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質と量を両立するAI時代の執筆術 原案/監修:人間 執筆:Gemini レビュー:Claude

「1日で3万字を書きました」――。驚異的なスピードで書籍『「作りたい」をカタチにする動画生成AI』(インプレス刊)を書き上げた著者・NOBU氏に、話を伺いました。

驚異的な執筆スピードの裏側には、AIを徹底的に活用したNOBU氏独自の執筆フローがありました。NOBU氏は「しゃべる」ことで一次ソースを提供し、実際の執筆はほぼAIに任せるというスタイルを確立。具体的には、Geminiが文章を執筆し、Claudeが執筆の仕様書と照らし合わせてレビューするという、AI同士の役割分担を構築したと語ります。

最大の特徴は、AIに「ルール」や「仕様書」を読み込ませ、AI自身に管理・改善させる点です。これによりAI特有の誤りや書籍のトーンに合わない内容を排除し、品質を担保しました。NOBU氏が語る、AIをアシスタントとして「監督」する未来の執筆術とはどのようなものなのか。その制作フローの全貌を、インタビューでお届けします。

「一人で三人分」の執筆体制

――今回の書籍は非常に速いスピードで執筆されましたよね。まず、どんな方法で執筆されたのか、全体像を教えてください。

NOBU:今回の執筆は、AIをフル活用しています。全体像としては、まず自分が書籍の解説内容を口頭でしゃべります。その音声を文字起こししたテキストをもとに、AIに執筆させ、さらに別のAIにレビューをさせました。1人で3人体制の執筆をしたような感じです。

――すごい。以前からこうした執筆をされていたんですか?

NOBU:いえ、今回はじめてやりました。最初はあまり複雑なフローにするつもりはなかったんです。それが、やっていくうちにAIに要求することが具体的になっていって、AIに守らせるルールも増えていき、AIにレビューもさせるようになりました。

自分がしゃべった「一次ソース」をもとに執筆させる

――どんな試行錯誤があったのか、くわしく教えてください。

NOBU:最初は本当に適当でした。「自分がしゃべった内容を文字起こしして、それをAIに渡して書籍の解説文っぽくしてもらえればいいな」くらいの考えで。まず、NotionのAIミーティングノートっていう機能を使って、書籍の解説内容をしゃべって文字起こしさせました。この文字起こししたテキストを「一次ソース」と呼んでいます。

で、その一次ソースをAIに渡して、書籍の解説文っぽくしてもらったんですが、私がしゃべっていない内容を勝手に付け足したり、いかにもAIっぽい文体が出てきたりと、いろいろ課題が出てきたんです。

――AIが出力したテキストのあるあるですね。

NOBU:そこで、そういう課題を克服するために、AIに守らせるルールを記載した「仕様書」を章ごとに作るようになりました。ルールというのはたとえば「一次ソースの内容を勝手に変えないで」「勝手に付け足さないで」「読者に興味を持たせるためにこの点には必ず触れて」みたいなものですね。

――確かに何も指示しないと、勝手に変えがちですからね。

NOBU:そうなんですよ。だからその点は仕様書でも「必ず従ってください」と強調していて。そのルールを守らせた結果、一次ソースに基づいて書いてくれるようになりました。ちなみに私はCursor(カーソル)というAIテキストエディタを利用していて、特定のファイルを参照させてAIに指示できます。たとえば「『一次ソース』ファイルをもとに解説書の文章を執筆してください。『仕様書』ファイルに書かれたルールを必ず守ってください」というような。

AIを縛る「ルール」をどんどん改善していくループ

NOBU:この仕様書に書いたルールは、執筆が進むにつれてどんどん膨大に増えていきました。たとえばイントロダクションにあたる第0章の仕様書は、最終的にテキストで数百行になっています。

――すごい量ですね。

NOBU:自分でも全部は把握してないんです(笑)。なぜかというと、このルールの作成や修正は完全にAIに任せて、何度もブラッシュアップさせているからです。たとえば、最初に原稿を提出した時、編集者から読みにくかったり、違和感があったりする部分についてフィードバックをもらいました。

私が話のノリで言ってしまった「魔法」って言葉を何度も使っていたり、その流れで「呪文」なんて言葉を使っていたり。そうした書籍のトーンに合わない部分はNGワードとしてルールに追加しました。そんなふうにAIにフィードバックして、仕様書のルールに追加させるループを繰り返していくことで、自分が期待するレベルの文章に少しずつ近づいていく。

文章の質を保つために、AIにルールを守らせる

――徐々に改善していくと。ルールの数がすごいです。法律の条文みたいにガチガチに縛っているんですね。

NOBU:そうですね。逆に言うと、これぐらいしないと、いわゆるハルシネーションみたいなことが出てきたり、すごいAIっぽい言い回しばっかりになってしまったりする。たまにルールが緩いからこそいい表現が出ることもあるんですけど、そこは再現性がなかったりして。安定を取るか、ばらつきを取るかですね。

それから、いくつかのAIモデルに文字起こしテキストを渡して出力させてみたら、Geminiの文体が個人的に良かったんです。そこで、その文体を解析させたんですよ、Claudeで。

――Geminiが出力したテキストをClaudeで解析?

NOBU:はい。構成とか文体とかを分析させて、うまくいった出力の文体を再現できるように仕様書のルールに追加して、もう1回再出力させたんです。それが大体似た出力になるまで、再現性が安定するまでルールの改善を繰り返しました。これもルールを改善するループの1つですね。

――(笑)。いやもう、このフロー自体がすごいなと思いました。

原案/監修:人間 執筆:Gemini レビュー:Claude

――AIのモデルにもいろいろありますが、比較してこのモデルが良かったというものはありますか?

NOBU:いくつかモデルを試して、メインの執筆はGeminiに決めました。個人的に、Geminiが一番「熱い文章を書く」というのがあったんです。

――「熱い文章」ですか?

NOBU:はい。いわゆる、人間が書いたっぽい、熱がこもってる感覚です。それが執筆当時のClaudeだと、ちょっと淡白だったんですよ。最近出たClaude Sonnet 4.5は結構いい文章を書きますけど、執筆当時はOpus 4とかで書いてもなんか硬いっていうか、「ああ、つまんないな」みたいな文章で。

――なるほど。

NOBU:でも、Geminiは、文章の区切りも短くリズム感があって、読んでいて伝わってくるものがありました。このへんは個人の好みもあると思いますが。

――では、メインの執筆はGeminiに担当させて。

NOBU:そうです。そしてClaudeには、先ほど話した仕様書を元に、上がってきたGeminiの原稿のチェックを担当させました。

――Claudeはレビュー担当なんですね。

NOBU:はい。だからGeminiが書いた原稿をClaudeがチェックして、もし仕様書のルールに反していたら、Claudeから修正依頼がGeminiに飛んで、再修正させるってしくみでした。

――最終的にNOBUさんは、Claudeがレビュー済みの原稿をチェックすると。書籍内容をしゃべる一次ソース作りと最終的な監修はやっていますけど、それ以外はほとんどAIのマネージメントをしているようなイメージですね。

NOBU:そうです、基本はそれでしたね。 キーボードで原稿を書くことはほとんどしていないです。

人間がしゃべり、Geminiが執筆し、Claudeがレビューするフロー

――なるほど。この執筆フローを構築する試行錯誤は大変そうですが。

NOBU:このフローも、AIと壁打ちしながら作ったんですよね。「何もないところからどうしたらいいかな」みたいな段階から「じゃあひとまず『仕様書』と『一次ソース』に分けて執筆しましょう」みたいな相談をずっと繰り返して。大まかなフロー作成は全部1日で大体終わったんです。

――1日でこのフローを。AI様々ですね。

NOBU:ええ。そこから先は、さっき言った改善のループですよね。どんどん回していけば改善しますっていう状態まで持っていったので、うまくいった感じです。

驚異的な執筆スピードと、唯一の課題

――執筆のスピード感はいかがでしたか?

NOBU:この執筆フローがある程度固まってからは、たとえば2章、3章、4章ぐらいまで一気に1日とかで終わりましたね。1章分で約1万2千文字程度はあるのですが。

――1日で3章分ですか。

NOBU:午前中にずっと話して一次ソースを作って、それを午後にAIに投げてぶん回して原稿チェックして。それで3章分は書けました。あとは、今回は動画生成AIの解説書だったので、プロンプトが合ってるかとか、実際にMidjourneyで生成して正しいものが出るかとか、そういう質を担保する検証に使う時間の方が長かったです。

――普通はこんなに早く書ける人、いないですよ。ルールでガチガチに縛っていることもあって、質もある程度は担保されていますし。

NOBU:ありがとうございます。この執筆フローは相当、生産性が高いと思いますね。ちなみに課題はあって、結構トークンを使いました。

――あぁ、テキストの量が多いから。

NOBU:そうです。一応、自分はClaudeのMaxプランなんですけど、やっぱり仕様書と一次ソースのテキスト量が多くてとにかく重い。それを全部コンテキストに乗っけてからGeminiに渡す。Geminiもそれ全部受け取って書いて、戻ってきた原稿をClaudeが読み込んで……みたいなことをやるんで、あっという間にAIの1日の上限がパンパンになるっていう。

――確かに、1回のやり取りのトークンが重いですね。

NOBU:確か原稿執筆してる時、ClaudeのMaxプランって200ドルだったんですけど、1日で200ドル分使い切ってました。もしAPIでやってたらコストが本当にえらいことになってます。

なぜAIとの共通言語は「Markdown」なのか

――この執筆フローは、もはや1個のソフトウェアに近いですね。

NOBU:そうですね。単純なデータ構造があって、その処理をAIがやってるだけなんですよ。だから自然言語プログラミングにほぼ近くて。

――仕様書の一部を見せていただきましたが、ギリギリ人間も分かるし、AIにも分かる。共通言語っぽさがあります。

NOBU:それがAIのいい点かなと思っていて、自然言語で書いた指示に基づいて動いてくれるんで、共同作業ができる。その「共通言語」として、Markdown形式を採用しています。

JSONとかYAMLとか、データの記述形式の方が効果的だっていう人もいるんですけど、LLMの性能が上がってるのもありますし、あと単純にOpenAIのベストプラクティスで紹介してるのがMarkdownなんですよ。Markdownだと、原稿のチェック作業時に画像も表示されるのでチェックがしやすいのもメリットですね。

――なるほど。

NOBU:今ちょうどテクノロジーがすごい速度で成長してる上昇局面だと思うんですよね。この時に、たとえばJSONでうまくいったっていう成功体験とか、極度に最適化したテクニックで覚えちゃうと、後で不要になった時とか、パラダイムがちょっと変わった時に、アンラーン(学びほぐし)するのが大変なんですよ。

――最適化されすぎて。

NOBU:そう。過去に効果的だったプロンプトが効かないとか、過剰に効果を発揮してしまうことがあって。そういうのを1個ずつ取り除いて検証していくと、残るのって実は単純な自然言語で十分だったりするんですね。

だから余計なことはむしろ覚えない方がいいんじゃないかなっていう派です、僕は。AIの性能が上がっていったら、結局、自然な文章で「これをこうして欲しい」って言うだけで思い通りの形になるので。

AI原稿の自己採点は「80点」。その理由は?

――この執筆フローが作った文章について、NOBUさんの感覚で100点満点で採点したら何点ぐらいですか?

NOBU:まあ、合格点はまずいきますよね。でも100点にはならないかな。あと、やっぱ細かい部分の表現で、途中途中「ここ変です」って編集者に修正されたと思うんですけど、そういったものがあるんで。まあ、だから80点ぐらいかなって感じです。

――物足りなく感じる部分は、どういったところですか?

NOBU:やっぱ、ルールでちゃんと縛ってるからこそだと思うんですけど、若干「説明しすぎ」みたいになりがちなんですよね。

――冗長になるということですか?

NOBU:そうですね。自分は「くどい」と感じました。もし自分が全部文章を書くんだったら、もっと削るんですよ。っていう点で、「自分が書くんだったらもうちょっと削るんだけどな。でも、まあ悪くないからいいか」みたいな。ちょっとそこは妥協した部分はありますね。

――100点を目指すまでは、今回はやらなかったと。

NOBU:一応できるだけやったんですけど、「くどいからもっと削って」と指示すると、今度は逆に削りすぎちゃう、みたいなことが起きて。なので、結果的に少しくどいぐらいの方が、情報は伝わるようなバランス感だったんですよ、今回は。

――加減が難しいですよね。「削れ」って言うと本当に必要なとこまで削っちゃったりしますもんね。

NOBU:そうなんですよ。

――とはいえ、最初にGeminiが吐き出した原型は、書籍にどのぐらい残ってるんでしょう?

NOBU:正確には難しいですけど、かなりの部分を自分や編集者が修正しています。それでも、体感、6~7割は残ってるんじゃないかなとは思いますね。

AIを使った執筆が活きるのは「まとまった分量のテキスト執筆」

――この執筆フローは、今回の書籍を書くために特化したものですよね。

NOBU:そうですね。ただ別の執筆をする場合も、構造は大体一緒でいいのかなと思ってて。要するにルールを決めた仕様書があって、参照させる一次ソースがあれば、あとは書籍のテーマや読者ターゲットに合わせて改善のループを回していけばいいだけなんで。

――なるほど。決まったテーマの記事を定期的に書く人とかにはすごい重宝される気がしますね。ただ、短い単発の記事だと、このフローを構築する時間より、もう自分で書いた方が早いってなっちゃいそうですよね。

NOBU:うん、そうですよね。単体の記事だったらこんな面倒なフローを作らないんじゃないかなと思ってます。今回自分がこれ本気でやんなきゃいけなかったのは「書籍」っていう、この何百ページかのボリュームが必要だったからで。

――なるほど。

NOBU:だから、Kindleで本出したりとか、あるいは連載的なペースでもう書かなきゃいけないとか、そういう方じゃないと本気でトライしないのかなとは思っていました。

最近だとnoteとか、英語圏だとニュースレターのような定期的に、ちょっと長めの文章を届けるってのは結構盛り上がってるんで、まとまったテキストを定期的に書きたい人にとって需要はあると思いますよね。

――今後、どんどん多くの方が開拓していきそうな手法ですね。人間があくまで主体になりつつ、AIにアシストさせて質と速さを両立する執筆フローについて、大変参考になる話をうかがえました。本日はありがとうございました!

(取材・文:鹿田玄也)

対談で登場した書籍

『「作りたい」をカタチにする動画生成AI 基本からプロンプトのコツまでわかる!』

AIに指示するだけで動画を作れる「動画生成AI」がこの1冊でわかる! 専門知識や高価な機材は不要で、誰もが動画クリエイターになれる時代が来ました。本書は「作りたい」をカタチにするための動画生成AIの活用ガイドです。基本操作はもちろん、クオリティを左右するプロンプト(AIへの指示文)の技術や、キャラクターを思い通りに動かす技術まで、解説しています。本書では高精度な動画生成AIサービス「Midjourney」を活用して動画を作ります。 特典のプロンプトとサンプル画像をダウンロードして、手を動かしながら読み進めることで、動画制作のノウハウが自然と身につく、最初の一歩に最適な一冊です。

「作りたい」をカタチにする動画生成AI 基本からプロンプトのコツまでわかる!

「作りたい」をカタチにする動画生成AI 基本からプロンプトのコツまでわかる!

・価格:2,530円
・発売日:2025年11月12日
・ページ数:208ページ
・サイズ:B5判
・著者:NOBU
内容
第0章 動画を作りはじめる前に
第1章 まずは「5秒動画」を作ってみよう
第2章 画像の質が9割!良いスタートフレームの見極め方
第3章 思い通りにキャラクターを動かす「プロンプト」の技術
第4章 動画の続きを自然に生成する
第5章 複数カットを統合してショートストーリーを作る
第6章 BGM付きオリジナル短編動画を完成させる
第7章 動画生成AIの可能性を広げる5つの方法
第8章 制作のアイデアを広げよう
付録 構図や視点、レイアウトを自在に調整するプロンプト辞典

著者プロフィール
NOBU
映像クリエイター/クリエイティブAIスペシャリスト
少年期に映画に魅了されて中学生の頃には映画監督を志す。学生時代はCG・アニメ・実写を横断的に学び、インディーズの短編映画の監督経験を通して映像の知見を深めた。その後は一度クリエイティブから離れて、ソフトウェアエンジニア兼デザイナーとして複数のスタートアップに関わり、その過程でプロダクト開発とシステム思考を体得。
2024年に動画生成AIと出会い、その可能性に確信を得て再びクリエイティブの世界へ。過去に培ってきた映像の知識と技術的な知見も掛け合わせた情報発信によってX(旧Twitter)のフォロワーを1年で1万人以上まで伸ばす。
現在はこれまでの全ての経験を融合させ「AIの特性を最大限に活かす」という思想のもと、独自のIP構築に挑戦中。
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