トピック

「視力がいい」だけでは足りない? スマートグラス時代の“見える”をJUN GINZAに聞く

オーダーメイド眼鏡 JUN GINZA 銀座店

スマートフォンをより便利に利用できる周辺機器として、スマートウォッチなど身に着けるデバイス(ウェアラブル機器)に注目が集まっています。

中でもメガネ型の「スマートグラス」は普通のメガネとも変わらない見た目の製品も増え、気軽に身に着けられる機器として気になっている人も多いのではないでしょうか。

スマートグラスにもいくつか種類があり、グラス内にスマートフォンやPCの画面を映し出し、数十~100インチクラスの大画面で映像を視聴するものや、スマートフォンに届く通知やスケジュールを簡易的に表示するもの、こうした表示機能はない代わりにフレームに搭載されたカメラで撮影ができるものなどがあります。

ただそのどれも「メガネ型」となり、普段メガネをかけない人であればそのまま身に着けて使うことができますが、メガネをかけている人が利用すると「視界も、グラス内に表示されるものもぼやけてしまう」という問題があります。

この問題を解決する方法として、スマートグラスに度の入ったレンズを入れたり、後付けの「インサートレンズ」を取り付けたりすることで、普段メガネをかけている人でも快適な視界と便利な機能を利用できるようになります。

手前側にあるレンズがインサートレンズ

このインサートレンズを作成できるのは、スマートグラスメーカーや一部のメガネ専門店になるのですが、多種多様なスマートグラスが市場に登場する現在、複数のメーカー・製品向けにインサートレンズを手がけているメガネ専門店の1つが、東京・銀座にある「JUN GINZA」です。

世の中には多くのメガネ専門店がある中、なぜJUN GINZAは早くからスマートグラスのインサートレンズを手がけてきたのでしょうか。今回はJUN GINZAを運営する株式会社ジュンの米盛 健社長にお話を伺ってきました。

JUN GINZAの米盛氏にお話を伺いました

JUN GINZAとスマートグラスの出会い

現在購入できるスマートグラスのメーカーは多くが海外メーカーです。スマートグラスの黎明期、今以上に海外メーカーを中心に国内へ製品が投入されていた時代から、JUN GINZAはインサートレンズの作成を行なっていました。

そもそもなぜ、JUN GINZAはスマートグラスのインサートレンズの作成を行なうようになったのでしょうか。

米盛氏:きっかけは本当に偶然です。ほしいCDを買いに出かけたときに、Nreal(現XREAL)のスマートグラスの体験、販売を行なっているイベントがやっていたのです。

イベントスタッフは「これからは皆、スマートグラスをかけて過ごすのが当たり前になる」と宣伝していたんですが、そこで気になったのが「普段眼鏡をかけている人は使えるのか」ということ。これについて尋ねると「中に度入りのレンズを入れられます!どこのメガネ屋でも持っていけば度入りレンズを作ってもらえます!」と説明されたんですが、メガネ作りのプロからすれば「これに合うレンズはどこでも作れるようなものじゃない」と思ったんですよね。

素晴らしい製品なのにいい加減なサポートで見えない、すぐ疲れるとなってしまったら使えないものとして廃れてしまう、普及が止まってしまう。

日本市場はアフターフォローが重要視されるので、日本基準のアフターフォロー体制を整えないとだめだと即座にNrealに連絡を取り直接提言をして、世界でも類を見ない公式パートナーになりました。

スマートグラスは確かにおもしろいデバイスであり、視界にさまざまな情報を表示するのはそれこそSFの世界で昔から描かれてきた夢のデバイスです。

ただ、それを便利に使える人が視力のいい人だけとなれば普及のハードルになりますし、インサートレンズのような方法をメーカーが用意していても、その情報や手段が必要としている人に届かなければ意味がありません。

こうしたNrealとの偶然の出会いをきっかけに、JUN GINZAはNrealの公式パートナーとしてインサートレンズを手がけるようになりました。

店内に並ぶJUN GINZAがインサートレンズを手がけてきたスマートグラスたち

1メートル以内の見え方が現代における「真の視力」

では、どのような人がJUN GINZAにインサートレンズを作りに来るのでしょうか。

実は筆者も過去にJUN GINZAでインサートレンズを作り、スマートグラスを使っている一人であり、普段はメガネやコンタクトを使用する、視力が弱い一人です。

ですが、インサートレンズを作りに来るのは、一概に視力が弱い人だけではないといいます。

米盛氏:昭和の時代までは視力がよいといえば“遠くの景色や看板が見えること”を指していたかもしれません。しかし、現在は1メートル以内の情報量が圧倒的に増えています。スマートフォンやPC、スマートグラスなど、デジタル情報をいかに正確に、楽にとらえるかが現代における真の視力です。

普段メガネが不要な方、例えば視力が1.5あるという人でもスマートフォンやスマートグラスを見るには目に無理をさせている可能性があります。だから普段見えている人でも「もっと楽に見えるのでは」と、ご相談で来店される方も多いのです。ご来店された方などには「視力の良し悪しの価値観をアップデートしましょう」とお話をしています。

見えるうちにメガネをかけて目を守ってほしい

また、米盛氏は「視力が悪いと思っていない人も、メガネをかけた方がいい」とも語ります。

米盛氏:メガネは視力が弱くなったからかけるものというマイナスの補填だけではありません。今の目の状態を維持し、目を守るものとしてかけるべきなのです。

米盛氏:デスクワークをしていて、健康だから椅子を使わないという人はいませんよね。むしろ真逆で高品質のオフィスチェアで身体を支え楽にして仕事をする人の方が多いと思います。これと同じで、適切なレンズは目の環境を整えてくれます。視界をクリアにして目のストレスを軽減することは、将来にわたって「見えること」を守り続けるための賢明な投資です。

先の話のように、現在は1メートル以内の情報をいかに正確に、楽にとらえるかが重要になってきています。

また、スマートフォンやスマートグラスなど、私たちが日常的に接するデジタルデバイスは多様化しています。目は、それらのデバイスから最初に情報を受け取るメインの窓口です。

そうしたデバイスを見る時間が長くなれば、それだけ目を使う機会も増えます。見えにくくなってから対処するのではなく、見えているうちから自分の目の状態や見え方について意識することが大切だというのが、米盛氏の考えです。

スマートグラスを使いこなすために「視力」を整える

最近では多くのメーカーがスマートグラスの新製品を発売しています。 一人のユーザーとしてスマートグラスを使う筆者は、スマートグラスが非常に便利で可能性があると考えていますが、メガネのプロである米盛氏は、スマートグラスの未来をどう見ているのでしょうか。

米盛氏:人類の歴史は道具を使って能力を拡張してきました。スマートグラスもその進化の途上にある道具です。例えばAI翻訳機能を備えたスマートグラスを使えば言語の壁を超えて世界中の誰とでも繋がれるようになります。これは楽をしているのではなく、無駄な時間を短縮し、より本質的な挑戦に時間を割くことができる戦略です。

スマートフォンを早くから使いこなした人が勝者になったように、スマートグラスを使い倒した人は勝者になると考えています。今であればスマートグラスですが、目を入り口とするデバイスを120%使い倒せるようにするのが我々の仕事です。流れ作業でメガネやレンズを用意するのではなく、視力の良し悪しの考え方をアップデートし、個々人の視力は個性であると考えて、視力を最適化することで新しいデバイスを使い切りたい人をサポートする、パートナーでありたいと考えています。

スマートグラスはハードウェアの進化だけでなく、表示される情報にストレスなくアクセスできる視力環境も重要になります。

JUN GINZAでは、スマートグラスのインサートレンズだけでなく、これまで手がけてきたメガネやレンズの知見も生かしながら、人それぞれ異なる見え方に合わせた調整を行なっています。こうして視力環境を整えることも、新しいデバイスを使い切るためのサポートの1つというわけです。

翻訳機能などを備えるスマートグラス「Even G2」。JUN GINZAでは、こうした新しいデバイスを使う人に合わせたレンズの相談にも対応しています

JUN GINZAで自分の眼のことを知る

普段筆者は全国チェーンで安価にメガネを作成、購入できるお店のお世話になっています。ですが先にも書いたように、スマートグラスもそのインサートレンズもまだ珍しかった時代に、JUN GINZAでインサートレンズの作成をお願いした経験があります。

その際、他のメガネ屋同様にさまざまな機器で眼の状態について検査を行なうのですが、JUN GINZAでは筆者がそれまで意識していなかった自分の目の状態についても説明を受けました。

例えば視力が弱いといっても、昼間や明るい場所と暗所では見え方が異なることや、白目の部分に日焼けがあるといった、かなり細かな自分の眼の状態を教えてもらえます。

また計測の結果から仮のレンズを組み合わせ度の調整を行ないますが、一般的な「円のどこが欠けているか」といった見え方だけでなく、遠方に設置したサイネージを利用して、スマートグラス上に表示されるディスプレイを模した見え方の調整も行ないます。

以前筆者がインサートレンズの作成の際に計測したデータ。こうしたデータをもとに、自分の眼の状態について説明を受けました
サイネージを活用した見え方調整では、スマートグラス特有の画面までの距離感や見え方を想定しながら調整します

「正しく見えることは、体験の質を上げ、人生の質を上げる」とJUN GINZAはモットーに掲げています。

デバイスの進化とともに眼の使い方も変わっています。今回の取材で印象に残ったのは、視力を単純な数値ではなく「何を、どの距離で、どのように見るのか」が重要という米盛氏の言葉でした。

筆者が以前インサートレンズを作成した際にも、メガネやレンズの作成時の細かな検査と調整に加え、自分では気づいていなかった眼の状態について説明を受けました。

スマートグラスの選択肢が増える中、デバイスそのものだけでなく、自分が何を見たいのか、どのような場面で眼を使うのか、それに対してどのような見え方が必要なのかを考えてみることも、スマートグラスを使ううえで重要になりそうです。

迎 悟