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写真愛好家から10代のアプリへ インスタ15周年の変遷と現在地
2025年10月21日 08:20
Metaの写真共有アプリ「Instagram」は2025年10月6日、15周年を迎えました。10月7日に開催されたメディア向けラウンドテーブルに登壇した、Meta日本法人・Facebook Japan代表取締役の味澤将宏氏は、Instagramの月間アクティブアカウント数が世界で30億に達していると話しました。
日本の利用者数については2019年に公表した3,300万から右肩上がりで増加していますが、実際の数字は非公表。味澤氏によると、「(掲示した)グラフのスケールは合っている」とのことなので、現在は2.5倍近くの月間アクティブアカウント数に達していることが推測できます。
主要SNSとして盤石な地位を築いたInstagramですが、その歴史を振り返りつつ、Instagramが立っている現在地について考察してみたいと思います。
Instagramはカメラアプリとして誕生
Instagramは2010年10月6日、米国在住のケビン・シストロム氏とマイク・クリーガー氏によってiOSアプリとしてローンチされました。App Storeに登場した日に1位を獲得し、約1年で1,000万人ものユーザーを獲得しました。
当時は、ポラロイド風のアプリアイコンからもイメージできるように、カメラアプリとして認識されていました。iPhoneに搭載されているカメラの性能やネットワークの遅さによって高精度な写真が撮影できなかった時代に、Instagramはセンスの良いフィルターを用意し、手軽に写真を加工して共有できる機能を提供して人気を博しました。
ユーザーには写真愛好家やアーティストが多く、iPhoneのカメラを使用して撮影することや、正方形のフォーマットでいかに表現するかといった挑戦が楽しまれていました。
他のアプリへの共有機能もあったため、iPhoneで撮影、Instagramのエフェクトで加工、FacebookやTwitterに投稿するというツールとして利用されていました。Instagramにも「いいね」やコメントがありましたが、アプリ内での交流はあまり盛んではありませんでした。
2012年になると、Facebookは約10億ドルでInstagramを買収します。マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が社員わずか13人のスタートアップ企業の買収を発表すると、周囲からは称賛と同時に疑問の声も挙がりました。FacebookはInstagramが直前に公開したAndroidアプリの好調なスタートもあり、今後の成長に期待していち早く買収に踏み切ったと見られています。
買収時のFacebookは人気絶頂でした。2010年9月にはFacebook創設への経緯を描いた映画「ソーシャル・ネットワーク」が公開され、2012年には月間アクティブユーザー数が世界で10億を突破しました。
ちょうどFacebookがPCからスマホへシフトしていた時期でもあり、この買収はFacebookがスマホネイティブのInstagramに注目したという見方もできます。
インスタ映えに10代女子が夢中
スマホやネットワークの進化により、Instagramはよりリッチなコンテンツを共有するプラットフォームへと変化していきます。
動画に対応した2013年頃から、海外セレブがこぞってInstagramを利用し、セレーナ・ゴメスやジャスティン・ビーバー、キム・カーダシアンなどがセルフィー(自撮り)を投稿し始めました。
写真家が愛好する加工アプリだったInstagramですが、有名人が豪華な日常を披露するSNSへと変貌したのです。日本でも、ローラさんや渡辺直美さんなどのタレントやファッション系のモデルなどが発信を開始し、ファンとの交流などを行なうようになりました。
キム・カーダシアンの最初のInstagram投稿
そして、2016年には24時間で消える「ストーリーズ」が発表されました。
投稿された写真や動画が24時間で消えるストーリーズのリリースは周囲を驚かせました。すでにSnapchatが同様の機能である「My Story」をリリースしていたものの、「消えてしまう投稿に何の意味がある」と考える人が多かったのです。
しかし、ストーリーズの導入により10代がInstagramにどっと流入し始めます。それまでは完璧な投稿をしなければならなかったInstagramに、普段の日常を投稿できるようになったからです。
ストーリーズには豊富なカメラエフェクトもあり、目を過剰に大きくしたり、肌にキラキラを付けたりもできる点も投稿のハードルを下げました。ハレの日を投稿したいときはフィード、ごく普通の日常を投稿したいときはストーリーズ、個人的な連絡はDMという使い分けができる万能なSNSとして人気が上昇します。
そして2017年、「インスタ映え」が「2017ユーキャン新語・流行語大賞」を受賞します。これをきっかけに、流行に敏感な若者や芸能人以外にもInstagramが認知されていきます。10代女性を対象とした「2017年ティーンが選ぶトレンドランキング」でも、「Instagramのストーリーズ」や「インスタ映え」がランクイン。「ナイトプール」もランクインしていますが、インスタ映えのためにナイトプールで撮影することが流行った証ですね。
Instagramの勢いが加速するなか、ショート動画共有アプリ「TikTok」がリリースされます。2017年に日本でサービスを開始したTikTokは、女子高生を中心に急速に人気となり、「#だれでもダンス」や「#全力○○」などのダンスを真似て投稿する「ミーム」が誕生します。アプリを開くと自動再生され、フォローしたアカウントではなく「おすすめ」を視聴するスタイルも、当時としては画期的でした。
ヒットした機能は、他のプラットフォームにも模倣されるもの。2020年にInstagramにもショート動画「リール」が登場します。ちなみに、「YouTubeショート」は2021年に国内で開始しています。
リールの登場により、Instagramはフォロワー以外にリーチできるようになり、クリエイターやビジネスアカウントによる活用も増加します。すでにリリースされていたショッピング機能やレストラン予約機能も活性化しており、情報収集のために利用されるようになりました。
Instagramの利用時間のうちリールが占める割合は50%を超えており、動画視聴時間は前年比20%増とのこと。「リールで見たカフェに行きたい」といった消費行動も増えてきています。
- 2010年10月:カメラアプリとしてiOSアプリを公開
- 2011年:ユーザー数1,000万人達成
- 2012年;Androidアプリ公開・Facebook社による買収(約10億ドル)
- 2013年:動画対応開始・海外セレブが利用開始し、セルフィー(自撮り)投稿が増加
- 2016年:ストーリーズ開始
- 2017年:「インスタ映え」が流行語大賞受賞・10代への普及が加速
- 2019年:ストーリーズに「令和」スタンプ登場(日本限定)
- 2020年:リール機能登場・ショート動画機能・情報収集ツールとしての利用増加
- 2024年:Threads開始
- 2025年10月:15周年・月間アクティブユーザー30億・利用時間のうちリールが50%超
ユーザー数拡大につれ暗雲も立ち込める
ユーザー数が拡大し、10代の利用が増えるにつれ、若者のInstagram利用が問題視されるようになります。
2021年秋にはInstagramを運営するFacebookが、若者のメンタルヘルスに悪影響を及ぼしているとされ、マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者は米国の公聴会に召喚されました。特に10代の若い女性が摂食障害や抑うつ状態に陥っているとの告発によるものでした。国内でも、出会いや自撮り(裸の写真を送るように強要する)に関する被害や闇バイトの勧誘など、DMが悪用されるケースが起きるようになりました。
Instagramは2018年頃からコメントのフィルタリングに取り組み、2021年からは10代のアカウントを守るための機能を拡充しています。2022年にはペアレンタルコントロールツールを開始、2025年1月にはティーンアカウントを開始しました。
ペアレンタルコントロールはユーザーが任意で設定するものですが、ティーンアカウントは13歳から18歳未満のアカウントに強制的に適用されます。現在、日本の該当ユーザーはすべてティーンアカウントに設定されているそうです。ティーンアカウントでは、暴力的なコンテンツや不健全なコンテンツが制限され、見知らぬ人からの接触を制限するための機能や利用時間の管理機能が適用されます。
10代ユーザーだけではなく、大人にも問題が起きています。2023年頃からSNSを介した「SNS型投資詐欺」や「ロマンス詐欺」が社会問題として注目されるようになりました。警察庁によると、2024年1月~11月に起きたSNS型投資・ロマンス詐欺の被害額は約1,141億円にも上ります。
SNS型投資詐欺は男性がFacebook、女性はInstagramで最初に接触されることが最も多く、ロマンス詐欺はマッチングアプリに次いでFacebookとInstagramが使われています。
特にSNS型投資詐欺では、有名人になりすました詐欺広告が入り口となることもあり、Metaは偽広告の被害者達やなりすまされた著名人により訴訟を起こされています。
Instagramの機能を活用して安全な利用を
Metaは現在AI領域に力を入れており、Instagramに関してはレコメンドの精度を向上させることに成功しているとのこと。今後も、レコメンドのアルゴリズムをユーザーが管理できる機能、広告効果の改善、およびクリエイティブ制作にAIを活用していくそうです。
Instagramアカウントを利用するテキストSNS「Threads」も好調で、2024年12月には月間アクティブユーザー数が3億人、日間アクティブユーザー数は1億人を超えています。今後Threadsが単独アプリとなり、テキストSNSの首位の座を奪うことも予想できます。
こうして振り返ると、Instagramはカメラアプリから年代を超えた大規模なSNSへと進化したことを改めて感じます。自慢したい出来事はフィード、日常はストーリーズ、情報収集はリールなど、皆さんも自然に使い分けつつInstagramに滞在しているのではないでしょうか。
2025年はオーストラリアで16才未満SNS禁止法が施行されることが決定するなど、SNSには一気に逆風が吹く年となりました。しかし、たわいない日常を共有して笑い合ったり、グルメやファッション情報を得たりとSNSにはたくさんの魅力があります。Instagramの安全な利用法を探りつつ、今後を見守っていきたいと思います。







