小寺信良のくらしDX

第43回

「死なない」から「生き残る」対策へ 変わる避難の常識を「体感型防災」で学ぶ

「中野セントラルパーク」にて開催された「体感型防災アトラクション」

この夏、日本は多くの自然災害に見舞われている。

7月28日に起こった熊本地震では、約1カ月が経過した現在も避難生活を余儀なくされている人も多い。8月13日から14日にかけて発生した千葉豪雨も、死者13人を出す大災害となった。マンションでは地下にある電力設備が浸水し、全棟で停電したところもあったという。8月23日には茨城県南部でM5.9の地震が発生し、茨城・埼玉・千葉・東京で最大震度5弱を観測した。27日には石川・富山でも線状降水帯による記録的な豪雨となり、1,000年に一度を大きく超える極めて稀な大雨とみられる。

昨今、9月1日が「防災の日」であることは広く知られるようになってきた。防災の日は、同日に発生した関東大震災に由来し、1960年に制定された。これが広く認知されるようになったのも、東日本大震災以降のことだと思われる。

その昔、学校での避難訓練に参加したという人は多いことだろう。だが筆者が数十年前に参加した避難訓練は、まだスマホなどの通信機器から情報を取る時代ではなく、とにかく地震の発生直後に「死なないこと」にフォーカスされていた。

しかし昨今の避難の常識は、被災した後に「生き残ること」にフォーカスが変わってきている。それだけ災害による避難生活が長期化しているということだろう。

夏休みも終わりに近づいた8月22日、中野駅近くにある「中野セントラルパーク」にて、ポータブル電源大手Jackery Japan(ジャクリ)が主催した「体感型防災アトラクション」が開催された。無料で現代的な防災が学べるということで、当日は親子連れを含む約70名が参加した。

この体感型アトラクションは、大阪を拠点とする株式会社フラップゼロアルファが運営する「防災Revo」が実施している。これまでの多くの防災イベントを各地で行なっているが、今回はJackery Japanが主催という立場で開催されたというわけだ。

ポータブル電源の立ち位置

日本においてポータブル電源は、何かと防災に関係が深い。東日本大震災直後はまだまだ大容量バッテリーを常備しておくという意識は薄かったが、2011年9月にはソニーが家庭用蓄電池「CP-S300」を発表し、10月に発売した。本来は2012~13年に製品化の予定だったものを、東日本大震災の発生を受けて前倒しで製品化したという。当時筆者が住んでいた地域の避難所に指定されていた高校では、職員室に導入されていた。

現在のようにポータブル電源が注目を集めるようになったのは、2020年頃から発生したコロナ禍がきっかけである。これも一種の災害であろう。巣ごもりからの反動でキャンプブームとなり、キャンプ用品としての需要が喚起された。しかし2024年に能登半島地震が発生すると、被害の大きさや救助・復旧の遅れから、防災需要としてのポータブル電源が注目を集めるようになった。

とはいえ、単にポータブル電源を買って押入れにしまっておくだけでは、いざというときに充電されていない、使い方を忘れた、家の中が被災して取り出せない、そもそもどこにしまったか忘れた、といったことが起こる。以前からJackeryではこうした問題を解決するために、ポータブル電源の日常使いを推奨してきた。今回の体感型防災アトラクションでは、ポータブル電源の使い方もミッションに組み込まれていた。

実際のアトラクションでは、参加者が5〜6人で1組となり、協力して様々なミッションをクリアしながら、災害現場から脱出を図るというシナリオになっていた。照明が落ち、赤いランプが点滅し、大音響が鳴り響く中では、なかなか通常どおりの判断をすることができない。制限時間30分以内でクリアできるグループは半分ぐらいである。

明かりも十分でない中、様々なミッションをクリアしていく

ミッション後半には、ポータブル電源を使ってブラックライトを点灯させ、暗号を読み取るといったものもあった。ポータブル電源を実際に使うのは初めてという人も7割ぐらいで、タイムリミットが迫る中、電源を入れるだけで苦戦するグループもあった。

ポータブル電源を起動し、ブラックライトをつける

ただこのアトラクションのメインは、ミッションを解決することではない。その体験から得られた知見や、体験を踏まえた上での防災の学びが得られるということが大きなポイントである。

見直されるべき「避難の常識」

日本人は、「公助」に強く依存する傾向があるという。公助とは、自治体による避難所運営や物資支援、消防・自衛隊など公的機関による救助・援助である。おそらく災害が少なかった頃は、公助でカバーできるという判断だったので、そういう意識がまだ残っている人は多いのかもしれない。

しかしここまで自然災害が多発するようになると、公助が優先するのは人命救助が必要な地域からで、大半の人はその恩恵に与れることはない。公助を待つぐらいなら、自分の命は自分で守る「自助」、お互い助け合って生き残る道を探す「共助」が、今の災害避難の常識となっている。

公助に依存しない意識改革が必要

家屋に倒壊や浸水の危険がなければ、避難所へ行くより「在宅避難」が推奨される。避難所が未だ体育館に雑魚寝レベルであることを考えれば、倒壊や水没の危険がない限りは、自宅で生活を続けるのが最善だという。

小学校の避難訓練では、机の下に隠れるよう指導されたと思う。だがあれは、学校ではほとんどの時間机に向かっているため、いつでも潜れるという前提があるからである。一方で家庭での生活は常に机の近くにいるとは限らず、激しい揺れが起こったらそもそも移動すらできない。よって家具の固定は、机の下に潜るということなど不可能という前提での対策、ということになる。

自宅の家具の固定やガラス飛散防止策は重要

テレビや食器棚などが倒れることでガラスが散乱すれば、在宅避難が困難になる。ミッションでは、新聞紙を使って簡易スリッパを作るというプロセスも組み込まれた。今は新聞紙自体が家庭にあるものではなくなってきてはいるが、投げ込みのチラシなどでそこそこ面積があり丈夫そうな紙は、ゴミとして捨てず、ある程度ストックしておくといいかもしれない。

新聞紙で簡易スリッパを作って災害現場から脱出

簡易トイレの自作方法も紹介された。まずトイレの便座を上げてゴミ袋をセット。便座を下げてその上から2枚目のゴミ袋を被せる。用を足したのち、2枚のゴミ袋を回収する。中に新聞紙やペットシーツを細かくちぎって入れると吸水性がアップするという。しかし最大の敵は、汚臭だという。廃棄場所や廃棄方法を事前に家族で話し合っておくことが重要になる。

トイレ対策も重要

火災の際の避難にも、これまでの常識とは違う部分が見られた。火災で煙に巻かれたときには、濡らしたタオルやハンカチを口や鼻に当てて呼吸するよう指導された人は多いと思う。

だが今、その方法は古い。確かに水に濡らせば喉や肺の刺激は和らぐ場合もあるが、煙で目詰まりして呼吸がしづらくなるうえ、濡らしている間に避難が遅れるため、推奨されないという。水に濡らしている隙があったら早く逃げろ、というのが現在の常識である。

これまで防災用途としては、一番リーズナブルとされる1,000Wh/1,000W出力クラスのポータブル電源が推奨されてきた。しかし7月の熊本地震では、真夏の猛暑日・酷暑日の中での避難生活という、これまでになかったパターンだった。これまでの巨大地震、阪神・淡路大震災と能登半島地震は1月、東日本大震災は3月で、冷房が必要な状況にはなかった。

夏の災害では、電源確保が重要に

真夏の避難生活で少しでもエアコンが駆動できることを想定すると、ポータブル電源も1,500Wh/1,500W出力クラスが最低ラインになってくる。また長期間の停電を考えれば、ソーラーパネルでの自家発電も視野に入れておくべきだろう。

ポータブル電源の質問に回答するJackeryの犀川 雅未氏

アトラクション終了後には、Jackeryの説明員にバッテリー選びを真剣に相談する参加者の姿も見られた。大容量の電源となると、電気に弱い人はそれだけで怖いと思いがちだが、アトラクションで災害時の利用を疑似体験したことで、捉え方にも変化が見られる。

ポータブル電源にも大きな関心が寄せられた

避難と電源確保は、健康や情報の確保という面で、より重要になった。災害対策も、常識のアップデートが必要なようだ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。