石野純也のモバイル通信SE

第89回

povoはなぜ"サブスク”を開始したのか 普通の料金プランにはならない

povoは、12月16日に2つの容量のサブスクトッピングを導入した

KDDIの子会社でpovo 2.0のサービスを手がけるKDDI Digital Lifeは、12月16日に2つの「サブスクトッピング」を追加した。

その名の通り、サブスクとして月額料金を毎月払っていくトッピングで、データ容量は5GBと30GB。料金は、それぞれ1,380円、2,780円になる。有効期間は1カ月で、終了後は自動更新される仕組みだ。

普通? な“サブスク”プランを開始するpovoの狙い

“サブスク”と銘打たれているため一見、新しい料金体系のように思われがちだが、要は一般的なスマホの料金プランと同じ月額課金ということ。これまでpovoは、必要な時に必要なぶんだけを買い足す「トッピング」という仕組みを売りにしていた。それとは異なる料金体系ということで、あえてサブスクをうたっているというわけだ。

サブスクトッピングを導入したことで、ネットではpovoが一般的なキャリアと同じ月額課金にシフトしていくとの見方も広がった。確かに、トッピングを買うか買わないか分からないユーザーを多く抱えるよりも、月額課金で毎月料金を支払ってもらえる方が、経営的には安定する。ユーザーにとっては、容量切れや期限切れになるたびにトッピングを買い足す手間も省ける。

実際、povoには、毎月トッピングを買い足すユーザーから、「『都度トッピングを買い足すことなく利用したい』という要望をいただいていた」(KDDI)という。povoを安価なオンライン専用ブランドとして利用していたユーザーにとっては、トッピングを買い足す行為が手間だったというわけだ。

そのニーズにこたえるため、povoでは、「3GB/30日間」のトッピングにオートチャージ機能を提供しており、データ容量を使い切ったときか、期限が切れたときに自動で3GB/30日間トッピングが買い足されるようになっていた。毎月、同じタイミングで自動的に課金されるサブスクとは異なり、容量を使い切ったときでも課金はされるが、自動継続したいというニーズは以前からあったと言える。

以前から、3GB/30日間トッピングはオートチャージに対応していた。これもサブスクの1つと言える

「サブスク」シフトではなく、povoの使い方拡張

一方で、KDDIによると、povoがサブスクにシフトしていくという見方は正確ではないという。

KDDIは「今回のサブスクトッピングはお客様の選択肢を増やすもの、多様にするものの1つ」と強調しつつ、「サブスクトッピングや1年間トッピングをご利用のお客さまにも、使い放題トッピングやコラボトッピングなどとの組み合わせにより、お客さまご自身の利用状況に合わせて最適なトッピングを選ぶ楽しみや利便性を引き続き提供していく」としている。

容量がゼロになっても自動で次の課金がされないというサブスクトッピングの特徴は、既存の都度トッピングと相性がいい。低容量のトッピングを買い足して次のサブスク課金までしのいだり、コラボトッピングで他社の商品券やポイントを得つつ、容量を足して使ったりといったことがしやすくなるからだ。どちらかと言えば、これ単体で完結するのではなく、ベースとしての容量を確保しておきたいユーザー向けと言える。

サブスクトッピングは、有効期限が1カ月。使い切った際に自動でチャージされるオートチャージとは、やや性格が異なる

例えば、毎月のデータ使用量が5GB“前後”に収まる場合、サブスクトッピングで5GBを契約しておき、容量が足りない月のみ、「1GB/7日間」トッピングを購入するといった使い方ができて便利だ。また、イベントなどがあり、データ使用量が極端に増えそうなときには、使い放題トッピングを購入すれば、サブスクトッピングの容量を節約できる。こうした柔軟な使い方ができるのは、都度トッピングがあるpovoならではだ。

実際、30日間トッピングを都度利用しているユーザーの中にも、「週末などに1時間・2時間使い放題のスポット購入があることを確認している」といい、povoには複数のトッピングを組み合わせて使うことに慣れているユーザーが多い。そのため、KDDIでは、都度のトッピングとサブスクトッピングのどちらかに集約されてしまうことはないと想定しているという。

サブスクと言ってもあくまで月額課金されるだけで、一般的なキャリアのメインブランドやサブブランドのような割引はなく、期間の縛りも存在しない。必要がなくなったり、容量が合わなくなったりしたら、アプリ上でサブスクを解除するだけで次の月の課金はされなくなる。サブスクと都度課金を行ったり来たりできる簡便さは、大手キャリアだけでなく、MVNOにもない特徴と言えるだろう。

サブスクの解除もアプリ上から簡単にできる。使い方が変わった時でも、手間がかからない

KDDIの料金戦略の“穴”を埋めるpovoサブスク

一方で、サブスク課金によって、トッピングの仕組みを面倒だと感じ、契約を躊躇していたユーザーに訴求ができるようになったのも事実だ。5GBで1,380円という料金水準は、大手キャリアやそのサブブランドというより、MVNOに近い。毎月、手間なく低容量で済ませたいユーザーにも、より魅力的になった。

特に、KDDIは25年にブランドごとの役割を再編しており、UQ mobileの料金プランを値上げしているほか、低容量の「ミニミニプラン」を廃し、使ったデータ量で料金が変動する「トクトクプラン2」とPontaパスがセットになった「コミコミプランバリュー」の2つの料金プランを絞っている。前者は割引などの条件があるうえに、データ使用量が多いと自動で最大4,048円まで上がってしまう。

KDDIは25年にauやUQ mobileに新料金プランを導入。それぞれのブランドの位置づけを、再編してきた

どちらかと言えば、長く使ってもらうユーザーに重きを置き始めたというわけだ。

逆に、これまで低容量のミニミニプランで獲得していたようなユーザーに訴求できる料金プランがなくなっていたともいえる。

povoのサブスクトッピングは、こうしたニーズを補完し、KDDIからの流出を抑止することも可能になる。KDDI全体の料金戦略という観点では、UQ mobileを離れるユーザーの受け皿という見方もできそうだ。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya