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スマホ新法で変わること “選べる”は競争と使いやすさにつながるのか

「スマホ新法」が12月18日からスタートします。これにより、スマートフォンのブラウザー選択が必須化されるほか、AppleやGoogle以外のアプリストアの解放や決済の多様化などが見込まれている。

スマホ新法(スマホ法)の正式名称は「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」。GoogleやAppleなどの大手テクノロジー企業等の規制を目的としています。スマホ新法でなにが変わるのか、変えようとしているか、をまとめました。

ブラウザと検索エンジン、決済手段を「選択」 なぜ新法が必要?

新法で一般の消費者にとって大きく変わることは、ひとつはスマートフォンのブラウザーや検索エンジンが「選べる」ようになること。もうひとつは、App StoreやGoogle Playなどの大手アプリストア“以外”からのアプリダウンロードや外部決済サービスなどが導入されることです。

ユーザー側からは、ブラウザー・検索エンジンが「選べる」という点が大きな違いといえるでしょう。また、アプリストアでアプリを展開し、同ストアの仕組みで利用者から料金を徴収していた事業者は、外部サービスを使うことで、約30%の手数料を削減できる可能性があります。そのため、ゲームやアプリ・サービス事業者の収益向上に繋がると見込まれています。

ではなぜ、スマホ新法が導入されるのでしょうか? 政府は「ほぼ寡占状態」にあるスマートフォンのOSやアプリストアなどの「プラットフォーム」に新たな競争を生み出すことを狙っています。スマホ新法では、モバイルOS、アプリストア、ブラウザー、検索エンジンの4つのソフトウェアについて公正な競争を促します。

スマホ法のメリット(出典:公正取引委員会)

スマホのOSやブラウザーは、「社会インフラ」のような重要性を持つ一方で、資金も技術も人も潤沢な大手プラットフォーマーが提供しています。この状況では、新規参入による自発的是正は難しく、また、独占禁止法による個別対応では長い時間を要することから、新たな枠組みとして導入されました。

対象企業は現時点では、AppleとiTunes株式会社(Apple子会社)、Googleの3社ですので、実質AppleとGoogleを規制するものです。OS、アプリストア、ブラウザー、検索エンジンについて、対象の事業者は法の規定に基づき、禁止事項や遵守事項が課せられ、守らない場合は課徴金を課される可能性があります。

スマホ新法における、主な禁止・遵守事項は、「他の事業者のアプリストア提供を妨げない」、「他の課金システムの利用を妨げない」、「デフォルト指定を簡単な操作で変更できるようにする」などです。そのため、ブラウザー・検索エンジンの選択や、決済サービスの解放が行なわれます。

ブラウザーや検索エンジンの選択は「チョイススクリーン」として各社が対応を進めており、Android 15以降のスマートフォンは原則チョイススクリーンが必須化されることになります。iPhoneにおいてもiOS 11以降の多くの機種が対象となっています。

チョイススクリーン特設サイト(公正取引委員会)

また、決済サービスについても、Google PlayやApp Storeに加え、柔軟な決済手段が提供されます。これまでは、多くのケースではGoogleやAppleのストアでアプリをダウンロードし、両社の課金システムで支払うという流れが一般的でした。

それ以外の場合、Webサイトを経由した外部課金が基本となっていましたが、新たにApp StoreとGoogle Playでアプリを配布し、「Apple/Google以外の課金を選択」もできるようになりました(Androidでは以前から提供していた)。さらに、Google PlayやApp Store以外の代替アプリストア(マーケットプレイス)でアプリを配布し、課金するという選択肢も生まれました。

これによりアプリやサービス提供者は、Apple/Googleに支払う15~30%の手数料を削減できるようになるほか、利用者に選択肢が生まれることになります。一方、これまではApple/Googleがアプリの審査などを行ない、安全やセキュリティ、プライバシーなどを担保していましたが、それらが外部に委ねられるため、新たなリスクが生じる可能性もあります。

外部ストアなどを使った場合は、トラブル時の返金対応などはAppleやGoogleではなく、別の事業者になります。新たな選択肢の拡大とともに、リスクや注意点も増えるという構図です。

なお、法律の定める範囲としては基本的に「スマートフォン」となります。例えば、Androidにおいては、タブレットやAndroid TVなどのブラウザーは、チョイススクリーンや決済解放の対象外となっています。

Googleの主なスマホ新法対応

Googleの対応を見ていきましょう。詳細は別記事で紹介していますが、スマホ新法にあわせて、ブラウザーについては12月2日から「チョイススクリーン」に順次対応しています。

デバイスの初期セットアップ時や、OSのアップデート後に、選択画面で「検索プロバイダ」と「ブラウザー」をそれぞれ1つ選択する画面が表示されます。これまでは、基本はブラウザーはChromeで、検索はGoogle 検索でしたが、例えばブラウザーをMicrosoft Edgeにして、検索はヤフーを選ぶといったことが初期セットアップ時にもできるようになります。また、ブラウザーをChromeとし、検索をBingにするといった設定も可能です。

ブラウザ選択画面
検索の選択画面

さらに、iOSのChrome内でも、Google 検索以外の検索プロバイダの選択が可能になります。

この選択画面においては、5つの人気の高いブラウザーや検索エンジンがランダムに表示されるとのこと。つまり、一番上がChromeとは限りません。「選びたい人」が自由に選べる反面で、「特別な設定は必要ない」「よくわからないので人と同じがいい」といった人は選ぶ「手間」が発生するとも言えるでしょう。

なお、チョイススクリーンで設定した検索エンジンとブラウザー(デフォルト サービス)は、選択後に変更も可能です。

チョイススクリーンの対応端末は、Android 15以降で、KDDINTTドコモなども対応端末を発表しています。

ストアや決済についても変更が行なわれます。Androidでは、以前からGoogle Play以外のアプリストアに対応していましたが、Google Playにおいても選択肢を拡大します。

アプリストアのGoogle Playでは、2022年からゲーム以外のデベロッパー向けに、ユーザー選択型決済のプログラム(ユーザー選択型課金/UCB)を展開しており、アプリ内購入時にGoogle Playの課金システムだけでなく、別の課金システムを選択可能となっていました。この仕組みをすべてのアプリへと拡大します。

アプリ課金の手数料は5~26%に iPhoneもチョイススクリーン

Appleは12月13日に公開した「iOS 26.2」において、チョイススクリーンに対応しました。

これにより、iPhone 11以降のiPhoneシリーズと、iPhone SE(第2世代、第3世代)で対応します。iPhone 11の発売は2019年ですので、かなり古い機種まで対応していると言えるでしょう。

これにより、デバイスの初期セットアップ時や、OSのアップデート後に、選択画面で「デフォルトブラウザー」と「デフォルトの検索エンジン」をそれぞれ1つ選択する画面が表示されます。これまでiPhoneのデフォルトブラウザーは「Safari」でしたが、他のブラウザーを選択して、Google 以外の検索エンジンを選択可能になります。

アプリストアや決済についても大きく変わります。

Appleは、これまでApp Store以外のアプリストア(マーケットプレイス)は利用できませんでしたが、18日以降は他社のアプリストアも利用可能になります。従来のApp Storeでアプリ内購入を含め、合計4つの選択肢が用意されます。

  • App Storeとアプリ内購入
  • App Storeと代替決済
  • App Storeと外部誘導
  • 代替アプリストア

スマホ新法にあわせて、アップルはiOSアプリの取引条件も変更しています。

App Storeの手数料については21%(小規模なデベロッパーなどは10%)で、App Storeで課金する場合は、ここに5%の決済料金を加えて最大「26%」となります。

App Storeと代替決済の場合、アップルへの手数料はストア利用の「21%」に、App Storeと外部誘導(Web)では、ストアサービス手数料として「15%」となります。

そして、代替アプリストアでは、コアテクノロジー手数料として「5%」を徴収します。

このためアプリ決済の手数料は、最大でも26%となり、ほとんどのケースで従来の15~30%より低くなります。消費者の選択肢が拡大するほか、アプリやサービスを提供する事業者にとっては、コストの削減が見込まれます。

スマホ新法で変わること

スマホ新法の施行後、なにが起こるのでしょうか?

まず、検索エンジンとブラウザーのチョイススクリーンについては、これまで検索エンジンはAndroidもiPhoneもGoogle、ブラウザーはAndroidがChrome、iPhoneがSafariでした。この選択肢が増えるので、好みのブラウザーや検索エンジンを選びたい人には、良い面はあるといえるでしょう。

また、検索エンジンについては、「AI検索」が注目されるとともに、ブラウザーと検索を一体化したサービスなども登場しています。例えば、Perplexityはブラウザー「Comet」を開発しており、ブラウザーという「窓」を自社で持つことで、様々なサービスの窓口としてPerplexityを使ってもらおうとしています。OpenAIがChatGPTを組み込んだブラウザー「ChatGPT Atlas」を展開するなど、ブラウザーと検索に関連する領域で大きな競争が起きようとしています。

もっともこれらの事例は、どちらかというとデスクトップ(PC版)で競争が始まったばかりで、スマートフォンにはまだあまり関係ありません。政府の施策で進む競争ではないとは思いますが、ブラウザーと検索はホットな競争領域であるとは言えそうです。

一方、気をつけたい点は「選択」の結果によって、プラットフォーマーの責任が及ばなくなる点です。新法後も、一定の審査を経たブラウザーや検索エンジン、決済サービスが提供される予定ですが、従来のAppleとGoogleにおける、セキュリティやプライバシー基準に満たないサービスも存在します。

例えば検索エンジンは、iPhone/Androidともに「Google 検索」がデフォルトでした。Googleは安全対策に力を入れており、完璧とは言えなくても、詐欺的なコンテンツの誘導は少なく、問題が発生した場合の対策も早いとされています。例えば2022年にはMicrosoft Bingにおいて、自治体名で検索すると「偽サイト」へ誘導されてしまうといった問題もあり、問題の発生だけでなく、対応の遅さも指摘されていました。チョイススクリーンで表示される検索サービスは、日本に窓口がないと思われるサービスもあり、こうした問題が起きた際の対応については不安を残すものもあります。

なお、新法ではプラットフォーム側を特別扱いしないため、デフォルトでSafari、Chromeを指定したり、「オススメ」といった提案はできません。一方、ブラウザーや検索エンジンに「詳しくない」「皆と同じでいい」といった人にとっては、「なにを選んでいいかわからない」という状況を生むことになります。その場合は、ひとまずブラウザーはSafari(iPhone)かChrome(Android)、検索エンジンはGoogle、決済はプラットフォームのものを使う、という形でよいのではないでしょうか。

また、ブラウザーや検索エンジンが選べるということは、「人それぞれ」の環境で使われるということです。そのため、スマホをこれから学ぶといった時に、初期セットアップからきちんと見ておかないと面倒が増えてしまうかもしれません。

自分で自分が必要なものを判断できる人には、良い面もある施策かもしれませんが、そうでない場合、リスクに晒されるケースも増えそうです。こうしたケースに対し、規制当局をはじめ、対策に知恵を絞っていく必要があるでしょう。

AppleやGoogleについては、規制対応によって新たな開発などが発生しており、今後、外部アプリストア配信などでサポート等においても課題が発生しそうです。

一方、アプリやサービス事業者では恩恵を受けるケースもあるでしょう。代替アプリストアなどに期待されるのは、現在15~30%のストア利用/決済手数料の引き下げで、公正取引委員会でもこの点の競争促進に期待を寄せています。

すでにゲームではWebサイトなどアプリ外の決済などが増えていますが、例えばスクエア・エニックスは主要タイトルのほぼ全てにアプリ外決済を導入し、利益率が向上したと発表しています。サイバーエージェントの25年度決算でも、ゲーム事業の増益要因として「外部決済効果」を挙げています。スマホ新法施行後は、Google PlayやApp Storeからの誘導もしやすくなるため、手数料の引き下げには一定の効果は期待でき、競争促進に繋がる可能性はあるでしょう。

一方で、外部課金を使う場合、返金等の対応はAppleやGoogleのサポート外になります。こうした点をきちんと周知していくことは今後の課題となりそうです。

競争と自由の拡大の光と陰

日本でもスタートしたスマホ新法。政府が目指す「競争促進」については一定の条件緩和になる可能性はありそうですが、一方で「わかりにくさ」を生む可能性も含んでおり、消費者側の理解の向上などは、今後必要になってくるでしょう。

プラットフォーム規制については、欧州の「デジタル市場法」(DMA)も先行して24年にスタートしていますが、かなりの混乱を呼んでいます。度重なる介入で、Googleは「DMAをリセットすべき」との声明を発表しています。また、Appleでは相互運用性のための技術解放を求めるDMAの規定により、Apple Intelligenceによる「ライブ翻訳」や、iPhoneの画面をMacに表示する「iPhoneミラーリング」などがEU域内で展開できないなどの問題が発生しています

スマホ新法は、こうした課題が起こらないよう、公正取引委員会などの規制当局と調整しながら進めたとのことで、AppleやGoogleにおいても納得できるものになったとしています。競争の促進と、消費者の利便性向上という目標に向かって、規制当局、事業者、そして利用者それぞれが、新たな環境に適応していく過程が始まります。

【更新】iOS関連の情報を追記(12月18日11時)

臼田勤哉