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"いまさら再使用ロケット"ではない JAXA「RV-X」の強みとは?
2026年7月17日 08:20
2026年7月11日、JAXAは約10年開発してきた再使用ロケット実験機「RV-X」の飛行試験を実施しました。機体は高度約11mまで上昇し、約16m水平に移動して無事に着陸しました。これは地上付近での短時間の飛行ですが、次世代ロケットの再使用化に向けて歩みを進めたのです。日本のこれまでの再使用ロケット開発と、今回の試験で獲得できる技術、また将来に向けて必要な要素を概観してみましょう。
JAXA発足前の1990年代後半、宇宙科学研究所(現JAXA宇宙科学研究所)では、再使用ロケット実験機「RVT」の研究を開始しました。RVTは2007年までに高度40mまでの離着陸実験を計8回行ない、主に機体の再使用化に伴う運用性やシステム構築に関する普遍的な技術課題への取り組みを行ないました。
現在は米SpaceXが1段再使用が可能な液体燃料ロケット「Falcon 9」を運用し大きな成果を上げていますが、RVT開発の時代はまだFalcon 9の開発前です。この時代に再使用可能な機体といえばまずスペースシャトルのオービターがありました。
また米マクダネル・ダグラスがNASAのために開発した再使用可能な単段式軌道投入ロケット「DC-X」通称デルタ・クリッパーがあります。DC-Xは1993年から1996年まで飛行試験を行ない、高度約3,140mまで到達し着陸しました。
単段式で機体全体の再使用が可能であること、機体形状などの一致点から、DC-XはRVT研究を触発した存在だといえるでしょう。しかしNASAは1996年の飛行を最後にプロジェクトを中止し、軌道到達の実績を上げることはありませんでした。
RVTの次のステップとして、JAXAは高度100kmに到達し帰還する「再使用観測ロケット」の実現を目指し、準備活動を進めてきました。このプロジェクトでは、100回以上の繰り返し使用が可能な推力4トン級のエンジン(RSRエンジン)の開発や、極低温推進剤タンク断熱材の繰り返し使用、帰還・着陸飛行方式、推進剤マネジメント技術など、システム設計を大きく左右する8つの要素技術の実証が行なわれました。
RV-Xプロジェクトの開始
2016年度から「再使用観測ロケット技術実証」等で獲得した技術や開発したコンポーネント(エンジンなど)を最大限に活用し、次世代の基幹ロケット第1段の再使用化と宇宙輸送コストの大幅低減を目指して、小型実験機RV-Xの開発がスタートしました。
プロジェクトは三菱重工業(MHI)等の企業との共同研究であり、既存の民生品の活用や過去の実験で使用したバルブ類を再利用することで、新規開発を極力抑え低コストでのシステム実証プラットフォーム構築を目指しています。その後、エンジン等のフライト仕様への改修や機体のインテグレーション、地上燃焼試験による推進系や誘導制御システムの検証などを経て、飛行試験に向けた準備が進められてきました。
RV-Xの機体概要
小型実験機(RV-X)は、全高約7.3mで4基の着陸脚を備えた小型、単段式の試験機です。H3ロケットの1段LE-9と同じエキスパンダーブリードサイクルエンジンを1基備え、推進剤は液体水素/液体酸素を使用しています。エンジンは再使用観測ロケット技術実証で100回以上の再使用性が実証されています。
着陸脚には緩衝機構として摩擦ダンパーを用い、姿勢制御はエンジンジンバルおよびガスジェット(RCS)で行ないます。
米国ではSpaceXという大きく先行する再使用宇宙輸送システムがありますが、差別化を図るためRV-Xは推進剤や帰還方式に独自性を持っています。
ひとつは燃料に「液体水素(LH2)」を採用している点。Falcon 9の第1段エンジンは燃料にケロシンを、開発中のStarshipはメタンを燃料としています。一方でRV-Xは液体水素と液体酸素を推進剤としています。水素は沸点が極めて低く爆発しやすいため、取り扱いが難しく技術的な難易度が高くなります。ですがメタン等と比較してロケットエンジンの燃費(比推力)が非常に良いため、打上げ時の機体を大幅に軽量化できるという大きな長所を持っています。
次に空力制御を活用した「帰還燃料の最小化」に挑む飛行方式を取っています。RV-Xが将来的に目指している帰還飛行は、エンジンの推力(逆噴射)だけに頼るのではなく、機体が受ける空気抵抗を積極的に利用して減速する独自の方式です。
具体的には、上空から滑空してきた後、エレベータやボディフラップといった空力制御デバイスを用いて機体の姿勢を空気抵抗が大きくなる方向(迎角90度付近)へと大きく転回させます。これにより空力で十分に減速した後に、エンジンを再着火して着陸姿勢(鉛直上向き)へと再度転回して着陸します。
この大規模な姿勢転回を伴う方式は技術的なハードルが非常に高いものの、帰還時の減速に必要な推進薬の消費量を最小化できるため、将来の本格的な再使用輸送機にとって大きな強みとなります。
民生品の活用とコンポーネント再利用による「徹底した低コスト設計」をめざし、推進剤タンクの断熱材に一般建材用の断熱材、着陸脚に耐震ダンパー、気蓄器に天然ガス車両用の複合材容器といった既存の民生品を機体の主構造やシステムに転用してきました。
また、高度な繰り返し運用(24時間での再打上げ=ターンアラウンド)や寿命管理設計、故障許容システムの構築などの点で差別化を図っています。特に搭載されるエンジンは、過去の「再使用観測ロケット技術実証」において再着火を含み142回の着火実績を達成しており、フライト換算で100回再使用可能な寿命を満たすことが実証された極めて信頼性の高いものです。
RV-Xは単なる「再使用できるロケットの実験機」にとどまらず、将来の日本の基幹ロケットが国際競争力を持つために必要な、水素燃料の活用、独自の空力減速技術、極限までの低コスト化・長寿命化といった非常に挑戦的な技術を盛り込んでいる点に独自の価値があります。
2026年の飛行試験で何を獲得するのか?
これまでRV-Xはコンポーネントレベルの試験や、機体をクレーンで吊り上げた状態での誘導制御検証、地上燃焼試験などの地上試験において多くの技術獲得ができているものの、実際に飛行してシステムの健全性を検証しデータを取得することはできていませんでした。
実際に運用することで着陸やその後の運用技術などを獲得し熟成することが必要です。将来の基幹ロケットへの適用も視野に入れ、水素燃料エンジンの安全性を確保しながら機体を再使用しなくてはなりません。特に、ロケット第1段機体の再使用に向けた着陸段階での誘導制御技術に関する基礎データの取得を目指していました。
2026年の飛行試験(飛行試験フェーズ1)は、着陸に関する技術として、下記の目標をもって行なわれました。
- 推力を制御しながらの安定した離着陸の実現
- エンジンの推力を広範囲(40%〜100%)にわたって連続的に調整・減速させ、着陸を制御するポンプ式エンジン・ディープスロットリング技術の実証
- エンジンジンバルによるピッチ・ヨー(縦横)の制御と、GN2ガスジェットによるロール(回転)の制御を組み合わせた姿勢の安定化
- 繰り返し使用可能で着陸時の衝撃を吸収する着陸脚の機能検証
- 飛行と飛行の間で行なう点検や推進剤の再充填など、再打上げまでの再整備作業を短時間かつ効率的に行なうターンアラウンド運用の実践
- 離着陸飛行が機体へ与える影響の検証
いずれも再使用ロケット確立のために必要ですが、中でも「ターンアラウンド運用実践」は再使用ならではの要素です。
再使用ロケットの実運用では、打上げミッション後に地上に帰還した後、機体を整備して次の打上げへの準備が必要になります。この繰り返しをターンアラウンドと呼ぶわけですが、整備に時間がかかりすぎたり、反対に整備が足りなかったりすれば、いずれも実用にはなりません。適切な期間でミッション、整備、再ミッションというサイクルを繰り返せるのか、ということも検証しなくてはなりません。
RV-Xは当初、3月に打上げが予定されていました。その飛行試験では、1週間のインターバルを置いて2回の飛行試験を実施する予定でした。JAXAの伊藤隆研究開発マネージャによれば、この1週間という時間は「整備にこの程度の時間はかかるだろう」という必要な作業からの積み上げと、「1週間で整備して次の打上げに備える」という実運用を模した想定と両方の要素を元に設定したとのこと。単に機体を開発するということだけでなく、実用的な再使用ロケットというシステムを獲得するために何が必要なのか逆算した結果だといえます。
飛行試験の結果
2026年7月にJAXA能代ロケット実験場で実施された飛行試験は、離陸から着陸まで約40秒間の飛行時間を達成しました。高度約11mまで垂直に上昇し、約16m水平移動した後に垂直降下して着陸しました。
計画されていた飛行プロファイルは高度10m、水平移動距離15mだったことから、目標の飛行を達成したことになります。またエンジンは今回で165回目の燃焼を達成したとのこと。耐久性という点で相当な実績を積むことができました。
今後は試験で取得したデータの解析を行なっていく段階です。また1週間後の再飛行はまだ確実ではなく、ターンアラウンド実証に踏み込むことができるのかは検討を必要とします。RVTの研究の際には24時間ターンアラウンドという挑戦的な課題に挑んだこともあり、発展を見据えた開発の継続が期待されます。
RV-Xの研究は、今後は欧州の再使用ロケット開発に合流し、仏独と日本の共同開発による試験機「CALLISTO(カリスト)」での飛行試験につながる予定です。より高高度、超音速域まで試験の範囲を広げる予定で、2026年度中に飛行試験を開始する目標です。






