプレイがもたらすのは「ガラスで挟まれた板」という、今のスマホのあり方が変わる可能性そのものだ。Galaxy Foldを筆者が買うことはないが、可能性に積極的に挑戦するサムスンの姿勢は高く評価したいと思う。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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