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LRT? BRT? 新小岩~金町の新交通整備構想「新金貨物線」を全踏破
2025年12月16日 08:20
東京都葛飾区にはJRの総武線・常磐線、京成電鉄の本線・押上線・金町線、北総線などの鉄道路線が充実しています。これらの鉄道路線は京成の金町線を除いて東西に移動するものばかりです。そのため、葛飾区は鉄道による南北移動が困難であることを行政課題としてきました。
そうした鉄道による南北移動の不便を解消する手段として、葛飾区は長らく新金(しんきん)貨物線をLRT(路面電車システム)へと転用し、旅客化することを検討してきました。
このほど葛飾区は新金貨物線を旅客化するにあたり、BRT(バス高速輸送システム)で整備することを表明しました。都民にも馴染みが薄い新金貨物線とは、どんな路線なのでしょうか? BRTが整備される予定区間を全踏破してきました。
新金貨物線の旅客化で南北移動の不便を解消
東京都葛飾区は約461,000人の人口を擁する自治体です。マンガ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」や映画「男はつらいよ」の舞台になっているほか、マンガ「キャプテン翼」の舞台である南葛市は葛飾区がモデルです。そうした背景もあり、葛飾区は全国的にも知名度が高く、多くの人から親しみを抱かれる街になっています。
葛飾区は、区内に多くの鉄道路線が走っています。そのアクセス利便性からベッドタウンとしても発展してきました。
しかし、区内を走る多くの鉄道路線は東西移動に重心が置かれています。南北の移動は京成金町線のみでした。そのため、南北移動はバスに頼らざるを得ない状況でした。
行政は、そうした南北移動の不便を解消しようと取り組んできました。そのひとつが、新金貨物線の旅客化です。
新金貨物線は総武線の支線と位置付けられる約8.9kmの路線で、小岩駅-新小岩駅-金町駅を結ぶ貨物線用線です。小岩駅は江戸川区に所在しますが、新小岩駅と金町駅は葛飾区内に立地しています。葛飾区が旅客化を検討しているのは、新金貨物線のうち新小岩駅-金町駅間です。
旅客化の構想は、今になって急浮上したわけではありません。遡ると、1953年に衆議院議員の天野公義が国会答弁で触れています。しかし、天野の訴えは届きませんでした。
再び新金貨物線の旅客化を検討する機運が高まるのは2006年前後です。1990年頃から地方都市では人口減少が深刻な問題となるとともに、大型店が郊外に次々と開店したことで中心市街地が空洞化していきました。
行政は中心市街地の再生に取り組みましたが、なかなか成果を出せませんでした。そうした中、06年に富山県富山市でJR富山港線を路面電車へと転換した富山ライトレールが誕生します。
当時、路面電車は昭和の遺物と見られていましたが、富山ライトレールによって路面電車が中心市街地の再生に寄与するという見方が強まったのです。
こうした追い風を受け、全国各地で路面電車を新設する計画が相次ぎました。しかし、ゼロから用地を買収し、そこに線路を敷設して電車を走らせることは想像以上に困難が多く、特に採算面から各地の路面電車計画は立ち消えていきました。
全国的に新型路面電車の計画が実現までは至らない中、23年8月に栃木県宇都宮市・芳賀町がLRTと呼ばれる新型の路面電車を開業します。LRTは需要予測を大きく上回ったことから、停滞していた路面電車を再評価する動きが強まったのです。宇都宮・芳賀町の成功を受け、新金貨物線をLRT転用して旅客化するという構想も盛り上がりました。
新金貨物線は電化されていますが、LRT化が検討されている区間は全線が単線です。同区間を走る貨物列車は1日に約9本と少なく、現状の運転本数なら単線でも十分です。
他方、旅客化したら運転本数は一気に増えます。運転本数を増やすためには単線を複線へと切り替えなければなりません。単線から複線へと切り替えるには、既存の線路の隣に線路を増設する必要があります。
言葉で言うのは簡単ですが、線路を建設するためには用地を確保しなければなりません。幸いにも、新金貨物線はいつでも複線化できるように線路を増設できる用地が確保されています。そうした環境から、新金貨物線の旅客化構想は実現可能性が高く、葛飾区も前向きに検討していたのです。
ほかにも、LRT転用して旅客化するにあたって解消しなければならないハードルがありました。それが、国道6号線との平面交差をどうするか? という問題です。
国道6号線は東京都中央区の日本橋を起点に千葉県松戸市・柏市を通り、茨城県水戸市を通過して宮城県仙台市までを結ぶ、一部は「水戸街道」とも呼ばれる主要国道です。そのため、国道6号線の交通量は多く、渋滞が行政課題になっています。
交通量の多い国道6号線と新金貨物線は平面交差しています。旅客化することで踏切が頻繁に閉じるようになれば、さらに国道6号線の渋滞は悪化してしまうのです。
国道6号線の問題が新金貨物線をLRT転用して旅客化する構想を阻み、葛飾区はそれらの解消が難しいことを理由に新金貨物線をLRTではなく、BRTで旅客化する方針を決めました。
葛飾区は新金貨物線をBRTで旅客化すると25年9月の区議会に上程しました。そのため、現状はBRTによる整備案が有力になっています。それでもLRTによる旅客化構想が完全に消滅したわけではないようです。
BRTにしてもLRTにしても、旅客化構想によって整備される区間は新小岩駅-金町駅間です。
スタート地点の新小岩で多くのモンチッチに出会う
今回のスタート地点となる新小岩駅は、南口にロータリーと駅前広場があります。北口にも駅前広場がありますが、こちらには猿に似た妖精の生き物「モンチッチ」の銅像が建立されています。
モンチッチ像は2022年に建立された新しいものですが、モンチッチは設立から現在に至るまで葛飾区(設立当時は東京府南葛飾郡)に所在する玩具メーカーの関口加工(現・セキグチ)が1974年から製造販売を開始した、50年以上にわたって大人気となっているキャラクターです。
モンチッチは発売直後から社会現象を巻き起こすほどの人気になりましたが、その人気は国内にとどまらず、海外にも及びました。そのため、輸出販売されるようになっています。昨今、日本のアニメ・ゲームは世界に誇る産業になっていますが、モンチッチはその先駆けともいえる、葛飾が誇るキャラクターなのです。
こうしたモンチッチの貢献度もあり、新小岩駅北口には“モンチッチに会えるまち”の看板が立てられています。
ちなみに、葛飾区からは、プラレールやトミカでお馴染みのトミー、チョロQやリカちゃんを生み出したタカラ(いずれも現・タカラトミー)といった超がつくほど有名な玩具メーカーが多く創業しています。
北口広場から金町駅方面へと向かうため、まずは線路沿いを東へと歩いていきます。北口広場には「スカイデッキたつみ」という名前のついた屋根つきの歩行者専用路が整備されています。
スカイデッキたつみの路面にもモンチッチがあしらわれ、あちこちでモンチッチを目にできることからも、新小岩とモンチッチの深い関係性が窺えます。
スカイデッキたつみを渡り切ると、東北広場と呼ばれるバスロータリーが見えてきます。同地には、かつて新小岩操駅という貨物専用駅が広がっていました。新小岩操駅は規模を縮小して新小岩信号場となり、縮小で不要になったスペースがバスロータリーへと生まれ変わりました。
東北広場のバスロータリーから線路沿いを歩いていくと、細い歩行者専用道へと変わります。右手には貨物列車などが留置され、その向こうには総武線の電車が頻繁に行き交っています。
反対側の左手は野球場などのスポーツ施設や公園のような憩いの空間があります。この一帯には、葛飾区をホームタウンとする南葛SCのホームスタジアムを整備する計画があるようです。
筆者が線路沿いを歩いているときも、スポーツに汗を流す楽しげな人たちをたくさん見かけました。とはいえ、まだホームタウンの整備はほとんど始まっていません。そのため、どちらかというと一帯は市民スポーツの場といった雰囲気です。
江戸川区も旅客化検討会のオブザーバーとして参加
さらに線路沿いを歩いていくと、JR貨物の新小岩総合事務所に突き当たります。そこからは線路沿いを歩けなくなるので、少し迂回していきます。URが造成したエステート東新小岩の住棟をすり抜けていくと、いったん江戸川区に入ります。
新金貨物線の旅客化は葛飾区が進めるプロジェクトですが、新小岩駅-金町駅間の一部は江戸川区内を走っています。そうした背景から、検討会には江戸川区がオブザーバー参加しています。
とはいえ、新金貨物線が江戸川区内を走っている区間は短く、葛飾区はLRTで旅客化しても江戸川区内に停留所を設置する予定を立てていません。
江戸川区に入ると、すぐに環状7号線(環七)の陸橋が見えてきます。環七は東京都大田区を起点に目黒区・世田谷区・杉並区・練馬区・北区・足立区・葛飾区を経て江戸川区の終点へと至る大幹線道路です。
環七では、多くの主要幹線道路や線路と立体交差化が図られています。東京都の主要道路ですが、環七を利用することで東京都心部を経由することなく東北・北関東と中部地方とを行き来できるため、日本全国の物流をスムーズにするという役割も帯びています。環七が事故などによって機能不全に陥れば、その影響は全国に及びます。そうした事故リスクを最小限にするため、各所で立体交差化されているのです。
環七と新金貨物線は、線路の上に架かる陸橋で立体交差しています。陸橋は自動車のみならず歩行者も渡ることができるので、上からは新金貨物線の線路を眺められます。ここは新金貨物線を上から見ることができる数少ないスポットです。さらに視界を南側へと移すと、建物の隙間から総武線の電車も遠めながら見えます。
新金貨物線は環七の陸橋から北へと方角を変えます。また、地上に敷設されていた線路は築堤の上へと登っていき、目視できなくなりました。
築堤に沿って歩いていき都道315号線を越えると、新中川が見えてきます。新金貨物線は新中川を鉄橋で渡りますが、鉄道専用橋なので歩行者は渡ることができません。そのまま新中川の土手を歩き、奥戸新橋から新中川をわたって東岸へと移ります。
LRT案でもBRT案でも活用検討されている複線化のための余白
そこから再び線路沿いを北へと歩き続けますが、北へと移動するに従って築堤が少しずつ低くなり、奥戸小学校のあたりで線路が地上へと戻ってきました。
線路が地上に戻ってきたので、線路と道路との交差部には踏切が設置されています。踏切から新金貨物線を見ると、線路用地に余裕があることがわかります。先述したように新金貨物線は全線が単線ですが、複線化のために残された余白です。
葛飾区が9月の区議会に上程したBRT案では、この複線化のために残している線路用地を舗装して、BRT専用道にするとしています。LRT案でも、この余白を活用して一本線路を追加し、複線化することになっていました。
複線化が可能な線路用地を横目に、新金貨物線を北上します。線路沿いは住宅街然とした街並みが続いています。さらに北へと進むと、細田小学校付近から側道は2車線の道路になりました。
2車線になったことで、少し交通量が増えました。そして車線が増えたこともあり、新金貨物線東側の側道はバス通りになっています。
時折、道路の一部が線路側に窪んでいる区画があり、そこにはバス停が設置されています。明らかにバス停を設置するために線路用地が提供されていると思われるような空間ですが、線路側に歩道はありません。バス停を利用するには対岸の歩道から車道を渡ることになります。しかし、道路に横断歩道はありません。高齢者や障害者などが同バス停を利用するには難易度が高いように見えました。
さらに歩き続けると、大きなスーパーマーケットが見えてきました。新小岩駅からスタートしましたが、新小岩駅付近を除けば沿線に商業施設はコンビニぐらいしかありませんでした。
これまでにも学校や公園といった生活インフラは目にしてきましたが、平日の昼という時間帯もあって地域住民の暮らしぶりを感じられるような光景は目にできませんでした。スーパーで買い物している地元客らしき人たちを多く目にしたことで、新金貨物線の沿線が住宅街であることを実感しました。新金貨物線が旅客化することで、地域住民が日常の足として利用する光景が目に浮かびました。
商業施設を挟んで線路の反対側には大きなマンションも建っています。昨今、湾岸エリアで増えているタワーマンションではありませんが、これらのマンションが地域の人口増を牽引していることは間違いなさそうです。
京成高砂駅との乗り換え接続を想定
スーパーを過ぎると、側道はいったん線路から離れていきます。線路の西側を南北に流れていた新中川は、このあたりで中川と合流(上流に向かって歩いているためで、河川としては合流点ではなく分岐点)。ここより北は中川へと河川名が変わります。
新中川と中川が合流したあたりは、住宅と住宅の間に路地のような小径がいくつかあります。それらの小径には新金貨物線を渡る歩行者専用の踏切もありますが、あまり人が往来している気配はありません。
歩行者専用の踏切地帯を過ぎると道路は緩やかな登り勾配になり、目の前には京成線の高架線が見えてきます。
新金貨物線が旅客化された場合、このあたりには停留所が設置される予定です。それは京成高砂駅との乗り換え接続を意識したものですが、京成高砂駅は停留所予定地から約300m東にあります。
それほど遠い乗り換え距離ではありませんが、LRTやBRTの停留所が300~500m間隔で設置されることを考えると、一停留所分の距離がある計算です。300mを徒歩で乗り換えるには、少し不便に感じるかもしれません。
そのまま線路沿いを北上すると、住吉子供第二広場という空き地が見えてきました。同広場は地主の好意で自治会が無償で借り受けている土地です。自治会のお祭りなど公園のように使用できるオープンスペースですが、あくまでも私有地のため、犬の散歩を禁止していたり中学生以上が遊ぶことを禁止していたりといった規約があります。
その広場の横には大きな踏切があり、そこを渡って新金貨物線と中川の間の道を歩いていきます。この道は車道や歩道の舗装、ガードレールなどが新しくなっています。
ピカピカの道路から、すぐに新金貨物線の側道へと戻って線路沿いに歩きます。このあたりから、少しずつ高層ビル・高層マンションなどが増えてきました。そして約700m歩くと国道6号線に到達します。
先述したように、新金貨物線をLRTによる旅客化を阻んだのが国道6号線です。新金貨物線と国道6号線が交差する踏切に立って自動車の流れを眺めてみると、確かに自動車の流れが絶えることはありません。踏切問題を解決するには立体交差化が最善策ですが、それには用地の買収など長い時間を要します。そうしたことから葛飾区はBRT化を決断したと思われます。
国道6号線を過ぎると建物と建物の隙間から、金町駅前の高いビル群が見えるようになりました。そして新金貨物線の側道はなくなり、そこから線路は少しずつ登り勾配となって高架線を走ります。そして金町駅に到着です。
金町駅はJR常磐線と京成金町線が通っており、JRの南口に京成金町線の駅があります。京成金町線は京成高砂駅-京成金町駅を結ぶ約2.5kmの路線で、両駅とその間の柴又駅の3駅しかありません。
京成金町線は柴又帝釈天に参詣するための鉄道として、1889年に部分開業しました。当初は帝釈人車鉄道という人が車両を押して動かすという鉄道でした。運転本数も少なく、輸送力も小さい鉄道です。それでも、当時は自動車などが普及していなかったので、貴重な移動手段として重宝されました。
のどかな金町駅は東京の都市化とともに住宅街となり、近年は南口・北口ともに再開発によって大きく変貌しています。特に、北口は三菱製紙中川工場が移転した跡地に東京理科大学が13年からキャンパスを構え、街に学生が増えました。
さらに25年9月には三菱地所が主導して開発した大型商業施設「MARK IS 葛飾かなまち」がオープン。これまで金町駅は隣駅が千葉県松戸市の松戸駅ということもあり、東京の端っこというイメージだけが強かったのですが、これら再開発によって大きく変貌を遂げつつあります。そうした背景もあって、新たな動線となる新金貨物線の旅客化を望む声が強くなっていたのです。
今後、葛飾区は新金貨物線の旅客化をBRT案で議論していきますが、まだ完全にBRTで整備することが決まったわけではありません。LRTで整備する可能性も残されています。いずれにしても、新金貨物線は新たな可能性を秘めています。旅客化の実現はまだ先になりますが、楽しみに待ちましょう。































