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新宿西口「ラーメン戦争」勃発 復活の「天下一品」旧・天一の「伍福軒」

10月27日にオープンした「天下一品 新宿西口店」

6月末をもって閉店したばかりの「天下一品 新宿西口店」が、早くも新宿西口に復活した。とはいっても元の場所ではなく、20m、3軒隣での復活と相成った。

なぜ、元の場所で復活できなかったか……もともとの「新宿西口店」の場所では、6月まで「天下一品」のフランチャイズ業者であった「エムピーキッチン」が、「伍福軒」という新たな店舗で営業している。天下一品側は新しい物件を確保したうえで、新店オープンにこぎつけた。

新たな「天下一品」オープンによって、新宿西口の至近距離で「天下一品 vs. 元・天下一品」が相まみえることになった。今後、両社は激しく競争するのか? 現地に飛んで観察をしていると、意外な事実が明らかになった。

さっそく、10月27日のオープン日の様子を見てみよう。

新宿西口は「ラーメンチェーン激戦区」 新・天下一品は堂々の闘いぶり

天下一品と旧・天下一品がある新宿西口エリアは、他にも「一竜」「東京脂組総本家」「TETSU」「どうとんぼり神座」「桂花」「三田製麺所」「山本家」など、チェーン店から個人店までラーメン店が、競い合うように出店している。

新宿西口はラーメン店などのフランチャイズが軒を連ねる

この地での賃料は決して安くはないが、「激戦区で店舗の営業を継続できている」という事実は、チェーン店にとっては何よりもアドバンテージになる。なかには、採算としては微妙でも、ショールーム感覚で出店している業者も多いと考えられる。

その中で、旧・天下一品との至近距離で代替物件を確保できた「天下一品」は、復活にかけるただならぬ想いを持っていたのだろう。なお、レシートの法人番号で検索したところ、都内で10店舗近くの「天下一品」や「エ二タイムフィットネス」のフランチャイズを手掛ける「ディックス・エイチシーズ株式会社」の店舗であるようだ。同社の公式サイトでもスタッフ募集を行なっている。

10月27日のオープン日は関係者の出入りが激しく、様子を伺いにくる近所の店舗の方々も、ひっきりなしに見られた。ただ、目立った割引やグッズ配布などをしていないとあってか、行列ができ始めたのはオープン20分前の10時40分過ぎ。筆者は10時50分ごろで、5番目内に入店できた。

新規出店の「天下一品」オープン前の行列

店舗は1階が23席、2階が16席で計39席と、ワンフロアで若干広めであった旧・天下一品と、ほぼ同等の座席数を確保できているようだ。変更点といえば、注文がタッチパネルになったことと、当然ながら旧・天下一品のように壁紙がくすんだり、トイレが少々ボロボロであったりしないこと、くらいだろうか。ただし、相変わらずクレジットカード・ICカードには対応していない。

店内は、フロアの接客係が1階4人、2階1人。それ以外にもスーツを着た方のヘルプが相当に多い。むしろ、人が多すぎて現場が錯綜している気が……。オープン前には「6月末に天下一品で働いていた方、その時給でスタートできます!」という求人の張り紙を出しており、厨房や店内では細かくOJT(仕事を進めながらのトレーニング)を実施しているような様子も見受けられた。

店舗工事中に掲示されていたスタッフ募集の張り紙

さて、いよいよ注文だ。メニューを見る限り、ラーメンはこってり・あっさり・屋台の味・塩など、各味が勢ぞろい。ご飯ものや定食関係は旧・天下一品より少ないものの、「今後は順次追加していく」と張り紙が掲示されていた。

注文から9分少々で提供された「こってりラーメン」「餃子」は、当然ながらいつもの「天下一品」の味であった。違いと言えば、旧・天下一品のように、丼のロゴが経年劣化でことごとく剥がれたりしていないことだろうか。店内は11時30分ごろには1階席が、ほどなく2階席が埋まり、その後にも行列ができるなど、集客としては滑り出し好調のようだ。

10月27日オープンの「天下一品 新宿西口店」の「こってり」ラーメン
旧・天下一品(いまの「伍福軒 新宿西口店」の場所)の「こってり」。ロゴが「天」の文字以外、かなり剥げている

そもそも、オープン日なのに激戦区で特典もなく、このレベルの集客が可能なのは、「天下一品」に固定ファンが大勢ついているからだろう。行列を作った人々の中には、スーツを着た関係者に「頑張ってください!」と声をかける愛好家の方も多く、ファンマーケティングに優れる天下一品らしい光景といえる。

美味しいけれど……客数少なめな「伍福軒」

さて、たった20m先にある「旧・天下一品」に足を運んでみよう。こちらは法人番号で検索する限り、6月まで天下一品のフランチャイズを運営していた「株式会社エムピーキッチン」が運営しているようだ。

伍福軒 新宿西口店。6月30日までは「天下一品」だった
同地にあった頃の天下一品

店内を見る限り、入って左側が1人がけカウンター、右側奥がテーブル席という配置は変わっていないものと思われる。ただし、年季を感じさせた壁やテーブルは綺麗にリニューアルされ、入った瞬間に「あ、前の店と違う!」と、驚かされる。ただし、トイレだけはあまり変わっていないように見受けられた。

「天下一品」時代と比べて大きく違うのは、「客数の少なさ」だ。店舗限定で餃子半額セールを実施しているのに、昼どきでも来客は数名、夕方にも6人程度というのは、いくら何でも寂しい。新しい「天下一品」に客を獲られているのか、いつも空いているのか。その推移を見守りたいところだ。

筆者が同店を利用するのは今回が初めてではない。7月の10店一斉オープンのタイミングでお伺いしており、その際に注文した「背脂黒醤油ラーメン」は、兵庫県・龍野の濃口醤油をベースにした“かえし”風味も豊かで、セット注文した「背脂黒ヤキメシ」とともに、カリカリの背脂が香ばしい逸品であった。

「伍福軒」背脂醤油ラーメン

チラシにはあくまでも「東京背脂黒醤油ラーメン」と銘打っているものの、テーブルにたくあんを置くなど、京都の「新福菜館」などをほうふつとさせる。ただ実際には、異なる2つの系統を合わせた「京都の黒醤油系ラーメン+尾道系などの背脂」だ。ラ―メン・ヤキメシがセットになった「黒ヤキメシ定食」(1,050円)がなんとか「ラーメン1,000円の壁」前後に踏みとどまっているのは、嬉しい限りだ。

今回は「油そば」を頼んでみた。同じ「エムピーキッチン」が展開する三田製麺所ではメインを張る「油そば」だが、伍福軒の油そばは細麺・黒醤油ダレに多量の背脂と、三田製麺所とは根本的にまったく違う一杯となっており、これはこれでアリだ。

「伍福軒」油そば

ラーメンとほぼ同じ細麺に、塩分強めのタレ・背脂がかかり、食べ進める段階でタレがほとんど残らないほどに麺と絡んでいる。ここにデフォルトでご飯(お茶碗半杯ほど)がついており、投入のタイミングに迷うヘビーな一品であった。

ほか、伍福軒ではワンタン麺も新商品として投入しており、オープンから3カ月少々で少しずつラインナップの充実を図っているようだ。ただアルコールのツマミがいまひとつ充実しておらず、夕方の一人呑み需要を獲得しきれていないのが惜しい。

それにしても、餃子半額セールを1カ月にわたって開催しているのに、伍福軒のこの客数は寂しい……天下一品と新宿西口でどう対峙していくのか、今後が気がかりではある。

一気に10店出店の「伍福軒」と2年で20店閉店の「天下一品」

「天下一品」は10月27日にオープンした新宿西口店以外にも、全国に約200店を展開する。一方で、伍福軒は「旧・天下一品」用地に、7月15日~16日に一気に10店が同時オープンしたとあって、反響も大きかった。こういった事態になるまでの経緯を、今更ながら振りかえって見よう。

旧・天下一品新宿西口店に掲示された閉店告知。1カ月後に「伍福軒」に変わった

6月30日まで「天下一品」であった10店(新宿西口・池袋西口・渋谷・蒲田・目黒・田町・吉祥寺・大宮東口・大船)は、どの店も都心・駅前の一等地にあった。運営は、「三田製麺所」を展開している「エムピーキッチン」系列が手掛けていた。三田製麺所は新宿西口エリアでも、いまの伍福軒のならびに出店している。

エムピーキッチンの社内では、三田製麺所の本部を担う飲食ベンチャーとしての「主」と、天下一品を支えるフランチャイジーとしての「従」が混在しており、どちらを前面に立てるか、かなり前から迷っているようにも見受けられていた。

三田製麺所のつけ麺。天下一品のフランチャイジーであった「エムピーキッチン」系列が手掛ける

エムピーキッチン系列では、前年にも多摩ニュータウン店・歌舞伎町店など10店が閉店するなど、天下一品のフランチャイズ店舗を三田製麺所に転換していた。独立のタイミングとしては「来るべき時が来た」といえよう。

ただ残り10店は「三田製麺所」とかなり接近した立地にあり、新ブランド「伍福軒」でないと、好条件な物件を活かせない事情があったのだろう。

一方の天下一品の立場で考えれば、短期間で一挙に20店が閉店したことになる。この際に、黙して「転換の事情」を公表しなかったことから、経営不振を疑う声も多々あった。しかし、天下一品の運営企業(天一食品商事)では、以下のような声明を発表している。

一部のメディアにおいて、複数の弊社フランチャイズ店舗の同時閉店が、経営不振によるものといった趣旨の報道がなされております。しかし、実際にはそうした事実はなく、該当店舗はいずれもフランチャイズ加盟店様との契約期間満了に伴う、予定通りの閉店でございます。

このたび断片的な情報や誤った内容が拡散されたことで、多くのお客様にご心配とご不安をおかけしましたことを、心よりお詫び申し上げます。

天下一品はここから勢力拡大に転じ、新しい「天下一品 新宿西口店」を繁盛店に成長させることができるのか。「伍福軒 新宿西口店」は、これから成長曲線を描きつつ、フランチャイズの戦力加入などで、10店以上に出店を拡大できるか。

新宿西口を舞台にした「ラーメン大戦争」、勝負はこれからだ。

天下一品新宿西口店のつまみ。伍福軒より「独り呑み」が相当に多い
宮武和多哉

バス・鉄道・クルマ・MaaSなどモビリティ、都市計画や観光、流通・小売、グルメなどを多岐にわたって追うライター。著書『全国“オンリーワン”路線バスの旅』(既刊2巻・イカロス出版)など。最新刊『路線バスで日本縦断!乗り継ぎルート決定版』(イカロス出版)が好評発売中。