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農作業の重労働を楽にする「メカロン」。人を追いかけ作物運搬

ロボットベンチャーのDoogは11月8日、同社がマーケティング販売中の農業向けクローラーロボット「メカロン」の現場体験会を茨城大学農学部の圃場で行なった。茨城大学地域総合農学科2年生の学生たち約50人が、柿の収穫とロボット台車の活用を体験した。体験会にはDoog代表取締役の大島章氏のほか、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の塚本隆行氏も参加し、農業用の人協働ロボットの活用法と必要性を語った。

農地で人追従が可能なロボット「メカロン」

農作業用ロボット「メカロン」

Doogは人などの移動体に追従したり、ライン上を走行するライントレースのほか、LiDAR(レーザーセンサー)と独自のアルゴリズムにより事前に覚えさせたルートを自動走行する「メモリートレース」機能を持つ搬送ロボット「サウザー」を主力商品としているロボットベンチャー。

「メカロン」はDoogが1月に発表した、農業向けに足回りをクローラーとした電動の追従搬送台車型のロボット。標準で800×600mm(長さ×幅)の荷台を持ち、カゴを2つ並べて置ける。積載重量は100~200kg程度。足回り部分は農業機械・運搬車で知られる河島農具製作所製。

「メカロン」側面。クローラ上の空間は追加バッテリーのためのスペース
モーターやコントローラーは洗えるように防水仕様

バッテリーは鉛蓄電池、またはリチウムイオンを選択できる。標準モデルは鉛蓄電池を2つ搭載しており、満充電でおおよそ6時間の連続稼働が可能。日中の収穫作業では問題なく使えるという。なおバッテリーは増設も容易で、棚の高さなどもカスタマイズが可能。

電源を入れるとジョイスティックで移動させることができる。ジョイスティックの横のボタンを押すと追従モードになって人についていく。クローラーはそれぞれ独自に回転するので「その場旋回」も可能だが、工場用との違いは、クローラーで地面を荒らしすぎないように、やや大回りするようにしている点だという。

汚れても水洗いできるようにコントローラー類は防水ボックスに収められている(IP44防水)。また、雑草などに過敏に反応しないように、細い雑草などは無視するように設定されている。操作は単純なので、「5分、10分程度で、誰でも使える」(Doog大島氏)という。

正面。目が描かれている。真ん中にあるのがLiDAR
Doog 代表取締役 大島章氏

農地でも自動走行が可能、つらい物運びを自動化

メカロンについて解説するDoogの大島章氏

ジョイスティックによる直接操作や追従走行のほか、独自の機能「メモリートレース」による自動走行ができる。自動走行は、A地点からB地点へ物を何度も運ぶときなどに用いる。たとえば、ホームポジションを設定して、作業場所まで動いたあとに一時停止をして、またホームポジションまで戻れるように教え込む。すると農地では周囲の木々などから場所を覚えて、自動で移動できるようになる。障害物があると一時停止して、スピーカーからの音声で周囲の人に助けを求める。一時停止の場所は複数設定が可能だ。

メカロンは、もともとは農業現場でのロボット活用性を研究している農研機構の塚本隆行氏の発案で「国内の農業にこれから必要となるロボット」として研究・試作を進め、足回りの必要な仕様等を割り出し、Doogと共同研究で製品化した。基本的な使い方は収穫のほか、枝の剪定、消毒作業などを想定しているが、今後さらに周辺の研究開発を進め、汎用性を高めていく。

現在は全国の農業現場で試験・検証に取り組みつつ、農業を支えるための汎用ロボットを目指して改良を行なっている。具体的には、愛媛の柑橘を育てる斜面や砂状現場での検証のほか、青森のリンゴ農家での長期検証も行なわれているという。

価格はDoog直販で250万円~600万円(税別)。価格はバッテリー容量や開発協力などに応じて異なる。納期は2カ月からとしている。今後は農機具の代理店などでの販売を目指している。

右がメカロン試作機、左が量産モデルだが、顧客に合わせたカスタマイズが可能

シンプルで誰でも使え、手放せなくなる農業用ロボット

茨城大学農学部附属国際フィールド農学センター圃場での体験会

今回、現場体験会が行なわれたのは茨城県阿見町にある茨城大学農学部附属国際フィールド農学センターの圃場。Doogとも以前から付き合いのあった茨城大学農学部 附属国際フィールド農学センター教授 小松﨑将一氏による授業の一環として、学生たちが、柿を育てている圃場での収穫授業の中でロボット活用を体験した。

メカロンの発案者である農研機構の塚本隆行氏は「農業の労働人口は136万人。それがこの5年間で22%減っている。つまり5人に1人の農家がやめている。最大の問題は『手が足らない』こと。少ない人数の高齢者が何往復もして、収穫した作物を運ばなければならない。これからさらに人手不足は進む。これからの農業は人とロボットが一緒に働く『協働の農作業』がスタンダードになる」と語った。

体験会の様子。実際の現場ではこのくらいの畑ならば2名程度の高齢者が担っていることが多いという
収穫された柿の一部。収穫は人手で行ない、搬送等はロボットで行なう

塚本氏は、「人の手に代わるロボットがこれからは必要になる。農作物の収穫はデリケートな作業なので人がやったほうがいい。だが運搬作業のような辛い作業はロボットが代わってくれる。メカロンは100kg以上の作物を運ぶことができる。1人分の作業をロボットがやってくれるようになる」と述べた。

そして「最初に見せたときはみんな『収穫に使いたい』『薬液を使った防除に使いたい』と考える。だが農家は収穫だけしているわけではない。細かい様々な作業をしている。このロボットは1年間、何にでも使える」と語った。

初めてロボットを触る人でも使いこなせる汎用ロボット

メカロンが搭載しているのは1つのLiDARだけで、位置情報を得るためのGNSS(全球測位衛星システム)などは使っていない。「モーター2つとコントローラーだけで非常にシンプル。初めて見た農家さんでも構造を理解して使いこなすことができる。シンプルだから壊れにくい。電波状況も気にする必要がない。荷台を大きくしたりする改造も簡単。様々な作物を育てている、あらゆる農家が自分たちに合わせてカスタマイズして使える。今後もより楽しく、楽に使えるロボットとして改良を続けていきたい」と語った。

茨城大学農学部 附属国際フィールド農学センター教授 小松﨑将一氏
メカロン発案者の国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 農業機械研究部門 無人化農作業研究領域 小型電動ロボット技術研究グループ 主任研究員 塚本隆行氏

何にでも使える汎用ロボットプラットフォームが農業を楽にする

搬送だけでなく様々な農作業に使えるロボットだという

そして「重要なことは人との距離がとても近いロボットだということ。数十m程度の距離を、数十kgの作物のカゴを抱えて何往復もする作業はとても辛い。メカロンの試作モデルができたのは今年の3月。実証試験も始めたばかりで、今は梨やリンゴの収穫に実際に使ってもらっているが、『これがあると労働の辛さが1/3になった』と言われている。梨の収穫では歩数が1/10になった。『全然違うよ。一度使うと手放せない』と言われている」と続けた。

最後に塚本氏は、「メカロンは(搬送用途だけではなく)汎用のロボットだ」と強調した。「汎用というのは2つの意味がある。まず、単なる収穫・運搬ロボットではない。様々な作業に使える。また、柿や梨、柑橘だけでなく露地野菜や畜産でも使える。特定の作物だけに限らない。『色々なところに使える』という意味で汎用のロボットと言っている」と述べ、「こういうロボットはこれから当たり前のように使われるようになるだろう。『一家に1台』ではなく、『一人に1台』くらいの感覚で増えていくのではないか。様々な、色々なところで使われるようになる。音声で扱ったり、アームをつけたり、AIやIoT技術を使って、データのやりとりも可能になる。より人に優しく、人を楽にしてくれるものとしてどんどん進化していく。いろんな機能がつけられるプラットフォームだ」と語った。

農業用ロボットは特定の作物に特化したものが多いが、「汎用」とすることが、実際に使われるためには重要だという。また農家に対しては機械の費用ではなく、人件費だと思ってこれを見てほしいと紹介していると語った。

農研機構では、ロボットと人が協働することを前提とした新たな栽培方法なども研究・提案を行なっている。最終的には新しい栽培方法が普通になると考えているという。

農家に「一人1台」ロボット普及を目指すDoog代表取締役の大島章氏(左)と、農研機構の塚本隆行氏(右)

協働ロボットに必要な「賢さと愛嬌」

学生たちによる収穫とロボット活用体験実習

体験した学生たちからは「すごい」「簡単」のほか、男女問わず「かわいい」という声が多く聞かれた。農研機構・塚本氏も「農家に見せると『かわいい』という反応が返ってくる。人と一緒に働く協働ロボットの開発で大事なことは、賢さと愛嬌」と語った。

「かわいい」という反応は他の農機を見せたときにはない反応だそうだ。特に若者にはロボットの存在や活用にも偏見がなく、素直にすんなり受け入れるという。たとえば、スマートスピーカーなどの機能ならばメカロンに対して簡単に後付けができる。また、「メカロンの出力音声をイケボにしたい」という意見もあったそうだ。そのように「農業を楽しくする」というのは、今までの農業機械とは全く違う考え方だという。

また、実際の農家への導入については、電動の農業機械の一種として補助金を活用するような方向も考えられると述べた。

収穫した柿をメカロンに積み込む
メカロンは誰でもすぐに使える
特に「かわいい」という声が目立った
メカロンを使って搬送用の車両の場所まで移送する
追従ロボットは「かわいい」と呼ばれることが少なくないそうだ
体験会には著名な移動ロボット研究者で筑波大学名誉教授、Doog非業務執行取締役の油田信一氏も顔を見せた