小寺信良のくらしDX

第8回

電気がタイムセール!? 九州電力が挑む「エコチャレンジ」

タイムセールと言えば、もはやAmazonの風物詩的イベントになっている。決まった日時だけディスカウント価格で物品が買えるセールなわけだが、この電気代高騰のなか「タイムセールで電気代が安くなる」としたらどうだろう。そういった取り組みを、10月1日から九州電力がスタートさせた。

理屈はこうだ。九州電力では原子力発電所のテロ対策が完了した順に再稼働させており、玄海発電所と川内発電所で合計4機が稼働している。ベース電力をこれで賄いつつ、調整可能な火力発電はもちろん、再生可能エネルギーは地熱、風力、水力、太陽光、バイオマスなど多彩な方法で発電している。

このうち太陽光発電は、福島第一原発事故以来15倍に増えている。元々九州は日照条件がいいこともあり、発電量も多い。春秋のエアコンを使わない季節では電力需要が減るわけだが、天気が良ければ太陽光は発電してしまう。火力を抑制してもさらに余るため、これまでは発電した電気を捨てる「出力調整」を行なってきた。その量、昨年度実績でおよそ15万世帯分。

これはもったいないというわけで、天気が良く電力が余りそうな日には、普段より多く電気を使って貰う為に、使った電気代をPayPayポイントで還元しようというわけだ。

これは料金ブラン別に、2つのコースに別れている。「タイムセール」はオール電化向けプランが対象で、還元率が高い。対象時間中のすべての電気代が、ポイント還元によって実質無料になる。

「使ってお得・エコチャレンジ」はそれ以外のプランが対象だ。指定時間中、普段の平均よりも多く電力を使うと、その余剰分の電気代の一部がポイントで還元される。そのほか電力計がスマートメーターであることが条件となる。

還元プランの条件

筆者宅はオール電化ではないが、スマートメーターは付いているので、「使ってお得・エコチャレンジ」にエントリーしてみた。

「儲かる」わけではないが、やって楽しい

「使ってお得・エコチャレンジ」に参加するには、「給電eco」アプリをインストールして設定しておく。このアプリの通知機能を使って、スマートフォンにチャレンジ開始のお知らせが届く。これまでの実績では、だいたい前日のお昼過ぎに通知が届き、翌日の11時から14時ぐらいまでがチャレンジ対象時間となる。

前日にチャレンジの通知が届く
過去の実績よりも余分に電気を使うと、ポイントがもらえる

通知をタップするとアプリへ飛ぶので、「参加する」をタップしてエントリー完了だ。あとは当日、普段よりも多めに家電製品などを動かせばよい。洗濯機や炊飯器、その時間にアイロンがけする、食洗機を回すなど、割と消費電力高めの家事を行なうだけで十分だ。

結果は2日後ぐらいに報告される。電力を多く消費すると、消費分に応じてポイントがもらえるわけだ。特に筆者宅は自宅でもソーラー発電しているので、家で仕事をしている割には普段の消費電力が低い。ちょっと意識して何か家電を動かしただけで、すぐ普段の量を超える。

1kWhで15ポイントだが、0.65kWhで10ポイント貰えた
ポイントはPayPayにチャージ。期限は1カ月

PayPayポイントにチャージしてもしょせん10円なので大したことはないわけだが、電気を無駄に捨てなかったという満足感は得られる。どのみちいつかは電気を使うわけで、その時間にシフトするだけだ。炊飯器や洗濯機などタイマーで動かせる家電も多いので、その時間に家にいなくても参加できる。

こうしたシカケができるのも、電力計がスマートメーターとなり、各家庭の電力消費状況が細かく測定できるからだ。これまでスマートメーターは、いちいち検針に行かなくてもいいなど電力会社側にはメリットがあるものの、消費者側には特にメリットがなかった。だがこうした細かな消費変動に対してポイント還元されるのであれば、消費者にもメリットが出てくる。

この取り組み、プレスリリースが出た9月末には大手メディアで記事化されたものの、後追い記事はほぼないので、九州電力管内でも知らない人は結構多いのではないだろうか。特にオール電化プランの利用者は、エントリーするだけでその時間の電気代全部がポイント還元の対象になるので、それこそ「知らないと損」をする。

このチャレンジで、出力調整の必要がないほどには消費は伸びないかもしれない。だが出力調整の本番は秋よりも、むしろ日差しが強まってくる春夏である。出力制限を行なった回数で見ると、昨年10月から11月は11回だが、今年4月から8月には54回実施された。今年のチャレンジは取りあえず11月までで終わりだが、来年4月からがむしろ本番になるだろう。

例えば前回ご紹介したEcoflowのポータブルバッテリー「River2」は、遠隔地からAC充電時間をコントロールできるので、チャレンジ時間中に充電して電力を貯めておき、夜にまとめて使うということもできる。自宅でソーラーパネルを展開しなくても、実質タダで充電できるというわけだ。来年4月以降も引き続きチャレンジが行なわれるようであれば、もう少し大型のバッテリーを追加購入してもいいかもしれない。

出力制限は九州電力に限ったことではなく、全国の電力会社でも行なわれている。本来ならば天気の悪い地域に送電してフラット化すべきなのだろうが、電源周波数の違いもあり、簡単にはいかない。電力会社管内でシフトするという方法が一番シンプルだ。

実際にチャレンジに参加してみてわかったのは、10円儲かったということよりも、電力シフトした成果が可視化され、何らかの成果が上がったというモチベーションが得られるのが大きい。次はもうちょっとこうしてやろうなど、作戦を考えるのも楽しい。

東日本大震災直後の電力ひっ迫時に手動による電力シフトが求められたものだが、あれから10年あまりが経過した現在、より一段進んだ電力シフトが可能になってきた。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。