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メルカリに“近い”松屋や高円寺を攻める。後発メルペイの店舗開拓戦略

3月29日。初の「プレミアム“キャッシュレス”フライデー」に、キャッシュレス推進協議会らがキックオフイベント開催、キャッシュレス関連企業各社が最新の取り組みを紹介した。

メルペイのプレミアム“キャッシュレス“フライデー施策

「(QR)コード決済」と呼ばれている、スマートフォン上でQRコードまたはバーコードを利用したアプリ決済だが、メルペイはこの分野に参入したばかりの新参者だ。

一方でサービス立ち上げ時からNTTドコモとの提携でiDを採用したり、JCBの共通QR決済方式「Smart Code」への参画、そして先日LINE Payとの提携など、矢継ぎ早に業界内提携を打ち出している。今回、初のプレミアム“キャッシュレス”フライデー開催に合わせ、同サービスを採用した2つの事例を紹介する報道関係者向けの内覧会を行ない、同社がターゲットとする層やその狙いについて説明した。

松屋とメルペイユーザーの深い関係

事例の1件目はファーストフードチェーンの松屋だ。普段から松屋を愛してやまないヘビーユーザーならご存じだと思うが、同社は比較的以前から交通系電子マネー対応を進めており、キャッシュレスでの食事が可能な貴重なチェーン店舗だった。

松屋では2月にQRでコード決済に対応。現在店内に2-3台設置されている券売機のうち1台でしか行なわれていない店舗もあるが、順次、QRコードリーダーを取り付けており、最終的にはすべての券売機で読み取り対応にする予定だ。

同社の説明によれば、全国1,157店舗のうち、武蔵小杉の店舗とイオンモールに入る店舗を除いた1,139店舗すべてでQRコード決済に対応し、メルペイについては4月2日以降に利用可能になるという。近年増えつつある「○○Pay」の顧客を取り込むべく、さらなるキャッシュレス対応を進める。

東京は三鷹の松屋本社ビルにある松屋店舗。QRコード決済対応をうたう

今回、デモストレーションに参加してくれた近所に住んで松屋をよく利用するという女性によれば、メルペイを利用できるメリットとして「財布を忘れることはあっても、スマートフォンを家に忘れることはあまりない」「メルカリでの売却で得たお金をそのまま買い物(今回の場合は松屋)で利用できる」という点を挙げている。特に後者については「売却で得られた収入での買い物は抵抗感が低い」とのことで、メルカリというサービスの特性をよく示したものだといえる。

メルペイによれば、当初の目標はサービスを広げることよりも「既存のメルカリユーザーのためのサービス拡充に力を入れる」とのことで、メルカリ経済圏で資金を外に出すための手段の1つとしてメルペイを位置付けており、メルカリユーザーに寄り添ったサービスであることを明確にしている。

メルペイを利用して券売機で食券を購入する。なお今回はデモのために特別に機能を有効化させたもので、一般開放は4月2日以降となる
松屋では、武蔵小杉ならびにイオンモールの店舗を除いてすべての券売機でQRコード決済が利用できる

せっかくの機会なので普段疑問に思っていることを松屋側にいくつか質問してみた。ほぼすべての店舗の券売機でQRコード決済に対応する一方、電子マネーの対応が限定的となっている件について、「もともと電子マネーは実験的に導入したもので、現在もそのときの導入状況が反映されている」という。

例えば、電子マネーを導入してもすべての来店者が利用するわけではなく、「比率としては(現金と比べて)それほど多くない」というのが現状だ。また、電子マネーを利用するのは「都市部の駅前店舗」という傾向が強いため、「現状で駅前出店はほぼ飽和しており、ロードサイド店舗や“かつや”などの別の業態での出店が中心になっている」という現状において、ニーズがそこまで高くないのが実情だ。「将来的に券売機の入れ替えで全店が電子マネーに対応する可能性はある」とは述べているものの、キャッシュレス化という文脈ではQRコード決済が先行することになりそうだ。

また、現在松屋ではセルフサービス店舗が増えているが、券売機と合わせて回転率の向上に貢献しており、利用者側の反応はまずまずだという。同社では現在「女性でも入りやすい店舗」を目指してリニューアルを続けており、女性利用比率が6割を超えているメルペイの採用はこうしたユーザーの取り込みに結びつく可能性が高く、理にかなった動きといえるかもしれない。

「メルカリユーザーの多い地域を重点的に狙う」ターゲティング営業

2件目の事例は、東京の高円寺駅の商店街奥にある「串カツビリー」という店舗だ。「二度漬け上等」をうたう同店舗の来店客の多くが地元民で、「駅から若干奥まった場所柄か、お馴染みの客が多い」と代表の舩田“ビリー”良輔氏は説明する。

高円寺の商店街の奥の方にある串カツビリー

同店舗はもともと「楽天ペイ(実店舗決済)」を導入しており、楽天ペイ(アプリ決済)ならびにクレジットカードや電子マネーの利用が可能になっていた。「平均客単価は2,000-3,000円」ということで、飲み屋を兼ねた店舗としては比較的安価な値付けになっているが、全体の2-3割がクレジットカード決済で、残りは「(導入から数カ月で)QRコード決済(楽天ペイ)が数回ほど、電子マネーはまだ1回もない」とのこと。

そんなある日、メルペイから営業がやってきて細かくサービスの説明が行なわれ、導入を決意したという。

それによれば、高円寺は文化的に古着屋があちこちにあり、普段からメルカリを利用するようなユーザー層が比較的多く住んでいるのだという。そのため、地元民が多いという客層の店舗にメルペイを導入することで、衣服などを売却したお金で支払いたいという利用者を取り込めると判断したというわけだ。

申し込みから開始までも簡単で、発送されてきたキットを組み立て、同梱のIDとパスワードをインストールしたアプリに入力するだけですぐに利用を開始できる。

メルペイ対応のアクセプタンスマークが掲出される
メルペイ決済の様子。店舗側がタブレットを使って読み込む方式
メルペイから送られてくる決済キット。スタンドを組み立てて店舗入り口にシールを貼り、インストールしたアプリに送付されてきたIDとパスワードを入力すればすぐに利用開始できる

実はこの「メルペイからの営業」というところがポイントで、同社が現在加盟店開拓で行なっている「ターゲティング営業」を反映した事例の1つといえる。メルペイではメルカリの利用が多い地域を把握しており、そうした地域に向けて今回の串カツビリー同様に「売却で得たお金を取り込める潜在市場」というセールストークを展開している。

高円寺に限らず、日本全国にこうした場所はスポット的に存在し、それを正確に取り込んでいくことが強みだと同社は考えている。面展開や数の勝負では先行するLINE Payや楽天ペイに及ばないほか、営業力もPayPayの数千人規模の人海戦術にはかなわない。それよりはむしろ自身の強みを理解し、攻められる領域を確実に獲りつつ、残りはアライアンスによる横連携で補っていく形でサービス拡大を目指している。非常に興味深い動きだ。