小寺信良のシティ・カントリー・シティ

第19回

帰ってきたフリーランス。会社を辞めて畑を借りる

1年3カ月の会社員生活

2019年3月末に宮崎に転居し、1年3カ月が過ぎた。昼間は会社員として義兄の法律会社に務め、夜はライターという二重生活を続けてきた。サラリーマン生活は実に20数年ぶりのことで、毎日決まった時間に起きて出勤するなどできるのかと思っていたのだが、やってみれば案外順応できるものである。

ただ、1年かけてどうにか仕事も覚えつつあったところではあったが、期待したほどの成果が上がらないとして、このまま続けるのもどうか、という話になった。確かにそれはそうかもしれない。20代の新入社員と比較すれば、50代の素人は覚えも悪いだろうし、体力的にも無理が効くわけではない。

会社の業務が常に自分のキャパシティの120%ぐらい積み上がっているため、夜7時~8時までの残業は当たり前、土曜日も隔週で出勤、場合によっては日曜出勤もある。しかしそれでは自分のことは当然、家族のことをやってあげられる時間が全く取れない。

せっかく故郷に帰ってきたのに、家と会社を往復し、疲れ果てて泥のように寝るだけの父親では、縁もゆかりもないこの地まで筆者を信じてついてきた家族に申し訳ない。

そういう忸怩たる思いは募るばかりであったが、今年1月に父を亡くし、自分は残りの人生を自分らしく生きられるのかと考えたりもした。業績が上がらない限り昇給もなしという事もあり、それならばと思い切って会社員生活を捨てて、フリーランスにもどる決心をした。

これからまた都会の生活に戻るわけではない。ここ宮崎の地でフリーランスの文筆業に復帰するのである。復帰するとは言っても、これまでも特に文筆をやめていたわけではないので、兼業を本業に戻すだけのことである。これまでは連載原稿しか手がつけられておらず、単発の仕事はほとんどお断りするしかなかったのだが、今後はそうした仕事も受けられるようになる。すでに各方面に対して復帰のご挨拶をしているところだが、ありがたい事に新しい案件もいくつかいただいている。

太陽を浴びながら

フリーランスに戻ったら、やってみたいことが沢山あった。まずその一つが、農業である。

宮崎は自然豊かなのが自慢だが、手付かずの自然ばかりが財産ではない。日照時間の長さ、平野部の広さ、河川の多さなど農業には有利な土地である。幸い新居の周りはまだ田畑が多く残っており、その中で菜園として畑を貸してくれる所を妻が見つけてきた。元々宮崎で農業をやりたいというのは、妻の希望でもあったのだ。

オーナーに電話で確認したところ、ちょうど空いている畑があるということで、会社を辞めて2日後にはもう畑を借り、苗を植え始めた。筆者も田舎育ちではあるが、代々公務員の家系に育ったので、本物の畑仕事はやったことがない。せいぜいプランターでキュウリやナスなどを育ててみたことはある程度である。

会社を辞めて2日後に畑を借りた

6月半ばでは、この地ではすでに植え付けには遅く、苗ももうあまり残っていないところではあったが、どうにかナスやキュウリ、トマト、里芋などの苗を探してきて植えてみた。うまくいくかわからないが、スイカの苗も植えてみた。

早速色々植えてみる

植えてしばらくは生憎の梅雨時で、どれも枯れてはいないが大して成長もしていない時期が続いた。この辺りは風の強い地域でもあるので、一部苗が折れたものもあった。しかしここ数日は晴天が続いて夏本番さながらの天気なので、一斉に成長し始めている。

オーナーも周りの畑の人も親切で、いろいろ教えてくれる。調子に乗ってルッコラや空芯菜、九条ネギもタネを撒いてみたところ、たちどころに芽を出した。特に空芯菜は成長が早く、芽を出したと思ったら翌日には2cmぐらいになっていた。以前埼玉にいた頃にプランターで育ててみたときの育ちの悪さとは大違いである。

急速に成長する空心菜

毎日見たからどうなるわけでもないが、ここのところ成長が楽しみで毎日畑に出かけている。野良仕事中はいつもBOSEのスピーカーでボサノバをかけながら作業しているので、この畑活動は「Bossa農業」と名付けている。

ボサノバをかけながらゆったりした時間を過ごす

もちろんこの程度で農業が語れるとは思っていないが、毎日太陽を浴びながら少しずつ成長する野菜たちを見ていると、人生もそういうものかなという気がしてくる。ここ1~2年はまさしくジェットコースターのような人生で、ずいぶん疲れも溜まってしまった。何事も毎日少しずつ、だ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。