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SLIMピンポイント着陸に成功 月から画像届く。 JAXAが成果報告

着陸後SLIM搭載航法カメラによる月面画像(©JAXA)

JAXAは、1月20日0時20分に月面への軟着陸を成功させた小型月着陸実証機「SLIM」について、現時点で判明している成果を発表した。最重要課題とされていた、誤差100m以内のピンポイント着陸は無事に成功していたほか、着陸したSLIMの画像を、月面に展開したロボット探査機「LEV-2」が撮影し、地球へ転送することにも成功。その画像も公開した。また、SLIMの着陸姿勢が想定どおりに行かなかった原因についても一部が明らかになった。

1月20日に、SLIM着陸直後に行なわれた記者会見では、SLIMが無事に軟着陸したとみられることや、電源を喪失したもの、必要なデータはすべて地球へ向けて送信済であり、解析を開始した旨が発表されていた。今回の記者会見では、そのデータを解析した結果、あらためて誤差100m以内でのピンポイント着陸に成功していることを確認した。

SLIMが月面着陸するまでの詳細も明らかになった。SLIMは、航法カメラによる画像航法によって、撮影した月面の画像を元に自分の位置を推定する自律的な航法誘導制御により、着陸目標地点に接近。目標地点上空に到達すると、高度4kmから降下を開始。着陸レーダーも使用しながら、高度・地面相対速度の精密な計測を行ない、着陸を試みた。

SLIMは自己判断により、より安全な場所を探して着陸する能力を持つ。そのため、地上約50m上空で一旦空中で停止(ホバリング)し、画像解析によって岩など危険な障害物を避けるルートを判断して、障害物回避マヌーバを行ない着陸する。地上50mに達するまでは、予定通りピンポイント精度を優先して航行するが、実際に着陸する段階では、現場の状況を分析して、より安全に着陸できる場所をその場で自律的に判断して決定する。

ピンポイント着陸性能は、この障害物回避マヌーバ開始直前の高度50m付近での位置精度が基準となり、この時点では10m程度以下、実際には3~4m程度の誤差に収まっているとみられている。

SLIMの着陸目標地点と、現状の位置の推定。インド探査機Chandrayaan-2が撮影した月面地形と重ねたもの(©Chandrayaan-2:ISRO/SLIM:JAXA)

SLIMの正確な着陸目標地点は、月の経度:25.24889(deg)、緯度-13.31549(deg)。位置情報はプロジェクトにとって重要な情報であり、着陸安全性の確保などの理由から、これまでは小数点第一位までのみが公表されていた。着陸地点は、理学的な観測成果や着陸時の安全性などを考慮して、長い議論の末に決定したものだという。

推進系トラブル発生もSLIMが自ら対処

今回、SLIMの着陸は成功したものの、想定外の姿勢で着陸してしまったため、太陽光パネルによる発電が行なわれなかった。その原因も分かってきた。

高度50mに達するまでは、すべてにおいて順調な進捗だったが、ここで想定外のトラブルが発生。SLIMから送られてきたデータによると、高度50m時点で障害物回避マヌーバを行なう直前のタイミングで推進系に異常が発生していたことが明らかになった。

SLIMからのデータによると、0時19分18秒頃、メインエンジン2基のうち、1基に何らかの異常が発生し、推進力が得られない状況になっていた。データでは、このタイミングから推進力が半減していることが読み取れるほか、着陸後の温度挙動を調べたところ、2基のエンジンのうち、片方のエンジンの温度が上昇していないことから、エンジンに異常が発生していたとみられる。

0時19分18秒頃から加速度が半減した

ただし、SLIMはエンジンが1基停止しても着陸は可能で、エンジンが1基使用できない状況でも、自己判断によって姿勢を制御し着陸に成功した。実際に着陸した場所は、50m上空で障害物検知を行なった際に想定した位置から東へ約55m程度移動していたが、100m以内のピンポイント着陸は見事に成功した。

メインエンジンの機能が喪失した原因は、メインエンジン自体ではない何らかの外的要因がメインエンジンに波及した可能性が高いとし、今後は、その原因について調査を継続する予定。

マルチバンド分光カメラによる撮影も成功

着陸後に太陽光パネルでの発電が出来なかったことから、必要な情報の送信などを行なったうえでSLIMのバッテリーは過放電によるトラブルを防ぐためにシステムから切り離された。しかし、既報の通り、必要なデータはすべて送信が完了していたほか、SLIMのミッションの一つである、マルチバンド分光カメラによる月面の撮影にも成功した。

着陸後の45分間の間に、打上げや着陸の衝撃に耐えるためのロック機構を解除し、マルチバンド分光カメラの各機能がすべて正常に動作することを確認。本来は35分程度で333枚の画像を撮影する予定だったが、15分のスキャンで打ち切り、257枚を撮影、地球に送信できた。送られてきた257枚の写真を合成した画像も公開している。

SLIM搭載マルチバンド分光カメラによる月面スキャン撮像モザイク画像(©JAXA、立命館大学、会津大学)

撮影時間が半分程度であったため、画像の半分はデータがない状況だが、送られてきた画像には、観測対象となる「カンラン石」が複数写っているのが確認されている。

観測対象の「カンラン石」。相対的な大きさがイメージしやすいよう愛称が付けられている(©JAXA、立命館大学、会津大学)

SLIMの太陽光パネルは、当初の見立てどおり西側を向いているため、月の夕暮れ時期には太陽があたり、再びカメラが使用できる可能性は高いという。月の昼夜は約15日毎に入れ替わることから、JAXAでは日没となる2月1日までの運用再開を想定して準備を行なっている。今後、電力が回復した場合、速やかに10バンドでの分光撮像による科学観測を実施する予定。

世界初の完全自律ロボットによる月面探査

SLIMが搭載していた月面探査ロボット「LEV-1」「LEV-2」の活動状況も発表された。SLIMに搭載された「LEV-1」と「LEV-2」は、エンジントラブルが発生中のSLIMから、高度5mの時点で計画通りに分離することに成功。日本初の月面探査ロボットである2台はほぼ想定通りに活動し、世界初の完全自律ロボットによる月面探査、世界初の複数ロボットによる同時月面探査を達成した。

「LEV-1」は、JAXAと東京農工大学、中央大学が開発した小型プローブで、月面を跳躍しながら移動探査し、データを地球へ送信するのがミッション。跳躍(ホッピング)による月面移動は世界初で、これを実現。完全自律で活動し、画像処理によって跳躍方向を決定し、バッテリーが枯渇するまで動作を行なった。「LEV-2」が撮影した画像を地球に転送する通信機としての役割も果たし、「LEV-2」とともに月面でのロボット間通信を世界で初めて実現した。ただ、予定していた「LEV-1」自身のカメラによる撮影画像は確認できていない。

現在は電力を使い切り、外気温も高い状態で待機中。今後、太陽電池による発電を行ない、気温も低下すれば再び活動できる可能性がある。

SLIMの撮影に成功したタカラトミー「SORA-Q」

「LEV-2」はタカラトミーと同志社大学が共同開発した変形型月面ロボットで、愛称は「SORA-Q(ソラキュー)」。月面の低重力下での超小型ロボットの探査技術を実証するのがミッションの目的で、搭載されたカメラの画像や走行データをBluetooth経由で「LEV-1」に送信し、地球に転送できる。輸送時は球状だが、活動時には変形して移動する。

直径約80mm、質量約250gと小型で、カメラを前後に1台ずつ装備する。撮影は自律的に行なっており、複数の画像を撮影しながら必要な画像を選択して送信する。予めSLIMの形状を記憶しており、今回、SLIMが写った写真を無事に地球へ送信することができた。

SORA-Qが送ってきた画像により、SLIMの現在の姿が明らかになったが、JAXAでは事前に得られた情報からSLIMの現在の姿勢を予測しており、最後に「答え合わせ」としてSORA-Qの画像を参照したところ、予測がほぼ正しかったことを確認できたという。

LEV-2「SORA-Q」が撮影・送信した月面画像(©JAXA/タカラトミー/ソニーグループ(株)/同志社大学)
画像の解説イメージ。画像にはSORA-Qの車輪が映り込んでいる
SORA-Qの画像を見る前にJAXAが予測したCGによるSLIMの姿勢

JAXAでは、20日の時点で今回のSLIMのミッションについて「60点」という評価を下していたが、今回の発表では、当初の想定以上に達成した成果が多く、今後の調査の結果が注目される。SLIMから得られた情報は現在も解析中であり、JAXAでは今後も継続的に情報を公開する予定。