石野純也のモバイル通信SE
第319回
日本でiPhone「衛星経由のメッセージ」スタート
2025年12月9日 07:00
アップルは9日、日本でiPhoneの「衛星経由のメッセージ」を開始した。iPhone 14シリーズ以降の全iPhoneおよび、9月に発売された「Apple Watch Ultra 3」でこの機能を利用できるようになる。
これまでのiPhoneでも、「衛星経由の緊急SOS」が提供されていたが、これによってSOS以外のメッセージも送受信できるようになり、利用の幅が大きく広がる。
発動条件もこれまでの衛星経由の緊急SOSと同じで、iPhoneやApple Watch Ultra 3が圏外、かつWi-Fiにも接続していない時に利用可能になる。衛星通信用の専用メニューに、「メッセージ」という項目が追加される格好だ。
すでに、アメリカ、カナダ、メキシコの3カ国では提供が開始されており、ここに日本も追加された。
できること(iMessageテキスト・絵文字・タップバック)
衛星経由のメッセージには、衛星経由の緊急SOSと同じグローバルスターの低軌道衛星(LEO)を利用する。
LEOとスマホの直接通信というと、KDDIが提供している「au Starlink Direct」がおなじみだが、グローバルスターの衛星は軌道高度約1,400kmと、Starlinkの340kmよりも高い位置を周回している。そのぶん帯域も絞られるため、メッセージサービスに限定される。
au Starlink Directでは、対応した特定アプリのデータ通信も可能になったが、iPhoneの衛星経由のメッセージでは、iMessageのテキスト、絵文字とタップバック(メッセージにリアクションを返す機能)の3つに限定される。写真やビデオなどの送信はできない。また、相手が対応するキャリアの場合には、SMSも送ることが可能だ。
メッセージは自らが送信した相手からしか受信できない仕様になっている。これは、広告などのメッセージを多数受けて帯域を消費してしまうのを防ぐための措置だという。ただし、iCloudファミリーリンクでつながっていたり、緊急連絡先に設定していたりする家族からのメッセージは例外的に受信できるという。衛星経由のメッセージ送信が起点になるという点は、一般的なメッセージとの違いと言っていいだろう。
iMessageを受信した場合、衛星経由でメッセージが送信されたことが相手にも表示される。また、メッセージ送信中にはダイナミックアイランドに衛星の方向を示すビジュアルが表示され、iPhoneをどちらの方向に向けておけばいいかが分かりやすくなる。地上のネットワークに比べると電波が弱いため、このようなガイダンスが表示されるのは便利だ。
受信側のキャリアに制限
衛星経由のメッセージで送信されたSMSは、受信側のキャリアに制限がある点には注意が必要だ。具体的には現状、ドコモとソフトバンクの回線でしか受信ができない。相手がKDDIや楽天モバイルの回線だと、地上のネットワークにつながっていてもSMSは送信できないというわけだ。
iOS同士の場合には基本的にiMessageになる仕様を踏まえると、衛星経由のメッセージの受信が不可になるのはKDDIと楽天モバイルの中のAndroidユーザーに絞られる。これは、エンドツーエンドの独自プロトコルで暗号化していることもあり、受信にはキャリア側の対応も必要になるためだ。
なお、iPhoneが圏外になり、かつWi-Fiに接続していない状態で、KDDIのau Starlink Directに対応した料金プランを使っていると、まずStarlinkへの接続が優先されるという。Starlinkが途切れた場合、衛星経由のメッセージに切り替わる仕様で、衛星ダイレクト通信同士の連携も図られている。KDDIのユーザーには出番が少なくなりそうだが、より接続の手段が多様化するという点ではメリットがある。
au Starlink Directも、衛星が周回するタイミングによっては接続ができないことがあるからだ。また、同じKDDIでもUQ mobileやpovo2.0は、au Starlink Direct専用プランの契約が必要になる。こうした料金プランを契約していなくても、最低限のメッセージのやり取りができるのは安心感がある。山や海など、圏外になりやすい場所に出かけることが多い人には、うれしい機能と言えそうだ。
各社の衛星とスマホ活用と“つなぎ”の価値、これからの課題
衛星とスマホのダイレクト通信は、KDDI以外も導入予定を表明している。ドコモは26年夏、ソフトバンクは26年内とサービス開始時期を明かしており、楽天モバイルも、26年第4四半期までに「最強衛星サービス」をスタートさせる。
ドコモとソフトバンクはどのサービスを使うのかが公表されていないが、総務省への申請状況からKDDIと同じStarlinkになるとみられる。
26年には4キャリアが出そろう格好のダイレクト通信だが、現時点ではKDDI限定。他キャリアのユーザーには、サービスインまでの間、iPhoneやApple Watchの衛星経由のメッセージが“つなぎ”になりそうだ。また、サービスイン後も、KDDIのように料金プランを限定する可能性はある。このような時に、メッセージだけでも送受信できるiPhoneの機能が重宝されることになりそうだ。
現在、衛星経由のメッセージも衛星経由の緊急SOSと同様、2年間の無料期間が設定されていたが、2回の延長を経て、初代対応モデルのiPhone 14シリーズも現時点では料金がかからない。メッセージまで対応したことで、通信の幅は広がったが、コストがかかるサービスなだけに課金方法や料金体系をどうするかはアップルにとって今後の課題と言える。
もっとも、より多機能なau Starlink Directですら、単体での課金ではなく、料金プランの中に含める形になっている。いざという時に使う保険のようなサービスだが、毎月使うかどうかが分からない機能と月額課金はやや相性が悪い。通常の料金内に含めたau Starlink Directのように、iCloudやApple Oneと一体にするなど、何らかの工夫が必要になりそうだ。










