西田宗千佳のイマトミライ

第311回

Google「AIモード」導入から1カ月 検索の世界はどう変わるのか

日本版の「AIモード」

Googleが検索機能の1つとして「AIモード」の提供を開始した。今年5月、Google I/Oで発表されたものだが、9月から日本でも提供を開始している。

生成AIによるチャットサービスが登場して以降、「ネット検索は生成AIに市場を奪われる」という論調が続いていた。ざっくり言えばAIモードは、その論調への対策であり、GoogleのAI投資の本命の1つと言える。

発表以来、キーパーソンのインタビューも含めいくつかの記事を書いてきたが、その本質がまだ理解されていない部分もあるように思う。

今回は、検索の巨人が動いたことで市場がどう変わっていくかを考えてみよう。

ネット検索とAIモードはどう違う

まず、AIモードの基本を振り返っておこう。

ネット検索は、キーワードを入力するとその内容が含まれるネット上の情報が表示される仕組みだ。

初期には集められたサイトを人力でリスト化していたが当然間に合わなくなり、自動的にサイト情報を収集する「クロール」という仕組みが生まれた。そして、そのデータに独自の解析を加え、適合した内容にあったページを順番にリストにして出す。これが「検索エンジン」であり、それを軸にサービスにしたのが「ネット検索」だ。

Googleは検索精度の高い技術を持ちつつ、検索キーワードに関係する広告を出すという仕組みによってビジネスを拡大、今日の地位を築いた。

提供される情報はあくまでウェブサイトのリストであり、情報はリンクの先にある。

一般的なGoogle検索。ウェブがリストとして表示される

すなわちネット検索は「正しい情報にたどりつくには多数の情報を読まねばならない」という本質的課題を抱えている。

ChatGPTに代表されるAIチャットサービスの登場は少し違う。

同じように大きな入力欄があるが、そこに入れるのはキーワードではなく文章だ。AIチャットサービスは入力された文章を解析し、その内容に沿った文章を生成する。

ChatGPTで質問してみた例。文章で答えが返ってくる

生成AIは「命令に対して妥当であろうと思う内容を生み出す」仕組みであり、必ずしも正しさは担保されない。しかし、技術開発と学習が進んだ生成AIモデルの活用により、その精度は次第に高いものになってきている。

シンプルに言えば、これがネット検索と生成AIの違いだ。

ただし、今はそんなにシンプルではなくなった。

AIチャットサービスも、ネット検索をして情報をまとめるようになっているからだ。

最初に導入したのはマイクロソフト。2023年の段階で「Bing検索」、のちの「Microsoft Copilot」に導入したが、今はChatGPTなどにも、ネット検索をしてその内容から情報をまとめ直す機能を持っている。また、Perplexityのように、AI検索を主軸にしたサービスもある。

Microsoft Copilotでの検索結果。表などのビジュアルを重視する傾向があるが、ちゃんと根拠のリンクもある
Perplexityでの検索結果。どのウェブサイトを参考にしたかが上部に表示される

それらの場合、内容をまとめるために使われたウェブサイトのリンクが組み込まれるのが違いだ。

これと同じ考え方を導入したのが「AIモード」である。

AIモードでの検索結果。ソースとした情報は右側に並ぶ

生成AIがもたらした変化を検索サービスの側に取り込んだのがAIモード、という言い方ができるだろう。

この手法は後追いだ。検索結果は違うが表示形式は似ており、そういう意味では特別な存在ではない。

質問に長い文章を使い、具体的な質問をするほどちゃんとした回答を返す。一方で、質問の文章が誤解を生むものだと答えも思ったものにはならないので、その時には追加質問で精度を上げていく。

いままでの検索とは違った存在だが、慣れるとこちらをメインに使うようになる。筆者も最近は、AIモードで検索するのが自然になってきた。

以前からGoogleは検索に「AI」を活用

ただ、Googleは以前より検索にAIを使っていた。

ページ同士の相互参照量をベースにした「ページランク」だけを使っていたのは遥か昔のこと。現在はより複雑に中身を見ながら検索結果を決めている。

大きな要因となったのは、医療関連や公的機関を騙る情報の増加であり、リンク先を多数読まないと情報にたどり着けない、というネット検索の根本的な課題である。

2014年、Googleは検索結果の最上段に「強調スニペット」という情報を表示するようになった。要はここを見ればいい、という仕組みを用意しつつ、同時に今までのネット検索を同時に表示する……という形にしたわけだ。

AIモードに先立って導入された「AIによる概要(AI Overview)」もその発展系である。

「AIによる概要(AI Overview)」の例。強調スニペットの中に「ざっくりとしたまとめ」のような形で表示される

AI Overviewは情報の信頼性という面で評判が良くない。おそらくは、情報をどう集めてまとめるか、という部分が異なるためだろう。

AIモードは同じAIを使ったまとめに見えるが、AI Overviewに比べると精度が高い印象はある。

気がついていない人も多いが、「具体的に文章で検索する」ことは、なにもAIモードだけの特質ではない。現在のGoogle検索は自然文にも対応していて、AIモードと同じように文章で検索できる。

よく見ると、検索欄に長文が入力されている点に注目

答えをどう見せるのか、どうまとめるかが違うだけなのだ。

なお、GoogleがAIモードを導入する上で使ったテクノロジーの詳細は、以下のサイトで公開されているPDFの中で解説されている。

AI Overviews and AI Mode in Search

サービスによる違いはどう見えるのか

課題は複数ある。

1つ目は「他のAIチャットサービスとどう違うのか」という点だ。

シンプルなのは「Googleの検索欄に紐づいている」という点だ。

他社はウェブサービスやアプリをまず開く必要がある。だが、Googleの検索はスマホでも多くのウェブブラウザーでも、今は標準的な存在。検索窓を握っていて、多くの人の習慣に紐づいているのは強い。

AIモードは「オプション」としての検索機能だ。通常の検索をしただけでは使われない。検索した後に「AIモード」をクリックすれば、入力済みの検索内容を使って「AIに詳しく聞く」ことができるようになっている。だから、Google検索の答えが物足りない時は、そのまま画面上の「AIモード」をクリックするだけでいい。

Googleも、まだすべてをAIモードに託せない。利用者も、従来の検索行動を離れてすべてをAIに託せるわけでもない。その結果として、あくまでオプションである「検索モード」の一つになっているわけだが、現状ではいい落とし所だろう。

「あくまで検索機能である」という点も差別化要因だ。

ChatGPTをはじめとしたAIチャットサービスは、本質的には「複数の用途を持ったサービス」だ。一緒に話すこともできれば、文章の翻訳や要約も可能。質問に答えてくれる、という検索的な用途は、あくまで1つの要素でしかない。

逆に言えば、検索そのものがAIチャットサービスの本質ではないので、もっと高度なものも提供している。多段的な推論とネット検索を組み合わせた、いわゆる「Deep Research」系の機能がそれだ。

Open AIが最初に導入したものだが、GeminiでもPerplexityでも、同じような機能がある。長いレポートのような、しっかりした回答を求めるならこちらの方が良い。

ChatGPTでのDeep Research。ある意味ネット検索だが、より高度な叩き台を作るものと言える

とはいえ、回答までには最低でも数分から十数分の時間を必要とするため、日常的な検索には向かない。

日常的な検索では素早さも重要。そこは一般的なGoogle検索でカバーしつつ、その先を「ワンクリックでAIに聞ける」のがAIモードの特徴であり、最初から深い答えを聞いて考えたいなら、Deep Research系を使う方がいい。

同じGoogleのサービスでも、GeminiとGoogle検索のAIモードは別々に存在しているし、アウトプットの形も違う。それは、「検索とAIチャットはやはりニーズが異なる」という判断に基づくものではないか。案外「社内が縦割りでサービスが分かれている」だけかもしれないが。

また、AIチャットに質問した場合、「必ず回答の根拠が示されるわけではない」という点も重要だ。

Deep Research系を含め、ネットを検索した上で答えをまとめる場合もあるが、選んだモードや回答の内容によっては、根拠として使ったウェブサイトへのリンクが示されないこともある。

Geminiに聞いた場合。ここでは根拠などのリンクが示されなかった

内容が示されればそれでいい……と思う人もいそうだが、根拠があるとないとでは大きく異なる。

回答の妥当性を判断するにも、根拠の提示は重要だ。根拠なく生成AIが示すものと、確実と言えないまでも根拠が示されているものとでは、やはり使い方も価値も変わる。

なお、以下に今回の記事で使った回答のリンクを並べておく。違いが気になる方はチェックしてみていただきたい。

・Google AIモード
https://share.google/aimode/qTs2VcvMTq3Grtrr5

・Gemini
https://gemini.google.com/share/c9f72b41b884

・ChatGPT
https://chatgpt.com/s/t_68ec43d4334881918e37769cf885132c

・ChatGPT Deep Research
https://chatgpt.com/share/68ecf5a3-07e0-8010-abec-89c390a66847

・Perplexity
https://www.perplexity.ai/search/yu-suan-8mo-yuan-teliang-ihetu-uGUw8wN9TgSEq.YL20XGjA#0

・Microsoft Copilot
https://copilot.microsoft.com/shares/z8w3B47czy9YdgVQLnsVe

「AIの先は読まれない」ものなのか

AIが検索の代わりに使われるようになると、問題になるのは「ネットの秩序が壊れるのではないか」という話だ。

AIがまとめた情報を読むようになれば、その先を読む必要は減る。いわゆる「ゼロクリック」になるのでは……という考え方だ。

ただ現状、ウェブのトラフィックに大きな影響がでたという決定的な証拠はない。

「トラフィックが減った」という報道はいくつもあるが、筆者も複数のSEO専門家などに聞いた範囲では「少なくとも今は、明確なトラフィックへの影響は見えない」という。

これは、AIチャットサービス自体の利用者がネットでの行動全体でまだ多数派でない、という事情もあるだろうし、AIモードの利用もたいした量ではないはずだ。

だが、将来的に利用が増えてきたとき、「ゼロクリック」の影響が見えてくる可能性は否定できない。

Googleはこの点をかなり楽観視しているように見える。

8月にも、各種の報道に呼応するように、AIモードによるトラフィックの効果について解説する情報をブログに公開した。

検索における AI : クエリ数が増加しクリックの質が向上

この内容はシンプルに言えば、「多くの質問ではゼロクリックにならず、より深く知るために根拠となったウェブをクリックする」というものだ。

実は筆者も、たしかにそういう行動をしている。だから、単純にゼロクリックになると考えるのはシンプルすぎる、という意見には賛成だ。

また、AIモードを含むAI検索によって、「検索した言語以外の情報が出てくる可能性が高い」という点も指摘しておきたい。

従来、他国語で書かれた情報を検索するのは大変だった。英語ですら、仕事や趣味で必要性に迫られないとやらない、という人の方が多いのではないだろうか。

しかし、AIでまとめるということになると話は別だ。AI検索の結果に他国語の情報が入ってくることはかなり多い。そうなると、英語に偏っていた情報流通の言語の壁が、ほんの少しだけ崩れる可能性がある。

この傾向はDeep Research系にも存在するが、AIモードでも同様だ。

だから、情報の多様化という意味では確実に、従来の検索とは異なるトラフィックを生む可能性がある。

それでもAI検索で「ネットの秩序」は変わる

この10年、ネットは「安価に水増しされたコンテンツ」に悩まされてきた。

さすがに「いかがでしたか?」(*)レベルの記事は減ってきたものの、量産されたコンテンツが検索で上位に来ることを防止できていない。

*編注:興味を惹きそうなタイトルだが、記事の内容が薄く、記事の最後に「いかがでしたか?」と問いかけることで締めくくられているブログや記事のこと

ではAI検索の時代にどうなるか?

AIモードを日常的に使っていると、AIにまとめられる情報は「相応に価値があるもの」が多い。単に検索ランクの上位にあるものをAIがまとめるのではなく、検索した結果を目的に合うものをまとめるため、おそらくだが「引用するに足るもの」が選ばれる傾向にある。

同時に感じたのが、「公式情報の価値の向上」だ。

メーカーがFAQを充実させても、これまでは費用対効果が低かった部分がある。しかし「AIがまとめてくれる」前提に立てば、仮に直接アクセスが増えなくとも、メーカーと商品のためにはプラスになる。

すでにウェブだけでなく、YouTubeの動画もAIモードでの「まとめの対象」になっており、動画としてサポート情報を充実させる価値は高まるだろう。

この傾向がずっと機能するなら、「価値あるコンテンツをピックアップする」仕組みが生まれたということにもなるだろう。量産されたコンテンツは数こそ多いが、質を伴っていない。AIモードは根拠や質を重視する傾向にあり、結果として現状は「量産コンテンツよりも、根拠として多く参照されているもの」に有利なアルゴリズムになっているように見える。

ただ、今後長期的なことを考えると、AIがまとめるのに使ったウェブの情報には、なんらかの「より高い価値」が認められるべきだとは思う。とにかくページが回れば広告費が稼げるという薄利多売型ではなく、ちゃんと「使われる記事」に広告価値が生まれる仕組みが求められる。

ショッピングを軸に広告が変化する

個人的には、AI検索時代にさらに価値を持ってくると思うのが「ショッピング連動」だ。

AI検索で買うものを検索する時に、筆者は今までのECサービスとは違うなにかを感じる。

それは「詳しい店員に聞く」ことに近い印象だ。

単に検索で結果を出すのではなく、出てきたものについてより詳しく聞いたり、別の方向から商品をお勧めしてもらったりするのは、店舗で詳しい店員に話を聞く行動に似ている。

AIモードはショッピングに使うと、従来の検索とは異なる感覚を楽しめる

AIモードで製品を見つける場合、根拠になっているのはメディアの記事や個人が詳しく調べたブログであることも多いが、同時に、商品ページなども参照されている。

ここにECサイトの商品ページが出てくると、価値は今のネット検索より大きくなるだろう。

Googleはアメリカで、AI OverviewやAIモードに広告を挿入するようになった。そこではいわゆる運用型広告だけでなく、ショッピング連携の情報も重視されている。

これは、Google自体が「じっくり読むAIモードにはショッピング連動が重要」と分析しているからではないか。

チャットAIサービスは、無料からサブスクへとシフトしている。サービス運営にコストがかかるためだが、同時に、「ネット広告」という巨大な市場に踏み込むのはリスクもあるからだろう。単に広告を導入するだけでは、薄利多売なネット広告の世界に巻き取られてしまうだけだし、プライバシー維持の問題も大きくなる。

AIモードを見ていると、なんだかんだでGoogleの強みは「検索と広告の連動」にあるのが見えてくる。影響力が大きすぎるので規制を……という話はまだ尾を引きそうだ。

一方で、他社がこの状況に勝つには、「広告連動ではないネットの姿」を構築していくしかないような気もしてくる。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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