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吉野家が油そば? 「牛丼・ラーメン“ふたすじ”経営」の起爆剤となるか
2026年3月17日 08:20
吉野家が「♪牛丼ひとすじ80年」だったのは、むかしの話。いまの吉野家は、二枚目、三枚目の看板として、ラーメンにもこだわっている。
業界参入の方法もユニークだ。有名ラーメン店をM&Aで獲得するだけでなく、創業者を役員に迎え入れたり、有力な卸業者を傘下に収めて、仕入・調達インフラから強化してみたり……松屋・CoCo壱番屋など数々の外食企業が業界参入を試みるなか、かなりユニークなあの手・この手を尽くしているようだ。
そして3月12日、吉野家で提供する麺類初のレギュラーメニュー「油そばセット」が発売された。過去の麺類メニュー「牛玉スタミナまぜそば」「ラーメン鍋」を味わった筆者がさっそくレビューした上で、少し考察を加えてみよう。
「油そば」発売は、今後の吉野家の「ラーメン戦略」の起爆剤となり得るのか? そして、なぜ吉野家が「脱・牛丼ひとすじ」戦略をとっているのか、についても考えていく。まずは「牛丼・油そばセット」を注文してみた。
「注文来た!」沸き立つ店内 「油そば」のお味は?
大阪市内の某店で、発売のタイミング(3月12日・AM11時)ぴったりに着席し、タブレットで注文。すると数秒後に「来た! (油そばの)注文来た! どうしよう?」というパートさんの声と、「いや、作りましょうよ」という男性の冷静なツッコミが聞こえ、店内客の数人が微笑ましそうに笑う。
店内には指導される立場の方が数人いたようで、丁寧な指導の声を聞きつつ、6分ほどで油そばセットが筆者の前に着丼。厨房では麺の仕上がりと同時に牛丼の準備を始めているようで、提供タイミングのオペレーションはしっかり確立しているようだ。
さて、カウンターに運ばれてきた「油そば」の麺は、太さ3~4mm(筆者がノギスで計測)・四角状の極太麺で、25年7月に発売された「牛玉スタミナまぜそば」の麺より明らかに“ぶっとい”。ここにコクのある醤油ベースのタレが絡むと、なかなかの満足感を味わえる。
「油そば」単体で注文できても良いように思うが、吉野家の広報の方に聞いたところ「牛丼との合い口を考えて味を調整しているので、今のところセットのみで提供している」とのこと。確かに、濃厚な油そばとあっさり甘辛い牛丼の合い口はかなり良く、双方を同時に食べ進めていくのも、十分にアリだ。
ただ、標準セットの「牛丼並・まぜそば並」だと、相当にボリュームがある。ここは、牛丼側が小盛りまで調整できるので、お腹の具合に合わせてダウンサイズすると良いだろう。
なお、絡ませるタレが完食後に余るが、牛丼の1/5くらいを残して麺の完食後に投入して絡ませる「油そばタレ混ぜ牛丼・紅ショウガ添え」などのアレンジを加えても面白い。初の定番メニューだけあって、吉野家ファンの様々な「カスタマイズ研究」が待たれるところだ。
ヒット記録も「身内にダメ出しされた」麺メニュー第1弾
吉野家の麺メニュー第1弾は、25年7月発売の「牛玉スタミナまぜそば」であった。定番商品化が叶った「油そば」と、どう違うのか?
大きな違いは、先に述べた麺の太さによる「タレの絡み方」であろう。「まぜそば」は細めの麺とニンニクや塩味が強すぎるタレの相性が良くなく、贅沢に盛り付けられた牛肉・玉子・天かす・ネギ・魚粉だれの旨味すら消されていたため「乗せすぎまぜそば」とも言われることも。吉野家初の麺メニューとして「2週間で100万杯」というヒットを記録したものの、グループ内でラーメン「せたが屋」創業者でもある前島司氏に「この商品の監修は私自身一切関わっておりません。同じグループとして試食くらいはさせてもらいたかった」とSNSで公言するほどに、評判もクオリティもいまひとつであった。
その点、「油そば」は太麺をメインに「タレ・ノリ・ネギ」と、構成は至ってシンプル。吉野家の象徴である牛肉はセットの牛丼に任せており、「全部乗せ」感があった「まぜそば」より堅実な「こういうのでいいんだよ!」感がある。
なお、吉野家の麺メニュー第2弾である「ラーメン鍋」は、「鍋にラーメン投入」という定番のアレンジで「1カ月で100万食」という大ヒットを記録しており、このまま秋冬シーズンで定番化していくだろう。これで「油そば」が定着すれば、麺メニューは牛丼に次ぐ吉野家の「2本目の柱」として定着するだろう。
大ヒットせずとも、「吉野家の油そば」が、しっかり定着できるかが注目される。
それにしても、吉野家はなぜここまで「麺」にこだわり、牛丼依存の脱却を推し進めているのか? まずは、いまの吉野家の「ラーメン戦略」のルーツについて追ってみよう。
「BSE騒動」の教訓をもとに「牛丼依存脱却」
吉野家はかつて、いわゆる「BSE(狂牛病)問題」の煽りで牛丼が販売できなくなり、会社存亡の危機に立たされたことがある。その後、輸入状況に左右される牛丼への依存脱出を目指すべく、180円の格安ラーメンを武器にした「びっくりラーメン一番」を2007年に傘下に収めるも、たった2年で撤退という結果に終わっている。
しかし吉野家は、その後もラーメン業界への挑戦を続け、牛丼依存からの脱却を図っている。26年3月現在、吉野家HD傘下に収まっているラーメン店および関連企業は以下の通りだ。参考までに「はなまるうどん」の傘下入りは2006年。
- ラーメン「せたが屋」(2016年)
- ラーメン「ばり嗎」「とりの助」など(2019年)
- ラーメン「キラメキノトリ」(2025年)
- 製麺業者「宝産業」(2024年)
インバウンド観光客の支持が厚く、海外でも知名度がある「せたが屋」、吉野家のラーメン鍋にも転用できるほどコクのあるスープを持つ「ばり嗎」、独特のメニューで京都から多店舗展開を目指していた「キラメキノトリ」など。
商品の付加価値が高く、ブランドとしての発信力が高いチェーン店の買収が多いのは、激安に依存していた「びっくりラーメン」再建失敗の教訓を得ているからだろうか。
吉野家並びに運営会社「吉野家ホールディングス」(吉野家HD)は、充実したラーメンカテゴリーでしっかり稼ぐ意思を示しており、24年時点の「ラーメン店125店舗・売上比率4%」を、5年後の29年に「ラーメン店500店舗・売上比率13%」に引き上げる指針を公表している。
これに、先に傘下に収まった「はなまるうどん」(売上比率は2割程度)を加えれば、売上の3割以上を“麺”で稼げるようになり、吉野家は「牛丼ひとすじ」から「牛丼・麺類ふたすじ」への脱却を果たせるだろう。あとは、長期目標である「2034年までにラーメン提供食数世界一」の成否にも注目だ。
見えてきた「牛丼500円」の壁 急がれる「麺メニュー」定着
そして26年現在、吉野家はさらに「脱・牛丼依存」を急がねばならない事情ができてきた。
第一生命経済研究所が21品目で調べた「外食値上がりランキング」によると、「牛丼」の値上げが過去5年で25.1%、ドーナツ(29.1%)と、ハンバーガー(25.6%)に次ぐ3位にランクインしているのだ。牛丼の下にはフライドチキン(24.0%)、ピザ(配達)(23.5%)が続いている。
牛丼の主役であるコメが1.86倍、牛肉が11.41倍も高騰しており、そのまま転嫁すると、ついに牛丼一杯が500円を越えかねないのだ。実際に転嫁せざるを得ない局面になると、しばらくは頑張って利益を削りつつ「牛丼500円内」を確保するとして、いまのうちに「牛丼500円越え」ショックを緩和する麺メニューの定着を、吉野家は急がざるを得ない。
吉野家はSNSでも「ラーメン+チャーハンセットのように、牛丼+油そばセットが日常に溶け込むことを目指します」と公言している。このまま定着できるのか、その成否を見守りたい。






