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リリース1年、静かに広がるThreads X代替ではない独自のSNSに

Metaが2023年7月5日(米国時間)にリリースしたテキスト共有アプリ「Threads」は大いに注目を集め、リリース後5日間でユーザー登録数は1億を超えるほどでした。約1年前の出来事ですが、当時の盛り上がりを覚えている人は多いと思います。

ThreadsはMetaのInstagramが開発したアプリで、Instagramアカウントでログインして利用します。テキストベースのサービスであったことから、Threadsは「Meta版Twitter」とも目され、「Twitter(現X)の代替となるか」という点で注目されました。

Xは、アメリカの実業家イーロン・マスク氏に買収されてから、目まぐるしく変化しています。Threadsがリリースされた頃、Xは無料版APIが停止され、連携アプリが次々とサービスを終了していた時期でした。

いよいよXの代替となるアプリを探さなければというムードが高まり、すでにリリースされていた「Mastodon」や「Misskey」、「Bluesky」などの分散型SNSが候補に挙がっていました。そんななか、SNSの王者であるMetaがTwitter対抗とも言えるThreadsをリリースしたのです。

しかし、リリース間もない頃は機能が少なく、Xの代替となるような使い勝手ではありませんでした。期待外れと感じたユーザーは、そのままThreadsから離れてしまったようです。

それから約1年が経った現在、Threadsは新機能を続々と追加し、使い勝手を向上させています。そして、ユーザーの投稿や交流も活発に行なわれています。その後、Threadsはどのような進化を遂げているのでしょうか。

もはやX対抗ではない 独自の雰囲気が形成されたThreads

Threadsは、リリース時の盛り上がりが急速だったために、一気に縮小した印象を持たれているかもしれません。

実際のユーザー数を見てみると、Xの代替として挙がっていたアプリとは一線を画しています。ニールセンが2024年1月に発表した「ソーシャルメディアジャンルの利用状況」によると、2023年11月時点でのThreads利用者数は1,071万人となっており、Instagramユーザーのうち約6人に1人が利用しているとのこと。

利用者数で9位につけているThreads(出所:ニールセン)

また、NTTドコモ モバイル社会研究所の調べ(2024年1月)によると、Threadsの利用率は全体で5%程度ですが、10代では17.9%の人が利用しています。10代はInstagramの利用率も78.7%と高いため、今後はThreadsでの活動も増えるのかもしれません。

国外では、2023年12月に欧州連合(EU)加盟地域と英国での提供が開始されています。デジタル市場法(DMA)の規制の影響で開始が遅れたと見られています。Sensor Towerのブログによると、欧州への提供開始以前の調査でダウンロード数5位という結果(2023年第3四半期)が出ているため、次期は増加すると思われます。

若年層に人気が高いThreads(出所:NTTドコモ モバイル社会研究所)

国内、国外ともに、利用率が高いとは言えない数値であるものの、「オワコン」とは呼べない程度に普及しています。

そんなThreadsを眺めていると、XともInstagramとも違う雰囲気が形成されているように思います。テック好きなアーリーアダプターが去った後、少しずつ一般的な人々が利用を開始し、のびのびとSNSを楽しんでいると感じます。

ThreadsはInstagramを愛用している層に利用されることが多いため、30代~50代ぐらいの女性や、それほどネットをヘビーに使っていない人の投稿が多い印象です。開始当初は「おばさんの自撮りばかり」と言われたこともありましたが、今は日常の愚痴や家庭の悩み、夫への不満などの投稿が「おすすめ」に出ることが多いと言われています。

ネガティブな投稿は共感を集めやすいため、コメント数や再共有が多くなり、その結果何度もおすすめされるという循環が起きているようです。この仕組みを利用し、質問形式の投稿を繰り返すアカウントも見られるようになりました。

メインの使い方としては、男女ともに気軽な気持ちで日常を吐露し、交流できる場としての利用が多いようです。もはや、Xの代替となることを期待して使っている人は少ないと思われます。

便利になったThreads 複数アカウントや投稿編集に対応

独自路線が形成されているThreadsですが、その普及には徐々に使い勝手が向上したことも理由としてありそうです。Instagramと紐づいて始まったサービスなので、当初はInstagramアカウント1つにつきThreadsプロフィールは1つしか作成できませんでした。

ですが今は、アプリ上でThreadsのプロフィールを切り替えられるようになったため、複数プロフィールでの運用も簡単にできるようになりました。アカウントを用途別に使い分けている人には朗報です。

また、当初はThreadsのプロフィールを消したい場合、Instagramアカウントごと削除しなければならなかったのですが、現在はThreadsプロフィールのみ削除できます。

Instagramのように、プロフィールを簡単に切り替えられます

スレッド(投稿)は、最長500文字まで、画像や動画は最大10枚、最長5分までの動画を投稿できます。最初に投稿してから5分以内であれば編集も可能になりました。

投稿後、5分以内であれば編集ができます(編集可能な時間がカウントダウンされます)

全文検索やハッシュタグにあたる「トピック」もサポートされています。検索画面でキーワードを入力すると、投稿の文章とトピックの両方が検索されます。

Instagramではハッシュタグを大量につけている投稿がよく見られますが、Threadsでは1つのトピックしか設定できません。トピックをタップすると、「トップ(上位検索結果)」と「最近」のタブで表示されるため、トピックに設定するキーワードを厳選しておくことで、その分野で注目を集められます。

トピックは青字で表示され、タップすると検索できます

PCからの利用も便利になりました。現在は複数のフィードを並べるマルチカラム表示ができます。Xの「X Pro」(Twitterの「TweetDeck」)のような表示法です。

例えば、「おすすめ」のフィードと、「フォロー中」のフィード、「キーワード検索の結果」のフィードを1画面に並べて参照できます。フィードによっては自動更新も可能です。最新情報が入手しにくいと言われたThreadsですが、工夫次第で情報の取得がたやすくなりました。

PC版ではマルチカラム表示ができるようになりました

InstagramやFacebookを利用している人は、Threadsへの同時投稿も可能になっています。InstagramとFacebookの投稿に、Threadsへの同時投稿を行なうオプションが追加されました。「常に投稿」を選択することもできます。Metaの提供するThreads、Instagram、Facebookの連携が密になりました。

InstagramからThreadsへの同時投稿もできます

さらにTreadsは、リリース当初から別々のサービス同士で連携して使える「フェディバース」に対応予定としていました。このフェディバースについても、ベータ版が日本を含む特定地域で提供されています。Threadsの設定で「フェディバースへのシェア」をオンにすると、他のサーバーとの交流が可能になります。

ThreadsはActivityPubプロトコルに対応しているため、MastodonやMisskeyなどのActivityPubプロトコルに準拠しているサーバーと通信できます。今のところは試しているユーザーはいるものの、大きな動きには結びついていないようですが、今後は分散型SNSとしても注目されそうです。

フェディバースとの連携は設定の「アカウント」から行なえます

最近では、InstagramやFacebookに、友人以外のThreadsの投稿も表示されるようになりました。Threadsをよく知らない人がこれから使い始めるきっかけになりそうです。Metaのエコシステムにも支えられ、SNSの定番のひとつになっていくのかもしれません。

鈴木 朋子

ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー 身近なITサービスやスマホの使い方に関連する記事を多く手がける。SNSを中心に、10代が生み出すデジタルカルチャーに詳しい。子どもの安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」としても活動中。著作は『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本』(技術評論社)など多数。