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タニタやNTT東「都市型スマート農業」 農作業を「健康コンテンツ」に

NTT東日本、プランティオ、タニタの3社は、7月26日にアーバンファーミング事業に向けた協業を開始すると発表した。協業の第1弾として、板橋区にあるタニタ本社敷地内にてテストフィールド「タニタふれあい農園」を開設し、記者公開した。都市型スマート農園の開発や、新規就農に繋がる機会の創出など、都市部における「食」と「農」と「健康」の課題解決を目的とし、8月から実証実験をスタートする。

プランティオ独自開発のIoTセンサー「grow CONNECT(グロウコネクト)」を活用。IoTセンサーで水分量・土壌温度・日射量測定を行なって栽培アドバイスをしたり、ゲートの自動解錠を行なうことで、セキュアかつ効率的な農園運営を可能にする。

「区画貸し」ではなく参加者が共同で育てる形式を取り、コミュニティ創出やそのためのインセンティブ開発も目指す。実証実験期間は2023年8月1日から2024年3月31日を予定。現在はタニタ社員がテスト栽培しているが、秋以降には主に近隣住民を対象に募集を行なう。NTT東日本では2024年度以降の事業化を目指す。

プランティオのIoTセンサー「grow CONNECT」とアプリを活用

ICT×農の「アーバンファーミング」

アーバンファーミングが世界的に拡大中

「アーバンファーミング」とは都市空間の隙間やビル屋上など遊休地を利用して、都市で農業に取り組むこと。消費地の近くで生産するため環境負荷の低いかたちで供給できることや、防災機能を持つこと等から世界的に注目されている。会見では協業の概要を3社がそれぞれ解説した。

東日本電信電話 ビジネス開発本部 課長 仲野陽介氏

NTT東日本は実証実験の企画、環境の開発・構築。検証、有効性評価や事業検討を行なう。東日本電信電話 ビジネス開発本部 課長の仲野陽介氏は、「食糧生産は地域に応じたアプローチが重要」と述べ「アーバンファーミング」について紹介した。都市部は農に触れる機会が少なく、生産農地も分散化・減少している。生産量も高まらず、食糧自給の低下につながっている。アーバンファーミングは、それらの解決策の一つとして注目されている。

都市部の農を取り巻く課題

このトレンドは世界的なもので、アーバンファーミングは急速に広がっているという。世界各国で都会での自給自足への模索や農に触れる機会の創出が起こっている。また、「コミュニティファーム」として近隣市民の「コミュニケーション・ハブ」にもなりつつあるという。そして作った野菜を自分たちで食べる、または近隣でシェアすることから、地産地消そのものでもある。有事の避難地、防災食としての活用も期待されている。

アーバンファーミングが解決する課題

今回の協業では、都市型スマート農園を中心に3社の強みを持ち寄り、食、健康、農に関する課題を解決する事業の実現、ひいては地域循環型社会の促進への寄与を目指す。

3社の強みを持ち寄って「アーバンファーミング事業」の実現を目指す

ICTで野菜自らが水やりタイミングを伝える

プランティオ 代表取締役CEO 芹澤 孝悦氏

プランティオは実験の共同企画、農園ファシリテート、アプリ開発を担当。プランティオ 代表取締役CEOの芹澤 孝悦氏は「アグリテイメント」を掲げている事業を手掛けていると自社を紹介。「プランター」は芹澤氏の祖父・芹澤次郎氏が考案し、開発した。プランティオは今回の取り組みで「気がつけば健康になっている農業」や、地域循環モデルなどを目指す。

芹澤氏は、「アーバンファーミングでは占有する『区画貸し』ではなく、みんなで共有して育てる『コミュニティ型』がスタンダードだ」とし、「みんなで育てて、みんなでシェアしあう姿」を目指すという。ICTでより手軽な農体験を実現し、コミュニティ創出も目標の一つとする。

従来の体験農園と都市型スマート農園の違い

野菜栽培では温度管理が重要だ。プランティオの「grow CONNECT」は土壌温度計で土壌温度を積算モニタリングしている。その温度と、農地の緯度・経度情報、土壌の水分情報、外気温計、外湿度計、日照計、イメージセンサー(RGB画像)のデータも使って、前後1週間の天候データと対比し、予測AI「Crowd Farming System」で予測を実行。専用アプリ「gorw GO」を通じて、水やりや間引きのタイミングなど、行なうべき作業の栽培アドバイスを行なう。たとえばトマトは積算温度が1,000度になると赤くなるので「そろそろ収穫だ」とわかる。これにより、未経験でも手軽に野菜を栽培できるという。

アプリとセンサーで簡単に栽培可能
土壌の温度情報など各種データを集めるIoTセンサー「grow CONNECT」

具体的には、農園ではアプリをインストールしたiPadを使ってスマートキーを開錠する。そしてiPadでアプリ画面を見れば、何の作業をしなければいけないかもわかる。

アプリを使ったスマートキーを開錠。作業内容もアプリ上に表示される

作業に関しては区画貸しではないので、みんなで面倒を見ることになるが、これには誰がどんな作業をしてくれたかもわかる「感謝経済」の仕組みを利用する。積極的に関わった人には「いいね」のほか、近隣店舗などで活用可能なポイントバックなどのインセンティブの仕組みも導入を検討する。

アプリからするべき作業の通知が来て、できる人が作業を行なうしくみ

アプリ「gorw GO」は、これらのリマインドや通知機能によってコミュニティ形成を促す。農園利用者同士がコミュニケーションを取れる機能もある。実際の農作業を通して、リアルとオンライン両面でコミュニティに参加し、楽しみながら食と農と健康づくりに触れられるという。

参加者同士がコミュニケーションを取れる機能も

収穫した野菜は「タニタ食堂」や「タニタカフェ」のレシピを基に調理して参加者に提供したり、バーベキューパーティを開催するなど、コミュニティを活性化させるアクティビティも展開する予定。たとえば、近隣の飲食店はまもなく収穫の時期であることがアプリからわかるので、地域住民を対象にコミュニティやアクティビティへの参加を募るなどする。「タニタふれあい農園」での実証実験では、このような実験を行なって、フィードバックしていく予定。

作業者同士のコミュニティを醸成させるためのファシリテーション機能も持つ

運動習慣がなくても自然に楽しめる健康コンテンツ

タニタ ブランディング推進部 部長 冨増俊介氏

タニタは実験の共同企画、フィールドの提供、食と健康分野での有効性評価と事業検討を行なう。タニタ ブランディング推進部 部長の冨増俊介氏は、タニタふれあい農園での農作業は意識せずに身体を動かすエクササイズにもなると見ており、健康づくりを促す「健康コンテンツ」としての可能性も検証したいと語った。運動強度4.5メッツ、つまり中程度の負荷をかけた水中歩行くらいの運動に相当するという。

意識することなく取り組める健康コンテンツとしての農作業

持続可能なかたちで「農の裾野」を増やす

地域全体で支える農園運営モデルを検討

今後の農園利用については、どこかだけに負担がかかるやり方ではなく、地域共有資産として考えて、近隣飲食店、自治体、企業、営農家などをシェアしながら運用可能なモデル開発を目指していく。たとえば企業では広告として使い、ポイント付与や商品効果などのマネタイズをアピールする。また、個人の営農家は自分たちの農作業を手伝ってもらったり、自分たちの栽培している作物について知ってもらいたいというニーズがあることがわかっており、NTT東日本・仲野陽介氏は「うまくサステナブルにしていきたい」と語った。

今後は農園の設計・開発そのものから利益を上げることも目指す。また都市型スマート農園の付加価値も検討しながら、主に有休地を持つ企業や自治体に対して、社会課題を解決するための取り組みの一つとしてアピールし、事業可能性を見極めていく。

社会問題解決ソリューションの一つとして企業や自治体向けにアピールする

世界ではアーバンファーミングを通じて一般人による農の活動参加が増えているという。プランティオ芹澤氏は「農の裾野を増やす」ことに貢献していきたいと述べ、「アーバンファーミングは広がっているが、活動の多くはアナログ、手作業で行なわれている。我々のアプリを使えば、楽しく育てて楽しく食べるだけで、環境負荷を減らすことも簡単にビジュアライズされる」とアピールした。

環境負荷低減効果も簡単に可視化される

タニタふれあい農園で事業可能性を見極め

タニタふれあい農園

「タニタふれあい農園」は、既存の「タニタふれあい広場」に隣接するかたちで設けられたおおよそ50平米程度の小さな農園。そこに総面積32平米くらいのプランターが置かれており、おおよそ20種類の作物が育てられている。

IoTセンサー「grow CONNECT」は農場全体で2つ使われている
ゴーヤ
白きゅうりなど珍しい野菜も育てられている

現在は先行してタニタ社員で使い始めており、今後、秋に向けて、地域の一般の方に募集をかけていく予定。最初は無料で数十名が募集される予定だという。大手町エリアでは大手町ポイントアプリと連携しているが、板橋区の「タニタふれあい農園」の場合、ポイント付加などが具体的にどういうかたちになるのかの詳細は未定。コミュニティを醸成するために、どんなインセンティブ設計が必要かも模索する。

トウモロコシ
トマトは小玉から大玉まで色々な種類が栽培されていた
関係三者による記念撮影