石野純也のモバイル通信SE
第105回
KDDIローミング「終了」で楽天モバイルが迎える正念場
2026年8月19日 08:20
楽天モバイルは、KDDIのネットワークを借り、ユーザーにローミングという形で提供している。新規参入時点で全国区のネットワークができていなかったためで、エリアの補完を目的としていた。そのローミングは、9月30日を期限に定めていたが、今年に入り、KDDIは「役割を終えた」として見直しを示唆してきた。
同社がスタンスをより明確化したのは、8月7日に開催された第1四半期の決算説明会でのこと。KDDIで代表取締役社長CEOを務める松田浩路氏は、記者からの質問に答える形で「現行の契約は9月をもって終了することで進めている」と語った。方針自体が大きく変わったわけではないが、一歩踏み込み、「終了」という言葉をはっきり使ったのは今回が初めてだ。
これに対し、ネットワークを借りる側である楽天側も反応した。8月10日に開催された楽天グループの第2四半期決算説明会では、代表取締役社長兼CEOの三木谷浩史氏が、「KDDIとは適正に契約を締結している」とコメント。「楽天モバイルがカバーを要するエリアについては、10月以降も契約に基づきローミングを継続する」と続けた。
さらに、三木谷氏は同日の決算説明会終了後にSNSのXに同様の趣旨のコメントを投稿。そのポストを踏まえ、楽天モバイルからも、「ローミングに関して」と題した短いプレスリリースが掲出された。言葉の表面を捉えると、KDDIと楽天モバイルは真逆のことを言っているように見える。
終了したいKDDIに対し、継続したい楽天モバイルという構図だ。一方で、それぞれのコメントを読み込んでみると、これは1つの事実にそれぞれの角度から光を当てた『羅生門』のような話であることが分かる。
終了と継続のあいだ
違いは、終了と継続のどちらに重きを置いているかにある。
実際、KDDIは松田氏が「終了する」としたあと、補足として「一部のルーラル(地方で特に人口の少ない場所のこと)なエリアについては、期間を限定したうえで、インフラ維持に協力しようと思っている」とコメント。「周波数を割り当てられたMNOは、基地局整備を自前で行なうのが大前提」とコメントしつつも、ローミングそのものが100%終わってしまうわけではないことを説明した。
逆に、楽天モバイル側も、「楽天モバイルが十分カバーできているエリアはローミングを縮小していく」としており、この点では双方の見解は一致している。どちらかと言えば、KDDIの方が、「一部」や「期間を限定して」という形で、縮小する方向性を強調しているものの、楽天モバイルの自社エリアがまったくない場所で、突如終了してしまうわけではないことも事実と言えるだろう。
実際、楽天モバイルが公表しているエリアマップを見ると、地方を中心に、KDDIから回線を借りる「パートナー回線エリア」がかなりの箇所で残っていることが分かる。こうしたエリアは、9月30日で突如打ち切りになるのではなく、楽天モバイルが自社でカバーしていないエリアとして10月以降もローミングが継続提供されるとみられる。
一方で、KDDI側が公表しているローミングのエリアマップは、楽天モバイルのそれよりもさらにエリアが広い。例えば、東京都ですら、楽天モバイルがエリア化している三鷹市や調布市、小金井市といったあたりの地域では、依然としてローミングが提供されていることが分かる。ルーラルではない場所でも、ローミングが行なわれているというわけだ。
9月で終了するのは、こうした重複エリアとみられる。KDDIの松田氏が「市街地におけるインフラの品質で、フェアに競争するフェーズに入ってきた」と話していることも、それを裏づける。松田氏は、「以前から想定以上のトラフィックがネットワークに来ていたが、それを解消できる」と語っているが、KDDIのネットワークへの負荷が想定以上にかかっている点を特に懸念しているようだ。
「エリア対策」か「品質対策」か 楽天モバイルが迎える正念場
ローミングの提供は本来、エリア対策のためだったはずだが、いつの間にか品質対策とも混然一体となっていた格好だ。10月以降は、これを明確に分け、期限を区切ったうえでエリア対策に絞ると捉えることができる。そのため、自社エリアがない地方で楽天モバイルを契約していたユーザーが、9月30日を境に突如圏外になってしまうことはないだろう。
一方で、重複エリアでは、KDDIから借りていた800MHz帯の帯域幅がなくなってしまう。そのぶんのトラフィックは、すべて楽天モバイルへ流れることになる。元々、KDDIのローミングにトラフィックが流れていたエリアは、楽天モバイルも4Gのみの場所が多く、帯域幅に余裕があるわけではない。楽天モバイルがトラフィック対策をしっかり取らなければ、品質が劣化してしまうおそれがある。
実際、KDDIと楽天モバイルは段階的にローミングエリアを縮小し始めているが、ここ最近、「つながりにくい」という声がSNS上で頻繁に見受けられるようになった。この「つながりにくい」は電波自体が届いていないというより、電波が届いていても通信がしづらい「パケ詰まり」を指していることが多そうだ。
筆者も実験的かつ料金節約のためにiPhone Airを楽天モバイル回線で運用してみているが、確かに都市部の駅周辺などで、通信速度が極端に低下し、決済アプリすら開けないことがあった。こうした事態が、さらに悪化する可能性はあると言えそうだ。
また、エリアマップはあくまで屋外でのシミュレーションに基づいて作られたもので、実際に電波が入るかどうかは現地に行ってみるまで分からない。楽天モバイルが4Gで運用する1.7GHzは、KDDIがローミングで提供する800MHzよりも周波数が高いため、屋内や地下などに飛びづらい特性がある。
そのため、楽天モバイルがすでにエリア化している場所でも、10月1日に突如圏外になってしまう可能性は残る。これを解決するには、楽天モバイルが重複エリアで自社に割り当てられた700MHz帯の基地局を増設するしかない。ローミングがすべて終わってしまうわけではないものの、通信品質が低下したり、屋内エリアが縮小したりといった事態は十分起こりうる。これをどう乗り切るかが、楽天モバイルにとっての正念場と言えそうだ。








