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北陸のソウルフード「8番らーめん」が作った“二郎系” なぜ北陸に出店しない?
2026年1月7日 08:20
東京・三田に本店を置く「ラーメン二郎」、その味を模倣・発展させた「二郎インスパイア系」。多種多様な界隈に、北陸のソウルフード「8番らーめん」が開発した「北陸発・二郎系」が誕生した……だと?
待っても待っても順番が来ない! 北陸発の二郎系ラーメン
金沢・大野の醤油を使用したというスープは香り高く、「全マシ」で頼めば、丼から大きくはみ出すほどに、背脂や茹で野菜を盛り付けてくれる。25年11月にブランド2店目として開業した「金澤醤油豚骨8番らーめん 姫路市川橋通店」の行列はいまだに途切れず、ラーメンを啜るまでに1時間、2時間待ちという状態が続いているという。
それにしても不思議なのは、開発の経緯だ。原点である「8番らーめん」の主力商品である「野菜らーめん」は全体的に優しい味で、イメージは「二郎系」とは正反対。店舗の構造も含めて、ほぼ別業態といっていいほどの違いがある。かつ、北陸の会社が北陸の食材で作ったにもかかわらず、現時点での出店は岡山県倉敷市、兵庫県姫路市の2店と、本来のホームエリアからは相当に離れている。
「8番らーめん」は、なぜ従来ブランドと正反対の「金沢醤油豚骨らーめん」を開発したのか。そしてなぜ、これまでの定番「野菜らーめん」ではなく、新しい「北陸初・二郎系」で、全国に打って出ようとしているのか。
まずは噂の一杯を食べるべく、姫路市の店舗で行列に並び、お腹の容量のかぎりにメニューを食べつくす。そのうえで、「北陸発・二郎系」を運営する「株式会社ハチバン」にも、お話を伺った。
麺がワシワシ、野菜は山盛り! 単身者も目立つ新業態店舗
「金澤醤油豚骨8番らーめん 姫路市川橋通店」は、国道2号沿いの旧道にあり、沿道にはスターバックス コーヒー、しゃぶ葉、木曽路、松屋などの郊外型飲食店が立ち並ぶ。典型的なロードサイド立地にあり、「ハチバン」ご担当者も「若年層が多い地区」と仰っていた地域だ。来店客の多くは店舗の公式LINEを使っており、呼び出し設定の後、クルマの中で順番が来るのを待ち構えているようだ。
他にも外食店は多いものの、その中でも「金沢醤油豚骨らーめん・8番」の人気は、群を抜いて凄まじい。番号札を見る限り、昼13時過ぎでも30組近い待機ができているようで、駐車場もクルマが入れないような混雑ぶりだ。そして行列に並ぶ人々に伺ったところ、2度目・3度目の来店も多いようで、開店1カ月にしてこの店が地域に馴染んでいる様子が伺えた。
それでは「金沢醤油豚骨らーめん」を実食! 北陸のソウルフードである8番らーめんの「野菜らーめん」と比べてみよう。
麺は、北陸3県で食べた「8番らーめん」の細麺と違い、実測で幅4mm(ノギスで計測)ほどある、ワシワシとした食感の極太麺を使用(ほか太麺・細麺などもセレクト可能)。
「野菜山」と呼んでいいほどに積みあがった野菜の食材は「キャベツ・人参・もやし・玉ねぎ」で、キャベツがメインの「野菜らーめん」と比べて、明らかにもやしが多い。
ラーメン丼の上にこんもりと盛られた「野菜山」の側面には幅10cm以上のチャーシューが張り付き、麓には球状にガサッと盛られたニンニクが鎮座する。なお、この「野菜山」の高さを測定したところ、丼のヘリから6cm、スープの水面から8cmにも及んだ。
従来の「野菜らーめん」とは違い過ぎる「野菜山」と「ワシワシ麺」。「本当に『8番』の商品なのか?」と戸惑うが、野菜山の頂点には「8」の字入りのカマボコ(ハチカマ)がしっかり鎮座しており、このラーメンが北陸のソウルフード「8番らーめん」によって開発されたことは、間違いなさそうだ。
ただ、醤油の名産地として知られる金沢・大野の地醬油を使ったスープが、ちょっと上品だ。独特の甘口(うまくち)風味で、ここに背脂が溶け出すと、しっかりコクを生む。なお姫路市や播磨地方は端麗な醤油の産地として知られているが、系統的には逆方向の「甘い醤油」は驚きをもって受け入れられているようだ。
ワシワシ麺、野菜、甘め醤油スープを絡めながら食べ進めていくと、アブラ・ニンニクが絡まり、これまでの二郎系とも8番らーめんとも違う、独特なギルティ感を醸し出す。これを、あの「8番」が開発したのか……満足感と驚きが交錯する。
時間を空けて翌日に頼んだ「まぜそば」も、ワシワシ麺と醤油が絡んで、「8番らーめん」では絶対に味わえない濃厚な旨味を醸し出していた。球状にドンと盛られた数センチのニンニク、こんもり積みあがった背脂の迫力は、こちらでも同様だ。それにしても、野菜のエキスとチャーシューのエキス・ニンニク・アブラが絡まった汁の美味いこと! つい、残り汁を絡めとるための白ご飯を注文してしまった。
「金沢醤油豚骨」ブランドでの出店は、25年6月に既存店をリニューアルした「アクロスプラザ児島店」(岡山県倉敷市)に続いて、2店目となる。なぜ新ブランドは、同社のホームエリアである北陸3県以外での店舗展開を選んだのか?
そして今後は、どう展開していくのか? ハチバン 執行役員の川上裕樹さんに、「金沢醤油豚骨」開発の経緯や、今後の「8番」の展望を伺った。
ロードサイドから始まった「8番」の歴史
1967年(昭和42年)に創業した「8番らーめん」は、石川県加賀市の1号店が国道8号沿いだったことから店名を命名。当時から「野菜らーめん」は好評で、たった25席の店で、1日1,300杯のラーメンを売り切るような繁盛が続いたという。
ただ、「8番」ブランドは幅広く支持を得ていたものの、学生街にある「8番らーめん 金沢工大前店」すら若年層の来店が少なかったとのこと。「8番」の看板商品である野菜ラーメンはヘルシーなイメージがあるものの、若年層が求めるガツン! とした満足感がないことが、ファン層の偏りを生んでいたのだ。
ここで下した決断は「新ブランド・新商品の開発」。川上さんは新しい「二郎系」開発のために、都内の「ラーメン二郎」や「二郎系」を食べ歩き、若い人にとって満足感のある一杯の開発に、試行錯誤を繰り返したという。
その中で、金沢の名産である「大野醤油」を使い、「甘口(うまくち)」と言われるテイストをうまく生かした醤油豚骨スープを開発。「野菜らーめん」のラインナップであるキャベツ・人参・もやし・玉ねぎの中から、もやしを増量することでボリュームもアップし、ハチバンなりの「二郎系」を、少しずつ完成させていった。
ただ、若年層の支持・インパクトを重視した商品開発の結果、社内からは「これまでの8番らーめんとイメージが違い過ぎる」「やりすぎだ」との声も相次いだ。また「8番らーめん」は、現在は閉店しているものの、大阪などに出店していたこともあり、「これまで通りの8番ブランドでの出店」との選択肢もあったという。
しかし、結果としてインパクト重視で押し切り、「北陸発・二郎系」ともいえる「金沢醤油豚骨らーめん」の新ブランドを“いったん完成”させたのだ。
新しく誕生した「金沢醤油豚骨らーめん」ならびに新ブランドのデビューは、先に述べたとおり25年7月。川上さんによると、1号店(アクロスプラザ児島店)は、まだ「プロトタイプ店舗」の扱いだった。
既存の「8番」を転換する形で開業した同店には、リニューアル後の1カ月に150件ものアンケートが返ってきた。その中でも「麺が細い」「ボリューム不足」「パンチが弱い」という声が多く、ひとつひとつ改善していった結果、いまの商品づくりに繋がっていった。
ただ、児島アクロスプラザ店の売り上げはリニューアル前の1.5倍にも及ぶ絶好調を維持していたため、若年層やファミリー層が多いロードサイド店として、姫路市・市川橋通りに2号店を構えることができたそうだ。
今後の出店は「岡山~関西」 北陸や東京に出店しないワケ
完成した新ブランド「金沢醤油豚骨らーめん・8番」。この「北陸発・二郎系」を旗印に、全国に打って出るのか? 川上さんに聞いたところ、明確に「最終的な目標は全国展開」だという。
ただ、現在のところ出店は、本拠地・工場がある北陸と、既存6店舗と提携している麵工場がある岡山県の間の「岡山~大阪~滋賀」の間で検討していきたいそうだ。2拠点の間にはもともと納品などのルートが確立していて、新規出店した姫路市川橋店も、このルート上にあったからこそ実現したものだ。ホームエリアである北陸地方(石川県・福井県・富山県)では、従来の「8番らーめん」とのギャップが大きすぎるため、出店する考えは今のところないという。
東京で「北陸発・二郎系」のこの一杯を食べることができるようになるのはだいぶ先、関西地方では期待してよい、といったところだろうか。
激戦が続く外食業界の中で、ローカル発のチェーンは「資さんうどん」のように口コミから評判が広まり、いつしか各地に進出、全国チェーンに……などといったケースもある。ハチバンは、一度撤退した大阪・京都などの関西に、インパクト十分の「金沢醤油豚骨らーめん・8番」で再び進出していくのか? それとも、従来の「8番らーめん」が再び進出するのか。ハチバンが展開するふたつのブランドから、目が離せない。











