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AIは小説執筆をどう変えるのか? プロ作家が語る“感情がないAI”の活用術
2024年10月14日 10:00
ChatGPTをはじめとする生成AIは日常生活や業務に浸透しつつあり、企画やアイデアのたたき台をAIに作成させることも当たり前になってきています。プロ作家たちの一部では、AIを使って小説のあらすじを作成させたり、壁打ちをしたりといった手法が取られはじめています。「星新一賞」をはじめとして、AIを活用した小説を受け入れる文学賞新人賞も活況であり、今後もそうした文学賞は増えていくことが予想されます。
10月17日発売の「小説を書く人のAI活用術」は、実際にAIを活用しているプロ作家たちが、創作にAIを活用するノウハウを解説する書籍です。生成AIと対話する具体的な手順やAIへの指示文(プロンプト)、プロ作家が考える小説とAIの未来、AIを活用して小説を執筆する際の法的な注意点など、AIと対話して小説を書くときに必要な知識がわかります。
AIの登場により、小説の執筆は具体的にどのような点が変わっていくのでしょうか。本記事では「小説を書く人のAI活用術」の紙面から、プロ作家たちが語るAI×小説の未来についての座談会を抜粋して以下に掲載します。
この記事は10月17日発売のインプレス刊「小説を書く人のAI活用術 AIとの対話で物語のアイデアが広がる」(山川健一 著/今井昭彦 著/葦沢かもめ 著)の一部を編集・転載しています。座談会実施は6月28日(編集部)
AIをフル活用する、最前線の作家たちが語る小説の未来
生成AIの進化によって、小説執筆のあり方はどのように変わるのでしょうか。作家の山川健一、ストーリーデザイナーの今井昭彦(ぴこ山ぴこ蔵)さん、そして生成AIを活用してSF小説を執筆されている葦沢かもめさんに座談会形式でお話いただきました。
――生成AIを活用した小説の執筆は、今後普及していくでしょうか。
山川「生成AIを執筆に使う人は増加の一途をたどると思います。僕も使っています。歴史を振り返ると、絵の具が入るチューブが発明されたことによって、それまでアトリエで描いていた画家が外に出て光を描こうっていう大革命が起きて、印象派がその後の絵画を決定したわけですけど、生成AIも同じような役割を果たして、小説の執筆を大きく変えるでしょうね」
葦沢「小説を執筆するWebサービスなど、一般の方が使いやすい専用のサービスが出てくると普及のスピードが上がると思います。例えば数年前に『AI Buncho』や『AIのべりすと』といったAI執筆サービスが出てきて、そのタイミングでAIを使って執筆を行なう人の数が跳ね上がった印象があります。ただそうしたサービスは、初心者が一から小説を書くには操作に慣れが必要だったり、本格的に使おうとすると課金が必要だったりするので現状ではまだハードルがありますね」
今井「AIというか新しいツールって問題解決型か目的達成型かに分かれると思います。問題解決型のツール、例えば医療関係とか人の役に立つことはどんどん発展していくと思いますが、小説を書くような目的達成型というのは野望がないとなかなか普及しない。ここで必要なのは競争心です。少しでも人より早くゴールにたどり着くための悪知恵が必要な時にAIが役立つので、どんどん利用されていくと思っています」
葦沢「AIの登場はよく写真の発明と比較されたりしますけど、写真が出てきた時も、それまで絵を描いていた人みんなが写真に転向したわけではないと思うんですよね。絵を書いていた人の中でも完全に写真家になった人もいれば、絵を書く工程の一部に写真を導入する人もいただろうし、あるいは写真は使わないっていう人もいて。どれかが絶滅したということもなく写真は普及したので、AIもそうやってだんだん受け入れられていくものなのかなと思います」
山川「ダーウィンに『最も強い者が⽣き残るのではなく、最も賢い者が⽣き延びるのでもない。唯⼀生き残ることが出来るのは変化できる者である』という言葉がありますが、これに尽きますよね。変化に対応できないアンシャンレジーム(古い制度)は崩壊していくだろうと」
葦沢「ChatGPTなどの無料で使えるAIサービスがあっても、実際に興味を持って試してみる人って少ないんですよね。そこにまずハードルがある。さらに次のハードルとして、実際に使ってみても、使いこなすプロンプトなどのコツがわかっていないと、多少それっぽいものができた、で終わってしまう。もし企業が、初心者でもそれなりにクオリティが高いものを作れ、かつ作っている人自身のカラーが出せるパッケージを出せば爆発的に利用が広がるかもしれません」
――AIがより身近になるという話題では、AppleがiPhoneなどにChatGPTを組み込むという報道もされています。
山川「僕はiPhoneの音声入力で原稿書いてるんですよね。AppleがChatGPTをiPhoneに組み込むとなると、それはもうAIが体の一部みたいなものになるから、爆発的に変化が起きるだろうと思います。iPhoneが登場した時と同じくらいの革命がやってくるだろうと。それをすごく楽しみにしています」
葦沢「スマホや、身近なデバイスにAIが搭載されると、一度触ってみるっていうハードルがクリアされるので、本当に色んな人がその可能性に気づくと思います。山川先生が音声入力で小説を書いてらっしゃるっていうのも、そこからさらに可能性が広がりそうだなと感じています。たとえば、ここに来るまでに地図アプリで、音声で『〇〇まで行く道を教えて』って音声でスマホとやり取りできると思うんですけど、そこでのやり取り自体を小説に仕立ててみたり、それをまた別の物語にしたりできそうですね。物語のつくり方は自由なので、やり方を限定せず、新しい創作が生まれる芽を摘まないことが大事だと思います」
山川「新人賞などでも、AIを活用した小説を徐々に受け入れる体制ができるといいですね。新しいコンテンツには全く新しい船が必要だという風に思います」
生成AIに小説を書かせるテクニック
――葦沢さんは小説の本文をAIに書かせていますが、AIにどう指示をして、プロットから文章を書かせるのでしょうか。
葦沢「『場面ごとの大まかな人物の行動』のレベルで落とし込んでプロットとして生成AIに与えてやると、割とその通りに書いてくれるような感触がありますね。全部AIに任せるのではなく、プロットを1文ずつに分解して、それぞれの1文から続きを書かせるような。自分のプロットを骨組みにして、AIで肉付けをしていきます」
山川「部品を作って、結合するような」
葦沢「そんなイメージですね」
山川「このへんのノウハウは、僕たちも真似しないと」
今井「僕はどんでん返しを作る方法を研究してるんですけど、どんでん返しは読んでる人の感情を動かすために仕掛けるわけです。しかしAIにそういうどんでん返しを作らせようとすると、AIは『私には感情がありません』って蹴るんですね。あとは、何でもかんでも夢オチにしてしまったり。あれは困るんですよ」
葦沢「AIに役割を与えるといい、とよく言われますね。たとえば『あなたはヒット作を連発している人気脚本家です』と指示するとか。あとは小説のジャンルが明確なら、ジャンルを指定するのもポイントです。オチを指定したいなら、たとえば『主人公がこういう目にあうバッドエンドにしてください』くらい具体的に指示してやるといいですね」
――AIに「あなたはこういう人で、こういうジャンルを作ってください」などと具体的に指定してあげるイメージですね。
葦沢「あとChatGPTはネット上にあるプログラムとかを大量に学習しているので、プログラミングで使われている手法とか文書の形式を使うと、指示を正確に理解して処理してくれやすいです。たとえばMarkdown記法やJSON形式とか言われるものですが、小説で言えば、ジャンルはこれです、登場人物はこういう人物が出ます、場所はここです、みたいな感じで条件設定をかなり詳細に書いて、そこから指示を出していくと、割と正確に反応してくれやすいです。条件をたくさん入れすぎると把握してくれないこともありますけど、最近は把握してくれる文章量もどんどん増えてきているので、その辺があまりネックにならなくなってきています」
故人が小説を書く時代になる?
――最近では、手塚治虫「ブラック・ジャック」の新作のストーリーをAIに作らせる試みがありました。
今井「そうですね。デジタル・ネクロマンシー(*1)などと呼ばれるそうですが、すでにやり方がある以上、それはコピーされるわけです。よく考えるとそれってイタコの口寄せとかモノマネ芸人さんとか、アナログの世界でもすでに存在してて、オカルトマーケティングのビジネスモデルとして定着しているので、AIが故人のアイデアを再現しても驚くに当たらないんじゃないかと思います。作品の世界観がしっかりしていれば、新しいストーリーをAIに作らせることも十分できる」
山川「まだAIは使ってないけど、『サザエさん』とか『クレヨンしんちゃん』もそうだよね。世界観がしっかりしてるから続々と新作ができる」
*1 デジタル・ネクロマンシーとは、AIを使って故人をデジタル上で蘇らせる技術。
――葦沢さんは、AIなどを活用して、ご自身が亡くなった後も書き続けたいという投稿をされていました。
葦沢「自分自身の経験とか、これまでに読んだ本とかをすべて学習させて、自分と同じように小説を書ける自分のクローンのようなAIを作りたいですね。自分のコピーしたAIが小説を書き続けて、その小説の印税とかでサーバー料金をまかなったり、もし余ったら寄付したりできたら理想的です」
――それが実現したら、まさしくSFの世界に近づいていく印象を受けます。
葦沢「ただ実現するには、色々難しいところがあるなと思っています。特に、自分と同じ経験や知識があっても、本当に自分自身のコピーになるんだろうかっていう点ですね。たとえば、自分自身が死んだ後に、自分をコピーしたAIがずっと活動を続けるにしても、ずっと同じままじゃなくて、新しいものを見聞きして学んでいって、変化してレベルアップしていく必要があると思うんです。けど、具体的にどう変化していったらいいのかとか、未来の新しい作品をそのAIが見たとして、それを自分と同じように感じられるのかとか、同じものをその作品から引き出せるのかとか、いくつか課題がありますね。そこを実現するには何が必要なんだろうと考えたりします」
――遺族の方がその複製AIの言動を見て「あの人はこんなこと言うはずがない」なんてことも起こり得ますね。
山川「自分の記憶を完全に複製したAIができたとしても『ちょっと待てよ、あの件は人に言いたくないな』って内緒にしたいこともあるよね。それから、人間っていうのは忘れる能力がある。たとえばあまりにもひどい体験をするとそれを忘れて、意味を変えるわけだよね。だから、記憶をそっくりそのまま保持しているからといって、人間が『忘れる』ことも再現できないと完全な複製にはならないと思う」
――「忘れる」というのは人間の特徴のひとつですね。
山川「もう1つは、人間は死というものを前提に行動するわけだよね。人間は死ぬ、この紛れもない事実がある。不老不死ではありえないんだ。だから自分は今こうするんだっていうのがあるじゃない。でもAIに自分の記憶を全部伝えたとして、AIは死なないわけだから、それは全然別の存在になるよね」
AIは自分をうつす「鏡」
山川「僕がChatGPTを使って強く思ったのは、AIは鏡だということです。AIと対話していると、鏡に映る、もう1人の自分と話してるような感覚に陥る。今ここに6人いるけど、僕ら6人がそのAIを使うと、6通りのAIが登場するわけですよ。AIの姿は使う人によって違うんだ」
今井「AIは自分自身を映してるんですけど、齟齬があるんですよ。違和感があるんですね。そこをはっきりさせてくれる。普通の鏡だと、鏡は自分と同じ動きをするだけなんだけど、AIに映った自分はちょっと違和感があります。それはね、自分がおかしいんです。自分が真実を直視してないというところまで映し出されてるから。『ああ』と思うわけです。『せこいことしてる自分』っていうのはもう直視できない。違和感になって残像で薄ら笑い浮かべてたりする自分が見えるわけで、それと対面できるんですよ」
――見たくない自分の姿を見てしまうような。
今井「山川先生は『怪物』と出会うんだと表現されていました。地下999階で自分たちは怪物と出会うんだと、それがAIなんだと。その怪物は紛れもなく自分なんだけど、とっさに怪物として見ちゃうんですね。僕らは『あ、怪物がいる』と感じるけど、それは実は自分なんです。で、そのぐらいの認識の差があるというか、自分の記憶との間に。そこをちゃんと客観視して、『あ、自分のことを怪物として見ている自分がいる』っていうことを掴まないとジェノバの夜は終わらないんですよ。それが辛いからね。でも楽しい作業ではあるんですよね。それが終わった時、解放感があるから」
山川「おっしゃる通りで、鏡に映った自分と喧嘩しながら、『そうじゃないんだよ、僕が書きたいプロットは』とか言ってまたやり直してもらったりとか、そうするとやがて怪物が出てくるわけで、自分の中にいる怪物と向き合って執筆を進めるんです」
葦沢「僕自身も、AIと対話を繰り返していくうちに、自分自身の怪物的な部分、つまり自分がずっと目を背けてきたものを見つける瞬間があります」
山川「『自分≒怪物』という感じだよね。だからAIを使って小説を書く場合には、ファンタジーとホラーが一番向いてるんじゃないかなっていう風に思います。葦沢さんの作品もちょっとファンタジーっぽいところがあって、ファンタジーの素材はここにはない別の世界だからね。そして怪物がいる。ホラーにも怪物が登場するでしょう。だからホラー的なもの、ファンタジー的なものをAIを使って書くとすごく面白いものができるんではないかなと僕は思ってる」
AIは読み手になり得るか
――ここまで、AIが「書く」ことについて話してきましたが、AIが読み手になって、たとえば文学賞の審査を行なうようなことは今後可能になるでしょうか。
葦沢「できるとも言えるし、できないとも言えるかなと思います。たとえば、就活の履歴書とかエントリーシートを自動的に読ませて判別させるみたいなことは、結構定型的なものだったりするので、そのような判別をいろいろな項目でやるというのは実用レベルでできると思います」
――AIを選考に活用して、エントリーシートを分析させる取り組みはすでに一部の企業でもはじまっています。
葦沢「しかし、小説を評価するとなるとなかなか難しいなと思っていて、今実際に人間で審査されてる文学賞でも、全員が高く評価する作品があれば、人によって評価が分かれる作品もあります。それぞれ評価の軸が違ったり、個人の経験が違うので、評価が分かれてしまうことがあります。そこは個人個人違っていていいことだと思うんですよね。だから、AIに小説を評価させたら、AIなりの評価が返ってくると思いますが、それがAIによって審査されたものとして正しいかどうかは分からないと思っています。完璧にやるのは難しいですが、下読みという意味で、文章が文法的に間違っているかどうかのレベルなら現状でもできるでしょうね。小説の価値の審査は難しいんじゃないかなと思ってますね」
――現状だと人間の選考委員が複数人いて、それぞれが自分の物差しを持っていて、それに沿って「自分はいいと思う」「自分は違うと思う」と対立があったりしますからね。
葦沢「そうですね。特に最終審査の様子などを見ていると、他の審査員の感想や批評を聞いて、『確かにそうだね』とその場で審査員が心変わりしたりすることもあるので、評価って非常に流動的なものですね」
※座談会はこの後に「小説家は『映画監督』のように仕事をするようになる」「AIは小説家の『文体』を再現できるか?」「AIは分業された物語作りに向いている」「AIの進化で、小説家の筆が早くなる?」などの内容が続きます。続きの内容は、書籍にてご確認ください。
発刊を記念した特別イベント「AI時代の小説の書き方講座」を開催
発刊を記念し、10月25日(金)に特別イベント「AI時代の小説の書き方講座」を開催します。3名の著者が、書籍の内容に沿ってAIを活用して小説を書く方法やストーリー作りのコツについて解説します。
イベント特設ページ:https://book.impress.co.jp/items/event241025
山川健一
1953年7月19日生まれ。千葉市出身。県立千葉高校、早稲田大学商学部卒業。大学在学中に「天使が浮かんでいた」で早稲田キャンパス文芸賞を受賞。1977年(昭和52年)『鏡の中のガラスの船』で群像新人文学賞優秀作。アメーバブックス新社取締役編集長、東北芸術工科大学文芸学科教授・学科長を経て、次代のプロ作家を育てるオンラインサロン『「私」物語化計画』(https://yamakawa.etcetc.jp/)を主宰。早稲田大学エクステンションセンター専任講師。著作85冊が一挙に電子書籍化され、iBooksで登場。85冊を合本にした『山川健一デジタル全集Jacks』、発売中。近著に『物語を作る魔法のルール/「私」を物語化して小説を書く方法』(幻冬舎/藝術学舎)がある。
今井昭彦(ぴこ山ぴこ蔵)
1960年、大分県生まれ。1983年頃からフリーランスのコピーライター、ラジオCMディレクターとして、芥川賞、直木賞から江戸川乱歩賞受賞作に到る様々な分野の小説・マンガのCMを1,000本以上制作。現在、あらすじドットコム(https://www.arasuji.com/)主宰。ストーリーデザイナー。どんでん返しにこだわるドンデニスタ。近著に『大どんでん返し創作法』『続・大どんでん返し創作』『どんでん返し THE FINAL』『〈3冊合本〉面白いストーリーの作り方+物語が書けないあなたへ』『切り札の書』『桃太郎にどんでん返しを入れてみた!』などがある。
葦沢かもめ
SF作家。AIを執筆に取り入れた小説で、第9回日経「星新一賞」優秀賞(図書カード賞)。第2回AIアートグランプリ佳作。AI共作小説が『SFアンソロジー 新月/朧木果樹園の軌跡』掲載。日本SF作家クラブ会員。
・価格:1,980円
・発売日:2024年10月17日
・ページ数:272ページ
・サイズ:四六判
・著者:山川健一、今井昭彦(ぴこ山ぴこ蔵)、葦沢かもめ
内容
第1章 ChatGPTを使って物語を作る
第2章 ChatGPTで作る桃太郎
第3章 AIとの対話による物語創作
(対談)AIをフル活用する、最前線の作家たちが語る小説の未来
(コラム)生成AIで小説を書く場合のルール
第4章 恐怖に立ち向かうために
第5章 ChatGPTは僕らが自分自身を超越するためのお手伝いをしてくれる
第6章 アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
第7章 「怪物のデザイナーと少年」を叩き台にプロットの作り方を検証する
第8章 新しい小説「ひとりぼっちの恋人」のプロットを考えてもらおう
第9章 「ジェノバの夜」こそが「怪物」を生む
第10章 AIと小説を書く実践的なステップ