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真のグローバルバンクを目指す「Revolut」
2025年9月29日 08:00
Revolutは23日(現地時間)、イギリス・ロンドンのカナリーワーフエリアにグローバル本社を新たに開設した。13階建てビルの4フロアを専有し、さらなるサービス拡大に向けて注力していく。
お披露目には各国のメディアも招待され、同社の共同創業者兼CEOのNik Storonsky氏は「世界初の真のグローバルバンクになる」と宣言し、1億人のユーザーを目標に据えた。今後は、各国での銀行免許の取得を目指していく考えだ。
1億ユーザーの「究極の目標」
Revolutは英国初の新興フィンテック企業で、チャージタイプのカードを発行して決済機能を提供。スマートフォンアプリによる管理に加え、特に安価な手数料で外貨と交換して海外での支払いなどで存在感を示している。
日本でも資金移動業のライセンスを取得してサービスを提供しており、Storonsky氏は、これまで他の国でも短期間でのサービス立ち上げを目指し、銀行免許を取得せずに展開してきたが、十分な収益性が得られなかったと話す。
これは、Revolutのビジネスにおいて銀行免許が重要であるということを示しており、「どこかの国に進出する際は、銀行ライセンスを取得するか、あるいは買収する」という戦略をとるに至ったという。
Chief Banking OfficerのSid Jajodia氏も、包括的な銀行免許を持てばすべてのサービスがすぐに各国の顧客に提供できる点を強調し、銀行免許の重要性を指摘した。
すでに英国では銀行免許を取得している同社だが、この方針をさらに加速させていく。もともと創業当初からグローバル展開を想定していたそうで、現在は39の市場で展開しているが、メキシコ、ブラジルではすでに銀行免許の取得が進められているという。
市場の展開では欧州、北米、南米だけでなくアフリカやアジアへの展開も進めており、2027年半ばには現在6,500万人のユーザーを1億人まで拡大させ、100カ国でサービスを展開。年間1,000億ドルの利益を目指す方針だ。
とはいえ、各国にはそれぞれの規制があるため、グローバルバンクとして同じシステムを導入するのではなく、それぞれにあわせた設計が必要というのがJajodia氏の認識。例えば多くの国ではデータのローカライゼーションが求められ、さらにKYC(本人確認)でも異なるルールが存在している。
また、国ごとに決済方法も異なる。インドでは日本のマイナンバーのような国民IDであるAadhaarを活用した決済が普及しているし、ブラジルのPIX、ヨーロッパにも独自のデジタルウォレットWeroがあり、こうした決済方法のローカライズも必要だとしている。
共同創業者でCTOのVlad Yatsenko氏も、このローカライズの重要性を指摘。コンプライアンスの重視に加え、例えば「Revolutに入金する方法」1つをとっても、国によって独自の方法があるかもしれない、とYatsenko氏。「外資の製品だから」と思われないように、こうしたローカルの手法も統合していきたいと話す。
もちろん、機能やサービスの名称や説明も、その市場にあわせたコミュニケーションが必要で、現地のユーザーが親しめるレベルにまでローカライズを進めていくことが目標だとしている。
ただ、そもそも銀行免許がすべての市場で取得できるとは限らないため、そうした市場では別の手段での展開を図るという。
今回、日本の話題は特になかったが、日本でRevolutは銀行免許ではなく資金移動業のライセンスを取得している。規制上は日本で銀行免許の取得は不可能ではないため、Revolutの戦略からすると銀行免許の取得を目指している可能性はあるだろう。
とはいえ、日本の銀行免許の取得はハードルが高く、買収できそうな銀行も多くはないため、Revolut単体というよりも金融庁なども含めた日本市場の課題と言えるだろう。
いずれにしても、Revolutは世界で銀行免許の取得などを進め、Storonsky氏が「究極の目標」と語る100カ国、1億(100ミリオン)ユーザー、1,000億(100ビリオン)ドルの利益という3つの100を達成することを目指す。
各国でローカライズをしながら真のグローバルバンクを目指す
Revolutは、既存銀行のような実店舗を持たず、古い技術スタックを抱えていてコストがかさむということがない点が優位点だとJajodia氏は話す。もう1つの特徴が、収益のほとんどをサブスクリプションと手数料で得ている点だとStoronsky氏は言う。
個人、法人のいずれにもサービスを提供し、カードを使った決済機能だけでなく、アプリ内で銀行、暗号資産、貴金属投資、eSIMなどのライフスタイルサービスまで拡大。英国などでは日本で提供されていない機能も多くあり、Revolutアカウントから簡単にオンライン決済ができるRevolut Pay、ロイヤリティプログラムのRevPoints、他社サービスと連携できるRevolut IDなど、金融サービスの中心としてRevolutを位置づけるような機能も用意されている。
こうした機能の拡大が優先順位の1つだと話したのはCTOのYatsenko氏。新しい機能を開発し、サービスを提供し、それを他の市場にも展開していくことを重視しているという。
ちなみに、eSIMによる通信機能を提供する理由についてYatsenko氏は既存の機能に付加価値をもたらし、相乗効果を生むかどうかという観点で考えているそうだ。プレミアム&ユースプロダクトのジェネラルマネージャーであるTara Massoudi氏は、旅行時の外貨両替というRevolutの主力サービスを提供するにあたって、現地の通信環境が課題となることからサービスを提供したという。すでに数百万件のデータプランが購入されたそうだ。
総合金融サービスとして、銀行機能を深化させ、ユーザーの第一の銀行になることがRevolutの狙いだ。競合は、「レガシーな地方の銀行」だとStoronsky氏は指摘。これは、投資余力が少なく、新しい技術を導入できないような銀行を置き換えることができると見ているからだ。
逆に言えば、そうした地方の銀行では自分たちで提供できない部分をRevolutと棲み分けるという考え方もあるだろう。Revolutが銀行免許取得を優先する中で、各国の銀行業界でこうした競争が激化しそうだ。それに対してもStoronsky氏は、Revolutの優れた機能やサービスをアピールし、競争優位性を強調する。
そうした観点からは、各市場においてどういった機能が求められるかも重要な視点となる。例えば、Jajodia氏がRevolutを知ったのは、2019年のブラジル旅行において現地ATMで現地通貨を下ろそうとしたところ手数料として27%が発生して、別のサービスを探した結果行き着いたそうだ。
そうした外貨両替のニーズが高い国もあれば、アイルランドのようにRevolutの成人の普及率が75%を超えるような市場では、親子に向けたサービスや投資、貯蓄といったサービスを提供。アメリカなどではクレジット機能が求められるし、フランスでは住宅ローンが期待される、といった具合だと言う。
Revolutは外貨両替からスタートしたが、Storonsky氏は「日常生活で必要となるすべての金融サービスを完全にデジタル化して提供している」と話し、各国のニーズを踏まえながらサービスを展開していく考えを示している。特に、富裕層向けに資産運用や相続の相談などを行なうプライベートバンキングに対して、Storonsky氏は「官僚化されてデジタルインタフェースもない」という点を指摘。こうしたサービスも検討しているそうだ。
Jajodia氏は他にも、暗号資産、ステーブルコインへの展開も継続する方針を示しており、市場からも多くの期待が集まっていると話した。
Massoudi氏は各国で銀行免許を取得することで、例えば「国を移動しても、新しい銀行口座を開設する心配をする必要がない世界」というイメージを描き、どこでもRevolutのサービスにアクセスできるというのが長期的なビジョンとしての「真のグローバルバンク」だと話した。
成長余力は大きく、法人向けにも注力
CMO(Chief Growth & Marketing Officer)のAntoine Le Nel氏は、Revolutが現在、「17日ごとに100万人のユーザーを獲得している」と説明。英国では1,200万人、イタリアで400万人、ポーランドで500万人のユーザーを抱えているというが、欧州の人口から考えるとまだ小さい数字であり、Le Nel氏は潜在的な成長の余地が大きいと強調する。
アプリのダウンロード数で見ても、他のフィンテックアプリよりも多く、欧州全体のアプリダウンロード数でも7位に位置しているという。これについてLe Nel氏は、「スマートフォンのファーストスクリーンを争っている」と指摘。つまり、スマートフォンのホーム画面の1ページ目に置かれるアプリになっているとアピールする。
そうした中、コア市場となる欧州でのユーザー獲得を強化。フランスの600万ユーザーはまだ飽和しておらず、「1,500万~2,000万人は確実」。また、「ドイツも200万しかおらず、まだ何も達成していない」と強調し、3~4倍のユーザー数まで拡大させると意気込む。
さらにコンシューマー向けよりも成長が加速しているというのがビジネスバンキングの分野だ。投資も加速させ、法人向けの銀行としての機能を強化していく考えだ。
マーケティング面では、現在18空港に広告を出しており、旅行先でATMを使って現地通貨が得られる点を紹介する。Le Nel氏は「バルセロナを訪れている日本の顧客が、旅行先の国でATMを利用できる」とアピールし、グローバルにおいて国境をなくすと表現する。
他にも音楽フェスやスポーツなどでもマーケティングを拡大していく方針で、その中でも今回のイベントで特に取り上げられたのがF1チームのAudiだ。チーム代表のJonathan Wheatley氏が参加し、F1チームと提携した理由が説明された。
Revolutは、Audiのタイトルパートナーとなり、チーム名は発表されなかったが、4カ月強で契約がまとまったのは非常に早いペースだったそうだ。Audiというブランドにある洗練されたミニマルなブランド、巨大な銀行に立ち向かうRevolutという位置づけが、両社を結びつけたとWheatley氏とLe Nel氏は説明した。
法人向けのRevolut BusinessのジェネラルマネージャーであるJames Gibson氏は、ビジネスユーザーがこれまで抱えていた問題点として、「扱いにくいWebアプリ、モバイルアプリがない場合も多く、送金するためには店舗に行く必要があった」といった点を指摘。手数料も高く、口座開設にも時間がかかるといった問題もあり、解決策が求められていたという。
そしてRevolut Businessは、すでに毎月330億ドル以上の取引を行ない、2万件以上の新規ビジネスを獲得。残高は130億ドルを超えたという。加盟店向けの決済も月間400万件以上が処理されているそうだ。
結果として、Revolut Businessでは年間収益10億ドルを達成。急速な成長を遂げており、同社が英国で今後創出する雇用の50%以上がRevolut Business関連の雇用なのだという。
今回のイベントの冒頭、イギリスのレイチェル・リーヴス財務大臣が駆けつけ、英国政府が国内の経済成長においてFinTech分野に対して大きな期待を寄せており、Revolutが英国で30億ポンドの投資を行なうことを歓迎している点を強調。ロンドンは世界でも有数の金融街だが、維持・向上させるために政府の立場からも支援していく考えを示していた。
CEOのNik Storonsky氏は英国のユーザーが1,200万に達し、このユーザーをRevolutの銀行機能に移行していくことを目指すとしており、本国での足場を固めつつ、グローバルの展開を加速していく考えを示していた。

















