トピック
実は難しい小型ロケット "カイロス"の失敗と変化する世界市場
2026年3月19日 11:29
スペースワンの小型ロケット「カイロス」3号機が打上げに失敗しました。小型ロケットは大型より部品点数が少なく一見すると「簡単そう」に思えるかもしれません。ですが実際には、世界のスタートアップ企業でも成功率は決して高くありません。なぜ小型ロケット開発は難しいのか。世界の開発競争と市場の実態を整理してみましょう。
小型ロケットはなぜ難しいのか?
2000年代に入って小型衛星の開発運用が活発になった潮流を受け、1,000kg以下のペイロードを搭載できる小型ロケットの需要が急増しました。小型ロケット開発企業はリストアップしきれないほど多数存在します。2022年時点の調査論文では世界で47社が開発中で、機体の構想は166種類もあったといいます。
ですが、2010年代に設立されて飛行試験を繰り返してきた企業でも、運用段階に入って実績を積んでいる少数の企業を除いて飛行試行の回数は多くても10回程度。その中で、失敗のほうが多いという事例も少なくありません。
小型ロケットは大型ロケットに比べて部品点数が少なく簡単では? との疑問も聞かれますが、ロケットが大きくても小さくても、必須コンポーネントの種類は同じという事情がまずあります。
エンジン・推進剤供給といった推進系、構造、分離機構、アビオニクス、GNC、地上系、飛行安全系―これらは大型でも小型でも不可欠で、しかも“どれか1つの失敗で全体が失敗”という直列構造になっています。NASAは小型衛星の打上げ統合を「複雑でクリティカル」と説明し、大型に比べて難易度が低いとは述べていません。
小型ロケットの中には「3Dプリントを取り入れて部品点数を大幅に減らせる」という設計思想を持ったものがあり、それでも初飛行で軌道投入することはできませんでした。この事実は部品点数の削減がシステムとしての成功率の保証ではないことを示しています。
いったん成功しても、飛行条件が変わるとそれまで発生していなかった不具合が起きたという事例もあります。小型で余裕がない分、冗長化なども難しいところが「小型ロケットならでは」という難しさでしょう。
世界の小型ロケット開発の現状と失敗事例
世界ではどのような小型ロケットの開発が進んでいるのか、各国の小型ロケット企業と育成プログラムの面から見てみましょう。中国でも民間ロケット開発が活発ですが、国内市場を中心とした独自の構造となっているため、本稿では日米欧を中心にしています。
日本
日本では2023年に文部科学省の中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3)「民間ロケットの開発・実証」支援プログラムがスタートし、4社の新興企業が採択されました。このうち固体燃料のスペースワン、液体メタンを燃料とするインターステラテクノロジズ、将来宇宙輸送システムの3社が開発を続け、2026年度以降に2社に絞り込まれる中間審査を目指しています。選定されていたSPACE WALKERは2026年2月に破産しました。
3社のうち、実際に打上げの段階に進んでいて最も先行しているのが、和歌山県に専用射場を持つスペースワンです。固体ロケットカイロス(KAIROS)は3月5日に3号機の打上げを実施しましたが、リフトオフから68.8秒後に飛行中断し、機体は高度約29kmで安全に破壊され落下しました。
同日のスペースワンの会見コメントでは、推進系などに大きなトラブルは見受けられなかったといい、自律飛行安全システムの2系統中1系統の不具合の可能性があるといいます。原因はまだ調査中のため今後の詳細の発表が待たれますが、民間固体ロケットによる衛星の軌道投入はなりませんでした。
そのほか日本ではJAXAの推進薬技術を活用する神奈川県のロケットリンクテクノロジー、気球からロケットを空中発射する「ロックーン」を開発する福島県のAstroXなどが活動中です。
米国
米国は最も多様なプレイヤーが活動中で、激しい競争を繰り広げています。衛星打上げ需要が世界の中で旺盛なのも米国です。NASAは小型衛星の低コスト・高頻度打上げを可能にする小型ロケット市場を育成するため、2015年にVenture Class Launch Service(VCLS、現在はVADRに発展)という制度を立ち上げています。
VCLSではNASAが複数の小型ロケット企業と契約し、打上げサービスのプロバイダーとしてプールしておき、技術試験衛星など低コスト打上げを希望する超小型衛星とマッチングを行ないます。開発初期のロケットは実績が少なく、打上げ成功を保証することはできない中でNASAが「最初の顧客」になってもらえることから開発に注力でき、衛星の側も低コストの打上げ機会を確保しやすくなります。
NASAの技術面での伴走支援もあり、このプログラムから育っていった成功例もあるのです。小型ロケット開発企業はあまりにも数が多いため、今回はこのVCLSに登録された中から事例をピックアップしました。
Astra Space
2016年に活動を開始したカリフォルニア州の企業Astra Spaceは機体の徹底的な簡素化による低コスト化を追求しています。「Rocket 3.3」は、ケロシンと液体酸素を推進剤とする小型ロケットで、高度500kmの軌道に最大50kgのペイロードを搭載できるロケットでした。
9号機までの運用中で衛星の軌道投入成功は2回あり、DARPAと契約した2021年の試験飛行の際に、機体が上昇せずに水平に移動するという危険な失敗をしたことで知られています。一方でVCLS契約の下で打上げられた9号機では、上段エンジンの燃料噴射装置が詰まってエンジンを冷却することができず、高熱でエンジンが破損したことから衛星の軌道投入に失敗しています。
燃料噴射装置の閉塞は、金属片などの異物ではなく燃料ガスそのものでした。試験時と実際の打上げの温度条件のわずかな違いでこの現象が引き起こされたとAstraは分析しています。この後Astraは機体を刷新して新型「Rocket 4」の開発に注力しています。
Firefly Aerospace
2017年に経営破綻から再出発したFirefly Aerospaceは、ケロシンと液体酸素を推進剤とする小型ロケット「Alpha」を開発しています。高度500kmのSSO(太陽同期軌道、地球観測衛星が主に利用する極軌道の一種)に約630kgのペイロードを搭載でき、7回の打上げで3回の成功を収めています。民間企業として初めて月面着陸ミッションを成功させたことから宇宙企業としての実力は高いと見られています。
Alphaの飛行実績のうちロッキード・マーティン製の技術実証衛星を搭載した2025年4月の6号機では、第1段と第2段が分離した直後に第1段が破断、その圧力波による衝撃を受けたことで第2段のノズルの一部が破損し、2段エンジンの推力は本来の性能を大きく下回るという異常が発生し衛星の軌道投入に失敗しました。
このときのミッションでは、機体がそれまでの打上げと異なる姿勢をとっていたことで分離直後の1段破裂という現象が起きたのです。飛行条件の違いが成功と失敗を分けた事例となりました。
3月12日、Alpha7号機は前回の失敗を克服して打上げに成功しました。これまで成功は3回、失敗4回をほぼ交互に繰り返していて、1度成功したからもう次からは安心とはいえない難しさを感じさせます。今後は、機体を大型化させた「ブロック2」の開発にシフトする予定です。
Relativity Space
2015年にBlue OriginやSpaceXの出身者が設立したロケット企業。金属3Dプリンターを製造に使用しロケットの部品点数を大幅に削減して製造プロセスの合理化を目指しています。
2023年に機体の85%が3Dプリントで製造された小型ロケット「Terran 1」の初飛行を実施しましたが、1号機は2段の点火に失敗し軌道には到達しませんでした。
商用衛星の打上げも受注していたTerran 1ですが、Relativity Spaceは市場の需要がより大型のロケットへ移行していると判断。再使用可能な中型ロケット「Terran R」の開発に移行して小型ロケット市場から事実上撤退しました。
Rocket Lab
ニュージーランドに専用の射場を持つ宇宙開発企業です。2017年の初飛行は失敗したものの、翌2018年には世界で初めて電動ポンプを取り入れたロケットエンジンを搭載する「Electron」ロケットを2回目の打上げで超小型衛星の軌道投入に成功しました。2026年までに80回以上の打上げを実施した小型ロケット市場をリードする存在です。
「Electron」は、ケロシンと液体酸素を推進剤とする2段式の使い捨てロケットです。信頼性の高いロケットであるElectronですが、2号機から12号機まで連続成功の後に13号機で2段の配線不良からエンジン停止で打上げに失敗。キヤノン電子の地球観測衛星を喪失することになりました。
その後も20号機、41号機と予測しにくいタイミングで2段の異常に関連する失敗が起きています。一方で顧客への説明と柔軟な対応が持ち味で、地球観測衛星を中心に2027年ごろまで多くの受注を抱えています。今後は、より大型の「Neutron」ロケットに軸足を移していく予定です。
欧州
欧州では、2023年に始まった小型ロケット育成プログラム「European Launcher Challenge」でロケット企業の育成を始めています。2025年に5社が選定され、2027年までに軌道上への打上げ実証を実施することが求められています。すでに脱落したELC選定企業もあり、明暗が分かれています。
Isar Aerospace
ドイツのミュンヘンに本拠を置く欧州のロケットスタートアップ企業。液体酸素とプロパンを推進剤とする第1段に9基、第2段に1基のAquilaエンジンを搭載した「Spectrum」ロケットは、低軌道に最大1,000kgのペイロードを投入する能力を持っています。ミュンヘン近郊に大規模な生産施設を構え、年間30機以上の大量生産体制の構築を目指しています。
2025年3月にはノルウェーの宇宙港から初の飛行試験を実施しましたが、離陸から30秒で制御を喪失し、飛行安全装置が作動して機体は海に落下しました。2回目の試験飛行は2026年3月19日を目指して準備が進められています。
MaiaSpace
フランスのMaiaSpaceは、欧州の主力ロケット「Ariane 6」を運用するアリアングループの子会社として2022年に設立されました。開発中の「Maia」ロケットは、全長50m、直径3.5mの2段式ロケットで、ESAの技術を取り入れたメタン・液体酸素推進の再使用型エンジン「Prometheus」を搭載し、再使用ロケットの実現を目指しています。
再使用する場合はSSOへ500kg、使い捨てモードでは1,500kgのペイロードを軌道投入する能力を持つ計画です。すでに商用衛星の打上げを受注していますが、2026年を目指していた商業運用の開始は2027年へ延期となりました。
Orbital Express Launch
英国のOrbexは2015年に設立されたバイオプロパンを推進剤とする再使用型小型ロケット「Prime」の開発を進めていた企業です。英国本土からの初の垂直軌道打上げ(航空機搭載型の“水平”打上げでは先例あり)を目指していましたが、2026年2月に深刻な資金難により会社管理手続きに入り、事実上市場から撤退しました。
PLD Space
2011年にスペインで設立されたPLD Spaceは、サブオービタル(弾道飛行)ロケット「Miura 1」の飛行を2023年に成功させました。Miura 1で培った推進系やアビオニクスなどの技術を基盤として、地球低軌道へ540kgのペイロードを投入可能なロケット「Miura 5」の開発に入っています。
Miura 5はケロシンと液体酸素を推進剤とするロケットで、第1段のパラシュートによる洋上回収と再使用を計画しています。2026年のフランス領ギアナからの初打上げに向け、試験を順調に進めるほか、三菱電機が出資を発表するなど期待を集めています。
Rocket Factory Augsburg
ドイツのアウクスブルクに拠点を置くRFAは、大手宇宙企業OHBの支援を受けて2018年に設立されました。「RFA ONE」ロケットは、欧州の民間ロケットとして初めて二段燃焼サイクルを採用した高効率な「Helix」エンジンを搭載しています。低コストのステンレス鋼や自動車産業の大量生産コンポーネントを使用して劇的なコストダウンを目指しています。
2024年に英国で第1段機体を用いた燃焼試験を実施した際に、ターボポンプ由来の爆発事故を起こし機体を喪失するというトラブルに見舞われましたが、ESAの開発資金などを元に新たな機体組み立てと再建を進めています。
小型ロケットのコストと市場性は
開発面の厳しさに加えて、スタートアップ企業は組織もリソースも小さい中で試行回数を確保しにくいという開発環境の事情があります。射場や製造、試験設備の維持費といった固定費は大型、小型にかかわらず常にかかる一方で、フライトレート(一定期間中の打上げ回数)が少ない場合は固定費が重くのしかかってきます。実績が少ない開発段階の小型ロケットほど単価が下がりにくく、資金繰りや試験回数、品質保証の循環が悪化するおそれがあるのです。
小型ロケットの顧客として想定されている小型衛星の事情を見ると、現在このカテゴリで圧倒的な存在感を示しているライドシェア(相乗り)ミッションに衛星が流れていくという動きも見過ごせません。
SpaceXが大型ロケットFalcon 9で提供する「Transporter」「Twilight」「Bandwagon」ライドシェアサービスは非常に低コストで、搭載衛星の質量に上限がありますが、600kgの衛星ならば現状で6億5,000万円程度と、専用ロケットでは追随が難しい価格を提供しています。
開発に時間がかかっている間に、小型ロケットの顧客が大型のライドシェアに奪われ、競争の激しさと需要の不確実性が小型ロケットを苦しめています。Relativity SpaceやRocket Labなどいくつかの企業は、ロケットの大型化へ舵を切るといった方向転換を発表しており、体力のあるうちに同様の決断を示す企業もあると思われます。
小型ロケットならではの市場はどこにあるのか?
こうした中でも小型ロケットならではの存在感を示すとすれば、どのような方向性がありうるのでしょうか。
一つには、ライドシェアでは対応しきれないカスタム要求の追求という線があります。高分解能の地球観測衛星を運用するVantor(旧Maxar)は、2024年から打上げを開始した分解能30cmの小型地球観測衛星「Worldview Region(ワールドビュー・リージョン)」で1回2機ペアの小型衛星を打上げるために、Falcon 9をまるごと使用しています。
ワールドビュー・リージョン衛星は1機あたり750kgで、2機合わせても1.5トン程度。20トンのペイロードを搭載できるFalcon 9の能力を大幅に余らせていることになります。
一見、もったいないようなロケットの使い方は、ライドシェアでは得られない軌道投入の精密さを衛星企業が重視したためと考えられます。一般的にコスト重視のライドシェアの衛星はあまり精密な衛星分離タイミングなどを要求することは難しく、安全保障向けの市場を抱えているMaxarのような衛星企業の要求には適合しません。
こうしたカスタム要求に応えることができ、かつFalcon 9よりも価格競争力があれば大型より小回りが効いて打上げコストを抑えられるという小型ロケットの本来目指した力が生きてくるでしょう。
仮に、Relativity SpaceのTerran 1ロケットで2機のワールドビュー・リージョンを打上げるとすると、2回の打上げをチャーターすることになりますが、費用は合計で2,400万ドル(1回あたり1,200万ドル)となります。2021年にMaxarが契約した当時のFalcon 9の価格は6,200万ドルですから、2分の1以下という相当な競争力を発揮できます。
こうした衛星ごとに軌道や打上げ時期を柔軟かつ精密に設定できる打上げを「専用打上げ(dedicated launch)」といい、小型ロケットの最大の特徴となっています。
小型ロケットは「小さいから簡単」というものではなく、大型ロケットと同じ複雑なシステムを小さな機体に凝縮した難しい技術です。さらに、低価格ライドシェアが市場構造を大きく変えつつあります。スペースワンをはじめとする日本企業も、この競争環境の中で独自の価値を見いだしていく必要があるといえるでしょう。





