西田宗千佳のイマトミライ

第40回

Galaxy Z Flipに見る小さな二つ折りスマホの可能性

Galaxy Z Flip

2月11日、サムスンは米・サンフランシスコでプレスイベント「Galaxy UNPACKED 2020」を開催し、近々発売予定のスマートフォンの新機種を複数発表した。そのメインとなるのは、5G対応の「Galaxy S20」シリーズだ。

Galaxy S20シリーズ

サムスン、全て5G対応の「Galaxy S20」シリーズを発表

おそらく日本でも、5Gサービスの開始に合わせて「S20」が市場投入されるだろう。だから、我々が手に出来るタイミングは意外と近いはずだ。

とはいえ、ソーシャルメディアなどでより大きな注目を集めたのは、二つ折りボディを採用した「Galaxy Z Flip」の方だったようにも思う。5Gという機能の違いより、形状の新しさの方が目立ちやすいので、それも当然だろう。

Galaxy Z Flip

サムスン、縦長ボディを折りたたむ「Galaxy Z Flip」を発表

今回は「Galaxy Z Flip」を中心に、「二つ折り」というスマホのトレンドがどちらに向かうのか、改めて考えてみたい。

アカデミー賞授賞式のCMでお披露目、狙いは「デザイン重視・高感度層」か

Galaxy Z Flipはプレスイベント「Galaxy UNPACKED 2020」で発表されたが、実際のお披露目はその前に行なわれていた。

「Galaxy UNPACKED 2020」の2日前、2月9日は、第92回アカデミー賞の授賞式の日。中継はアメリカのテレビ三大ネットワークのひとつであるABCで行なわれ、「今年は例年より下がった」と言われるものの、それでも、全米で2,960万人が視聴した(ニールセン調べ)。

アカデミー賞授賞式中継のCMで、サムスンはGalaxy Z Flipをお披露目した。機能などの詳細を伝える時間はないので、デザインだけだ。ブルームバーグの記者であるMark Gurman氏は、中継中にCMの内容をスマホからツイートしている。

「Galaxy UNPACKED 2020」でも、まずは、Galaxy Z Flipが先に発表された。5G搭載の「S20シリーズ」が本命なので、Z Flipの紹介が先になったのだろう。

Galaxy Z Flip

Galaxy Z Flipは4Gのみを搭載し、この時期に販売するものとしては、ある種の割り切りがある。5Gの搭載には、消費電力や放熱、アンテナなどを考慮した機構が必須であり、それと二つ折りの同居は、現状まだハードルが高い。5Gは「2020年のスマホに求められる要素」ではあるが、「2020年発売されるすべてのスマホに必須」とはいえない。あくまでハイエンド指向の製品に必須のもの、といった方がいいだろう。

「二つ折り」という要素はいかにもハイエンド向けに思えるが、「実はそうでもない」と筆者は考えている。

「二つ折り」スマホとしては、昨年発売された「Galaxy Fold」がすでにある。あちらは、大画面化による新しい使い勝手を訴求したデバイスであり、まさにハイエンドと呼ぶに相応しい。プロセッサーやメモリーなどのスペックも「特盛り」だ。価格も日本発売時のもので24万円と破格だった。

Galaxy Fold

一方、Galaxy Z Flipはそうでもない。決してミドルクラス・ローエンドというわけではないが、Galaxy Foldに比べると穏当だ。使い方も、折りたためることを活かした機能も用意されてはいるが、「大画面化を活かした特別な用途」を追求するGalaxy Foldに対し、そこまで変わった要素があるように見えない。

狙いはあくまで「大画面スマホを持ち歩く負担を減らし、新奇性のあるデザインを作る」ことであり、同じ二つ折りでもGalaxy Foldとは役割が違う。いまからGalaxy Foldを出すなら5Gは必須かもしれないが、「機能より持ち歩きやすさとデザイン」という観点なら、まだ、5Gが入っていなくても許される。今年の後半だとどうだろう、という気はするが。

Galaxy Z Flip: Official Introduction

アカデミー賞授賞式のCMでお披露目したのも、いわゆる「ガジェットクラスタ」とは違う、デザイン重視の高感度層に刺さる、という判断をしたのではないか、という風に筆者は考える。そうしたユーザー層は多く、「Fold的アプローチ」より「Z Flip的アプローチ」の方が、短期的にはマスに近い気はする。

ファッションブランドのトム ブラウン(THOM BROWNE)モデルも
Galaxy Z Flip Thom Browne Edition Official Film: ...I'm ready now…

「コンパクト系二つ折り」の後追いは生まれるのか

一方で、Z Flip的なアプローチは、なにもサムスンが最初ではない。海外では、モトローラは、昨年末に「razr」を発表、アメリカでは2月6日から出荷を開始している。

米モトローラ、折りたためる有機ELディスプレイの「razr」

以前にも本連載で取り上げているが、2019年4月には、シャープもスマホを想定した二つ折りディスプレイを発表済みだ。

スマホの未来は「フォルダブル」なのか

シャープ、フォルダブルディスプレイを開発

発想として、「現在の大画面スマホの使い勝手を維持したままコンパクト化しよう」と思えば、フォルダブルディスプレイを縦に折って小さくする、というのは誰もが考えること。問題は、そのためのディスプレイとヒンジ、カバー素材の開発と量産など、ハードルをいかに飛び越えるか、という話になる。

昨年見たシャープの「試作ディスプレイ」は、ヒンジやカバー素材など、スマホにすぐ使えるだけの条件を備えてはいなかった。それらの準備や開発も進んではいたようだが、ディスプレイ発表の段階では公開されていなかった。

razrは、Galaxy FoldやFlex Piなどの先行製品に近い、樹脂系のカバーが採用されている。曲げやすく製造の難易度も一定の範囲内ではある。それでも、「ヒンジに異音がする」「モトローラがテストした回数ほどの耐久性はないのではないか」といった声も聞かれる。まだ扱いの難しいデバイスであり、発売が2月にずれ込んだのも、その関係だろう。

Galaxy Z Flipはガラス系のカバーを採用しており、写真などで確認する限り「ツライチ感」(2つの面の間がフラットで段差がないこと)は先行製品よりも高い。ヒンジの構造も、「開く」「閉じる」の二段階に特化していたGalaxy Foldと違い、自由な角度で開いておける。コスト的にも、生産のハードル的にも、それなりに厳しい部分があるとは想像できる。

コンパクト系二つ折りは本来、かなり広いニーズが見込めるものだ。だが、Galaxy Z Flipは決して安くない。アメリカでの販売価格は1,380ドル(約15万円)で、カジュアルとは言い難い。「機能よりもデザイン重視の人に」ということになるのだろうが、現状、高価なスマホは「機能の高いハイエンドモデル」となっており、デザイン路線で高価なモデルの販売量は、そこまで多くならない可能性も高い。

そういう意味では、Z FlipもFoldと同様に、「スマホの新しい可能性を、とにかく商品を出すことで示す」という意味合いなのだろう。

さて、気になるのは、モトローラ・サムスンに続きどこが「コンパクト系二つ折り」を出してくるのか、ということだ。前出のようにシャープはディスプレイ開発まではやっているので、特別なモデルとしてやってきても不思議はないし、そうなれば面白いことになる、と思っている。

一方で、昨今の新型コロナウイルス(COVID-19)の流行もあり、物流面での難しさはさらに増している。本体の製造は中国、ディスプレイは韓国や日本、カバー素材はドイツや日本、さらには内部パーツは……と考えていくと、サプライチェーン上のリスクは大きい。

あらゆる製品において、生産の遅延や生産拠点の変更のニュースが聞こえてきている状況で、今後のスマホにも大きな影響が出そうだ。大量の需要がある製品の生産量減少や遅延も深刻だが、「少ない数でタイミングを計って出す」ような製品に関しては、サプライチェーンの硬直によるリスクはより大きな影響が出る。二つ折りスマホのように先進的で、なかばテスト的に市場へ出て行く製品への影響が懸念される。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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