西田宗千佳のイマトミライ

第322回

2026年は「AIとデバイス」の年に 今年の流れを予測する

今年2026年はテクノロジー業界にとってどんな年になるのか?

毎年のように予測を続けているが、すべてが当たった年はほとんどないが、それでも、やはり予想はせねばならない。それは、過去を見つめ直すことであり、今年の動向に関する補助線を引くことでもあるからだ。

ここでは「AI」「デバイス」という2つのテーマにした。2025年の記事を引用しつつ、その先で起こる可能性をまとめてみよう。

定着したAI ブラウザーやエージェントなど「接点競争」は激化

AIモデルとそれを使ったサービスの進化はまだ加速状況にあり、変化を追っているとめまいがしそうだ。

どこまで進化するかはともかくとして、社会には定着しつつあるのは間違いない。コーディングにAIを使うのは特別なことではなくなったし、自分のようなライターの作業にも、AIは必須のものだ。

道具としてのAIには色々と課題もあり、社会が受容する過程での問題も増えている。フェイクや模倣の増加はその最たるものだ。本質的にはフェイク・模倣を作る側の問題ではあるが、サービス側として「知的財産権の侵害リスク回避のための技術の採用」は必須だと考える。この点、AIプラットフォーマーの動きは強引すぎる。

ただ、それはそれとして、判断と差異化は人間に残された仕事である。というよりも、それをAIに任せるのは、現状難しい。

「AI導入で仕事が増えた」という声も多くなった。AIは文書やコードを(予算が許す限り)無限に素早く作ってくれるが、それを理解して最終的な判断をするのは人間だ。AIとのやりとりが加速するほど、人間側が負担を感じる部分は多くなる。

2026年はAIエージェントについて、企業内での初期導入ではなく本格的な活用が進む。AIによるコード生成は、その姿を先に示したものであり、コストを投じるべきものである……と多くの企業や開発者が考えている。この領域での変化は、AIの活用について多くの示唆を与えてくれるものだ。

AIモデルの学習・開発は今後も続き、負荷は大きくなる。

一方で、それをいかに活用するのか、というフェーズに入った結果、学習よりも推論の比率がどんどん増えていく。AIの賢さの進化よりも、「道具としてどう便利か」「コストに見合うのか」を評価する流れが加速するのではないか。その流れから、「AI検索の本格的利用」「AIを活用したデバイスの増加」といった面が、AIプラットフォーマーの競争軸としてより注目される年になっていく。

AIプラットフォーマーがウェブブラウザーを作る流れが加速しているが、それも結局は、ユーザーとの接点拡大であり、道具としてどう便利か、という話を突き詰めていくための流れだ。

昨年末、MetaがAIエージェント企業であるManusを買収したが、これも、Metaとして「ソーシャルメディアやメッセンジャー以外で、AIを活用したユーザー接点を作るにはどうすべきか」を考えた結果、急成長するManusの買収で開発にかかる時間を買った……と考えられる。

AIバブルは「建築バブル」 メモリー高騰はどうなるのか

他方で、昨年後半から、「AIバブルはいつ弾けるのか」という話題が増えてきた。

現在のAIにおける投資の過熱は、AIを処理するためのデータセンター投資の過熱と言って差し支えない。半導体の需要に注目が集まるが、すでに本質は「データセンターを短期で建設できるとして、電力や水資源などを確保し、十全に運用できるのか」「コストの高いデータセンター投資を短期で回収しうる状況にあるのか」という話につながっている。

すなわち、AIニーズに当て込んだアメリカ国内の投資が本当に効果的に回るのか、という点を考えるフェーズに入っている、という話でもある。

AIの収益性について、2026年で価値を決めなければいけないわけではない。むしろまだ進化の過程と言える。

一方で、データセンター投資が実態よりも過剰であり、ラフな建築計画が進んでいるという評価が進む場合、アメリカ国内の景気と連動する形で、見直しフェーズが来ても驚かない。

こうした現象がバブルかどうか、2026年中に弾けるかどうかは別として、ある種の危機感やヘイトが溜まってきていることは疑いがない。

昨年末には、AIデータセンター向けの需要に押され、メモリー価格が高騰し始めた。このあたりの状況は、AIバブルに関するヘイト拡大につながっているだろう。

ただ、店頭で見られるような「1年で2倍・3倍」という価格差はあくまで店頭でのもの。在庫量で価格が実際の品不足以上に上昇しやすい傾向が強い。自作市場や増設メモリーには深刻な影響が出るが、その価格が「メモリーが組み込まれて販売されるメーカー製の製品価格」に直接影響するわけではない。

PCやスマホ、ゲーム機といったコンシューマ製品でもメモリー価格高騰は避けられないが、それでもパーツ単価で数割の範囲に収まる。それ以上になると仕入量減少の影響が強く、むしろ「品不足」という形で我々に影響してくる可能性が高い。すなわち2026年は「デジタルガジェットに値上げがあり、欠品が目立つ年になる」可能性がある。

スマホ+AIは2026年が正念場。スマートグラスも多数登場

コンシューマ向けのAIを考えたとき、チャットAI以上の接点が必要なのは間違いない。相談・検索は非常に大きな用途だが、その先で「AIがいかに我々の生活を楽で豊かなものにしてくれるのか」という部分が重要になる。

スマートフォンの中にAIが入ってくる……という話はもう2年以上前からのテーマだ。2026年については、開発が遅延していたアップルの「Apple Intelligence版Siri」がようやく公開される。その結果として、iPhoneはどこまで便利になれるのだろうか? Androidにしても、GoogleのGeminiや各スマホメーカーの独自AIで改良が続く。「遅れている」と言われ続けた最大手の出方で、スマホ上のAIの価値が見えてきそうだ。

特に2025年は、検索や翻訳はかなり進化し、リアルタイムでの翻訳も急速に一般化した。独立した翻訳サービスの進化もあるが、アップルとGoogleという大手2社が「ライブ翻訳」に取り組んでいるのは大きい。

こうした機能は、さらに「スマートグラス」で価値を持つ。例えばEven Realitiesの「Even G2」では、ライブ翻訳の結果を自分にだけ見えるように表示できる。翻訳結果は耳で聞くのもいいが、目で見た方が素早く把握できるため、結果として対話がスムーズになる印象が強い。

そういう意味でも、今年は「AIグラス」「スマートグラス」が特に注目される1年になるだろう。翻訳はその中でもキラーアプリケーションの1つだが、さらに「音声での命令」「必要な情報の表示」なども有力なアプリケーションといえる。ここにはXREALやEven Realitiesなどの中国系スタートアップ勢のほか、Meta・Googleなどがしのぎを削る。どのような企業が参加していて、どう製品が分かれているかは以下の記事をご参照いただきたい。

ただ、筆者は「スマートグラスがポストスマホである」とは認識していない。現状、スマートグラスは「スマホとセットで、AIや写真撮影をよりよく活用できるデバイス」であり、スマホなしでは成り立たない。人々が使う主体はまだスマホであり、スマホとスマートウォッチの関係に近い。

AIが人の役に立つには、その人が求める行動のための「コンテクスト(文脈)」が必要になる。コンテクストを得るにはスマホ内の行動履歴が必須だし、スマートグラスにつけたカメラや、イヤホンのマイクからの情報も重要になる。

海外での動きが激しいジャンルだが、日本市場も遅れることなく展開してほしい。日本国内で独自のものを開発する動きもあり、頑張ってほしいと思っている。

音声+AIで大きな変化。スマートホームや「OpenAIのデバイス」などで競争激化

音声という意味では、AmazonやGoogleの音声アシスタントが生成AI世代になり、スマートホームデバイスに入るのも大きい。今までは「なにができるかを人の側が記憶し、話す」という音声リモコン的な印象が強かったが、Amazonの「Alexa+」やGoogleのGeminiをベースとしたスマートホーム機器では、チャットAIと同じく「より自然な言語での対話」が実現する。

日本での対応時期はまだ見えてこないが、2026年内は1つのターゲットになるのではないか、と筆者は予測している。

こうしたデバイスによって、声からAIエージェントを介してウェブの世界を利用し、ショッピングやスマートホームの価値を高めていく可能性は非常に高い。

音声+生成AIで新しい可能性が広がる、というのは、噂される「生成AIを使った新しい機器」にも関連してくる要素だ。

とはいえ、機能実装はゆっくりと進むことになり、いきなりバラ色の未来があるとは思っていない。この辺は、スマホでのAI利用がゆっくりとしか進化していない点にも通じる。

だが、スマホやスマートグラスの変化と技術的な要素は近い。時には連携も進むだろう。

OpenAIは「AIを使った独自のパーソナルデバイスを開発中」と言われている。おそらくはウェアラブルデバイスでは……と考えられるが、音声を介してAIエージェントを動かし、ネットに存在する価値を人に返す、という意味では、スマートホーム領域でAmazonやGoogle、そしてアップルが目指すであろう領域とは当然重なり合う。その発表時期は、2025年には「来年」とされた。すなわち今年だ。

別の言い方をすれば、「アシスタントとしてのAI」がどこで、どのような価値を生み出すのか、という話でもある。そこで重要なのは、家なのかウェアラブルなのか。

スマホやスマートグラスだけでなく、こうした領域も注目しておいてほしい。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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