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“世界一のAIの使い手”目指す日立 戦略の要は「HMAX」
2025年10月10日 18:21
日立製作所は10日、AI事業戦略に関する報道関係者向け説明会を実施。日立製作所 執行役常務 AI&ソフトウェアサービスビジネスユニットCEOの細矢良智氏や、AI&ソフトウェアサービスビジネスユニット事業主管 兼 CLBOの黒川亮氏などが登壇し、市場動向や同社のAI戦略、事例、今後の展望を示した。
ドメイン知見を核に「世界一のフィジカルAIの使い手」へ
日立の最大の強みは、誤りや停止が許されない厳しい社会インフラをITとOT(制御・運用技術)の両面から長年支えてきた実績と、そこで培った深いドメイン知見にある。製品・IT・OTのケイパビリティを単独で備えるユニークな企業という特長を生かし、約60年にわたるAI研究の蓄積を背景に社会インフラの革新に挑んでいる。
AI領域において、同社が特に注力しているのが、現実世界の製品・データとAIモデルを結びつけるフィジカルAIだ。同市場は、2030年度までに規模が約10倍の約1,247億ドル(約20兆円)に拡大すると見込まれており、同社はこの潮流の中心で「世界一のフィジカルAIの使い手」となることを掲げている。
日立のAI戦略の根幹「HMAX」:モビリティから全産業へと拡大
世界一のフィジカルAIの使い手となるべく、日立がAI戦略の中核に据えるのが「HMAX(Hyper Mobility Asset Expert)」だ。
同社は、顧客データから価値を生み出すデジタル基盤「Lumada」を拡張し、フィジカルAIとエージェントAI、そして自社のドメイン知見を統合した「Lumada 3.0」を推進している。HMAXはその具体化であり、社会インフラの革新を目的としたAI強化ソリューション群として24年11月に展開された。
HMAXは、鉄道事業者向けに列車や信号、インフラ管理を最適化する用途から始まった。車上センサーの走行データに天候や摩耗条件を組み合わせることで、部品交換や保守要員配置を最適化し、エネルギー消費15%減、列車遅延20%減、保守コスト15%減といった効果をもたらした。
現在はモビリティにとどまらず、エナジーや製造、金融・公共などへ対象を拡大。エナジー分野では、樹木成長による送電線切断リスクを回避する「植生マネージャー」などを提供し、リスクモデルの正確性は90%で、現場生産性の60%改善を実現しているという。
また、説明会にあわせて発表されたビル分野の「HMAX for Building:BuilMirai」では、NVIDIAのVSSを活用し、技術者のウェアラブルカメラ映像をAIがリアルタイム分析して、エレベーターなどビル設備の保守における安全アラートや作業ガイダンスを提示する。
HMAXの基盤技術としては、AIエージェント「Naivy」を導入する。メタバース空間に現場を再現してRKY(リスク危険予知)を支援し、潜在リスクや最適な安全対策を可視化することで、作業者の安全意識向上とRKY活動所要時間の約20%短縮といった効果を実証した。
HMAXの受注は25年9月時点で50件だが、AIの進化とともに27年度には1,000件、30年度には20,000件への拡大を見込んでいる。
グローバルテックとの戦略的連携も
日立は、自社技術とドメイン知見に加え、グローバルテック企業との連携を強化し、AIエコシステムを拡大している。
NVIDIAとはHMAXの発表時から連携しており、NVIDIA IGXやNVIDIA Holoscanを活用し、列車やインフラ上のエッジで大量のデータをリアルタイム処理することで、分析結果の提供まで従来最大10日かかっていた遅延を大幅に短縮した。
また、日本や米国、EMEAに「Hitachi NVIDIA AI Factories」を整備し、最新GPUや水冷方式への対応、HMAXアセットの事業間再利用を前提としたアーキテクチャで、フィジカルAIモデルの開発・導入を加速している。
Google Cloudとは戦略的アライアンスを拡張し、OT領域の業務変革を推進。9日に発表されたAIプラットフォーム「Gemini Enterprise」を用いて、専門知識がなくてもノーコードでAIエージェントを作成できる環境を整備した。
活用例として、日立パワーソリューションズでは受変電設備の保守前後画像をAIエージェントが比較し、ボルトの取り付け方向や配線接続ミスなどの人的エラーを検知・フィードバックする技術検証を進めている。
このほか、2日にはOpenAIと次世代AIインフラ構築および技術活用に関する戦略的パートナーシップを締結。これらグローバルテックなどとの連携を通じて、HMAXを中核としたフィジカルAIの社会実装とスケールを一段と加速させ、AIトレンドを作る側・支える側としての役割を強めている。











