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JCBが「Smart Code」でQR/バーコード決済市場に乗り込む理由

ジェーシービー(JCB)は2月20日、さまざまな手法が乱立しているQRコード/バーコード決済サービスを取りまとめる「Smart Code(スマートコード)」を発表した。今春より提供開始し、コード決済事業者と加盟店をつなぐ情報処理センターの提供や、加盟店契約の一本化を行なう。

現在の各決済サービスでは、事業者ごとに提供される専用アプリなどを通じて個別に決済が行なわれるため、例えばクレジットカードなどで自動的に行なわれているカードブランドの判別のような仕組みが存在せず、店員が決済前に個別にサービスを指定する必要がある。

しかし、当初は数社程度だった事業者も、現在ではすでに参入表明を合わせて10社後半となり、店舗オペレーションの煩雑さに拍車をかけつつある。Smart Codeの仕組みに相乗りすることにより、QRコード/バーコード決済サービスを提供する提携各社はSmart Code加盟店をそのまま利用可能となり、またどの決済サービスかの自動判別も行なわれるため、店舗側の負担も軽減されるというメリットがある。

Smart Codeと○○Payを連携させるイメージ。JCBが代行業者として手数料を徴収するモデルになる
JCB、QR・バーコード決済スキーム「Smart Code」

今回の発表は、1年前の2018年2月20日に「JCB、QR・バーコード決済の統一規格を策定し、情報処理センターの構築に着手」と公表され、1年越しで計画が実現したもの。決済分野への新規参入業者が多く、乱立状態にあるという点はさておき、現状のQRコード/バーコード決済サービスにはサービス提供側と加盟店にとって2つの大きな問題がある。

1つはリクルートのAirペイなどの仕組みを利用しない限り、加盟店開拓は各事業者が個別に営業を行なう必要があるため、後発あるいは体力の少ない事業者にとっては加盟店開拓がなかなか進まないという問題だ。

もう1つはサービスが多数存在することで、例えばPOSでの決済手段選択画面で事業者ごとのボタンが表示されるため、契約が多いと店舗側の操作が煩雑になるほか、そもそもサービス自体の数が多いことで、限られた数のサービスしか店舗で採用されないという問題だ。JCBがSmart Codeという共通プラットフォームを用意することで、「○○Pay」同士の相互乗り入れを可能にし、加盟店開拓を手助けするという狙いがある。

第1弾として、同日にサービス概要を紹介したばかりのメルペイ(MERPAY)との提携を発表している。

同日に開催されたMERPAY CONFERENCE 2019において発表されたJCBとの提携

メルペイでは、既存のiD加盟店での利用のほか、KDDIのau Payとの提携、独自開拓した加盟店とを合わせ、135万店舗での対応をうたっており、JCBのSmart Codeへの対応でこれをさらに拡大させていく。メルペイが独自に開拓した加盟店の相互乗り入れは行なわれないものの、Smart Code加盟店ではメルペイが利用可能になっており、特に後発組となるメルペイにとっては加盟店開拓での不利な面を補う効果が期待される。

Smart Codeのサービス提供開始は4月以降を予定しているが、既存加盟店を中心にすでに問い合わせを受けているとのことで、同時期にある程度の規模でスタートすることになるだろう。

ジェーシービー イノベーション統括部長 久保寺晋也氏

利用イメージとしては、Smart Code対応店舗では同ブランドロゴのほか、メルペイをはじめとする対応サービスが順次追加されていく形となる。利用者は会計時にSmart Code(もしくは対応サービス)の使用を伝えることで、店員はPOSやCCTなどの決済端末上でSmart Codeを決済手段として指定するだけで、あとは自動的にサービスが判別されて決済が行なわれる。

Smart Codeの店舗での露出方法と実際の決済イメージ

JCBはクレジットカードや電子マネー利用のための加盟店開拓を行ない、いわゆるアクワイアリング業務を通じて他社の決済サービスを受け入れているが、今回のSmart Codeはこのアクワイアリング業務をQRコード/バーコード決済にまで拡大したものだと考えればいいだろう。

当面はJCBがSmart Codeのアクワイアリングを行なうが、将来的にはマルチアクワイアリングも検討しており、他社によるSmart Codeの加盟店営業やアクワイアリングも可能とする方向で進めているという。

Smart Codeの決済スキームや仕様
ジェーシービー イノベーション統括部次長 川口潤氏

また当面は新規開拓というよりも従来のネットワークを活かした既存の加盟店への営業が中心になると思われる。

POSやセンターのアプリケーション改修で赤外線スキャナを使ったバーコード読み込みのほか、Cardnetなどを通じて提供されるCCTのような照会端末に対し、ソフトウェアアップデートを経て外付け式の決済端末から直にQRコードの読み取りを可能にする仕組みを用意する。このほか、QRコード決済サービス開始までにアプリケーション改修が間に合わなかったり、QRコード決済だけを利用したいという加盟店には、タブレットやスマートフォンを使った決済手段も提供していくという。

JCBでは2018年10月にQRコード決済のアクワイアリング業務を行なうキャナルペイメントサービスとの提携を発表しており、この仕組みを通じてSmart Codeを含むさまざまな決済のアクワイアリングを可能にしていく。一方でキャナルペイメントとの契約は排他関係にはなく、今後も他社との提携の可能性は否定していない。JCBのスタンスとして、今回のSmart Codeはあくまで顧客の望むサービスを用意したに過ぎず、「クレジットカードや電子マネーのような決済手段をQRコードに拡張しただけ」ということのようだ。

キャナルペイメントサービスとの業務資本提携の流れと加盟店での設置方法(Smart Codeのスキームではない)
CCTと非接触スキャナ(NFCとQRの両対応)の組み合わせと、Sunmiが提供する一体型mPOS。後者は中国でよく利用されている端末で、JCBでは一体型を希望する加盟店にはこれを提供するという

統一QR仕様との関係性と、JCBの狙い

現在、日本国内のQRコード/バーコード決済を巡っては、明らかな乱立状態であり、店舗側の利便性向上に向けた取り組みとして、経済産業省を中心に関連各社が参加するキャッシュレス推進協議会で標準QR仕様の策定が進んでいる。

これが実現すると、QRコードの読み取りでどの事業者の決済サービスかの自動判定が可能となり、店舗側でサービスをいちいち指定しなくても、自動的に決済が行なわれるようになる。

一方で、今春以降に発表される統一QR仕様の登場を前に各社の加盟店開拓合戦が熾烈化しており、システム改修を必要とする統一QR仕様へのシフトが実際にどれだけ行なわれるのかは未知数の部分がある。Smart CodeはEMVCoが定める標準QR仕様に準拠しているが、現在日本で進んでいる統一QR仕様については「策定が完了した段階で仕様を寄せていく」と対応の意向を示している。

すでに加盟店開拓でリードしているLINE Payや、ソフトバンクグループから数千人規模の人員を集中投入し、猛烈な勢いで追い上げているPayPayなどが、統一QR仕様の取り組みにどの程度乗ってくるのか、「自らが開拓した加盟店に他社が相乗りしてくる」ことをこれら事業者がどう考えるか次第だろう。ただ中国系のAlipayやWeChat Payであっても「先方がメリットを感じて同意してくれるのであれば、統一QR仕様に合流するのは技術的に可能」とのことで、すべては戦略次第ということだ。

興味深い試みではあるものの、後発で体力のない事業者が先行者らに対抗するための互助連合という構図に近く、既存の力関係を大きく覆すものではないと考える。

だが、後発組らも単純に加盟店の規模感で勝負することはなく、例えばメルペイのようにマーケットプレイスを利用した独自の経済圏をアピールしたり、みずほ銀行らによる「J-Coin Pay」のように銀行ならではの個人間送金機能を前面に推したりと、特徴を活かしたうえでの補完として他社連携を捉えている。Smart Codeがこの補完機能をどれだけパートナー各社に提供できるのか、アクワイアラとしては国内最大級の同社の手腕にかかっている。

乱立が叫ばれるスマートフォンを使った決済サービス。こちらのスライドは昨年2018年末に作成したものだというが、すでにここにはロゴのない新しいサービスが登場するほど新規参入が相次ぐ