西田宗千佳のイマトミライ
第323回
ソニーもグーグルも去ったCESとテクノロジーの変化 中国のスピードへの対抗
2026年1月13日 08:20
今年2026年も、米ラスベガスで開催されたテクノロジーイベント「CES」を取材してきた。
特に今年のCESは変化が大きかった。以前から「家電からテクノロジーへ」という流れは明確だったが、今年その流れは加速したように思う。
ではその中でどのようなことが注目されたのだろうか? そこには、政治と経済のアンバランスさに関わる部分を強く感じた。
筆者も気がつくと、CESを取材し続けて20年が経過している。テクノロジーイベントがどう変わったのか、考えてみよう。
ソニーやGoogle、サムスンのいないメイン会場
今年のCESには、日本の顔になる企業の存在が欠けていた。ソニーグループだ。同社は1967年以来、CESへの出展を継続してきた。1967年はCESがスタートした年であり、ソニーはCESとともにあった……と言っても過言ではない。
そんなソニーが、CESにブースを構えない、というのは大きな変化だ。ソニーグループのブースがあったところは、本田技研工業との合弁である「ソニー・ホンダモビリティ」が場所を埋めていた。同社は2026年下半期にEV「AFEELA 1」の出荷を控えており、アメリカでの存在感拡大が急務ではあるので、出展を続けたことには納得感がある。
他方で、今のソニーグループは過去の「ソニー」ではない。家電を売るビジネスはグループの一領域に過ぎない。エンターテインメントやそれを支えるビジネスをアピールする場として、CESはベストではない……ということなのだろう。
同様に、出展を取りやめた大手にGoogleがある。例年はコンベンションセンターの屋外に巨大なブースを設け、家電や自動車との連携をアピールしていた。
だが昨年、コンベンションセンターの工事に伴ってブース設置場所が使えなかったことから出展を取りやめていた。今年は復活するのか……と思ったら、今年も出展はなし。GoogleもCESから撤退した形となる。
同じように、メイン会場から姿を消したのがサムスンだ。こちらはCESから撤退したわけではなく、ラスベガス内の高級ホテル「Wynn」の中に独自のブースを設けた。
他社とは違う路線ではあるが、実のところ、考え方としては似ていると考えている。
すなわち「CESというイベントの中でアピールするより、自分たちでアピールすることを軸にした方が効果はある」と判断した、ということなのだろう。
モノからテクノロジーとビジョンに変わる
なぜそうなったのか? それは、CES自体が次第に変化してきたからでもある。
CESは10年以上前から「家電イベント」ではなくなっている。それでも、2010年代にはスタートアップやデジタルガジェットが絡む部分が多かったし、今もその種の出展ブースも存在する。
だが、ガジェットをアピールするならYouTubeを使って自社で行なえる時代だ。10年前のように「CESでガジェットをアピールする人々が少なかった時代」はともかく、CESのような巨大イベントの中では埋もれてしまう可能性もある。CESでもアピールはするが、主軸はあくまでYouTubeやソーシャルメディアだ。
過去に比べ、今年のCESには「インフルエンサー」の姿が減った気がする。彼らが得意とする領域から別の部分へとCESの軸が変化していて、取材対象から変わってきているからかもしれない。
CESはより「テクノロジー」のイベントになりつつある、と感じる。NVIDIAのプレスイベントやAMDの基調講演、Hyundai Motors(Boston Dynamics)のロボットに注目が集まるのは、そこで発表された製品よりも「発表されたテクノロジーやビジョンから生まれる未来像」の方に注目が集まっているためではないか。
基調講演・セッションイベント・ブースなどで話を直接聞き、展示物を見ることがイベントの価値である。
家電の売り方が変わり、支持される製品も、そのアピール方法も変わった。だがイベントを主催するCTAは、CESというイベントをアピールしたいと考えている。「キーパーソンのビジョンを聞きたい」というニーズは変わらないし、それを企業も求めている。
ならば、CESが変質していくのも当然、という話ではある。
以前からCESでは、メーカーが会場外のホテルに部屋を取り、顧客やプレス関係者とミーティングをすることが多かった。今年はさらにそれが増え、「会場でアピールするより、少数の顧客とじっくり話す」ことが重視されているように思えた。
こうした変化はコロナ禍以降続いていたが、さらに今年は拡大した印象を受けている。
スピードと量で圧倒。さらに存在感を増す中国企業
そんなことを考えながら会場を見ていると、例年以上に中国メーカーの存在感が大きいことにも気づく。
メイン会場からサムスンが抜けた場所や、既存の家電メーカーのブースサイズが少し狭くなったところを中国メーカーが埋めているから、という部分はあるだろう。
同時に「中国メーカーの素早さ」がさらに上がっているようにも思えた。
中国メーカーの強みは生産能力だ。過去には安さばかりが注目されたが、今はスピードもある。量を安価に作れる中国メーカーに、日本や欧米のメーカーはかなわない。韓国メーカーも、数やバリエーションでも競合が難しくなっている。
さらには、ロボットや歩行を補助するエクソスケルトンなど、「今年のトレンド」というイメージが強いものも、中国メーカーは素早く製造し、CES会場を席巻している。「作って世に出す速度」という意味で中国は他国をリードしており、今年はさらに加速している……という印象を強く受けた。
CESを主催するCTAは、テクノロジーに関するアメリカ最大の業界団体であり、圧力団体でもある。
アメリカと中国の間には微妙な空気があり、日本と中国の間も、政治的には良い状況とは言えない。
しかし、CESはもうずっと、中国なしでは成立しない。安いものだけでなく「テクノロジーでリードする製品を素早く作る」能力でも中国の力は強く、さらに依存度が高まっている。
政治と経済に関する温度差は、CESに明確に現れている。
技術とビジョンこそが差別化の主軸
では、中国以外の企業はどこで戦うべきなのだろうか?
アメリカはAIやプラットフォームで戦うのだろう。ハードウェアだけでは、今の製品は成り立たない。OSプラットフォームだけでなくAIが必須になると、アメリカ企業の力は大切になる。
ただし、ソフトウェアやサービスはイベントではアピールしづらいからか、AIプラットフォーマーはCESにあまり出展していない。
だが、2026年のうちに「AIを使ったパーソナルデバイス」が増えると、風向きも変わるかもしれない。
LG・サムスンという韓国勢は総合力でアピールしている。家電+AIという総合力は中国系もアピールしているが、韓国2社は長くやっている分、具体性が出てきた。
サムスンは「長寿(Longevity)」をアピールした。
要はヘルステックだが、自分だけでなく家族の「過ごしやすい環境」を目指す。スマホでのタイプミスから認知症の兆候を掴んだり、コーヒーメーカーの使用量から生活情報を掴んだり、といった形で「ヘルスケア製品以外からの兆候」を見て、さらに医師との連携から長寿を目指す。
LGはロボットだ。
家事をするロボットは、CES会場にも多数あった。ただ、正直まだ時期尚早だと感じる。人間ほど正確でも機敏でもないので、どうにももどかしく感じるのだ。LGの「CLOiD」も例外ではない。
だが、LGブースを見ると驚いた。同社はロボット自体だけでなく、そのアクチュエータを展示していたからだ。彼らはロボット以上に、そこで必要になるアクチュエータを広くアピールしていたのだ。
これは日本メーカーのやり方にも近い。TDKやAGCといった企業はスマートグラスの中核パーツを作り、それ自体をアピールしていた。今後多数製品が出てくるとしても、コアパーツを持っていることは大きな武器であり、簡単には真似できない。派手に目立つものではないが、今の日本にとって重要な方針とも言えるだろう。
中国のスピードに負けない差別化要因を持つことが、ここからの産業には重要になる。そのうち、「スピード感のある製造」という部分を中国以外で展開する動きも出てくるのではないか、と予想している。
派手さに欠ける部分はあるが、そうやってテクノロジーとしての基盤ができてその上にビジョンが積み重なることで、多くの人が注目する存在になるのではないだろうか。
GPUも、そこでソフトウェアを作るのに必要なCUDAも派手に動くものではない。しかし、AIとそれにつながる産業があるから、NVIDIAのプレスカンファレンスは注目されるのだ。


















