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東急バス、川崎市~横浜市で自動運転の運行実証 一般客乗車

今回の実証実験で使用される小型モビリティ。非営業用のため、白ナンバーとなる

昨今、バスの運転士は人手不足が深刻になり、公共交通を担う路線バスの存続も危ぶまれている。運転士不足を担う切り札と目されているのが、AI技術を活用した自動運転だ。東急バスは、3月7日から13日まで多摩田園都市エリアで自動運転モビリティの実証実験に取り組む。初日となる7日、東急バス虹が丘営業所内と周回コースでその様子が報道公開された。

このほど東急バスが実証実験するのは、自動運転モビリティと称する小型バスを遠隔監視によって運行するシステム。同システムで使用する車両はタジマモーター製8人乗りの電気自動車で、航続距離は1回の充電で約80kmとされている。

小型モビリティは8人乗りのコンパクトな車両

レーザーレーダーと呼ばれる探知機とカメラ・マイク・通信装置などによって、運転席に運転者が乗って常時周囲を監視する自動運転のレベル2を実用化。これらの自動運転技術と遠隔監視によってバスは運行される。また、今回の実証実験では実施する予定はないが、遠隔操作も可能となっている。

自動運転を可能にするレーザーレーダー
車上に取り付けられたカメラによって遠隔監視が可能に
小型モビリティの遠隔監視室。右が通常の遠隔監視モニターで、左側は遠隔操作用のモニターとハンドル
小型モビリティを遠隔監視している様子。モニター1台につき、モビリティ1台を監視できる

実証実験中、同バスは時速19kmで決められたコースを走行する。その運行ルートは横浜市青葉区すすき野地区と川崎市麻生区虹ヶ丘地区にまたがったエリアで、小田急小田原線の新百合ヶ丘駅と東急田園都市線・横浜市営地下鉄のあざみ野駅との中間に位置している。

同エリアは鉄道駅から距離があるために交通の便は決していいとは言えないが、1960年代後半から1970年代にかけて日本住宅公団(現・都市再生機構)が同地を開発・分譲した。そうした経緯から、現在も同エリアには団地群が広がる。その居住人口は約12,000人。

両駅からバス利用だと、すすき野地区・虹ヶ丘地区までは約20分。主要幹線にバスが運行されているものの、すすき野地区・虹ヶ丘地区は起伏の激しい丘陵地帯のためにバス停から各戸までの、いわゆるラストワンマイルが課題になっていた。

虹が丘営業所では通常の路線バスも整備点検している

今回の実証実験は、そのラストワンマイルを補い、解消することを主眼に置く。これらの問題が解消されれば、昨今の郊外から都心部への人口流出に歯止めがかかることが期待できる。それは、東急が得意とする都市開発にも幅を持たせることを意味する。

実証実験バスは、虹ヶ丘営業所を起点にネクサスチャレンジパーク早野・すすき野とうきゅう・ミニストップ虹ヶ丘店・虹ヶ丘二丁目バス停の6停留所を反時計回りで周回する。

実証実験中、小型モビリティには東急バスの運転士が乗務する

実証実験中の1週間は、運賃が無料。LINEによる事前予約制で、すでに地域住民など300人以上の乗車予約が入っている。これには担当者も嬉しい表情で「想定していた以上の反響」と語った。

報道公開に先立って、小型モビリティの試乗に参加した近隣住民のみなさん
小型モビリティは乗降しやすいように、ドアが開くとステップが飛び出る

今回、東急は自動運転の実証実験を開始したわけだが、今になって急に自動運転を導入しようとしたわけではなく、以前から自動運転に取り組んできた。

2019年度、東急は静岡県が取り組む自動運転の事業に参画。2020年度には、静岡県伊東市で自動運転の実証実験を実施している。同年、東急はコントロールセンターを構築して、遠隔型自動運転の実証実験も開始した。そこから、さらに自動運転と管制機能の検証を繰り返して、自社沿線での活用を模索してきた。そうしたノウハウを積み重ねて、今日に至っている。

「今のところ自動運転を通常のバスに導入する予定はなく、今後、新たな実証実験の予定も決まっていない」とのことだが、今回の実証実験は東急がこれまで取り組んできた自動運転のノウハウを実用化させるための第一ステップと位置付けられる。

日本社会は少子高齢化が進んでいる。現在、トラックやバスのドライバー不足は深刻な社会問題になっているが、今後はそれらが加速することが予想されている。それだけに、政府・地方自治体・交通事業者間では公共交通の維持をどうするのかが大きな課題になっていた。

自動運転が実現すれば、人口減少や少子高齢化によって衰退しつつある郊外住宅地にも新たな展開が期待できる。同時に、懸案だった公共交通の維持についても一筋の光明が見えてきたといえる。自動運転車両によって移動サービスの可能性が広がることは間違いない。