ミニレビュー

これぞeスポーツ! 自転車をこいで対戦する「Spirit Overflow」

「Spirit Overflow」でオンライン自転車対戦にチャレンジ

運動不足解消のために、室内で自転車をこぐことができるサイクルトレーナーを買ったのはいいけれど、最近は使わなくなってホコリをかぶっている……なんて人はいないだろうか。

そんなアナタにぜひ試してほしいのが、サイクルトレーナーを使って遊べる「Spirit Overflow」というオンライン対戦ゲーム。パソコンのゲームプラットフォーム「Steam」で公開されており、現在はアーリーアクセス(ベータ版)ということもあって誰でも無料でダウンロードできる。対応OSはWindows。筆者もさっそくプレーしてみた。

Spirit Overflowに必要な機材と準備

「Spirit Overflow」のタイトル画面

「Spirit Overflow」は、ホバーバイク的な未来型の乗り物を操ってオンライン対戦する3Dゲーム。一般的なゲームは操作にキーボードやマウス、ゲームパッドを使用するのに対し、このゲームはサイクルトレーナーを使うのが一番の特徴となっている。

2021年10月時点で公式に対応しているのは、Wahoo KICKRシリーズや、ELITE、Tacx(Garmin)などの一部のスマートサイクルトレーナー。自転車をこがないと画面内のキャラが走ってくれないので、なにはともあれスマートサイクルトレーナー(と自転車)がなければプレーできない。

プレーにはまずスマートサイクルトレーナーが必要

準備が必要なのはもう1つある。AndroidスマートフォンかiPhoneのいずれかだ(タブレットは非対応)。専用アプリ「Kinix Controller」(App Store/Google Play)をインストールして、自転車のハンドルバーにスマホホルダーなどでまっすぐ固定できるようにしておく必要がある。

専用アプリをインストールしたスマホを自転車のハンドルバーにまっすぐ固定できるように。ハンドルの中央でなくても問題ない

スマートフォンアプリは操舵と、後述するアイテムの使用、視点変更などに用いる。スマホを固定した状態で自転車のハンドルを切ることで、実際の舵角に応じて画面内で方向転換できるのだ。スマホホルダーはなくても遊ぶことはできるが、代わりに手で持ってプレーする形になり、ペダルを踏む力が削がれるので、あまりおすすめはできない。

必要な機材が揃ったら、パソコンとスマートフォンを同じ宅内ネットワークに接続した状態で、Spirit Overflowを起動し、言語(日本語も選べるが、表示が崩れるので英語がおすすめ)、接続先サーバー、アカウントなどの初期設定を行なう。その後、スマートフォンからKinix Controllerを起動してパソコンと連携させ、認識されるスマートサイクルトレーナーを選択すれば準備完了だ。

言語を選択。日本語も用意されているが、表示が崩れることがあるので英語をおすすめしたい
接続先サーバーを選択。ここは日本(JP)でもいいし、海外の人と対戦したいときは他のサーバーを選ぶのもアリ
ユーザーアカウントを作成してログインする
続いてスマートフォン側の準備。画面の説明に沿って進める
アプリを起動すると自動でPCと連携
近くにあるスマートサイクルトレーナーを認識するので、選択

まとめると、プレーに必要なのは対応する「パソコン」と「スマートサイクルトレーナー(と自転車)」、そして「スマートフォン」の3つ。おそらくスマートサイクルトレーナーが一番の乗り越えるべき壁になるだろうけれど、オンライントレーニングソフトの「Zwift」などでバーチャルサイクリングをすでに楽しんでいる環境なら、ほとんどの場合はSpirit Overflowもそのまま遊べるはずだ。

これにて準備完了

3対3の「クイックス」的陣取りゲーム

起動後、タイトル画面の次に現れるのは、ホバーバイク的なものに乗ったキャラ。自分の操作するアバターだ。この画面からできることは、チーム編成と対戦相手とのマッチング。画面操作はマウスでもいいし、Kinix Controllerのタッチパッド画面でカーソル操作することもできる。

ゲームのホーム画面。中央にいるのがプレーヤーのアバター
ゲームのカーソル操作はスマホアプリのタッチパッド画面でも可能

もしSpirit Overflowのプレーヤーに知り合いがいるのであれば、左右に見える「+」ボタンからプレーヤーIDを指定することでフレンド登録できる。さらにフレンド登録した中にオンラインの人がいればチームに招待し、最大3人で協力プレーが可能だ。

「+」ボタンをクリックするとフレンド一覧のウィンドウが現れる
ウィンドウ内の人のアイコンをクリックすれば、ID指定でフレンド検索が可能
今回は相手側からフレンドリクエストがあった。チェックマークボタンでフレンドになる
さらにフレンドの右側にある「+」ボタンでチームに招待できる
チーム招待を受け入れてもらえると、画面内にフレンドのアバターが出現

ただ、おそらく始めたばかりではオンライン状態のフレンドも少ないだろうから、とりあえず画面右下の「PLAY」ボタンからゲームモードを選択しよう。現在のところ選べるのは3つあるモードのうち一番上の「TERRITORY WAR」のみなので、そのまま「SEARCH MATCH」をクリックする。しばらく待てば自動でマッチングされて対戦相手が確定し、ゲームスタートだ。

画面右下の「PLAY」をクリックしてゲームモード選択へ。「SEARCH MATCH」でゲームスタート
ローディング中はスマホの向きを判定するキャリブレーションを行なうので、ハンドルを動かさずに待つ

この「TERRITORY WAR」というモードは、簡単に言えば3対3の陣取りゲーム。かつて人気を博し、ゲームボーイなどにも移植された「クイックス」と呼ばれるゲームに基本ルールは近い。

舞台となるステージは近未来な雰囲気のスタジアム。自転車をこいで走り出すことで、走った軌跡がラインとして描かれる。そのラインで閉じたエリアを作ることができれば自陣として確保でき、さらに作ったエリアから拡張する形で少しずつエリアを拡大し、2分30秒の制限時間内に相手チームより広い陣地を占有できれば勝利だ。

近未来な雰囲気のスタジアムで、3対3で対戦する
対戦開始! 走行軌跡がラインとして残る
そのラインで円を描くようにして結ぶと、その閉じたエリアが自陣となる

ただし、閉じたエリアを作る前に対戦相手にラインを途中で横切られてしまったりするとダメージを受けてラインが消え、一時的に速度が落ちる。3回ダメージを受けてライフがゼロになるといったん退場となってしまい、しばらく待てば再びゲームに参加(リスポーン)できるようになるが、不利になることは避けられない。

なので、いかに相手の妨害をかいくぐりつつ、もしくは相手を邪魔しつつ、確実に自陣を広げていけるかが肝要だ。もちろん、ペダルをこぐ力が大きいほど画面内のキャラの移動も速くなる、というスマートサイクルトレーナーならではの仕掛けもある。

すかさず相手のいないところまで走り、安全にエリアを広く確保したり、相手が間近に迫っているなかでも隙を見て全力で小さなエリア拡大を積み重ねていったり、といったプレースタイルが考えられるだろう。

画面左上隅に走行スピードが表示されている。力強くこげばスピードアップ

ゲームの性質上、常に全力でペダルを回すようなことにはなりにくいが、一時退場となってしまった場合、ペダルをこげばこぐほど早くリスポーンできるというギミックが用意されていることもあり、インターバルトレーニング的な負荷は少なからずある。

ライフゲージがゼロになるといったん退場。リスポーンまで待機することに。メダルを一生懸命こげば、その分早くリスポーンできる

また、ステージ内には減ったライフを回復させるアイテムや、一時的に加速力を増すアイテム、マリオカートの甲羅よろしく発射して相手にダメージを与えるアイテムが落ちている。さらに、ペダルを回しているとゲージが貯まっていき、フルに貯まると加速&無敵状態になる「スキル」も発動できる。

ドクロのアイテムを拾い、相手に向かって発射するとダメージを与えられる
スマホアプリの画面。走っているうちにゲージが貯まっていき、フルになるとスキルが使えるように
スキルを使うと無敵状態になって加速。相手にぶつかってダメージを与えるのも、スピードを活かしてさらに陣地を広げるのも自在

これらアイテムを拾って使ったり、スキルを活用したりすることで、より有利な状況を作り出すことができる。基本ルールはシンプルかつ体力勝負的なところもあるが、最大3人でチームを組むこともあわせて考えると、戦略の幅はなかなか広く、奥が深そうだ。

対戦終了。互いの陣地のパーセンテージを比較して大きいチームが勝利となる
自分が作った陣地の広さやキル数などの詳細も表示

プレーヤーの増加が目下の課題

しかしである。Spirit Overflowにおいて、現段階では致命的とも言える最大の課題が存在する。それは、「プレーヤーが極めて少ない」ことだ。

そもそもベータ版段階でユーザーが少ないというのもあるだろうけれど、やはりスマートサイクルトレーナーが必須というのが障害になっているに違いない。筆者も接続先サーバーを変えながら何度も繰り返しマッチングを試してみたものの、一度としてリアルユーザーとのマッチングはかなわず、対戦相手はすべてボット(コンピューター操作)となった。ちなみに自分のチームの他2人は、フレンドを招待しない限り必ずボットとなる。

名前の付いていないアバターはコンピューター操作のボット

これではゲームの本当の楽しさがわからない! ということで、急きょWahooのスタッフにご協力いただき、時間を合わせて(Zoomミーティングをしながら)同じタイミングでマッチボタンを押すことで、なんとかプレーヤー同士の対戦を実現できたほどだ。

ボットとの対戦だと、そこまでAIが賢くないこともあり、適当に走って陣地を広げていくことで圧勝できてしまう。しかし、相手チームにプレーヤーが1人でも入ることで邪魔されることも増え、どのように逃げながら戦っていくかを考える必要が出てくる。ただ、それでも“戦略”を考えるほどではない。

これが6人全員プレーヤーになれば、やみくもに力任せで走っているだけでは勝利はおぼつかないだろう。誰かが陣地を広げる役、誰かが相手の邪魔をする役、みたいに役割分担することも必要になりそうだし、俯瞰視点で戦況を見ながら、他のボイスチャットツールを利用して指示を出す役もいた方がいいかもしれない。そうなれば、まさしくeスポーツと言えるゲーム内容になるのではないか。

カメラを俯瞰視点に切り替えることもできる。これなら戦況を把握しやすい(操作はしにくい)
自分の姿を映しながら対戦の様子をライブ配信するのも、一生懸命さが伝わっていいかも

まだリリース間もないベータ版なので、ゲーム性がこれからさらにブラッシュアップされていくことは間違いない。陣取りゲームに加えて、今は選択できない他のゲームモードも遊べるようになれば、新たな楽しみ方も増えるはずだ。

オンライン対戦ゲームは、いかに多くのアクティブユーザーを集めるかが鍵となる。プレーヤーが増えなければゲームとして楽しめるレベルにならないし、反対にゲームとして楽しめるレベルでなければプレーヤーは増えない。

Spirit Overflowの場合、その間にはスマートサイクルトレーナーという高い壁もある。こうしたニワトリと卵の状況を打破するのは容易ではないかもしれないが、室内サイクリングの新たな発展の方向として今後に期待したくなるゲームだ。

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。AV機器、モバイル機器、IoT機器のほか、オンラインサービス、エンタープライズ向けソリューション、オートバイを含むオートモーティブ分野から旅行まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「できるGoProスタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS+Androidアプリ 完全大事典」シリーズ(技術評論社)など。Footprint Technologies株式会社 代表取締役。