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NTT、深層学習で鋼材の腐食を正確に予測する技術 世界初

NTTは、鋼材を使用したインフラ施設の画像から、腐食の進行を予測する世界初となる技術を確立した。道路や橋などさまざまなインフラ設備の数年後の状態を予測できる。

橋梁、鉄塔、ガードレール等、鋼構造のインフラ施設の老朽化は大きな社会問題になっており、老朽化を進行させる主な劣化要因は鋼材の腐食。屋外のインフラ施設は雨水、風、結露等の影響を受けて鋼材に腐食が発生する。

腐食は経年で徐々に進行し、最終的には破損や崩壊を起こす可能性があり定期的な点検が必要になるが、現状では全ての施設に対して一律の周期で点検を行なっているため、毎年膨大なコストがかかる。今後、老朽化施設の増加と、専門技術者の減少も見込まれることから、施設管理者のコスト負担はさらに増大すると考えられている。

また、鋼材の腐食進行を予測することも難しい。茨城県で行なわれた実地調査では、経年数毎の腐食領域の増加率を調べたところ、3年で64.4%、4年で146.4%、5年で99.2%、6年で79.8%という結果になり、経年数だけで個々の施設の腐食状態を正確に予測することは困難であることが分かっている。

こうしたことから既存技術では経過年数だけでなく平均気温や降水量、日照時間などの環境条件を加味して機械学習により予測する方法も提案されているが、これは都道府県や市町村のような地域単位での年間の平均的な侵食速度を予測するマクロ的な方法になり、個々の施設の進行を正確に予測できるものではなかった。

今回開発された技術は、デジタルカメラで撮影した道路橋等のインフラ施設の画像から数年後の鋼材腐食の進行を高精度に予測するもの。施設の画像、施設が設置されている環境データ(気温や降水量等)、予測したい年数の3つのデータを入力することで、将来の腐食の広がりを予測したデータを生成する。

深層学習手法の敵対的生成ネットワーク(GAN:Generative adversarial network)をベースに、経過年数と腐食の増加量に加え、過去と現在の施設画像を活用して腐食の面積・形状・色等の情報を学習させたモデルを構築。さらに、気温や降水量等の化学的に腐食進行に影響すると想定される複数の環境データの中から、最適なパラメータを選び出し、画像と一緒にモデルに入力できる構成とした。これにより画像中の個々の腐食の進行速度を正確に予測できるモデルを確立している。

実際に、設置されている道路橋、通信用管路設備の鋼材20カ所の画像から性能検証も行なった。数年前に撮影した画像と同一の画角・構図で撮影を行ない、検証用の画像を収集。過去画像と現在画像から腐食領域の増加率を算出し、過去画像と本技術による予測画像の腐食領域の増加率を算出することで、両者の数値を比較した。その結果、実際と予測の増加率の平均誤差は9.9%、ばらつきは3.7%という高精度での予測が行なえたことを確認した。

これにより、点検周期を施設毎に最適化することで点検コストを抑制できるほか、数年間の補修量も把握できるため、現場工事の生産性向上にも寄与する。今後は2025年度にNTTグループで道路橋を対象としたサービス化を予定。鉄塔等の他の鋼構造物や、ひび割れ、裂傷等の劣化事象へも技術拡大を予定している。