小寺信良のシティ・カントリー・シティ

第20回

情報の地産地消を模索する

東京との距離感

平日の誰もいない海で仕事できるのも専業ライターの特権

いわゆる「メディア」というのは、東京都内に集中している。テレビ局はほとんど港区に、出版社や新聞社はほとんど千代田区に集まっている。そうなれば当然Webコンテンツの拠点も東京ということになる。

ここ宮崎にて兼業から専業ライターに戻っておよそ1カ月、東京のなじみのメディアにご挨拶したり営業をかけたりしながら、徐々に東京からの仕事も増えつつある。東京から遠く離れて、実際にあって打ち合わせが難しい距離ではあるが、実際には埼玉県在住の頃から顔を合わせて打ち合わせというのは少なかった。

筆者が住んでいたさいたま市は新宿まで電車で30分もかからないのだが、なぜか多くの人は埼玉在住と聞くと、「遠くから打ち合わせに来るのは大変でしょうからなにか東京に出てくるついでに」などと言うのだ。取材や買い物でしょっちゅう東京に出ているだから、ちょこっと立ち寄るぐらいどうということもないのだが、なぜか大変気を使われてしまう。したがって新しい仕事はメールやメッセンジャー、若しくは電話でやり取りして決まるというのがほとんどであった。

つまり打ち合わせに関しては実際の距離はあまり重要ではなく、「東京からの距離のイメージ」が先行する。打ち合わせというのはギャランティが発生するわけでもなく、仕事が発注できるかどうかまだ決定できない状況であることが多い。わざわざ時間をかけて遠くから来て貰って、やっぱりナシで、となる可能性もあるとすれば、発注する側も気が引けるだろう。

10年以上前はそれを察して、何もなくても出版社や編集部に顔を出していたものだ。そうしていれば近くにいる、すぐに対応できるライターというイメージになる。編集フロアに行けば、どこかで同業ライターが雑談していたり打ち合わせしていたりという場面に遭遇したものである。

しかし今では、編集者自体が出勤していないので、編集部に顔を出して仕事を拾うというのも不可能になった。加えてメーカーの発表会や事前説明会のほとんどが、オンラインで開催されるようになり、都内へ出かける必要性が減った。

だがそうなると、メーカーさんとの雑談中に次のコラムのヒントを得たり、仲間内で新しいメディアの人を紹介して貰ったりという、クローズドな場での展開が難しくなる。広く繋がりたがる特性を持つネットの中で、オフレコをオフレコのままで維持するのは難しい。

「場を限る」という方法論

ここ宮崎において、地元のWebメディアというものもある。せっかくなので少しずつ地元メディアの仕事も手伝い始めたところだが、ほぼほぼ新装オープンしたお店や新メニューといったストレートニュースしか需要がない。さらにそれらのマネタイズも四苦八苦しているところだ。

宮崎の数少ないローカルニュースサイト「ひなた宮崎経済新聞

なぜならば、ローカルニュースサイトに広告を出してくれるような、有力な企業が地元にないからである。地方の有力企業はほぼ東京に本社を置く支店に過ぎず、広告出稿や広報予算は大抵本社決済である。地域貢献として災害復興などには協力してくれるが、地元のメディアを育てるという意識はない。多くの人は、Webの情報は東京のもので、地方の生活との関係性は薄いと考えている。地元の面白い情報がネットで探せるという感覚もないし、実際に探してもネットにはない。

それらの情報は、主に飲み屋街である「ニチタチ」の店の中に転がっている。ニシタチは西橘通り(にしたちばなどおり)の略称である。新宿の思い出横丁、渋谷ののんべい横丁みたいなところだ。宮崎は人口比率で言えば日本一スナックが多い土地だというが、それだけ小さい店が多い。

小さい店でもやっていけるのは、それらの店が独自の情報のハブになっているからである。例えば不動産関係はあの店、サーファーはこの店、県外からの移住者が集まるのはここ、といった具合に棲み分けができている。地元の「面白い人たち」は、それらの店をハシゴしながら情報を拾ったりばらまいたりしていく。

それら飲み屋街で拾った情報は、ウラを取れば面白い記事にできる。東京なら、どこかのメディアでコラム化できるはずだ。だが地方では、地元でしか通用しないそれらの情報をマネタイズする方法が見えてこない。東京の仕事だけしてれば生活はできるが、それは「地方に根付く」とは違う。

おそらくは、発想を全然変えないとダメなのだろう。筆者はこれまで東京でしかメディアの仕事をした事がないので、ダーッと作ってガバーっと蒔いてザーッと刈り取るみたいな、大雑把な仕事の仕方しか知らない。そもそもマスメディアとは、そういう性格のものだ。だが、宮崎で小さいスナックがやっていけているのは、逆に「大きくしないから」である。その考え方で行くと、メディアも広く蒔こうとしない、昔で言うミニコミ誌のようなやり方のほうがいいのだろうか。

今さら「紙」ではないことは当然だが、広く繋がりたがる特性を持つネットの中で、「一定の場に限る」という方法論が難しい。すでに先行例があるなら真似したいところだが、場を限ることに成功しているメディアはネットで探しても出てこないわけで、今のところ五里霧中というところである。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。