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「大沢たかお祭り」から考えるネットミームの是非

近ごろSNSを賑わせている「大沢たかお祭り」をご存知でしょうか。

「大沢たかお祭り」とは、人気漫画「キングダム」の実写映画化において、俳優の大沢たかおさんが演じている「王騎」将軍のシーンから画像を切り取り、面白いキャプションをつけて投稿するムーブメントです。キャプションには主に「育児あるある」が添えられ、王騎の表情とうまく合致することで大喜利状態になり、さらに面白味が増しています。

例えば、「さっきまで騒ぎ散らかしてた子供たちが突然静かになって嫌な予感がしているわたし」というキャプションに怪訝な表情をしている王騎の画像を添えたり、「ほんとに行かないの? 休むの? え? じゃあ、お母さんだけ幼稚園行っちゃうよ? と謎の発言で童(わらべ)を惑わす私」として王騎の会話シーンの画像を付けるといった投稿が人気を集めています。

王騎将軍はキングダムの人気キャラクターであり、圧倒的な強さに加え、主人公を「童・信(わらべ・しん)」と「童」をつけて呼び、子ども扱いしていることもあって、母親が考える育児ネタとの相性も良かったのでしょう。4月頃から少しずつ始まった「大沢たかお祭り」は、家族と過ごす時間が長いゴールデンウィークに一気に爆発、数々の投稿が行なわれ、コメント欄も大きく盛り上がりました。

映画「キングダム」シリーズで大沢たかおさんが演じる「王騎」将軍 (C)原泰久/集英社 (C)2024映画「キングダム」製作委員会(『キングダム 大将軍の帰還』ブルーレイ&DVD 2025年3月12日発売 発売協力:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング)

大沢たかお祭りの発信元がInstagramアカウントで利用するSNS「Threads」というのも特徴的で、30~40代の女性が活発に利用しているプラットフォームだからこそ育児ネタが「祭り」になったとも言えるでしょう。

やがて、「大沢たかお祭り」は「X」にも広がります。タレントの「キンタロー。」さんがものまねをXに投稿。

大沢たかおさんもInstagramのストーリーズでタブレットを見ながら微笑んでいる画像を投稿しました。ストーリーズには「祭」のスタンプが施されており、「ついにお気づきに」とさらにSNSが沸き立ちました。現在はフィードに微笑んでいるだけの投稿が残されています。

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しかし、少しずつ祭りに陰りも見え始めます。育児ネタで共感したことをきっかけに、各地でオフ会を開催する動きが始まりました。そのなかで、王騎の画像でグッズや展示物を作りたいと、映画会社などに問い合わせる人も現れ、権利の侵害を懸念する人が声を挙げ始めました。

大沢たかおさんの事務所が2012年3月15日に行なった著作権に関するポストや、公式Webサイトの著作権保護法に関する記載をシェアして注意喚起する人も現れ始めました。

公式Webサイトの著作権保護法に関する記載

そこから、大沢たかお祭りの終了を宣言する流れも生まれ、Threadsでは収束の方向へと進んでいますが、いまだにThreadsでは「運用ルールを作ればいい」「余計な意見を気にする必要はない」と大沢たかお祭りを続けている人もいます。それほど今回の祭りが育児中の女性たちの心を掴み、癒しにもなったのでしょう。

「ネットミーム」は楽しいが……

こうした盛り上がりは「ネットミーム」と呼ばれます。ミームとは、画像や動画、テキストなどで話題になったものが拡散されたり、 改変して拡散していく文化や行動を指します。

ネットミームは古くから存在します。例えば、中学生が写っているプリクラ「チャリで来た。」は、2008年頃に撮影されたものと言われており、多くのパロディ画像が作られています。

最近では、「猫ミーム」が若者を中心に流行しました。いくつかの有名な猫動画を組み合わせて、ストーリー仕立てにしていくものです。LINEリサーチによる2024年3月期の流行調査では、15才~24才のすべての年代において「猫ミーム」が1位でした。

LINEリサーチによる2024年3月期の流行調査では「猫ミーム」が1位に

また、メンフクロウのヒナが地面を走る様子を撮影した写真も、「えっほえっほ」という言葉を添えたり、「〇〇があるって伝えなきゃ」という楽曲が作られたりといったミームが派生しています。

しかし、当然ですがミームには元ネタとなる画像や動画があり、その利用法によって著作権や肖像権などの権利侵害が発生します。権利者が本人の意志と関係なく拡散されていくミームをどう捉えるか、心理面でも大きな懸念があります。

実際に、「チャリで来た。」のご本人は、ABEMAのインタビューで「殺人犯扱いされていたこともあり、怖かった」と述べています。ネットでは好意的に受け入れられることが多い画像ですが、勝手にパロディ画像やコラ画像が作られ続ける心痛は相当だと思われます。

猫ミームの素材に使われているぴょんぴょん跳ねる猫はペットショップで撮影されたXへの動画とされていますが、他の猫や動物の動画に関しては誰が権利者なのかわからないまま使われています。一部ではキーホルダーになるなど、商用利用されているようです。

メンフクロウの撮影者、オランダの写真家ハンニ・ヘーレさんはインタビュー取材で「自分のFacebookページに投稿しただけ」と明かし、日本での流行について「商業目的でないファンアートはとても楽しいと思います。 興味があるので、ぜひ見てみたいですね。ただ、もし商業目的で使用される場合は、事前に知らせていただけるとありがたいです。」とコメントしています。写真家の意志通りに私的利用に留まっているのか、心配な面もあります。

とはいえ、ネットミームがすべてNGなのではなく、権利を侵害しないミームもあります。例えば、おおよそ10年前に流行した「アイス バケツ チャレンジ」は、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の研究支援を目的として、バケツに入った氷水を頭からかぶる運動でした。当時は、自分が氷水をかぶる様子をSNSに投稿する人が続出しました。

また、流行のダンスを自分たちも真似して踊ってみたり、人気ユーザーと同じエフェクトを使って動画を作ったりと、オリジナリティあふれるミームもあります。楽曲も含めて権利関係をクリアしているミームなら、誰も傷つくことはありません。

ネットリテラシーを高めよう

今回の「大沢たかお祭り」は、育児あるあるを楽しく表現することで育児のつらさを乗り越えようといった、ポジティブなミームでした。そのため、「権利関係をとやかく言うのは野暮だ」「公式から禁止されていない」と祭りを終えることに反対の声もあります。一方で、「ネットリテラシーが低すぎる」「二次創作は公式に迷惑をかけないのが暗黙の了解」「権利関係の仕事をしているのでハラハラして見ていた」との投稿もあります。

今ThreadsやXを検索してみると、大沢たかおさんの画像をAIに読み込ませてパロディ画像を作ったり、大沢たかお祭りの投稿を投稿主を切り取ったスクショ画像でまとめたり、ネタを考えた人のようにコピペして投稿したり(いわゆるパクツイ)と、すでにあまり良い状況とは言えません。Xでは育児ネタ以外にも派生しています。

楽しい祭りなんだからマナーを守ればいいという意見もありますが、残念ながらネットで拡散されている画像を誰かの思惑通りに制御することは不可能なのです。デジタルデータは誰でも保存でき、誰でも加工できてしまいます。

そこで、肖像権や著作権といった法律で人物や企業の権利を守っています。また、ネットミームの舞台になるSNSも利用規約を定めており、Metaに関しては、こちらのヘルプページがわかりやすく例示されています。

InstagramまたはThreadsに投稿するコンテンツが著作権法に違反していないことを確かめる方法 - Meta

SNSに投稿するコンテンツは、必ず自分自身で作成したコンテンツを投稿するようにしましょう。今回の「大沢たかお祭り」に関しても、育児あるあるネタを文章で投稿したり、自分を撮影、もしくは自身で描いたイラストを添えるのであれば問題はありません。

「大沢たかお祭り」に参加した人は、子育て中の女性が多かったように思います。私も子育て中は大変なことがたくさんあり、今回の祭り投稿にくすっと笑ってしまうこともありました。

でも、ネットミームに参加することは権利侵害に繋がります。また、大沢たかおさんご本人、原作者や出版社、映画会社の関係者、大沢たかおさんのファン、キングダムのファンが、それぞれの立場と思いでこの状況を見ています。そうした心象にも配慮したいところです。誰もがネットに発信することができる今、子ども達のお手本になるようなふるまいができるよう、ネットリテラシーを高めていきたいですね。

どうせなら公式動画の王騎将軍を。最新作「キングダム 大将軍の帰還」でも王騎の活躍から目が離せません。原作コミックスでは6巻から登場します
鈴木 朋子

ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー 身近なITサービスやスマホの使い方に関連する記事を多く手がける。SNSを中心に、10代が生み出すデジタルカルチャーに詳しい。子どもの安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」としても活動中。著作は『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本』(技術評論社)など多数。