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街中で増える冷凍自販機「ど冷えもん」。コロナ禍で伸びるワケ

冷凍自動販売機「ど冷えもん」

街中で見かけるようになった、大きな冷凍自動販売機。そこで販売しているのは100円程の飲料ではなく、ラーメンや餃子、牛丼の具、いくらやキャビアなどさまざま。「ど冷えもん」というユニークなネーミングもあって、テレビのニュースや情報番組でご覧になった人も多いことでしょう。

そんなユニークな自動販売機を生み出したのが、世界の飲料自動販売機市場でトップクラスのシェアを持つサンデン・リテールシステムです。2021年1月に発売してすぐに大ヒットになった「ど冷えもん」開発の裏側について、サンデン・リテールシステム 新商品開発部長(現 総務部長)の小沼健夫氏に伺いました。

外食から中食へ。コロナ禍にマッチした「ど冷えもん」

2020年初頭に発生した新型コロナウイルスと、数回にわたって行なわれた緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などによって、多くの飲食店がかなりの打撃を受けています。

こうした背景からフードデリバリーが人気となっており、NPD Japanによるとその市場規模は2019年の4,183億円から2020年の6,264億円、2021年には7,975億円まで成長する見込みとのことです。

外食がしにくい状況のため、惣菜やお弁当などの「中食」へシフトするというのはビジネス戦略として重要ではあるものの、昼食時や夕食時のピークタイムに注文が重なってしまうのは避けられません。

そんな中で、新たな食品提供スタイルとして注目を集めているのが、サンデン・リテールシステムが発売した冷凍食品の自動販売機「ど冷えもん」です。

「ど冷えもん」シリーズ

ど冷えもんは4種類の棚を自由に組み合わせることで、従来の食品自動販売機では販売が難しかった、大型の冷凍食品を含め大きさの異なる商品を販売できるというもの。液晶タッチパネルで操作ができるだけでなく、オプションで電子マネーやQRコード決済などのキャッシュレス販売にも対応しています。

従来の「ど冷えもん」に続き、冷凍・冷蔵の切り替えも可能な「ど冷えもんNEO」(2021年8月発売)、薄型化して新たに広告スペースを設けた「ど冷えもんSLIM」('21年12月発売)とラインアップも次々に拡大しました。

全国各地の有名店のラーメンを冷凍食品として購入できる丸山製麺の「ヌードルツアーズ」は関東から九州・沖縄まで57店舗でど冷えもんを展開しており、大手外食チェーンのリンガーハットもちゃんぽんや皿うどん、餃子、チャーハンなどの冷凍食品を販売する自販機を店舗に設置。

ケンミン食品の「冷凍ビーフン自動販売機」(兵庫県神戸市)やソーセージや焼豚などを購入できる浅草ハムの自動販売機(東京都台東区)、牛めしの具やカレー、牛めしバーガーなどを販売する松屋フーズの自動販売機(東京都江東区)など、全国各地に広がっています。

松屋フーズは、牛めしの具やカレー、牛めしバーガーなどを冷凍食品として販売

ど冷えもんの開発に携わったサンデン・リテールシステム 新商品開発部長(現 総務部長)の小沼健夫氏は、売れ行きについて次のように語ります。

「販売台数は公表していませんが、目標を立ててもすぐ塗り替えられてしまうほどの売れ行きです。2019年3月のプロジェクト開始時には全く想定していなかったコロナ禍のニーズにマッチしたのも事実です。現在3モデルを展開していますが、こういう機能が欲しい、薄型があると嬉しいなど、販売店からのニーズに応えて続々と新モデルを開発しています」

サンデン・リテールシステム 新商品開発部長(現 総務部長)の小沼健夫氏

飲料自販機は頭打ち。1人用冷凍食品に注目

ど冷えもんを開発した背景について小沼氏は、飲料自販機の市場が成熟して新規の販売数が横ばいになっている状況があったと語ります。

「自動販売機が普及する背景は省エネが中心だったのですが、2015年ぐらいには省エネやフロン対策などがほぼ完了してしまいました。国内の飲料自販機はピーク時に350万台程度まで増えたのですが、その後5年くらいで一気に250万台程度まで減少してしまい、そこからずっと横ばいに推移しています。そこで『次の自販機をどうすればいいか』が課題としてありました」

自動販売機で扱う商品として新たに着目したのが冷凍食品でした。

「当時コンビニエンスストアで、レンジでチンする冷凍チャーハンなどの1人用の冷凍食品が増えてきたのです。これからそういう商品が増えてくると予測し、それら1人用の冷凍食品を販売できる自販機が必要になるというのが最初のコンセプトでした」

ただし問題になったのが冷凍食品のサイズと形状です。

「飲料自販機で販売するペットボトルはサイズがだいたい決まっているのですが、これはボトラー(飲料メーカー)に自販機の仕様に合わせてもらっているのです。しかし食品メーカーは数が多すぎるので、業界全体に仕様を合わせてもらうことができません。そこで逆に自販機が食品に合わせるというコンセプトにし、冷凍食品を300種類ほど購入してサイズや重さ、バランスなどを調査しました」

こうしてできあがったのがど冷えもんで、最大220mm幅の食品を収納できる「ツインストッカー」から幅120mmまで対応する「シングルストッカー」、幅60mmまで対応する「ハーフストッカー」、カップ形状の商品に対応する「クォーターストッカー」まで4パターンのストッカーを組み合わせるスタイルでした。

最大220mm幅の食品を収納できる「ツインストッカー」
幅120mmまで対応する「シングルストッカー」

これらのストッカーの組み合わせに加えて、7段階で設定できる仕切り板を使うことで最大11種類、個数では最大308個まで収納できるようになっています。

ストッカーを左右に仕切る板は7段階で設定可能

「最初にある程度セッティングしますが、その後に『ここの売れ行きがいいから領域を増やしたい』となれば、自分で調整ができるようになっています」

仕切り板はど冷えもんの扉の裏側に収納できるようになっており、わざわざ販売代理店の営業担当者などに依頼しなくても、店舗側で組み合わせを変えられるというのがユニークな点です。

仕切り板はど冷えもんの扉の裏側に収納できます

お店が閉まっても24時間販売。バイトでも商品補充

開発当初は食品メーカーが自社の冷凍食品を直接販売するなどのニーズを想定しており、個店で使われることは想定していなかったと小沼氏は語ります。しかし2021年1月末に発売したところ、ラーメン店などの個店への設置が一気に増えました。

その大きな理由の一つが、特別な訓練を受けたオペレーターでなくても商品の補充をしたり、タッチパネルで商品を管理したりできる点にあります。

タッチパネルで商品の販売状況をチェックできます
販売金額の設定も可能

「最初の頃に導入されたラーメン店の場合、助手の方はいるものの、基本的には作っているのは店主さんだけでほぼワンオペでした。テイクアウト注文が入ると、店内にはお客さんもいるためすごく過酷なのですが、ど冷えもんを導入したことで店の前の自販機でテイクアウトできるようになりました。『こんなに楽なことはない』と言っていただけています」

また無人販売という自動販売機の特徴により、24時間販売できることも好評の理由の1つ。緊急事態宣言が発出され、20時までしか営業できない店舗も、冷凍のテイクアウト商品は24時間販売できます。

キャッシュレスだと千円超え商品も売れる

ど冷えもんで注目したいのが、オプションとして用意されているキャッシュレス決済機能とクラウドサービス機能。

キャッシュレス決済機能は各種交通系ICカードのほか、電子マネー、さらにはQRコード決済にも対応しています。現金決済では代金の回収や釣り銭の補充などのオペレーションが必要になります。

100円台で販売されている飲料自販機に比べて商品単価が高いこともあり、現金決済のみでは機会損失につながる可能性もあります。しかし多くのキャッシュレス決済に対応することで、オペレーションコストやリスクの低減、販売機会の向上などに繋がっています。ある程度高額な商品もキャッシュレスだと購入へのハードルが下がるという訳です。

写真は現金のみ対応のモデルですが、オプションでキャッシュレス決済にも対応。お札投入口の下部にキャッシュレス決済用の端末を設置できます

独自のクラウドサービスである「サンデンRSクラウドサービス」は、ネットワークを通じた遠隔監視や売り上げ状況・在庫の確認などが可能というもの。

「販売状況をタッチパネルはもちろん、スマホやパソコンで見られるというものです。何時何分にどの商品が売れたのかがリアルタイムで分かり、在庫が少なくなったりトラブルが生じたりしたらお知らせをします。従来の飲料自販機ではプロのオペレーターが1日の売り上げを予測して補充や管理をしていましたが、これはリアルタイムでマーケティングデータを取れる環境になっています。オプションですが、ほとんどの方が導入されていますね」

パッケージ化すれば個店でも導入可

ど冷えもんは防水・防じん仕様で、家庭用の100V電源があれば屋内外での設置に対応。そのため、スペースさえあれば複合商業施設の通路や飲食店の店頭、コインパーキングの脇など、どこにでも設置できます。

飲食店などがど冷えもんを導入する場合、まず食品を冷凍する必要があります。

「自社で冷凍食品を作られていない場合は、当社の急速冷凍技術を使っていただくこともできます。お店で作っているものと同じように商品を作って急速冷凍機で冷凍し、それに合わせたパッケージに入れれば販売できます」

冷凍食品というと、スーパーやコンビニエンスストアで販売されている本格的な印刷が施されたパッケージを思い浮かべてしまいますが、お総菜店で販売されているプラスチックパックのような簡易包装でも対応するとのこと。

「保冷剤と保冷バッグをセットにして販売されているケースもありますね」(小沼氏)

プラスチックパックのような包装でも入れられます
保冷バッグに入れた形での販売も可能

ど冷えもんの前面にある11個の商品ディスプレイパネルには、できあがった料理などのイラストや写真を入れられるようになっています。冷凍自販機の場合、断熱材を入れた鉄製の2重扉を使用するため商品そのものは見えませんが、冷凍食品のパッケージには写真が無い場合が多いため、出来上がりをイメージできる写真はパネルで表示ということになります。

「皆さん写真にはいろいろと工夫されていて、写真が美味しそうだから買って、実際食べてみたら美味しかったのでリピーターになっている人も多いようです」(小沼氏)

商品ディスプレイパネルには、商品パッケージやできあがった料理などのイラストや写真を入れられます
写真やイラストは簡単に差し替えられるようにしています

“冷蔵”にも機会。広がる「ど冷えもん」利用

ど冷えもんのヒットを背景に同社が期待するのが、ど冷えもんに先がけて2019年春に発売した常温・冷蔵食品に対応する多機能自動販売機「MMV(マルチ・モジュール・ベンダー)」です。

また、MMVにど冷えもんを合体させて常温・冷蔵・冷凍の3温度帯の食品を同時に販売できるモデルも2021年6月からラインアップしています。

MMVはど冷えもんと同様にタッチパネル操作が可能な自動販売機で、オプションでキャッシュレス決済やクラウドサービスと連携した在庫管理にも対応。

常温・冷蔵食品に対応する多機能自動販売機「MMV(マルチ・モジュール・ベンダー)」とど冷えもんを合体させたモデル(写真左側)

コイルが回って商品を搬出する「シングルスパイラルコラム/ダブルスパイラルコラム」、ベルトコンベアが商品を搬出する「ベルトコラム」、フック式の「フックコラム」の4種類に対応しており、取り扱う商品に応じてユーザーが手軽にカスタマイズできるのもど冷えもんと同様です。

前面が強化ガラスになっており、中の商品が見えるのが大きな特徴ですが、ど冷えもんと違って屋内専用のモデルになっています。

従来の自販機の場合は押し出された食品が下に落ちるイメージを持たれている人も多いかもしれませんが、MMVはエレベーターが商品を迎えに行って取り出し口まで運ぶため、割れやすいものや食品を含め幅広い商品を販売できます。

また、ど冷えもんもMMVも、それぞれの商品の消費期限を設定でき、その時刻になると販売停止する機能を搭載しています。

「ど冷えもんの場合、-15℃以上の温度が90分間以上続くと全商品を販売停止にする機能も備えています」(小沼氏)とのことです。商品の補充や管理だけでなく、廃棄などの衛生管理まで特別なオペレーターなしでできるのは大きな魅力でしょう。

「(売り方を)当社が提供するというより、お客さんが作り始めている感じですね」

現在、ど冷えもんの導入はほぼ個店が中心ですが、大手外食チェーンなどの企業の導入も増えて来ているとのこと。MMVも含めて常温、冷蔵、冷凍食品を手軽に扱えるのは、人手不足にあえぐ外食企業や流通企業にとって大きな魅力になりそうです。新たなユースケースが増えれば、さらに導入が進むのではないでしょうか。