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自然な走行感がすごい! 室内で自転車を“動かせる”「E-FLEX」

より実走感のある室内サイクリングを実現するInsideRideの「E-FLEX」を使ってみた

室内で気軽にサイクリングを楽しめるサイクルトレーナー、いわゆる固定ローラー台と呼ばれるタイプのものには、1つ大きな弱点がある。自転車の車輪やフレームが固定されてしまい前後左右に動くことも、傾くこともないため、リアルな実走感を得にくいことだ。まあ、転倒の心配がなく安全性が高いという意味では長所とも言えるのだけれど……。

なので、実走のフィーリングにより近づけたいガチな人向けには、3本ローラーと呼ばれる、自転車をそのまま載せて使うタイプのサイクルトレーナーが好まれているようだ。でも、慣れないうちは転倒の危険もあるし、走行中に左右に動くことも考えると広い設置スペースが必要で、おいそれと導入できない。

固定ローラー台の手軽さに、なんとかして3本ローラーのようなリアルさを付加できないものか。各社がいろいろと工夫を凝らした製品を出しているが、海外で面白いアイテムを見つけたので購入してみた。InsideRideという米国メーカーが開発した「E-FLEX」だ。

米国から届いたE-FLEXのパッケージ

固定ローラー台で高い実走感を追求する工夫と「E-FLEX」の特徴

業界的にはモーションシステム、あるいはロッカーシステムと呼ばれる「E-FLEX」だが、これについて説明する前に、リアルな実走感を目指した固定ローラー台向けアクセサリー製品にどんなものが他にあるのか、軽く紹介しておきたい。

まずはロッカープレートと呼ばれるもの。サーフボードのような大きな板の上に、固定ローラー台にセットした自転車ごと固定し、板の下に設けられたクッションのような素材などによって傾きや前後動作を再現する仕組みになっている。有名どころでは「Saris MP1」がこれに当たる。

ロッカープレート「Saris MP1」

構造がシンプルで簡単に使い始められるうえに、立ってペダルをこぐダンシングのような乗り方もある程度リアルに実現する、というのがメリット。ただし、プレート自体が大きいのでスペースをとるうえ、たとえば国内で主に流通しているSaris MP1は10万円台後半から20万円近くもするので、さすがに手を出しにくい(極端に安価な製品も存在するが、安全面などに不安がある)。

もっとリーズナブルに「それっぽく」する簡易な方法もある。Wahooが自社のサイクルトレーナーである「KICKR」の最新モデルに導入した「KICKR AXIS」がそれ。サイクルトレーナーを支える台座部分が柔軟性のある素材になっていて、左右それぞれ最大5度の角度まで傾けられる。旧モデルのKICKRにもオプションで追加(台座の差し替え)が可能だ。

オプション購入して後付けする場合は1万円程度なのでコストパフォーマンスは高そうだが、動きを再現するのはリアの傾きだけのため、実走感を高めるというより、乗り心地を柔らかくして疲労軽減につなげる、という意味合いの方が大きいようだ。

それに対してE-FLEXの特徴は、Saris MP1のような傾き(E-FLEXはリアのみ)と前後動作を再現する構造でありながら、コンパクトで、しかも安価なところ。価格は449ドルで、日本円にすると5万円を少し超える程度(1ドル114円で計算)だ。4分の1の価格でSaris MP1と同等の機能を実現できるのであれば、この界隈のキラープロダクトとなり得るのでは、と思わなくもない。

「E-FLEX」の購入ページ

しかし、購入する前に注意しておかなければならない点がいくつか。まず、対応するサイクルトレーナーがKICKRおよびKICKR COREの2種類に限定されていること。Saris MP1のようなロッカープレートは一般的な形状の固定ローラー台であれば何でも使える汎用性の高さがあるが、E-FLEXはそうではない。

また、直販ECサイトから購入できるものの、現在のところメーカーの拠点がある米国(およびカナダ)以外への出荷は受け付けていない。日本にいながら購入するには自力で個人輸入するしか方法はなく、手間がかかるうえに輸送費用が高くつく。

ちなみに筆者が輸入したときにかかった費用は、本体価格も含めて合計で7万円余り。それでもSaris MP1の3分の1くらいだ。E-FLEXを個人輸入したときの方法については過去記事で紹介しているので参考にしてみてほしい。

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E-FLEXを使うには、まず組み立ててから

そんなわけで、米国から届いたE-FLEXをさっそく使ってみるぞ! と意気込んだものの、もう1つ注意しておかなければならないことが……。というのも、E-FLEXは最初に組み立てが必要なのだ。マニュアルを見ながら慎重に進めていこう。

マニュアルはメーカー公式サイトにある。製品に添付されているプリントのQRコードをスマートフォンで読み取ってアクセスすることもできるので、常にスマホなどを手元に置いて確認しながら組み立てていきたい。

E-FLEXのパッケージ内容
同梱されているプリントのQRコードを読み取ってオンラインマニュアルにアクセス
スマートフォンでオンラインマニュアルを見ながら作業しよう

E-FLEXはKICKRを載せるリア側フレームと、自転車のフロントフォークを固定するフロント側フレームの大まかに2つのパーツに分かれている。アルミ素材がメインのようで、軽々と持ち運べるのも他のロッカープレートにはない利点だ。

リア側のパーツ
フロント側のパーツ

さて、組み立てで肝となるのはどちらかというとリア側。筆者が所有するKICKR用のE-FLEXの組み立て手順をざっくり説明すると、最初にKICKRの台座(高さ調整するためのネジ式パーツ)と中央の脚先端のキャップを取り外し、リア側フレームにKICKRの中央の脚を載せる。付属の白い樹脂ブロックを使って各所の固定位置を確認・調整したら、クランプでしっかり固定して左右2本の脚を折りたたみ、KICKRに自転車をセットする。

左右の脚を支えている台座を手で回して外し、中央の脚の先端にあるキャップもプラスドライバーで外す
KICKRをE-FLEXを載せる、その前に……

難しいところはあまりないけれど、間違ってはいけない重要なポイントは、同じKICKRでも年式(バージョン)によって一部パーツの組み替えが必要なこと。KICKR後部の台座を支える金属プレートがE-FLEX本体に最初から取り付けられているが、出荷時の状態は2016年式、2017年式、最新2020年式の3つのバージョンのKICKRに合わせた装着方法になっている。

2014年式と(筆者が所有する1世代前の)2018年式のKICKRを使う場合は、金属プレートを反対に取り付け直さなければならない。自分のKICKRのバージョンがいつのものなのか、あらかじめチェックしておくとスムーズに作業できるだろう(間違えて取り付けると明らかに傾きがおかしくなるので、その時点で気付けるはず。というか筆者もそこで気付いた)。

中央に見える、穴の開いたプレートの方向を確認。出荷時のこの状態は最新2020年式のKICKRなどに合わせられている
2014年式と2018年式のKICKRで使う場合はこの方向に
クランプを外す
KICKRを載せる
クランプからKICKRの脚の先端までの距離を、付属の「SETUP BLOCK」を使って合わせる
アライメントの確認。前側のクランプとフレームの隙間を、同じSETUP BLOCKでチェック
続いて後ろ側も。マニュアルではSETUP BLOCKが隙間に入り込んでいるように見えるが、どうやっても入らないので、前後だいたい同じ幅になっているならOKとした
クランプを締め付ける
KICKRが垂直に立っていれば問題ない、はず
最後にKICKRの高さを「650C」に合わせる

フロント側の組み立ては簡単だ。InsideRideのロゴが取り付けられている部分を引き起こし、付属のボルト4本(と最初から付いている2本の計6本)で根元を締め付ける。六角レンチが付属しているので、別途工具を用意する必要はない。

ただ、付属レンチは短く、ボルトの取り付け位置の関係で回しにくいので、ボールポイントのある長い六角レンチを持っているならそれを使うのがおすすめだ。最後に自転車のフォークを取り付け、ハンドルを左右に切れるように中央のノブを緩めれば完成。作業時間は全体を通して30分ほどだった。

フロント側フレームはロゴの付いている部分を起こす
両サイドの根元をボルトで固定
フロントフォークを固定し、ノブを緩める
リア側はこんな感じ
完成状態
以前の「KICKR+フロントホイール(ライザーブロック)」の状態。設置に必要な面積はE-FLEX化後もこれとほぼ変わらず
ただしフロント側の専有面積は確実に大きくなる。写真の状態だとパーツ底面にある滑り止めが機能しないので注意
なので、こんな風にマットの前方を少し拡張した
傾いたり前後に動いたりするので、KICKRの電源ケーブルの処理にも気を付けたい

いざ乗車。感動レベルの自然な乗車感

E-FLEXにセットした自転車にまたがった瞬間、完全に固定されていたこれまでとの違いがはっきりとわかる。軽くこぎ始めるとゆらゆら動き、左右に少し身体の重心を移動するだけで自転車も傾く。ペダルをぐっと踏み込めば一瞬自転車が前に出て、すぐに反発して後ろに戻る。

レールのようなパーツが前後に動き、それをゴムワイヤーのようなもので引っ張る構造になっている

スプリントなどで勢いよく左右のペダルを回していくと、リズムよく自転車が前後に動き、引き足も意識して丁寧にペダリングすれば前後にはほとんど動かず、わずかに揺れながら走るような感じ。傾きの最大角度は決して大きくはないので、『弱虫ペダル』の巻島先輩みたいな走り方はできないが、この自転車らしい自然な動きがあるだけで実走感は格段に上がる。

シッティングのままこいでいる限りは、屋外で自転車に乗っているフィーリングにかなり近い雰囲気だ。「実走と全く同じか」と問われると、さすがにそこまでではないけれど、少なくとも固定されていたときのような「やっぱこれは自転車じゃないよな感」は限りなく薄まっている。

E-FLEXの実際の動き

とりわけKICKRのようなスマートサイクルトレーナーは、「Zwift」などのゲーム的なトレーニングソフトと組み合わせて使うものだけに、サイクルトレーナーと自転車はあくまでも「コントローラー」として割り切りがちだ。

最初のうちは「なんか違うよなあ」と首をひねるものの、使い続けていくうちに慣れるというか、そういう違和感にある意味フタをしてきたのではないか、と振り返ってみて思う。E-FLEXにすることでそれが取り除かれ、自転車がもつ本来の軽快さを、室内でありながら「取り戻せた」ようにも感じる。

この自然な乗車感は、傾いたり前後に動いたりすること以上に、ハンドルを「軽い力で切れる」ことが大きく影響している。なにげなく外で自転車に乗っていると気付きにくいことだけれど、本人はただまっすぐ走っているつもりでも、実のところはわずかにハンドルを左右に切りながら走っているからだ。

ハンドルは軽い力で切ることができ、力を抜くと勝手にまっすぐに戻る

言ってみれば、自転車は(タイヤ形状や重心移動が要因となって)常に左右にふらつきながらバランスを取って前に進んでいる。ハンドルを一切動かせなくした自転車は乗れない、ということをご存じの人もいるだろう。

固定ローラー台を使った室内サイクリングもそれと同じで、リアだけでなく、たいていは前輪もライザーブロックなどで半ば固定されていて、ハンドルをまともに切れなくなっている。だからこそ、その部分が特に大きな違和感として残っていたのだ。

しかしE-FLEXでは、ハンドルを左右に切れるようになっているため、そうした「走行中の自然なふらつき」もきっちり再現する(タイヤ形状由来ではなく、ライダー自身の重心の変化などによるもの、という違いはあるけれど)。切ったら切りっぱなしではなく、フロントフォーク固定部分に内蔵されているスプリング的な構造で反発し、まっすぐに戻る仕組みになっているのもミソだろう。

「ハンドルが切れる」というのは、他のロッカープレートでは得られないメリットでもある。ロッカープレートは板全体が傾き、自転車がずれると危険なため、前後輪とも完全に固定しておくことになるからだ。それと、以前本誌で紹介した「Spirit Overflow」のように、ハンドルに取り付けたスマートフォンのセンサーで操作するゲームも問題なくプレーできるのも、E-FLEXの(ごくニッチな)利点と言える。

そして、ある程度長時間乗っていても股の痛みが以前ほどひどくならないような気がする(あくまでも気がするレベル)。自転車全体が動くことで、サドルに押しつけているお尻もわずかに動き、ずっと同じ箇所に負担がかかり続けるような乗り方を防げているからかもしれない。

難点はありつつも、KICKRユーザーのマストアイテム

E-FLEXによってかなり自然な走行感を実現できるようになるが、もちろんメリットばかりというわけではない。

たとえば、ペダルを勢いよく踏み込むと車体が前に動くということから考えると、そこには少なからずパワーの損失があるわけで、Zwiftなどのバーチャルレースで有利になることはまずなさそうだ。実際、頑張ってペダリングしたときに、なんとなく力が抜けるような感覚に陥ることがあったりもする。

でもって、シッティングはあくまで自然だが、立ちこぎ、つまりダンシングしようとすると、とたんに違和感を覚える。E-FLEXではハンドルは切れるものの、フロント側が傾く機構を備えていないのがその原因だ。

ダンシングするときは、通常ペダルを踏み込んだ側のハンドルが反対側と比較して相対的に身体に近づく。たとえば右脚を踏み込むときは同時に車体を左に傾けるため、ハンドル右側は手前側に(あくまでも相対的に)引いているイメージになるはず。ところがE-FLEXの場合、その動きがどうしても反対になってしまう。

右脚を踏み込むとリアが右側に傾く方向に力が加わり、それに対してフロント側の中心は移動しないため、代わりにそのフロント中心を軸にしてリア側が(真上から見て)回転するように動き、追従して必然的にハンドルは左に切れる形になる。つまり、右脚を踏み込んだらハンドル右側が遠くなり、左脚を踏み込んだらハンドル左側が遠くなるのだ。

身体がイメージしているダンシングの姿勢と全く逆……というか、緊張して同じ側の手足が前に出て歩くのと同じで、ちぐはぐな乗り方になって力が入らない。結局、スタンディングのときはハンドルが動かないよう(リアが傾かないよう)できるだけ自転車が直立姿勢のままペダリングするしかなくなり、余計な筋力を使ってしまう。

加えてフロント側の構造上、傾斜を再現するWahooの「KICKR CLIMB」のようなデバイスが使えないことも頭に入れておきたい。前後にスライドして動く仕組みであることから、リア側をE-FLEXにして、フロント側をKICKR CLIMBにする、みたいな混在した使い方はできないので要注意だ。

ただそれらのデメリットがあるとしても、通常の固定ローラー台だけでは得られないE-FLEXの乗り心地の良さは、一度味わってしまうともう元には戻れない、と断言できる。以前にも増して「さあ今日も乗ってやるか」というモチベーションが湧き、健康的なフィットネス生活がはかどるというものだ。KICKRやKICKR COREを使っているユーザーなら、ぜひとも手に入れるべきマストアイテムではないだろうか。