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ホンダの再使用ロケットやシャープ衛星通信アンテナ 「モビショー2025」宇宙展示

2025年10月30日から11月9日まで、東京ビッグサイトで開催中の「JAPAN MOBILITY SHOW 2025」。ホンダのブースには、今年6月に北海道の大樹町で飛行実証試験に成功した再使用ロケット実験機が登場しています。

さまざまなモビリティと並んで存在感を放つ、宇宙輸送関連の展示をご紹介します。

HONDAの再使用ロケット

2025年6月17日、ホンダは初となる再使用ロケット試験機を大樹町で高度約270mまで上昇させ、着陸させる飛行実証試験に成功しました。2029年にサブオービタル飛行を目指し、実際に飛行した小型再使用ロケットの試験機がホンダブースに登場しています。

試験機は全高6.3m(着陸脚展開時)、直径85cm、推進薬を搭載した状態で1,312kg(推進薬なしで900kg)、最大推進能力6.5kNのエンジンを2基備えた液体酸素・メタンを推進剤とするクラスター方式のロケットです。エンジン2基のジンバルと4枚の制御翼(グリッドフィン)による姿勢制御機能を持ち、機体下部にオイルダンパー式の4脚の着陸脚を備えています。

HONDAの再使用ロケット試験機。着陸脚を展開した着陸時と同じ姿勢で展示されています。かなり近づいて360度見学できる展示です(撮影:小林伸)
HONDAの再使用ロケット上部。着陸時の姿勢を制御する、うちわ状の制御翼(グリッドフィン)が4面に取り付けられています。制御翼の上部には、姿勢や高度を計測するセンサー類。加速度・ジャイロセンサー、LiDAR、GPSアンテナを備えているとのこと。円筒状の2種類のセンサーのうち、青いテープを撒いたようなセンサーは米Velodyne社のLiDARではないかとみられています(撮影:小林伸)
HONDA再使用ロケットの機体中部。4面に内部へのアクセスドアが見えます(撮影:小林伸)
機体下部の着陸脚。推進薬を入れて約1.3トンの機体をこの4本の着陸脚で支えています(撮影:小林伸)
近くで見ると、手書きの機体の軸マーキングが見えます。開発中ならではを感じさせるディテールですね(撮影:小林伸)

HONDA宇宙開発戦略室長の櫻原一雄さん(チーフエグゼクティブエンジニア)、同室のプロジェクトマネージャ石村潤一郎さん(チーフエンジニア)のお二人に、機体を前に飛行実証とHONDA再使用ロケットの開発の方向性についてうかがいました。

HONDA宇宙開発戦略室の櫻原一雄チーフエグゼクティブエンジニア(左)、石村潤一郎プロジェクトマネージャ(右)

飛行実証を振り返って

「私たちが狙っていたところは、ほぼ120%達成できたということですね。実験の主な目的は制御系と、また制御翼はある程度の高度まで上げないと風の影響の確認ができないということがあります。離陸から着陸まで、わざと途中で制御翼を上げてねじってみるなどの外乱を入れて、ちゃんとジンバルでコントロールできるかということを試験しました。この点を達成できたので目標通りです」(櫻原さん)。

再使用ロケットのエンジン整備に対する考え方

「この機体はあくまでも実験なので、かなり手間がかかります。将来的にはそこをどう手間をかけないようにするか、ということが勝負どころになると思っています。極論を言えば、全部バラして確認すれば『大丈夫』と言えます。ですが、それでは負けだと思いますし、スペースXにしても結局は全て点検して、しっかり燃やしてから次の飛行ということになっているようで、同じことをしている限りは決して賢い使い方にはならないわけです。できるだけ何もせずにもう1回使えるようにするにはどうするか?ということを見出していくのが一番の肝であり、どんな設計にすべきか皆で奮闘している段階ですね」(石村さん)

「自動車のように、オンボードで監視する技術が入れ込めればもっと変わってくるんだろうと思います。ひとつひとつチェックしなくても、飛行の間に全てモニタリングするといった方向性ですね」(櫻原さん)

液体酸素/メタン燃料の選択について

「やっぱり扱いやすい燃料なんだろうなという実感があります。私たちはさんざん石油を使ってきているので、石油が扱いやすいのはよく知っていますし、水素を扱ってきた技術もあるので、『これを水素でやるとなるとそれなりに大変だよね』ということも知っている。そうした、想像できるハードルも含めて思ったとおりの扱いやすさだという体感があります。それほど間違った選択ではなかったととらえていますね」(石村さん)

有人与圧ローバから多様な月面探査へ ブリヂストン

ブリヂストンのブースには、JAXAとトヨタで開発中の月面探査車「有人与圧ローバ」(通称「ルナクルーザー」)に採用される月面タイヤのプロトタイプが展示されています。有人与圧ローバは、2030年代に月面で活躍する計画で、1カ月近く月面に宇宙飛行士が滞在しながらの探査を可能にする、走る月面基地のような存在です。

空気を使わない「AirFree」タイヤ(上)の技術を応用して開発された月面探査車向けタイヤ(下)。鳥取砂丘のテストフィールド「ルナテラス」などで走行実験が続いています(撮影:小林伸)

月面を車輪で走行するには、極低温や放射線環境のために空気の入ったゴム製タイヤを使用できないことや、機体が沈み込みやすいパウダー状の月の砂(レゴリス)に対応し、スタックを起こさないようにすることといった特有の課題を克服する技術が必要です。ブリヂストンは、空気を使わないエアレスタイヤの技術を応用した月面タイヤの開発を続けており、展示品は2世代目。有人与圧ローバに加え、無人月面ローバーへの展開も視野に入れて開発が続いています。

2025年7月、ブリヂストンとispaceは小型・中型月面探査車でブリヂストン製月面タイヤを実用化するための合意を結び、開発に向けた取り組みが始まりました。

ブリヂストン広報の靏隆広さんによると「有人与圧ローバ向けのタイヤには、スポークが多く入っていますが、小型・中型向けは荷重はそこまで大きくないため、よりシンプルな形状になっていたりします。走行性能とのバランスを両立させるために、スポークの間隔を有人与圧ローバ向けよりも広めにしつつ、手前の奥の二重にスポークが入っているようなモデルも検討中です」とのこと。

JAXA/トヨタで開発中の有人与圧ローバの模型。6輪で走行し、与圧キャビン内で宇宙飛行士は宇宙服を脱いだシャツ姿で生活できる機能を備えています。走行性能やエネルギーを供給する展開式大型の薄膜太陽電池パネルの展開実験などが地上で続いています(撮影:小林伸)

シャープ製衛星通信アンテナが活躍 日本-台湾間で重機の遠隔操作実証へ

多数の衛星を軌道上に配置し、一体型のシステムとして運用する衛星コンステレーションの分野に、シャープが参入しています。開発中の地球低軌道(LEO)衛星通信ユーザー端末は、今年10月に開催されたCEATECで総務大臣賞を受賞しました。

この端末は、英国で通信衛星コンステレーションを展開するOneWebの通信衛星に対応し、スペースX・KDDIが運用するスターリンクと同様に低軌道衛星による通信を提供します。建設機械の遠隔操作・自動操作のソリューションを提供するARAVブースには、シャープ製の小型軽量モデルのアンテナ端末(約1kg)と、大型端末(約7kg)が登場しました。

通信容量の大きい大型アンテナ端末は大型の建機に搭載することができ、遠隔操作の通信機能を提供します。2026年にはARAVの遠隔操縦ソリューションに対応した建機を日本のテストフィールドに配置し、シャープ製アンテナ端末を経由して台湾から建機の遠隔操作・自動操縦を行う実証を計画しているとのこと。操作性や通信の安定性を検証するといいます。

シャープが開発中の5G NTN通信対応 LEO衛星通信ユーザー端末。英OneWeb衛星と通信し、建設機械の遠隔操作を支援します。7kgの大型アンテナを搭載した建機を使用し、日本と台湾を結ぶ遠隔操作実証を2026年に計画中とのこと(撮影:秋山文野)

大気圏再突入用耐熱材料の共同開発 豊田自動織機

宇宙ビジネスの発展とともに、「宇宙からモノを持ち帰りたい」という要望が高まっています。宇宙ステーションの実験サンプルや宇宙で製造した新素材など、対象となる物資はさまざまありますが、日本は恒常的に宇宙からモノを持ち帰る手段を持っておらず、米国に頼っているのが現状です。

そうした課題の上に、東北大学発のスタートアップ企業ElevationSpace(エレベーションスペース)は、カプセル状の大気圏再突入システム「ELS-R」を開発し、2026年に実証実験機打上げを目指しています。ELS-Rシステムのカプセルが大気圏再突入の高温環境に耐え、かつ軽量な炭素繊維を使用した3次元織物を開発しているのが豊田自動織機。宇宙から帰還するカプセルを守る代表的な3次元織物のサンプルが展示されていました。

豊田自動織機がElevationSpaceとともに開発する、大気圏再突入システム向けの耐熱材料(画面左は大気圏再突入カプセルの模型 右は3次元織物サンプル)(撮影:小林伸)
XYZ、3方向に繊維が組み合わされた3次元織物は、システムの部位によって異なる熱負荷の大きさに応じて適切な部材、厚さを変えて織ることで、耐熱性能と軽量化の両立を目指しています(撮影:小林伸)
豊田自動織機製3次元織物の構造。出展:豊田自動織機発表「ElevationSpaceと豊田自動織機、大気圏再突入システム用耐熱材料の共同開発を開始」
3次元織物の拡大展示。ブロック状に並んだ繊維の間を、Z軸の繊維が補強しています(撮影:小林伸)

豊田自動織機は、「私たちは今まで炭素繊維を使った自動車や航空・宇宙向けの研究開発を長年続けてきました。その中で、活発になってきた宇宙ビジネス向けに、エレベーションスペースさんと共同開発しているのがこの3次元織物を使った耐熱材料です。3次元織物というのは、縦糸横糸(XY方向)に対して、Z方向の糸を同時に織ることで厚さを出し、さらにZ軸の糸によって層間が剥がれにくくなるということが特徴です」といい、宇宙開発を支える新たな素材となっています。

ジャパンモビリティショー2025 レポート