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海外旅行の隠れコスト? 値上がり続くクレカの「海外事務手数料」に注意

海外での決済では、クレジットカードを使う機会が増えます

海外旅行でお金を使う機会は頻繁にあります。電車に乗る、食事をする、ホテルに泊まる、お土産を買うといったように、普段の日本での生活よりもお金を使う機会が増えるでしょう。そんな時、普通は現金かクレジットカード(デビットカードを含む)が使われます。

現金の場合、その国に到着する前後に日本円から現地通貨に両替をして使います。クレジットカードの場合は、現地通貨で決済をした上で、後日日本円に両替して利用代金を確定させます。

「両替」には手数料が発生します。現金の場合は例えば空港の外貨両替窓口で所定のレートで日本円と外貨を交換します。

海外でも現金を使う機会は0ではありませんが、最近ではまったく現金を使わないケースも増えました
スウェーデンの通貨クローネ。キャッシュレスオンリーの店もありますが、現金が使えないというのはさすがに少ないはずです

カードの場合、決済時ではなく、最終的な支払金額が確定した段階での為替レートに加え、 「海外事務手数料」 などという名目の手数料が発生します。

この海外事務手数料がくせ者です。代金に数%が上乗せされるため、これを把握していないと、日本に帰ってきて意外に高い金額が引き落とされる可能性もあります。

しかも最近、この手数料が値上げされています。さらに意外にカードによって異なるこの手数料。海外旅行に行く前に、自分の持っていくカードを確認してみるのはいかがでしょうか。

海外旅行でクレジットカードが値上がり?

海外旅行では、多額の現金を持ち歩くのはなるべく避けたいものです。現金は必要最小限にして、なるべくキャッシュレス決済で済ませた方が安全です。

特に欧米は、ほとんどの場所でカードでの支払いが可能なので、国にもよりますが現金をまったく持ち歩かなくても旅行はできます。しかも最近はカードのタッチ決済が一般的で、スマートフォンやスマートウォッチのタッチで支払えるため、安全性も高くなっています。

とはいえ、不安な場合は現金を持ち歩くといいでしょう。比較として、成田空港にある両替窓口「GPA」の為替レートを見てみると、「2025年8月6日10時56分」のレートで、米ドルは円からの両替が150.33円、ユーロの場合は174.88円となっていました。

現金両替の場合、現地の空港の方が、さらに現地の市中の方が安いという場合もあって一概には言えませんが、今回は日本での両替で考えます。また、現地のATMで現地通貨のキャッシングをするというテクニックもありますが、こちらも今回は言及しません。

成田空港グループ直営のGPA外貨両替専門店の両替レート。表示レート以外に手数料などは掛からないとされている

つまり、1万円で約66.52ドル、約57.18ユーロになります。地獄のような円安です。100ドル、100ユーロが必要な場合には、それぞれ15,033円、17,488円が必要になる、というわけです。

これで現地通貨をゲットできました。この後は、どのように為替が変動しようとも関係なく、現地通貨で買い物ができます。

クレジットカードの場合は、通常は現地通貨で決済を行ない、その後、日本円で返済を行います。上の例の場合、現地で66.52ドル、57.18ユーロの決済を行ったとき、日本円の支払いがいくらになるかで比較することができます。

まずは為替レートを確定させます。クレジットカードの為替レートは、まず国際ブランドのレートを使用します。VisaMastercardは為替レートを調べるサイトがあります。

上記の現金窓口と同じタイミングでの為替レートは、いずれも1ドル約147.87円、1ユーロはVisaが170.95円、Mastercardが170.85円でした。手数料を考えないので、66.52ドルは日本円で約9,836円、57.18ユーロは約9,775円、9,769円になりました。つまり、現金よりも安く済んだということになります。

Visaの為替レート。66.52ドルは1万円未満になりました
こちらはユーロの場合
これはMastercardです
ユーロの場合

ただし、為替レートが変動していないというのが前提です。クレジットカードは利用が確定した時点の為替レートを使って外貨から日本円に変換されます。利用時の為替レートから1円でも上下すれば実際の支払い額は変動します。

さて、クレジットカードでは、これに加えて各カード会社が設定する海外事務手数料などの手数料が追加されます。VisaやMastercardのサイトでは、「Bank fee」とあるのがそれにあたります。上記は為替レートだけを考慮したため、これを0にしてあります。

この手数料がここ1年で大幅に値上がりしています。

例えば三井住友カードは、2024年11月以降それまで2.20%だった海外事務手数料を3.63%に値上げしています。楽天カード、三菱UFJニコス、エポスカード、ライフカード、セゾンカード、オリコカード、PayPayカード……と多くのカード会社が海外事務手数料を値上げしています。おおむね、3.63%か3.85%になっています。

例えば海外事務手数料3.63%のVisaカードで66.52ドルの買い物をしたら、引き落としは10,193円になる、ということになります。現金だと1万円で両替したので、193円高くなるわけです。同様に、57.18ユーロの場合は10,130円となりました。この場合は130円高くなっています。

比較しやすいように100ドルの商品を買った場合は15,324円、100ユーロの商品だったら17,715円になります。それぞれ、海外事務手数料ごとの支払い額は以下のような形になります。

つまり、全く同じ為替レートだと、日本円を現地通貨に両替するより、 事務手数料が1.60%までならクレジットカードの方が安くなります

ただ、為替レートがどのように変動するかは予想できないので、「海外で10万円を両替して持ち歩く」ことの安全性や利便性を踏まえて判断する方がいいでしょう。

各社の海外事務手数料の違い

では、各社の海外事務手数料はどのような状況でしょうか。

前述の通り三井住友カードは2.20%が3.63%に値上げしました。同社の発行カードのうち、Amazon Mastercardのみ1.63%でしたが、これは25年10月1日から2.20%に値上がります。楽天カード、DCカード、JALカードなどはこの「3.63%組」です。

3.85%組は、三菱UFJニコス、エポスカード、ライフカード、セゾンカード、ビューカード、オリコカード、au PAYカード、アプラスなどです。各社とも、2.20%だったのが3.85%に値上がりしたパターンがほとんど。アプラスだけは少し特殊で、Mastercardのみ2.85%になっています。

これに対して、まだ値上げをしていないのがドコモのdカードで2.20%を維持。そしてさらに安いのがイオンカードで、1.60%を維持しています。1.60%の場合、為替レートが同じなら現金よりわずかにお得になります。

さらに特殊なのがJCBです。海外ではVisaやMastercardほど使える場所が多いわけではないのですが、意外に各社の事務手数料が抑えられています。JCBは国際ブランドとカード発行会社という2つの側面を持ちますが、国際ブランドとしての基準レートは、前述の同タイミングでドルが147.755円、ユーロが171.129円など。少しレートが異なります。

カード発行会社として、JCBの海外事務手数料は1.60%。これと同じ1.60%組がビューカード、オリコカード、メルカード、イオンカード、JALカードなどです。特にオリコカードやビューカードなどのように、VisaとMastercardは3.85%でも1.60%に抑えられているカードもあります。

それに対して、他のブランドにあわせてJCBも値上げして、3.85%としているのがライフカード、セゾンカード、PayPayカード、アプラスなど。

国際ブランドとしてのJCBの基準レート

海外事務手数料は、もちろんなるべく安いカードを使った方がお得です。この中では、1.60%のイオンカードがお得でしょう。JCBが使えるところであれば、全体的にJCBが安くなっています。

クレジットカード以外だと、国際ブランドがついた銀行のデビットカードも海外で外貨の支払いができますが、多くはクレジットカードと同様の海外事務手数料がかかります。基本的には決済時に両替をするため、その時の為替レートが適用されます。プリペイドカードも同様です。ちなみに、ここでもイオン銀行の「イオンデビットカード(VISA)」が、海外事務手数料1.60%となっていてお得です。

外貨でそのまま支払うお得なカード達

ただ、為替レートの変動に弱いのがクレジットカードの弱点。そのため、利便性の高さではデビットカードやプリペイドカード系の利用がお勧めです。

ここで登場するのがSony Bank WALLET、Revolut、Wise、IDAREなどです。こうしたサービスは、あらかじめチャージした金額を使ってその場で即時支払いをするため、為替レートの変動に影響を受けません。

海外で使いやすいRevolutやSony Bank WALLET

実際に比べてみましょう。まずはSony Bank WALLET。これは実際にはソニー銀行のデビットカードです。ソニー銀行は、複数の通貨で口座を保有し、それぞれの通貨を使ってデビットカードでの支払いができます。あらかじめ外貨預金を持っておけば、現地ではその通貨での支払いができ、為替レートの影響を受けません。しかも、仮に過去の円高の時代に外貨預金を持っていたら、現在より大幅に安い金額で支払いができます。

前述の為替レートのタイミングで外貨を購入した場合、1ドルは147.87円だったので、1万円分で67.62ドル、58.47ユーロに両替できました。100ドルの場合は14,787円、100ユーロは17,102円。現金の両替レートよりも有利になっていました。

仮に外貨を保有していない場合、決済時点で日本円の預金から外貨へ両替をして現地通貨で支払う、という形になります。その場合のコストはドルとユーロは15銭など。つまり4ドル/ユーロで1円、100ドル/ユーロでも15円程度なので、どちらにせよ現金よりお得です。現金のように「旅行に行く前に現地通貨の預金を作っておき、それを使う」のが最も有効ですが、オーバーして日本円からの両替になってもまだお得です。ちなみに、この為替コストは銀行の利用状況に応じて優遇があり、最安はドル/ユーロで4銭です。

ソニー銀行でこの外貨預金を使った支払いに対応しているのは10通貨のみで、それ以外は海外事務手数料として1.79%が発生します。国際ブランドはVisaなので前述のVisaのレートにプラスされます。最も安い1.60%組には及びませんが、現状では安価な部類です。

ソニー銀行の為替コスト。このうち、ブラジルレアルと人民元はSony Bank WALLETの非対応通貨なので、口座を持っていてもそのまま現地通貨での決済はできません

RevolutとWiseは、日本では資金移動業なので外貨預金をするわけではありませんが、あらかじめ円から外貨に両替してチャージしておき、それを使って現地で決済を行なうサービスです。Sony Bank WALLETと同様に事前に両替しておくので、為替レートの変動の影響は受けません。

Revolutの場合、為替レートはドルで147.12円、ユーロで170.19円でした。1万円では67.98ドル、58.76ユーロとなります。100ドルは14,715円、100ユーロは17,019円。Revolutがチャージできるのは39通貨。手数料はスタンダードプランだと30万円まで無料ですが、それ以上だと0.5%発生。週末に手数料1%(スタンダードプラン)が発生する場合もあります。

例えばRevolutの円からドルへの両替の目安

Wiseは1ドル147.665円、1ユーロ170.845円。Wiseの場合は手数料が発生し、1万円だと手数料66円を含んで67.28ドル、手数料64円で58.16ユーロ。100ドルだと手数料97円で14,864円、100ユーロは手数料109円で17,193円となりました。Wiseは24通貨でチャージして決済に使えます。

こちらはWiseの場合

RevolutもWiseも、チャージ非対応通貨や保有していない通貨でも、決済時に自動的に他の保有通貨から変換して支払うこともできるようです。その場合はWiseだと40通貨以上、Revolutで150通貨以上とされています。

Sony Bank WALLETと同様のサービスだと、SMBC信託銀行プレスティアの「グローバルパス」もあります。チャージ方式だと、「JAL Payプリペイドカード」(旧JAL Global Wallet)、「トラベレックスマネーカード」などもあります。

そしてもう1つ、注目したいのが新興フィンテック企業IDAREです。IDAREは、あらかじめチャージして残高から支払いをするプリペイドカードで、海外通貨の両替はできないので、海外で利用する際には日本円を即時両替して決済が行なわれます。ここまでは通常のプリペイドカードやデビットカードと同じですが、IDAREは海外事務手数料が0%です。Visaプリペイドカードなので、Visaの為替レートのみで円建ての決済が行なわれます。

IDAREの場合、日本円でチャージしているため、決済時の為替レートが適用されます。実際に買い物をする際の為替レートが適用されるため、レート変動の影響を受けます。その点は注意が必要ですが、海外事務手数料が0円なので、おおむね現金両替よりもお得になりそうです。

海外旅行の「隠れコスト」 自分が持つカードもチェックしよう

というわけで、海外旅行で隠れたコストとなる「海外事務手数料」。最近の円安と海外のインフレのダブルパンチで、海外旅行でかかる費用は増大しています。特に「家族4人で海外旅行」といった場合、食事だけでもかなりの高額になってしまいます。

仮に現地の滞在費が20万円だった場合、現金の両替では約1,330ドル。これが海外事務手数料3.85%だと20万4,239円、0%だと19万6,667円、その差は7,572円になります。現金との差額でも4,239円で、意外とバカにならないレベルです。

恐らく一番手っ取り早い方法は、Revolutを申し込んで、バーチャルカードをAppleウォレットやGoogleウォレットに登録し、現地ではタッチ決済で支払うことでしょう。欧米ではおおむねこれで支払いができます。申し込んでもカード配送が間に合わない場合は、こうした手段も使えます。その点、WiseやIDAREはバーチャルカードがなく、モバイルに登録できないのでこの手法が使えません。

海外旅行の際には、自分が持つカードをチェックして、一番海外事務手数料が安いカードを選んでみてはいかがでしょうか。

小山安博