レビュー

バーチャルサイクリングで、なんと体重●kg減を達成! 30日間Zwiftチャレンジ【後編】

30日間で体重はどれだけ減らすことができたのか

あらすじ

テレワーク太りの解消のため、云十万円の投資とともにスマートサイクルトレーナー「Wahoo KICKR」を導入した(前編)。一カ月でマイナス5.8kgを目標に漕ぎ出した筆者の前に「4倍おじさん」が立ちはだかる

この世には「4倍おじさん」というのが存在する。

自転車やバーチャルサイクリングソフトの「Zwift」では、自転車のクランク(正確には後輪)を回したときのパワーを「W(ワット)」で表現しており、この値が大きければ大きいほど前に進む力が強いことを意味する。

Zwiftと組み合わせて使うスマートサイクルトレーナーの「Wahoo KICKR」は、いわばパワーメーターであって、その計測したパワー(とギア比)で仮想空間内の自転車の走行スピードが決まるわけだ。

原理的に体重が重い人ほどパワー値は高く出るため、ある程度公平に比べる指標としてはそれを体重で割った「出力体重比」が用いられることが多く、一般的には1時間連続走行したときの平均値が採用される。

自分の体重と同じ分だけパワーが出ていれば「1W/kg」で「1倍」、自分の体重の4倍のパワーが出ていれば「4W/kg」ということで、つまりそういうおじさんのことを「4倍おじさん」と呼んでいるようである。もちろん「2倍おねえさん」とか「5倍おにいさん」なんかもいるのかもしれないが、筆者は未確認だ。

さて、ここでみなさんに知っておいていただきたいのは、「4倍おじさん」は相当ロードバイクに乗り慣れた、素人から見ればとんでもなく速い、パワーお化けみたいな強者だということだ。4倍速いんだからそりゃ速い。0.1W/kgでも違えばそこにはいかんともしがたい高い壁が立ちはだかる世界だ。

2~3W/kgでひいひい言いながら登坂している横を「ばびゅん!」と一瞬で過ぎ去っていく4倍おじさんを見ると、「いやいやありえないでしょw」という乾いた笑いしか出ないくらいに絶望的な差がある(ちなみにプロの人たちは5.0W/kg以上らしい)。

3.1W/kg出している筆者の横を4.3W/kgで悠々と追い抜いていく「4倍おじさん」たち

すっかり前置きが長くなってしまったけれど、前回レポートしたように、2週間連続でZwiftにチャレンジしたにもかかわらず筆者の体重にはほとんど変化が見られなかった。目標は70kg切りだが、スタート時は76.5kgで、15日目時点ではマイナス0.7kgの75.8kgだ。残りの2週間で5.8kg減らすためには、抜本的な戦略の見直しが必要な状況である。

15日目までの体重推移。目標はあくまでも70kg切り

考えられる方策としては、食事を制限するか、バーチャルサイクリングの時間を増やすこと。しかし、好きなものは好きなだけ食べたいし、仕事の時間をこれ以上削るわけにもいかない。であるならば、あとは負荷を上げ、単位時間あたりの消費カロリーを増やすしかない。できれば憧れの「4倍おじさん」を目指したいところである。

毎日くじけないでZwiftを続けるのに大切なこと

トレーニングの終わりはいつも座り込むほど疲労する

しかし、スタート時は「2.5倍おじさん」がせいぜいだった筆者が、わずか1カ月で「4倍おじさん」になるまで鍛え上げるのはたぶん不可能だ。年単位で取り組むべきものである。それに4倍になったからといってマイナス5.8kgを達成できるとも思えない。やはり同時に食事制限をする必要もあるだろうと考え、「好きなものを好きなだけ食べる」から「好きなものはそこそこ食べる」くらいには変えることにした。

そんなわけで、「なんとしてもあと2週間でやせる」という鋼の意志のもと、毎食前に空腹感を覚える程度には食事量を控えめにし、そのうえで可能な限り負荷を上げることにした。以下でグラフにしているように、14日目までは2.5~2.7W/kgあたりだった筆者のパワーが、15日目以降は3W/kgに近づき、終盤には超える場面も出てきた。

30日目までのパワー値と消費カロリーの推移

ところで、ゲーム感覚で楽しめるZwiftとはいえ、よほど習慣づいていない限り30日間連続でプレーし続けるのは難しい、と感じた。半ば義務というか、仕事としてプレーしているので筆者の場合は嫌でもやらざるを得なかったのだが、それでも毎日タオルやらドリンクやらを用意して、同じ自転車にまたがって、少しでも減量できるよう毎回全力を出し切ることを考えるだけで気が重くなる。義務もなく、明確な目標も定めない状態だと、多くの人は苦痛を感じて挫折するに違いない。

「●kgまでダイエットするぞ!」という目標があっても、いかにモチベーションを保つかは、このZwiftに限らず、ランニングやウォーキング、その他健康維持のためのあらゆるスポーツ・エクササイズにおいても課題の1つだ。そこで、Zwiftに長く取り組むのにあたって筆者がおすすめしたいのは2つ。まず1つ目は、Zwiftのイベントやレースに参加してみることだ。

時には友人・知り合いとMEETUPするのも楽しい。スタート地点で待機中

Zwiftでは最初に決めたコースを、単独でひたすら周回する走り方ができるだけでなく、他の参加者を募ってみんなで一緒に走る「MEETUP」と呼ばれるイベントを開催できる。MEETUPでは、多少遅く走っても他のメンバーに引っ張られる形で巡航できる仕組みもあり、ライダー間で力の差があるときでも集団で走り抜くことができる。もちろんその仕組みを使わず、模擬レースにして競ってもいい。

気心の知れた友人たちと走るのには、バーチャルといえどリアルでグループライドしたときのような連帯感や楽しさがある。また、実力が近い人と競うことでトレーニング効果も上がり、新たな目標も生まれる。

1人で黙々と走っていると、どうしても「なぜこんなに苦しい思いをしてまで走らなければいけないんだ」という気持ちに傾きがちだが、MEETUPで走ると「苦しんでいるのは自分1人だけじゃないんだな」というのがわかって、なんだか安心するところもある。時々はMEETUPを開いて新たなモチベーションにつなげるのは、長く続けるうえで必要なことだ。

最初は「ゆっくり走る」とか言っていたのに、いざ終わりに近づくと本気になったりする

同じように、Zwiftの運営が開催しているレースイベントに参加することで、Zwiftのまた違った魅力を発見することもできる。この5月に開催されたレースイベントとしては、新型コロナウイルスに関連して、世界で活動する国境なき医師団への寄付を目的としたチャリティイベントがあった。このイベントではプロが参加するレースの他、一般の大勢のユーザーが一度に参加する全5ステージのレースが開催された。

自分のレベル(平均パワー)に合わせて走るクラスを選べるので、初心者でも気兼ねなく参加できる。画面内に少なくとも数百人が集結し、一斉にスタートして隊列を組んで走る様は、まさにテレビで見る自転車レースそのもので興奮することうけあい。レースということで、自然といつもより力が入る(消費カロリーが増える)し、自分の今の実力を知るのにも役立つはずだ。

5月はZwift運営が新型コロナウイルス関連のチャリティイベントとしてレースを開催。数百人が一斉にスタートする様は圧巻
プロトン(集団)で走る理由が、バーチャルでもなんとなくわかる。漫然と走っていても置いて行かれるか、脚が終わってしまう。駆け引きが必要だ

ライブ配信で自らにプレッシャーを与えるのもアリ

モチベーションを保つもう1つの方法は、常に「見られている」という状態を作り出すこと、かもしれない。これはMEETUPで仲間と走るのもそうだし、Zwiftのなかで他のユーザーとフォローし合う、ということでもいい。特に友人や知り合いと相互フォローしていると、スマートフォンのコンパニオンアプリ上で互いのトレーニング状況がわかるので、サボれないな、という緊張感が出てくる。

「アクティビティ」で相互フォローしているユーザーのトレーニング状況がわかる

また、それとは別に筆者として強くおすすめしたいのが、ライブ配信すること。SNSやYouTubeなどでZwiftをプレーしている様子を動画でライブ配信することで、(自分で勝手に)プレッシャーを感じながら真剣に取り組むことができる。見られていると思うとなんとなく恥ずかしい姿(だらだら100~200Wで走っているとか)は見せられないぞ、という気持ちになり、トレーニング効果も上がるのだ。

Facebook Liveで配信してみた。一般公開するのはちょっと怖いので、とりあえず友人限定で

単にZwiftの画面だけを配信するのもいいし、カメラも組み合わせて汗を大量に流しながらハアハア言っている自分の姿の映像を付け加えてもいい。筆者のようなおっさんのハアハア映像にどれだけ需要があるのかは、この際考える必要はない。ライブ配信の方法や画質を上げる方法、複数画面を配信する方法といったノウハウを貯めることにもつながるし、そういうノウハウ蓄積のためにZwiftをやっているんだという言い訳も作れる。おまけにトレーニング効果も上がるとあっては、やらないわけにはいかないだろう。

Webカメラ、もしくはアクションカムとHDMIキャプチャーデバイスなんかがあると、自分の姿も見せながら配信できる
完全に誰得状態ではあるが、意味とか見た目とか気にしてはいけない。見られているという意識をもつことが重要なのだ……
ワイプなどを表示しながら配信するなら、配信用ソフトの「OBS Studio」が便利

もしかすると、長く続けていれば「Zwift YouTuber」として名を馳せ、収益ガッポガッポ……なんて可能性もゼロではない。とりあえず友人限定でもいいのでライブ配信で誰かに「見られている」という状態を作り出すのは、Zwiftを継続するのに効果的じゃないかなあと考えている。

運命の最終結果。全期間の活動をまとめた動画もどうぞ

さて、そうやって30日間続けてきたZwiftチャレンジ、果たして結果はどうなったのか。食事は減らしたし、負荷を増やしてカロリー消費をアップさせたし、時間がとれる日には走りに走って1,300kCal近く稼いだときもあった。パワーは1時間平均で3.1~3.2W/kgまで伸ばすことができたようだ。これで体重が減らないわけがない! のだが、30日間(31日目まで)の体重・BMI・体脂肪率の推移は以下のグラフの通りとなった。

30日目までの体重・BMI・体脂肪率の推移

やはりというかなんというか、目標の70kg切りはできなかったが、なんとか2.2kg減量することに成功した。体脂肪率は体重と連動する形で減っていて、感覚的にも特に太ももあたりの筋肉量がぐっと増しているように思える(おかげで常に脚が筋肉痛というか、だるい)。軽い脂肪が減って、重い筋肉が増えている分、体重としては思ったほどの減量幅になっていないのかもしれないが、減量のペースとしてはまあまあではないだろうか。

Zwift内でのレベルは7の前半から13の後半まで上がった

ただ、バーチャルサイクリングで毎日700kCal以上消費しても体重減はわずかということがわかった。緊急事態宣言が延長され、今後も在宅勤務が続くなかこのチャレンジをストップしたとすれば、とたんに体重が上昇し始めることは間違いない。なので在宅勤務である限り、今後も毎日ずっとZwiftを続けなければ元の木阿弥だ。そんなわけで、企画としては終了したものの、今でもほぼ毎日Zwiftでバーチャルサイクリングしている筆者。目標の70kg切りはいつのことになるだろうか……。

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。AV機器、モバイル機器、IoT機器のほか、オンラインサービス、エンタープライズ向けソリューション、オートバイを含むオートモーティブ分野から旅行まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「できるGoProスタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS+Androidアプリ 完全大事典」シリーズ(技術評論社)など。Footprint Technologies株式会社 代表取締役。