西田宗千佳のイマトミライ

第353回

「スマホが高い時代」実質リースや下取りが前提に 「大手有利」スマホ市場のこれから

最新の「Galaxy Z Fold」シリーズ

先週の本連載では、サムスンの「Galaxy Z Fold」シリーズを取り上げた。今週は製品が発売になる。

二つ折りということもあって価格は高い。それをどう広く受け入れてもらえるものにするか、という点が重要になる。

ただ、スマートフォンやPCの価格高騰で苦しんでいるのは日本だけではない。インフレやメモリー価格の上昇により、IT機器の価格はどの国でも上がってきている。

その中で「商品を売って収益を得る」にはどうすればいいのか? いくつかの変化が生まれているのも間違いない。

アップルはアメリカで、月額制のリースプログラム「Apple Upgrade」を発表した。これも価格高騰への対処、と言える。

今回はGalaxyの発売や、9月にやってくる次期iPhoneの発表を前に、「スマホの高騰にどう対処するのか」を考えてみよう。

日本の「割引規制」が負担をかけている

まず基本的な点として、日本でのスマホ購入は負担が大きい。海外に比べてもそうだ。

これは円安や収入減少の影響だけではない。「携帯電話事業者との契約を前提とした割引」に規制がかかっているからだ。

現在の日本では、通信料金と端末料金を完全に分離している。端末の購入価格に補助を加える(割り引く)場合には、端末の価格に応じて割引上限額が設定されている。

端末価格が4万円以下の場合は2万2,000円(以下税込)まで。8万円以上の端末は原則4万4,000円で、ミリ波対応の機種の場合は最大6万5,000円となっている。

他方で、通信・端末分離の関係から、現在は携帯電話事業者経由で端末を販売する場合、携帯電話事業者は、利益確保の目的もあり、端末価格を少し高めに設定している。

その上で、携帯電話事業者は「購入から2年後に端末を買い取る」「支払いを月ごとに分割する」という形を採ることで、端末購入に関する負担を軽減する試みがなされている。俗に「端末購入プログラム」などと呼ばれている方法だ。端末購入プログラムの話はまた後ほど述べるとして、問題は他の部分だ。

現状、日本のように「通信・端末分離による強い割引規制」を行なっている国はあまり見かけられなくなっている。

アメリカでは「回線乗り換えでGalaxyやiPhoneを無料で」というキャンペーンが普通に行なわれているし、ヨーロッパ諸国でも、回線契約や長期利用を条件とした割引は存在する。過去、端末割引に日本同様の大きな規制をかけていた韓国も規制を撤廃し、割引競争が復活している。中国では、国が「端末下取りによる新規買い替え」に対し、1人1台・販売価格を15%割り引く施策を行なっている。

国によって条件は細かく異なるし、単純に「大幅に安くなる」というわけでもないのだが、日本に比べると規制が緩いのは間違いない。

もう少し割引の手段があったなら……と考えてしまうのは事実だ。

「端末購入プログラム」には功罪あるが……

とはいえ、大手携帯電話事業者は、割引規制の緩和には必ずしも賛成していない。割引のために必要な原資が増え、経営上のコスト増につながるからだ。

しかし、現状も端末の転売を前提に、短期契約で移行を繰り返す人々がいて、そのことが負担にもなっている。これは短期的な是正が必要だろう。

同時に、いわゆる「端末購入プログラム」の課題もある。この種の施策は割引に制約があるために生まれたものではあるが、一方で「賢く使うと負担が減る」ものの、端末の返却タイミングが遅れた場合は想定よりも負担が大きくなる。携帯電話事業者としても、「返却タイミングが早い顧客が少ない」方が収益性は高まる。

過去にはNTTドコモが返却タイミングの問題で、端末購入プログラムでの収益性を悪化させた。現在は契約維持のために、「端末返却に2万2,000円の利用料が発生するものの、回線契約を維持するとその支払いが免除される」形の契約となっている。

この種の複雑さは、現状の規制の大きな課題といえる。

とはいえ、高価なスマホを定期的に安価に購入するには、端末購入プログラムに類する「スマホを返却することを前提に、新しい機種を購入する」形を選ぶのが妥当なことではある。

メーカーによる下取りも定着

実際のところ海外においても、「スマホを購入する時には旧機種を下取りに出す」ことは多い。筆者はiPhone新機種発売後にアメリカに行った経験が何度かあるが、その際は、Apple Storeの中に「iPhoneを下取りして新機種を買う」人の行列ができていた。冒頭から繰り返しになるが、高価であることが負担なのはどの国でも変わらず、誰もが対処法を考えているわけだ。

日本でも、携帯電話事業者を介した端末購入プログラムを使わない場合には、端末メーカーが古いスマホの下取りを仲介し、その分端末を安くするパターンはある。アップルもサムスンも、もうすぐ発表を控えたGoogleのPixelも、端末の下取りプログラムを用意している。

サムスン・Google・アップルはそれぞれ、公式での下取りプログラムを展開中

もちろん、下取り価格は色々。中古販売店で下取ってもらった方が高くなる場合は多いし、携帯電話事業者による下取りもある。どれを使うのが便利か、どれを使うのが楽なのかは、時と場合によって異なるものだ。

メモリー高騰は低価格スマホに不利

「そこまでスマホが高くなるなら、安価な機種でいい」という人もいるだろう。それは1つの見方である。

特に、メモリー高騰でスマホ価格が高くなる傾向にある今、「急いで買わない」という判断もアリだ。

ただ、今年については「安価な機種ほど厳しい状況にある」のも事実だ。メモリー高騰は低価格な機種で特に大きな影響があり、メーカーの利益率を圧縮するためだ。

同じスマホでも、ハイエンド機種は、コストの中でメモリーやストレージ以外のパーツが占める割合が大きい。逆にいえば、メモリー高騰の影響はあるが、価格全体に与えるインパクトは一定に保たれやすい。

一方、低価格スマホといっても、メモリーやストレージがハイエンドの機種と大きく違うわけではない。容量は小さくなる一方、他のパーツコストは安く、コスト全体でのメモリー比率は高い。だとすると、メーカーにとっては「低価格なスマホほど利益率が下がる」傾向にあるわけだ。

結果的に、今期は低価格スマホがあまり目立たない。メーカーとしても、ハイエンドで収益性の高い製品へと集中しやすい傾向にあるのは事実だ。低価格なスマホを探す場合、昨年以前のハイエンドモデルの型落ち、もしくは中古を探す方が良い場合もある。

まだ噂に過ぎないが、今秋、アップルは「Pro」モデル以上のみを刷新し、スタンダードモデルやAirなどは来春に回すとも言われている。その場合、スタンダードモデルやAirは今まで以上に長期に販売されることになる。これらの製品もスマホ全体で見れば十分にハイエンドなのだけれど。

その中で、値上げの影響や中古価格などを勘案して考える必要が出てくるだろう。

さらに「大手有利」の傾向が強くなるスマホ市場

安価なスマホが不利な点として、それらは中古販売価格が安い、という点がある。安価に買えるのは間違いなく利点だが、下取りして新機種を買う、というサイクルは取りづらい。

残価が大きくなりやすいハイエンドスマホを、中古での引き取りを前提に選び続けるのは、今の1つの流れと言っていい。こうした買い方は、ある意味で「リース的な利用」につながっていると見ることができる。

しかもその時、「同じ携帯電話事業者で使い続けてくれる」「自社の製品を使い続けてくれる」ことが重要であるため、手間や価格の面で利点を提供し、ある意味で囲い込みを考えている。

アップルがアメリカでリースプログラムを始めるのも、結局はそういうことだ。アップルは自社製品が売れることだけでなく、自社製品を「使い続ける」ことを求めている。サービスやエコシステムの中にとどまってくれることが、結局は長期的な収益につながるためである。

端末を下取りしても、それが全て売れるわけではない。下取り・回収した端末から資源を得られることも無視できない要素ではあるが、なによりも「同じエコシステムにとどまってもらう」ことを目指している。

だからこそ、この種のプログラムは、大量に販売してエコシステムを構築しており、グローバルに展開することで費用を希釈できる能力を持つ、大手メーカーにとって有利な構造でもある。

それだけ付加価値のある製品・サービスを作れているからでもあるが、現状が特定メーカーの寡占に向かう方向性であることも理解しておきたい。

スマホという産業は、大量生産と高付加価値パーツの調達ができる大手に有利な構造がある。現状の高付加価値化とリース化は、その流れをさらに推し進めるものになる可能性が高い。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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