鈴木淳也のPay Attention

第208回

復活のRevolut、夏の逆襲に向けてどう活動してきたのか

Revolutは再び日本で攻勢に出る

英国発祥の金融サービス「Revolut」が日本での本格的な活動を開始したのが2020年10月のこと。本連載でもサービスイン直前にインタビューを行なっているが、事前に先行ベータテストを行ってフィードバックを得つつのスロースタートの形態を採った。

筆者は主にオンライン決済やアプリ決済時にバーチャルカードを挟んで支払いを行なったり、海外出張中に物理カードを活用したりしているが、使い方しだいで非常に便利なサービスだ。

そんなRevolutだが、コロナ禍突入を経て過去2~3年ほどはあまり目立った活動もなく、その後の動向について気にしていた方も多いだろう。2022年9月には金融庁から業務改善命令が出され、2023年11月には同命令が解除されたことを報告しているが、ガバナンスの見直しを含め、2024年には数々の新機能ローンチを含む新生Revolutが反転攻勢に出ようとしている。その同社の最新動向について、現在Revolut Technologies Japan代表取締役に就任した巻口 クリスティナ 蓉子氏に話を聞いた。

違う文化を理解するということ

筆者がRevolutについて常々思っていたのが、新機能ローンチに時間がかかるという点だ。

2020年に初めて話を聞いた際は、英国をはじめとする諸外国ではさまざまな機能やサービスが展開されており、それを順次日本にも持ち込んでいくとの説明だった。だが実際には思ったほどの機能展開は行なわれておらず、同じアジア太平洋地域にあるシンガポールやオーストラリアと比較しても大きく引き離されている印象がある。

巻口氏は次のように述べている。

「(Revolutにおいて)現在アジア最大の市場はオーストラリアで、英国と同等の機能を備えています。銀行ライセンスについてはEUのライセンスも得ており、さまざまな国のさまざまな支店で営業を行なっている状態です。言われるように、日本は製品提供が最も遅い地域の1つであることは確かです。個人的にはもっと早く製品を提供できればと思うのですが、結果として日本のお客さまには大変長い間お待ちいただくことになってしまっています。しかし日本はラテン文字を使わない初めての市場で、漢字文化であり、他国と大きく異なっています。例えば、カスタマーサポートについては過去3年間でさまざまな取り組みを行なってきました。現在は日本に現地カスタマーサポートを設置するに至っており、(ポーランドの)クラクフにも日本語を話すカスタマーサポートを配置し、24時間365日のサポートが可能になりました。興味深い話ですが、クラクフには日本好きのスタッフが揃っており、実際に日本の筑波で学んでいたという者もいます」(巻口氏)

Revolut Technologies Japan代表取締役の巻口 クリスティナ 蓉子氏。金融業界を長く渡り歩いてきた人物で、2021年にRevolutでは世界に17名いるパートナーの1人に選出されている。英語ネイティブで、今回のインタビューもほぼ英語で行なっている

製品提供を早く行なう意図はあるものの、なぜ思った通りに作業が進まないのか。これについて同氏は本国との意識の違いがあったことを指摘する。

「例えば、何年の第1四半期に製品投入して成果を挙げたいとするでしょう。そこで本国では『分かった。日本で第1四半期に(予算や開発の)リソースを投入しよう』と承認してくるわけですが、多くのケースでバグが発見されたり、規制当局の都合が理由で遅れてしまうのです。グローバルでは全体計画に沿ってリソースを投入しているわけですから、これら理由でローンチが遅れた場合、本来提供される予定だったリソースは消滅してしまい、次のタイミングには別の拠点にリソースが移動してしまいます。タイトなスケジュールの中でこれを実行していくため、結果として優先順位がどんどん落ちることになります。現在われわれは38の市場でサービスを提供しており、リソースの承認を得るだけでも時間がかかるのです。言語の問題もありますから、翻訳レビューの承認にも時間がかかるという理由もあります。

オーストラリアの利用者は3年間で60万人近くまで増加しました。人口300万人規模のシンガポールも同様に伸びています。多くのビジネスチャンスがあることを本国を含めて金融業界の人々は知っていますが、さまざまな困難からそれが結果に結びついていません。結果として、日本で金融に挑戦しようとした人々は香港やシンガポールに移動することになってしまうのです。私の考えですが、Fintechそのものは人々を日本に引き戻すチャンスであり、ここには優れた人々やエンジニアがいると思います。

1年半ほど前ですが、Nick(Revolut共同創業者でCEOのNikolay Storonsky氏)が日本を訪問する機会がありました。関係省庁を順番にまわっていくなか、挨拶をはじめとする異文化交流を体験していく過程で『君(巻口氏)の言っていることがようやく理解できた。ここの文化は何でこんなに違うんだ。この国の文化は君たちの方がよく知っているし、意見を信じて任せるべきだ』と、日本が世界でも参入が最も困難な市場の1つであることを理解したと伝えてくるのです。『Revolutの目的はビジネスの成長であり、どうすればそれを実現できるのか』と」(同氏)

グローバル企業にとって、サービスや製品のそのままでの水平展開は効率面からそれが最良だと考えられるケースが多いが、文化の違い、あるいは規制当局の存在から必ずしも最良ではない。これは規制と表裏一体の金融業界では顕著で、Revolutもまた一連のやり取りの過程でそれを理解したことになる。少なくとも日本をある程度本気で攻略する意図がある限り、リソース面での不利は解消されていくことになると思われる。

Revolutのグローバル全体での製品ローンチのロードマップ

Revolutのこれまでとこれから

巻口氏は、Revolutが日本で過去にさまざまな間違った判断を行なってきたことを認めている。例えば、他国では最初に任命されるCEOが日本では当初存在しておらず、必要な経営判断や業務に必要なリソースを割いていないなどの問題が生じていたりした。前述のStoronsky氏が体験した出来事も、一連の誤った判断の修正に向かうよい機会になったのではないかと考える。

「ローンチから長らくRevolutが日本の顧客から忘れられてしまっている状態だったかもしれませんが、今ここで再ローンチをし、われわれがどういった会社なのかを知ってもらおうと考えています。PayPayのようなペイメントの会社ではなく、競合しようとも思っていません。われわれはグローバルなFintech企業であり、その文化やアイデアを体現したいと考えます。顧客とともに成長し、金融業界をこれまでとは非常に異なるものにしようとしています。一例ですが、お金ではなく人々のための活動です。そのためにまず立ち上げるサービスが2つあり、1つはジュニア(以前までJuniorの名称で呼ばれていたもので、現在は「Revolut <18」に改称)、もう1つは寄付(Donations)です。後者ですが、国境なき医師団やUNICEF、赤十字など海外NPOへの寄付が可能になります。CEOであるNikは父がウクライナ人という出自で、今回の戦争が始まった時に軍事救済会社を使ってウクライナにいた社員を安全な場所に移送しています。ウクライナについてはすでにタイミングとしては遅いのかもしれませんが、現在もなお世界の紛争地帯で困難にある人々を救う一助になるかもしれません」(同氏)

日本でのローンチ時から投入が示唆され、筆者が個人的に注目しているのがジュニア改め「Revolut <18(レボリュート・アンダーエイティーン)」だ。日本は若年層への金融教育が弱く、これが同年代でのキャッシュレス比率の低下に繋がっている一因と考えている。正しいお金の管理や活用方法を早期に学ぶためにも、「Revolut <18」の提供は欠かせないだろう。

巻口氏も「小さい頃は200ドルとか300ドルで済んでいたお小遣いが、成長とともに友人たちと映画館や学校のイベントに参加するようになり、適時与える金額が増える一方で、その用途について管理の必要性が出てくる。結果として、双方の間でコミュニケーションが醸成されるようになる」とその効果について説明している。

Revolutの若年層向けサービス「Revolut <18」

なお「Revolut <18」だが、グローバルでは春から順番にリニューアルが行なわれ、日本ではよりパーソナライズされた形で夏頃の提供を見込んでいるという。これは寄付機能も同様で、夏時期での提供を予定している。同様に、夏時期に向けて一気に日本向けの発表が続くので、ここで少し紹介しておきたい。

すでに発表済みのものだが、無料のスタンダードプランで利用できるカード券面のカスタマイズサービスだ。これまでは月額980円のプレミアムプランあるいは月額1,980円のメタルプランのみで選択できたサービスだが、4月8日までのキャンペーン期間中に条件を満たすことでカスタマイズ料金(700円)をキャッシュバックで受け取ることが可能なもの。ネットで検索してみると分かるが、このカスタマイズ券面はSNSなどに多数投稿されており、ユーザー間で共有して楽しむアイデアの1つとして親しまれているようだ。

Revolutのカスタマイズカードの例

5月には、一部クレジット・デビットカードでのチャージ手数料撤廃を発表する。特定ブランドが対象となるようだが、詳細は後日発表とのことで続報を待ってほしい。なお注意点として、2月26日以降にデビットカードからチャージされた資金は送金ならびにATM引き出しに利用できなくなり、扱いとしては既存のクレジットカードやプリペイドカードと同等になっている。意味合いとしては、デビットカードであってもクレジットカードのショッピング枠や前払式支払手段での資金と同等の扱いになったと考えられる。海外送金などをするうえで諸外国との違いで一番面倒なところではあるが、こればかりは日本特有の金融ルールによる部分なので非常に残念な部分だ。

また夏時期となるが、有料プランを選択しているユーザーに対して旅行保険とショッピング補償保険が付随されるようになる。インタビューで巻口氏も触れていたが、「Revolutが日本に参入した時期はまだ円が強く、海外で多くの日本人を見かけていたが……」ということで昨今の円安や航空運賃の高さによる海外旅行客の減少を嘆く話もあるが、こればかりは波がある話でもあるので、「海外旅行や出張に強いRevolut」というアピールを今後活かせる機会が増えるかもしれない。

そして最後が、みんなの銀行の更新系APIを使った直接連携だ。以前まで、Revolutへの銀行口座経由での入金はJPモルガンチェース銀行の口座を利用した間接的なものしか用意されておらず、後に楽天銀行経由となったことで手間がかなり緩和された。今度は、たびたび共同キャンペーンや提携を発表しているみんなの銀行とBaaS連携を行ない、手数料なしの即時チャージが可能になる。時期は初夏を予定しており、こちらも改めて続報を楽しみにしたい。

2023年12月に、みんなの銀行と「Circle」連携を発表した際の記念ショット

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)