石野純也のモバイル通信SE
第90回
コミケで実証されたドコモの5G SA対策 チグハグさの先の可能性
2026年1月14日 08:20
25年末に開催された「コミックマーケット107」で、ドコモはネットワークの混雑対策を公開した。
筆者もその現場を取材してきたが、会期初日の開場前後に多数の人が並ぶ状況でも、100Mbpsを大きく超えるスループットを記録し、快適に通信できている様子が確認できた。
例年、こうした対策は会期前に公開するのが一般的だったが、あえて“鉄火場”に記者を招いたところからも、ドコモの本気がうかがえる。
5G SAでなぜスループットが向上するのか
ドコモが取った対策は大きく分けて4つに分かれるが、共通しているのは、5G SA(スタンドアローン)をフル活用し、通信の容量を大きく上げたということだ。
周辺に元々設置されていた基地局だけでなく、臨時に設置した基地局や待機列のある駐車場に配備した移動基地局車も、すべて5G SAに対応させ、4Gへのトラフィックを減少させた。
結果として、NSA(ノンスタンドアローン)の5Gではやや詰まりがちだったところでも、SAでは問題なく通信できていた。5G SAへのトラフィックが増えれば、4G側のそれが減ることにつながるため、トータルで通信を分散できる。とは言え、5G SAも5Gとして使う周波数帯は基本的に同じ。理論値などのスペックが大きく上がるわけではない。
では、なぜここまで5G SAにすると、スループットが向上するのか。大きな理由の1つに、設備構成がシンプルになることがある。
NSAの場合、ネットワーク側でまず4Gにつなぎ、その後にアドオンとして5Gの周波数を足し合わせることになる。5G側の電波が弱いと、それを切り離し、再び4Gで通信を始めるなど、挙動が複雑だ。電波が弱いとアップロードができないなどの問題も起きやすい。5Gだけで接続する5G SAでは、この構成が簡素化されている。
NSAではアンカーバンドと呼ばれる4Gにつながるが、ここの周波数が限られているため、パケ詰まりの要因になりやすい。より広い高速道路に出ようとしても、そこに至るまでの料金ゲートの数が限られており、渋滞になってしまうようなイメージだ。
アンカーバンドがそもそも必要ない5G SAは、こうしたボトルネックなしで直接高速道路に出られるようなものと言える。
他社も5G SAがトラフィック増加対策になることはつかんでおり、対応を本格化させている。
KDDIは、Sub 6の全基地局を5G SAで運用しており、エリアを拡大。ソフトバンクは4Gから転用した周波数帯も含めて5G SA化を進めており、25年にそのペースを上げた。エリアの広さでは他社を凌駕している。
また、ソフトバンクは5G SA上でそのまま音声通話を行なう「VoNR」や、Apple WatchなどのIoT向けにスペックを落とした「RedCap」も導入している。
こうした新技術を導入しやすいのも、5G SAのメリット。4Gから5Gへの“つなぎ”として使われていたNSAだが、5Gのエリアが拡大したことで、いよいよ5G SAへの本格的な世代交代が起きようとしている。
ドコモの5G SAに必要なこと
ネットワーク品質の低下に苦しむドコモだが、こうした対策の結果を見ると、いかに5G SAを広げ、ユーザーに使ってもらうかが解決のカギになりそうだ。
ただ、Sub 6のすべてを5G SA化したKDDIや、間もなくエリアマップを公開するというところまで5G SAが広がったソフトバンクに比べると、ドコモの5G SAはまだ限定的なエリアでしか利用できない。
実際、ソフトバンクが25年12月に公開したデータでも、ソフトバンクやKDDI(と見られるC社)と比べ、ドコモのエリアが広がっていないことを示唆している。
このデータは、ソフトバンク傘下のAgoop社が取得したもので、実際のエリアではなく、利用者がどの程度5G SAで通信できているかを示すものだ。ドコモのネットワーク担当者によると、5G SAのエリア自体はペースを上げ、「首都圏では結構広げた」意識はあるというが、ソフトバンクの公開したデータと合わせて見ると、ユーザーの利用率が低い問題が浮かび上がってくる。
大きな要因として考えられそうなのが、ドコモの5G SAが“オプション扱い”になっていることだろう。機種変更などの際に対応機種だと契約変更がかかる他社とは違い、現状、ドコモの5G SAはオプションとしてユーザーが申し込まなければならず、そのハードルがかなり高い。しかも料金は終了期間未定のキャンペーンで無料になっているが、正価として550円が設定されている。
メリットが明確ではない5G SA、しかもいつかは有料になる可能性のあるそれを、自ら申し込むユーザーは少ないことが推察される。“一般人”ではなく、“逸般人”向けのオプションになってしまっているというわけだ。
これでは、いくら5G SAが仕様として優れていても、広がりが限定的になってしまう。せっかく整備したネットワークを使ってもらえないのは、あまりにもったいない。
こうしたネットワークと契約形態のちぐはぐさは、26年にドコモが改善しなければならないことの1つと言えそうだ。各社とも、5G SAの拡大に注力し、ネットワークの競争軸になっていく可能性もあるだけに、ドコモの決断が必要になる。
見えてきた5G SAの可能性
また、5G SAが広がってくると、ネットワークスライシングなどのサービスを導入しやすくなる。KDDIはauの料金プランと紐づけた「au 5G FastLane」を用意しており、料金プランに応じて通信品質でも差をつけられるようになっている。au 5G FastLane自体は、優先制御の仕組みを使っているだけで、ネットワークスライシングとは異なる技術だが、KDDIの松田浩路社長は、それを見据えたサービスであることを明言している。
海外では、ネットワークスライシングをオンラインゲーム用に適用するオプションや、大規模イベントでの安定通信を保証するサービスの提供も始まっており、コンシューマーに明確なメリットのある5G SAならではのサービスも徐々に広がっている。
26年には、単純なトラフィック対策を超えたサービスが登場することにも期待したい。
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— Junya ISHINO/石野純也 (@june_ya)December 19, 2025








