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「お試し」のつもりが定期購入 広がる「ダークパターン」が法規制に?

「お試しのつもりが定期購入だった」「解約しようとしたら電話でしか受け付けてもらえなかった」ーーネットショッピングやサブスクリプションサービスを利用していて、こうした経験に心当たりはないでしょうか。

8月24日、消費者庁は「デジタル取引・特定商取引法等検討会」の会合で、こうした問題のある表示やデザイン、いわゆる「ダークパターン」への法規制導入を柱とした「中間取りまとめ(案)」を公表しました。特定商取引法の改正を視野に入れ、来年の通常国会への法案提出を目指すとされています。

このニュースを見て「そもそもダークパターンって何?」と思った人も多いかもしれません。この記事では、ダークパターンの基礎から今後考えられる展開まで、順を追って解説していきます。

違法と適法の微妙な境界 ダークパターンとはなにか

ダークパターンとは、Webサイトやアプリの表示、デザイン、操作手順などを利用して、消費者が本来は望んでいない購入や契約、個人情報の提供といった行動を選ぶよう誘導する手法のことです。「ダークパターン」という言葉自体は、2010年に英国のUXデザインの専門家、ハリー・ブリヌル氏が提唱したのが始まりとされています。

消費者庁が2025年3月に公表した「いわゆる『ダークパターン』に関する取引の実態調査」のリサーチ・ディスカッション・ペーパーでは、ダークパターンに共通する要素として、「消費者の誤解を招いたり誘導することを通じて意図しないことをさせるか、消費者の自主的な意思決定や選択を損なうことによって、消費者の最善の利益に反するとともに事業者の利益になる意思決定をさせる」とまとめられています。

こう説明されると「違法なのでは」と考えてしまいますが、ダークパターンの多くは「違法」と明確に言い切れるものばかりではないという点に注意が必要です。詐欺のようにはっきりと不正とわかるものではなく、あくまで画面の設計やデザインの工夫によって、消費者が気づかないうちに事業者に有利な選択をしてしまう、いわば「グレーゾーンの誘導」であることが多いのです。だからこそ、問題視されているとも言えます。

具体的には、こんな手口があります。OECD(経済協力開発機構)が提唱するダークパターンは、7つの大分類で整理されています。

  • 行為の強制(forced action):商品の購入や利用に際して、本来は不要な会員登録や情報提供を、事実上強制すること
  • インターフェース干渉(interface interference):画面上のデザインや表示の工夫によって、消費者の判断を事業者に都合よく歪めること
  • 執拗な繰り返し(nagging):消費者が一度断った選択を、ポップアップなどで繰り返し求め続けること
  • 妨害(obstruction):解約や価格比較など、消費者にとって不利益となる行動を意図的に困難にすること
  • こっそり(sneaking):消費者が気づかないうちに、余分な商品や費用をひそかに追加すること
  • 社会的証明(social proof):他の利用者の行動や評価を示すことで、消費者の判断を誤らせること
  • 緊急性(urgency):残り時間や在庫の少なさを強調し、消費者の判断を急がせること
「事前選択」とはあらかじめ事業者が望む選択肢が選択されているもの(出所:消費者庁「ダークパターン事例イラスト集」)
「キャンセル困難」とは、申し込みの手続きの難易度と解約の難易度が釣り合わないもの(出所:消費者庁「ダークパターン事例イラスト集」)

「DAZN」のトラブルは何が問題だったのか

ダークパターンとして話題となった事例のひとつに、DAZNの「DAZN Soccer」を巡る一件があります。FIFAワールドカップ2026を控えて発売されたこのプランは、Web広告で「月額980円」という表示がされていましたが、実際には最初の3カ月のみが特別料金であり、1年間の契約が前提で途中解約もできないという条件が、非常にわかりにくい場所に記載されていました。

その結果、「月980円だと思って契約したら年間契約で2万6,340円請求された」といった声がSNS上で相次ぎ、大きな批判を呼びました。DAZNは対象期間中に一部ユーザーに誤解を招く表記があったことを認めて謝罪し、解約や返金を含む救済措置を発表しています。

この事例は、先ほど紹介した「インターフェース干渉」の典型例だと言えます。安価な月額表示だけを大きく見せる一方で、年間契約や解約不可の条件は目立たない場所に記載することで、消費者の判断を誤らせる構造がそのまま当てはまります。

DAZNは「DAZN Soccer」契約者に解約や返金を受け付けた(出所:筆者)

消費者庁が国内の大手ECサイトなど102サイトを対象に行なった調査では、該当する分類として最も多く見られたのは「事前選択」(75サイト)で、次いで「偽りの階層表示」(69サイト)、「お客様の声」(56サイト)、「強制登録」(45サイト)という結果になりました。業種別に見ると、総合ショッピングサイトや食品、化粧品・医薬品、宿泊サービスといった業種では、調査対象となった全てのサイトで「事前選択」に該当する表示が見られたということです。

また、組み合わせによる影響の大きさも調査に表れています。消費者庁が引用しているOECDの調査(2024年に20カ国、約35,000人を対象に行なった実証実験)では、当初「新規加入に興味がない」と答えていた被験者が、偽りの階層表示、妨害、執拗な繰り返しという3つのダークパターンに触れることにより、最終的な定期購読の受け入れ率が34.4%から83.2%まで跳ね上がったという結果が報告されています。手口を一つひとつ見れば些細に思えるものでも、組み合わせによって消費者の意思決定に大きな影響を及ぼす可能性があるのです。

「中間取りまとめ(案)」では法改正も視野に

ここまで見てきたように、ダークパターンは以前から指摘されてきた問題です。これまでもダークパターンに関連する行政処分がなかったわけではありませんでした。過去には誇大広告や煩雑な解約導線などにより特定商取引法違反と認定した通販会社に対し、業務停止命令を出したことがあります。

しかし、こうした処分はあくまで既存の特定商取引法や景品表示法の個別の条文に照らして違反と判断された場合に限られており、「ダークパターン」そのものを包括的に取り締まる法律はありませんでした。

そのため、事業者側の自主的な取り組みが先んじて始まっていました。IIJ(インターネットイニシアティブ)などの呼びかけで2024年9月に設立された一般社団法人「ダークパターン対策協会」は、ダークパターンを使わない誠実なWebサイトを審査、認定する「NDD(Non-Deceptive Design)認定制度」を運営しています。

2025年7月には自己審査チェックシートと認定マークを公開し、同年10月から企業の認定審査を開始しました。認定を受けた企業はサイト上に改ざん不可能な認定マークを掲出でき、消費者にとっては「誠実なサイトかどうか」を見極める目印になるという仕組みです。あわせて、消費者が悪質と感じたダークパターンを通報できる「ダークパターン・ホットライン」も開設されており、明らかに法令に抵触するような悪質なケースは、消費者庁など関係省庁とも情報連携するとしています。

NDD認定制度マークの一例(出所:ダークパターン対策協会)

もっとも、こうした認定制度はあくまで任意の参加が前提であり、強制力を伴うものではありません。

今回公表した「中間取りまとめ(案)」の柱となるのは、特定商取引法の改正を視野に入れ、ダークパターンに対して一定程度包括的な規律を設けるという方針です。対象となる範囲も広く、広告表示だけでなく、商品ページ、申込みの最終確認画面、注文後のアップセル(決済直前や購入後に、より高額なプランやオプションへの切り替えを勧める手法)、そして解約手続きまで、消費者が体験する一連のフロー全体をカバーする方向性が示されています。

一方で、事業者を過度に萎縮させないよう、対象を悪質な取引に限定するなどの配慮も盛り込まれています。また、ダークパターンに限らず、SNSでのチャットを使った勧誘への対策も入る予定で、来年の通常国会への関連法案の提出が目指されています。

事業者と消費者、それぞれにできること

ダークパターンがここまで問題視されるようになった背景には、実店舗での商売とは異なる、オンライン特有の事情があります。実店舗であれば、大手のショッピングモールに出店している、あるいはテレビや雑誌の広告で名前を知っている、といった何らかの「フィルター」をくぐり抜けた店舗であるという信頼感があります。一方、オンラインショップは誰でも簡単に開設できるため、消費者の側が数多くの店舗やサービスを自ら見極めるリテラシーを求められるのです。

今回の規制の動きを踏まえ、事業者側も一度、消費者目線で商品ページやサイトの導線を見直してみる必要がありそうです。商品やサービスの紹介ページにわかりづらい表記はないか、解約やキャンセルへの導線はわかりやすいかなど、ダークパターンの分類や事例を参考に見直しておくといいでしょう。先に紹介した「ダークパターン対策協会」の認定制度を検討するのもいいかもしれません。

なお、今回の「中間取りまとめ(案)」では、ダークパターンへの対応は行政上の是正が基本とされており、刑事罰がすぐに科される設計にはなっていません。とはいえ、業務停止命令などの行政処分を受ければ、事業への打撃は免れません。

消費者としても、今のうちからECサイトやWebサービスに潜む「落とし穴」を見抜く力を養い、自衛しておきたいものです。契約前には定期購入の条件や解約方法を必ず確認すること、「今だけ」「残りわずか」といった煽り文句を見ても即決せず、一呼吸置いて画面を読み直してみること。最終確認画面のスクリーンショットを保存しておくこと。こうした小さな習慣が自分を守ることにつながりそうです。

鈴木 朋子

ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー 身近なITサービスやスマホの使い方に関連する記事を多く手がける。SNSを中心に、10代が生み出すデジタルカルチャーに詳しい。子どもの安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」としても活動中。著作は『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本』(技術評論社)など多数。