トピック
宇宙から林野火災をどう見るか 光学衛星で読み解く大槌町火災
2026年5月20日 08:20
2026年4月22日、岩手県大槌町で大規模な林野火災が発生。5月7日までに焼損面積は1,633ヘクタールが報告される大きな被害となりました。同じ岩手県大船渡市では2025年2月にも大規模な林野火災が発生していて、最終的には約3,370ヘクタールが焼損する、日本の林野火災としては昭和39年以降で最大となる記録的な規模となりました。
こうした広域災害では、現地の安全確保や地形による制約から、被害の全体像を短時間で把握することは簡単ではありません。そこで力を発揮するのが衛星データです。光学衛星データによる解析は危険な現場に立ち入らずに広い範囲を一度に観測し、火災の広がりや周辺インフラへの影響を遠隔から一次評価できる点に大きな意味があります。
誤検知や過小評価の課題もあって万能ではありませんが、一度発生すれば大きな災害となりかねない林野火災の情報ツールとして役立てることができます。
岩手県大槌町の林野火災5月7日までの状況
今回の林野火災は、2026年4月22日に大槌町内の小鎚地区と吉里吉里地区で相次いで発生しました。懸命な消火活動の結果、両地区ともに5月2日13時00分に鎮圧が報告されています。
火災発生後、数日間にわたって焼損面積が急激に拡大し、4月28日には小鎚地区で約446ヘクタール、吉里吉里地区では約1,187ヘクタール、合計で約1,633ヘクタールとなっています。4月28日以降は雨の影響もあって焼損面積の拡大はみられず、合計焼損面積は現在のところ約1,633ヘクタールとなっています。
広範囲に及んだ火災により、周辺地域の住民生活や交通インフラにも大きな影響が生じました。火災の広がりに伴い、大槌町内の5つの地区に対して避難指示が発令され、最大で1,541世帯・3,233名が対象となりました。4月30日までに避難指示はすべて解除されています。住宅や倉庫などの建物被害も確認されています。
国道45号線や三陸沿岸道路、県道吉里吉里釜石線、町道での通行止めが発生したほか、岩手県交通バス、町民バス、三陸鉄道も一部区間で運行を見合わせるなど、交通網にも広範な影響が出ました。4月末までに通行止めは解除され、運行を再開しています。
林野火災は2月から4月ごろの、降水量が少なく空気が乾燥して強風が吹く時期に多く発生しています。突発的に発生し、天候や地域の状況によって被害が急拡大することがあります。そうしたときに、力を発揮するのが衛星によるリモートセンシングです。
衛星からのリモートセンシング
地球観測衛星はそもそもの始まりから林野火災の観測が大きな利用分野でした。広域を一度に捉えられるだけでなく、現地観測によらないことで、人の命を危険にさらさない安全な調査が可能です。無償で利用できる衛星画像によってこれは現在、誰もが安全に行なうことができるようになっています。行政の詳細な確定調査を置き換えるということではありませんが、延焼の主な領域や周辺インフラとの位置関係を迅速に把握することができます。
今回利用しているのは、欧州宇宙機関が運用する光学地球観測衛星「Sentinel-2(センチネル2)」の画像です。光学衛星とは、カメラのように光の波長で地球の表面を観測する衛星ですが、センチネル2は可視光に加えて赤外の波長でも観測しています。可視と赤外を組み合わせることで、火災の広がりや特徴を詳細に捉えることができるのです。
センチネル2は、複数の同型の衛星で繰り返し観測ができる地球観測衛星コンステレーションです。現在は3機が運用中で3、4日に1回程度は観測が可能です。観測データは欧州宇宙機関のCopernicusプログラムのWebサイトを通じて無料で配布され、誰でも利用することができます。
1枚目の画像は、センチネル2が大槌町の林野火災を日本時間4月27日の午前10時半ごろに観測した画像です。トゥルーカラー(可視光)の画像は、火災から吹き上がる煙を広く捉えています。2枚目の画像は、5月7日の午前に観測した画像です。5月に入って山林の木々の葉が若々しい緑色になる中で、焼損範囲とみられるエリアが茶色く浮かび上がっています。
2026年4月27日午前の大槌町トゥルーカラー画像
2026年5月7日午前の大槌町トゥルーカラー画像
同じエリアを、今度は赤外の波長で見てみましょう。近赤外(NIR)と短波赤外(SWIR)の波長をRGBカラー合成した画像です。同じ日本時間4月27日午前の観測では、非常に乾燥した天候のため火災は激しくなっていました。最も明るい部分は火災の激しいエリアを、茶色く見えるエリアはすでに焼損した範囲を表しています。Copernicusプログラムサイトでは、こうした簡単な観測データのカスタマイズをブラウザ上で行なうことができます。
2026年4月27日午前のRGBカラー合成画像
2026年4月27日午前のRGBカラー合成画像
林野火災で樹木などの植生が燃えると、赤外の反射の仕方が変化します。健康な植物の葉は近赤外の波長をよく反射し、短波赤外の波長は植物の葉に含まれる水分で吸収されるため、あまり反射されません。火災で植物の葉が燃えると、反対に短波赤外をよく反射するようになります。特定の波長にRGBカラーを割り当てて画像化すると、この性質の変化を画像化することができるようになるのです。
赤外の波長の火災による変化を利用して、火災前と発生後を調査する手法があります。NBR(Normalized Burn Ratio; 正規化焼損比)とdNBR(differenced Normalized Burn Ratio)と呼ばれる被害推定手法で、林野火災のエリアを7段階に分けて焼損度を推定します。「このエリアに林野火災がおよんだ」ということだけでなく、焼損度をレベル別に表示することができるので、被害の大きい樹冠火(枝葉全体が燃えるもの)と地表火(落ち葉や枯葉などの林床にある可燃物が燃えるもの)の違いを推定することができます。
センチネル2画像で見る焼損エリアマッピング
NBRとdNBRを用いた林野火災の焼損度の推定とマッピングをしてみます。マッピングには、火災発生前の4月14日の画像と、火災の最中の4月27日の画像を用います。衛星データに含まれる近赤外と短波赤外の情報を計算してみると、火災の前には健康な植生があったと考えられる場所が火災後にNIRの反射が低下し、SWIRの反射が上昇した場合に、「焼損を表すスペクトル変化」とみなされるエリアを抽出することができます。
さらに、ある程度以上は焼損度が大きいエリアをしきい値で切って抽出することで、「比較的最近に林野火災の影響を受けたと考えられるエリア」を数値化することができるのです。
参考文献:『TRAINING KIT– HAZA02 BURNED AREA MAPPING WITH SENTINEL-2 (SNAP) JUNE 2017, PORTUGAL』
画像は、大槌町林野火災の推定焼損エリアを焼損度別に色分けして画像化、地理院地図と重ねたものです。吉里吉里地区では、三陸沿岸道路の大槌第2トンネル付近、波板川沿いなどに焼損度の大きい紫色のエリアが、小槌地区にも小槌川に沿った山中に同様の紫色のエリアが見えています。火災の激しかったエリアであることが強く推定されます。
2026年4月27日観測のSentinel-2データから抽出した推定焼損エリア
2026年4月27日観測のSentinel-2データから抽出した推定焼損エリア(吉里吉里地区中心)
2026年4月27日観測のSentinel-2データから抽出した推定焼損エリア(小槌地区中心)
とはいえこの画像は、相当な誤検知の可能性、それも火災の過大評価(偽陽性)と過小評価(偽陰性)の両方を含んでいます。具体的に見ていきましょう。
吉里吉里地区の南側にある大槌漁港の海岸沿いをよく見てみると(位置関係を把握しやすくするために背景地図を変更しています)、黄色やオレンジ色の焼損エリアを示すピクセルが海岸に沿って並んでいることがわかります。
大槌町の避難指示は、海岸に近い赤浜地区にも出されていますが、海岸近くまで山林が迫っているエリアはともかく、漁港のようにコンクリートの護岸設備や海浜公園が整備された場所で、水を被る海岸沿いに火災が延焼するというのは考えにくいことです。これは、人工物や水面では、火災を示すスペクトルの特徴とよく似た赤外の反射が起きてしまうことから現れる、水域によくあるエラーです。
このため林野火災のデータ処理の際には、海や川などの水面や雲を除外処理するのですが、海岸や川岸などの境界域には誤検出を含むピクセルが残ってしまうことがあり、まるで川や海岸沿いに火災が続いているように見えてしまうのです。
誤検出(偽陽性)が疑われるデータ
同じように、植生よりも人工物の多いエリアでの誤検知は、大槌駅の少し西側の小鎚川沿いの住宅が多い桜木町でも起きていると考えられます。もしも、他の地区から大槌川と小鎚川の2つの川を渡って火災が延焼して来たのであれば、途中にも被害を受けて延焼したエリアがあってもおかしくないはずですが、桜木町だけが独立して火災がおきたかのような集積具合になっています。
こうした場合は画像だけで判断するのではなく、公的機関の発表と突き合わせるべきです。今回、大槌町から発表された避難指示に桜木町は含まれていませんでした。そのことから、これは人工物で発生した偽陽性だと考えられます。
誤検出(偽陽性)が疑われるデータ
一方で、過小評価の度合いはどうでしょうか。大槌町が発表した焼損面積は1600ヘクタールを超えていますが、センチネル2データから推定した焼損面積は50ヘクタール程度です。町の発表値はこれから詳細な調査を経て最終的に確定すると思われますが、30分の1以下に小さくなるということはほぼ考えられません。
過小評価の問題は、林野火災が発生した地域の気象や季節に大きく左右されます。同じ手法を使って、2025年3月に発生した愛媛県今治市の林野火災を解析してみると、今治市報告の焼損面積に対して、およそ70%ほどの面積を算出することができています。一次的な評価の手がかりにはなるといえそうです。
一方で、2025年2月の大船渡市の林野火災では、過小評価がかなりあり、報告値の50%も算出できていないという結果が得られています。
冬季の三陸地域は、かなり乾燥が激しく火災前の植生も乾燥しています。このため、火災前と火災後のスペクトル変化が小さく、火災と評価することが難しい条件にあります。試験的に、火災前のデータを植生にまだ緑が多く残っている前年10月の観測データを使用してみると、焼損エリアの評価量がアップします。三陸特有の気象条件が衛星による評価を難しくしているといえます。
焼損面積の詳細推定は難しい……それなら何に役立つ?
衛星データによる簡易解析では難しい条件が見えてしまうと、それならば何のために衛星データを使うのか、という疑問が持ち上がってきます。ですが、衛星データにはもう一つ、データを短時間で解析してデジタル化できるというメリットがあります。
画像は、解析で得られたデータから手動で誤検知が疑われるピクセルを除去し、さらに集計や地図との重ね合わせが容易なベクタデータに変換(ポリゴン化)したものです。この状態では、無料のGISソフトウェアQGISなどでデータを利用した、周辺インフラへの影響調査を行なうことができるのです。
Sentinel-2解析データと地図、インフラ情報との重ね合わせ
焼損エリアを取り巻くオレンジ色の線は、焼損エリアから1kmの圏内を示しています。ここに鉄道、道路、公共施設などのデジタルデータを重ね合わせると、交通への影響やインフラへ火災が迫る度合いなどを視覚化することができます。
吉里吉里地区で1km圏内には、三陸鉄道リアス線の大槌駅、吉里吉里駅、浪坂海岸駅、国道45号などが含まれます。小槌地区ではバスルートの一部が通っていて、運行への影響が考えられます。
焼損エリア、つまり火災そのものが疑われる場所と道路とが重なり合う場所を抽出することも可能です。画像は国土数値情報の道路データ(高速自動車国道、一般道路、都道府県道、市町村道など)をGISツール上に表示し、焼損エリアと重なった場所を赤く発光するように色付けしたものです。「道路に火災が重なった可能性がある」ということは交通へ大きく影響する可能性があるといえそうです。
Sentinel-2解析データと地図、インフラ情報との重ね合わせ
Sentinel-2解析データと地図、インフラ情報との重ね合わせ
Sentinel-2解析データと地図、インフラ情報との重ね合わせ
「国土数値情報」と呼ばれる日本国内の電子化された地理空間情報を利用すると、生活インフラと火災との関係性を示すことができます。市町村役場・公共施設のデータを重ねてみると、1km圏内には大槌町役場や各地区の公民館、体育館、コミュニティセンターが含まれていることがわかります。いつもの街の施設はどのような影響を受けるのか、視覚的に検討することができるでしょう。
データを時系列処理することで、火災の広がりを推定することもできます。吉里吉里地区では、鎮圧宣言後の5月6日にも新たな火災が発生し、消火活動が行なわれました。5月7日の観測データとその前の4月27日のデータを比較することで、焼損エリアが広がってしまう可能性を一次的に評価することができます。
光学衛星データからは、林野火災という恐ろしい災害を、宇宙という遠隔から観測、分析することができます。2025年の大船渡市の林野火災の後、岩手県はより高度な衛星による火災後の影響評価を整備し、復旧対策に役立てています。
今回行なった解析は、そうした公的機関が整備した専門家の分析ではありませんが、無償のデータを使って数時間から1日程度で誰でも分析できるというメリットがあります。『宇宙から』『安全に』広域災害を捉えられるという衛星ならではの力は、これからさらに活用の余地が大きいはずです。















